
思うところあって、昨日
アルピーヌA110Sの試乗に行ってきました。思うところ、というのは現在A110R70というもっともスパルタンなモデルに、ブルーブランルージュという3色展開の限定車の抽選を行っていて、その締め切りが27日(日)だったから、です。A110は
デビュー時から注目しておりましたが、なかなか試乗の機会が適わず、ここに至りました。アルピーヌのガソリン車もどうやらこれで最後ということも気持ちを後押ししました。
さて、私が済む地域ではアルピーヌの正規店が2店舗ありますが、より近い方の横浜青葉さんにお邪魔して来ました。こちらはもともと私がステルヴィオやアバルトを購入したGSTさんというイタフラ車に特化した経営母体の運営する販売店になります(ルノー/アルピーヌジャポンはいわゆるフランチャイズ店が主体)。横浜青葉ICからほど近い所にディーラーはあり、自社整備工場も併設されています。今回初めて訪れましたが、施設は
かなり立派ですね。やはりイタフラ車に関しては、残念ながらある程度
故障することを前提に考えないといけませんので、納車後の整備網は極めて重要!アフターがしっかりしているというのは、ユーザーとしては大変ありがたいところだと思います。ルノーの販売店に併設されていますが、
アルピーヌ専用のブースが設けられており、需要がそれほど多くないであろう車種のために場所を確保しているところにGSTさんの本気度が伺えます。担当氏との商談もそこそこに、さっそく試乗に出ます。
これまでA110は様々なバリエーションを展開してきましたが、現在はコンフォート寄りのGTとスポーティー寄りのSが統合され、
GTSという統一グレードになっています。それに加え、R70というアルピーヌ70周年を記念するスパルタンなモデルと、その限定車となるブルーブランルージュ(赤5台、白4台、青4台の合計14台限定)というモデル展開となっています。ちなみに今回の試乗車はグレードが統合される前のSというグレード、展示車にGTがあったため内装装備の比較をする事も出来ました。A110の特徴はロータス同様のアルミバスタブフレームに、1.8Lターボ加給エンジンをミドシップに搭載、トランスミッションはDCTのみ、ステアリング位置は左右を選べます。昨日の試乗車は右Hでしたが、欧州車の右H車にありがちなペダルオフセットの不自然さはありませんでした。エンジンスタートはプッシュボタン式、ギアセレクトも同様です。
エンジンを入れてみると、試乗車は標準マフラーとのことでしたが、現在の騒音規制にうるさい世の中にあっては十分過ぎるほど
勇ましい音です。遮音材が省かれているというのもあるかと思いますが、抜けの良い快音ではないので、これでロングツーリングは
ちょっと苦痛かもしれません。自分ひとりで乗るならまだしも、パートナーを乗せるとなると、そうとう大声で話さないと会話が成り立たないレベルです。着座位置は想像していたよりも
こぶし一つ分高く、ロータスのように地面にベタッと座る感じではありません。ちなみにSグレードはシートの上下調節が出来ないため、この位置に固定となります。クルマのサイズの割に、ダッシュが遠くフロントボンネットが見えにくいため、
車両感覚は少々つかみにくいです。昨今のスポーツカーは本当にリアにエンジンがあるにも関わらず、フロントの見切りが悪くて困りますね。その点、GR86はフロントエンジン車ですが、水平対向エンジンのメリットを最大限に生かして、本当に見切りの良さという点では頑張っていると思います。
走りだしてみると、足回りはフランス車らしくスポーティなSグレードであっても硬すぎず、
路面追従性も悪くありません。車体の全長に対し、ホイールベースがそこそこあるため、ピッチング方向のゆすられ感もあまりありません。一方、ロードスターやロータスエリーゼで乗った瞬間に感じるような
羽根のような軽さはありません。良くレビュー動画等でジャーナリストがしきりに
軽さをアピールしていますが、個人的には言われているような「軽さ」は感じませんでした。逆に、ライトウェイトスポーツカーにしては
