2026.06.03
ゴールは美しいアジサイの寺。筑波山から続く涼やかな道をのんびり歩こう【雨引観音】
筑波山から連なる山々を尾根伝いに歩く「掛越(かけごし)」。今でいう「縦走」と似たものですが、江戸時代は悟りを開くための修行でした。今回は掛越の区間を少しだけ歩いてみます。岩瀬駅(いわせえき)から御嶽山(おんたけさん)、雨引山(あまびきさん)へとたどり、5000株のアジサイと美しい孔雀が出迎えてくれる「雨引観音」をめざす、初夏にぴったりの静かな日帰り山歩きをご紹介します。
筑波山から続く山並みを尾根伝いに歩く。悟りの境地を想像したこと、ありますか?
江戸時代の中ごろ、1780(安永9)年に出版された『筑波山名跡誌』があります。木版の図入りで、筑波山の見どころと由緒が書かれています。作者は、上生庵亮盛(じょうせいあん・りょうせい)という僧で、当時の筑波山のガイドブックとして重宝され、けっこう売れたらしいのです。
この『筑波山名跡誌』の一文にこんな記述があります

「菟玖波山(筑波山)名跡誌」の「陽交華表(鳥居)」(国文学研究資料館所蔵)より 出典:国書データベース
当山かぎりの参詣は是(男体權現の陽交の鳥居)より登る。(ただ)椎野(椎尾)、雨引、加婆(加波)、(また)日光山への掛越(かけごし)の者は大御堂(筑波山中禅寺)の東の坂口、陰交(女体權現)の神門(鳥居)より上る。是を女体掛という。
<『筑波町史 史料集第五篇』、( )は筆者による補注>
筑波山のみの参詣は男体山(なんたいさん)入口の鳥居から。ただ、女体山(にょたいさん)へは「女体掛」と呼ばれ、西の椎尾山(しいおさん)、北の加波山(かばさん)、雨引山。さらに、日光山まで行く「掛越」があり、女体山入口の鳥居をくぐる。これを「女体掛」と呼ぶ。

145段の石段、「磴道(とうどう)」とあじさい(2022年7月)
江戸時代の筑波山は、徳川幕府の庇護の下、筑波山知足院中禅寺(ちそくいんちゅうぜんじ)の大御堂(おおみどう)に千手観音菩薩が祀られていました。現在は、その場所に筑波山神社の拝殿が建ち、中禅寺大御堂は筑波山神社の西隣にあり、「坂東三十三観音」の第25番札所となっています。
尾根から尾根を伝って巡る「掛越」は、「修験道(しゅげんどう)」の修行でした。現代は、トレイルランニングというスポーツがありますが、誰よりも早く駆け抜けるトレランに対し、修験道では、山は天と地を結ぶ接点。道の要所に岩や木など経文を唱える場があり、そこで気を感じ、悟りを開くための修行だったのです。ここがトレランとは違う点です。
縦走してみました
今回は、5月19日にJR水戸線の岩瀬駅から雨引山までを「掛越」、縦走してみました。
岩瀬駅の北口を線路伝いに友部(ともべ)方面、西に歩き、突き当たりを右手に進みます。民家脇の細い道をしばらく行くと柵がありました。イノシシを防ぐ柵です。先に進むと御嶽山への登山道に入ります。関東ふれあいの道の看板があり、看板の裏にはトイレが設置されています。

JR水戸線岩瀬駅

岩瀬駅から御嶽山への登山道入口
木の階段が整備された道を30分程度上ると、御嶽山の山頂、230mに到着。途中、「御嶽山水行場路」の碑があり、右に行くと不動滝があり、樋から水が流れていました。

不動滝への道標

御嶽山手前の不動滝
御嶽山といえば、山岳信仰、修験道にとってたいへん重要な山で、長野県と岐阜県と県境の木曽御嶽山をはじめ、関東だと奥多摩など全国各地にあります。この御嶽山が、どこの御嶽山から「勧請(かんじょう)」されたのか、つまり御神霊を分けていただいたのか残念ながらわかりません。

御嶽神社

御嶽神社の扁額「神慮」
さて、御嶽山を過ぎ木立の木陰を進みます。ちょうど新緑から葉が育ち、地面に葉陰がちらちら揺れています。

葉陰がこぼれる道

日光をさえぎってくれる若葉たち
この日は、5月ですでに真夏日、日差しはかなりきつかったはずですが、雑木林や杉の木立が続く道は、暑さはさほど感じず、むしろさわさわとわずかに吹く風が気持ちよかったです。登山道には、小さな薄紫色のアジサイ「コアジサイ」が咲いていました。

雨引山への道に咲くコアジサイ
じっと耳を澄ますと、ウグイスのさえずりに交じって、けたたましいホトトギスの声が聞こえてきました。もうすっかり夏です。かつて大きな鉄塔のあったところは更地になっていて、そこを60分ほど進むと、標高409mの雨引山に着きました。

雨引山山頂の休憩所にあずまやがあり、ベンチとテーブルが置かれています。ここで昼食をとり、しばし休憩。ここから、はるかに霞んだ筑波山の二峰を眺めていると、後ろから「あれは、筑波山ですか? まだ遠いですね~」と声がかかりました。「そうですね、途中に加波山があり、その先が筑波山ですからね」というわたしの返事を聞くことなく、声の主は走り去りました。声の主はトレランの方のようです。まあ、わたしはわたしのゆっくりペースで行きましょう。

雨引山から臨む筑波山
加波山との分岐点を、雨引観音に道を取ると、きぃーきぃーという声が聞こえてきました。クジャクです。雨引観音が近いことがわかります。さらに進むと、めぇ~というヤギの声も。

雨引観音の放し飼いのクジャク(2022年7月)
そして、しばらく下ると視界が明るくなり、雨引観音の本堂、観音堂あたりに出ました。
雨引観音は、正式には雨引山楽法寺(あまびきさんらくほうじ)で、坂東三十三観音の第24番札所。

雨引観音の仁王堂とアジサイ(2022年7月)
6月10日から7月20日までの約1か月、あじさい祭が開催されます。境内は100種5000株のアジサイの青や赤などの花に彩られ、御手洗や池にアジサイの花が浮かべられます。先ほど聞こえたのは境内に放し飼いにされているクジャクです。この日は、アジサイはつぼみで、写真は過去に拝観した折、7月はじめの撮影です。

アジサイの色に埋まる池(2022年7月)
ここからは、参道を通らず麓の大曽根まで関東ふれあいの道を下り、本木まで歩いて桜川市のコミュニティバス「ヤマザクラ号」に乗車、JR岩瀬駅まで戻りました。

ヤマザクラ号
日光まで行ったという江戸時代の修験に比べれば、この日の縦走はほんのはさわりでしたが、ゆっくり歩き自然のささやきを身体に受けられた半日でした。また機会があれば筑波山の「掛越」を楽しんでみたいと思います。
今年も、紫陽花の季節を迎える事ができそうですね!
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Posted at 2026/06/07 19:46:07 | |
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