
2009年初試乗・昨年末に登場したトヨタの新型ミニバン・
パッソ セッテに乗ってみました。
グレードはG Cパッケージ、ボディカラーはバナナシェイクメタリックです。
この車、発表・発売が暮れも押し詰まった12月25日でしたが、その直後から大半のディーラーは休みのはずです。ディーラーに展示車も試乗車もない状態で発売だけしとくっていうのは、何の必然性があってこんなことをしてるのかよくわからないですね。
その上、地元のカローラ店にはこの週末からやっと試乗車が入りましたが、それならもっと落ち着いたときに発表・発売すればいいのに・・・
○だった点
・後席ドアがヒンジドアであること
ミニバンの後部座席のドアといえば、最近の主流はスライドドアですが、セッテは通常の前ヒンジドアです。
スライドドアにすると、ドア単体の重量やスライドレール、それらを支えるためのモノコック強化なので、どうしても車重が重くなります。また、イージークローザーや電動スライドドアが付いてないとどうしても力を入れて勢いよく閉めざるを得ず、手などを挟む危険があります。電動スライドにすると今度はそのために車重がさらに重くなるという悪循環です。
恐らくセッテはそれを嫌ってヒンジドアにしたと思われますが、そのお陰で車重がホンダのフリードと比較して約100kg軽量に抑えられています。
・トルコンAT
ここ最近のCVT車は運転感覚の不自然さ(速度と比例しないエンジン回転数、停止直前の引っ張られ感etc)が少なくなってきているとはいえ、トルコンATに慣れた身にはどうしても不自然に感じることも事実です。またiQ、ヴィッツのCVTは燃費を向上させる目的で巡航時のエンジン回転数をギリギリまで低く抑えていて、低速時には常にブルブルブルブルした振動が気になります。
セッテは最近のコンパクトカーとしては珍しくトルコンATのみのラインナップですが、そういったトヨタのCVT車独特の不快感とは無縁です。
・広い室内空間
全長4.2m未満のコンパクトなサイズですが、7人乗りをなんとか成立させています。もちろん余裕綽々というわけではありませんが、3列目は頭上空間には余裕があり、また足元も2列目を前にスライドさせれば、非常用プラスアルファの空間があります。実際にフル乗車するシチュエーションは多くないでしょうが、いざ3列目を使う際にそれほど我慢を強いられないというのは安心感があります。
・パッソベースとは思えない落ち着いた走り
この車のベースとなったパッソ/ブーンは、いかにも「小さい車でいいんだけど軽じゃ嫌だ」という人向けの車という感じで、安っぽいエンジン音、狭い室内、騒々しい室内、バタバタした乗り心地が気になりましたが、セッテはパッソベースとは思えない落ち着きがあります。
騒音や乗り心地はそれなりといったレベルですが、それでも現代のコンパクトカーの標準で、あまり安っぽさは感じません。ロングホイールベースの恩恵もあり、一クラス上のヴィッツやラクティスよりも上級感のある乗り心地です。
・6エアバッグが標準装備
運転席・助手席エアバッグに加え、サイド・カーテンシールドエアバッグが標準装備(最下級グレードのXにはメーカーオプション)です。
ただしVSCは全車メーカーオプションなので、これも標準装備していただきたかったところです。
もう少し頑張ってほしい点
・後席ドアがヒンジドアであること
長所のところに、ヒンジドアは重量が軽減できるのが長所だと書きましたが、使い勝手の点ではヒンジドアは不利ですね。特に子供がいる場合、チャイルドシートに乗せる際はドアを大きく開く必要がありますし、子供が成長してくると駐車場などで隣の車も構わずドアを大きく開ける可能性があるため、スライドドアのほうが気を遣わなくて済みます。
・トルコンAT
運転感覚に不自然さの少ないトルコンATですが、燃費の面での不利は否めません。10・15モード燃費を見ると、セッテ(G FF):15.6km/L、フリード(G FF):16.4km/Lと、フリードのほうが重量が約100㎏重いにもかかわらず、セッテの燃費は劣っています。コストの面からCVTの採用が見送られたのでしょうが、CVTだったらもっと燃費が良かっただろうなと思ってしまいますね。
・サイドシルが高く、乗り降りが少し面倒
前席は気にならないのですが、後席のサイドシルがやや高く、降車の際の足の運びがスムーズに行きません。セカンドシートをやや前にスライドさせていると特に気なります。
・平凡な外観デザイン
この車の外観はお世辞にも魅力的とは言えません。一般的にトヨタの車のデザインはアクを少なく、万人向けに仕立てられることが多いのですが、それにしてもセッテのデザインは平凡過ぎます。ライバルのフリードは使い勝手と見栄えを両立させたスタイリッシュなデザイン、この車の先代であるシエンタ(併売されるようですが)は女性向けらしく、いかにもかわいいデザイン…と、各車何らかのポリシーがあったと思うのですが、正直この車はスタイリッシュともかわいいとも言えず、何を目指したデザインなのかわかりません。
その上、日産ノートやホンダフィットを思わせるサイドビューなど、「どこかで見たような・・・」感が付きまといます。激戦のB・Cセグメントなのでどうしても他車との違いを打ち出すのが難しいと思いますが、後発なのですからもっとスタイリッシュなデザインにできなかったのでしょうか。
総評
昨年ホンダフリードがデビューし、予想外のヒットとなりました。
(フリードの試乗記は
こちら)
フリードに実際に乗ってみると、2列目座席の使い勝手やスペースの大きさなどに、コンパクトなサイズでミニバンを成立させようとした無理は多少感じるものの、ボディサイズを考慮するとかなり広い室内、ウエッジの効いたスタイリッシュな外観など、新たな魅力を感じる車でした。
環境意識の高まりやダウンサイジング志向もフリードのヒットの追い風になったのでしょうが、使い勝手の良さやスタイルは重要だなと再認識させられました。
翻ってセッテですが、善意に解釈すればトヨタ的な中庸さがあり、CMで謳っているような車に興味のない主婦層には受け入れやすい車でしょう。
しかしミニバンを求める層は、中庸な無個性さよりもちょっとアクがあってどぎついものを求める傾向があるように思います。ヴォクシー、ステップワゴン、セレナなどは売れ筋はいかついエアロ付きのグレードですし、この車のライバルであるフリードもとんがった釣り目の結構怖い顔です。
また、軽自動車でもかわいい一辺倒の車より、ワル顔で黒や紫色のタントカスタムやワゴンRスティングレーが女性にも人気です。
セッテはトヨタの販売力で当面はボチボチといった販売状況でしょうが、フリードのようなヒットにはならないでしょうね。