重厚感の方が目立つ感じ。1100kgを超えて来るとまあこのくらいの感じだよね、という印象でした。ブレーキはブレンボが奢られますが、…にしては少々不満がありました。踏み始めの手前側の制動力の立ち上がりがもう一つで、奥に踏み込まないと効かない感じ。個人的にはもう少し手前から
リニアに効くタッチ・フィーリングの方が断然好みです。ステアリングのインフォメーションも、電動式にしては頑張ってはいると思いますが、ポルシェの領域にはまったくもって到達していないと感じました。
エンジンそのものは元気に回るタイプのエンジンで、グンっと踏み込むと結構ターボラグを感じます。トルクは十分、回転フィールも4気筒ターボにしては悪くないですが、ダウンシフトの際のレスポンスは電光石火という感じではありませんでした。また、一番不満だったのが
トラクション性能。アクセルを入れた瞬間、ターボラグとスクワットの影響で電制が入るのですが
瞬間的にトルクが路面に伝わらないんですよね。コレ、公道ならまだ良いですが、、ミドシップ車の場合、サーキットで微妙なアクセルワークでリアの挙動をコントロールしなければならない場面では
結構難しいのではないか、と思います。また、ミドシップなんですが、ケイマンのようなフラットエンジンではない分、明らかに重心高が高く感じられ、切った方向と逆方向にリアがロールするのが分かります。最上位のRグレードになると恐らくアンチロールバーやスタビなどの補強が入るのだと思いますが、一言で言って
腰砕けなフィーリングだと感じました。くどいようですが、サーキットでは不安が残る躾だと感じました。
最後に内外装と積載性ですが、外装のqualityはなかなかのモノです。随所にマニアが喜ぶ演出が散りばめられており、往年のアルピーヌファンなら
ニヤリとすること請け合いです。現代の車両としては十分コンパクトにまとまっている反面、積載性は
かなり限定的。特にリアのトランクはエンジンが近いこともあり、現実的には荷物を載せることは難しいと思います(フロントも、幅はあるが浅い)。内装についても、グローブボックスが無いなど、収納スペースはかなり限定的です。故に、助手席に人を乗せて・・となると
ちょっとした鞄や携帯を置くのも難しいということになります。Sグレードはかなり簡素な内装で、この辺はフランス車の伝統の則り人によってはチープに感じるでしょう。というか、この価格帯のクルマとしては
間違いなくチープです。かつてカーボンバスタブむき出しのアルファロメオ4Cが800万円台で買えた事を考えると、ですね。ちなみに最上位グレードは限定車とはいえ1850万円もします。なかなか
強気な価格設定ですが、それでも欲しい人は欲しいのでしょうか?ちなみに今回お邪魔した販売店ではオーダーは1台のみ入っているとのことでした。
帰りにGR86に乗り換えて、断然私はこちらの方が好みだと思ってしまいましたw。キチンと実用性のあるパッケージングで、ステアリングインフォメーションも豊富、ブレーキも良く効くし、回頭性も申し分ない。エンジンのレスポンスもNAなので不自然なところがありませんし、ボンネットが低いので見切りも完璧です。
このqualityのクルマが300万円台で買えてしまうのに、わざわざ1000万円以上の大枚を叩いて買うようなクルマとは思えませんでした。また、比較するのも酷ですが、ポルシェ911とはもはや比べるべくもなく・・色々言われますが、それでもやっぱり
911は世界のスポーツカーのベンチマークなんだな~、と再確認しました。動力性能、内外装の質感、実用性・・すべてのバランスが
遥かに高次元で、ほとんど非の打ちどころが無いんですよね。確かに、価格を考えると製品クオリティの面で
やや萎える部分があるのも事実なんですが、そこを補って余りある魅力があると私は改めて思いました。というわけで、大変貴重な体験をさせていただきましたが、アルピーヌA110とはご縁は無さそうです^^;。