• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

酸素のブログ一覧

2009年03月12日 イイね!

暗く怖い場所の追想6

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ

同僚とYの愛のキューピッドになるつもりだった私だったが、自分がYにロックオンされていることに気付いてしまう。
こうなれば、残された手段は出家のみである。

出家と言っても実際に僧となるわけではなく、精神的な意味合いのものである。
幸い、その時の私には世俗を離れる格好の動機があった。
その動機とは、初めて手を染め、のめり込みつつあったネットゲームである。
「俺、今は現実社会なんかに現(うつつ)を抜かしてる場合じゃないんだ・・。」
こんな妄言を抜かしつつ、いつ終わるとも知れない引きこもり生活へと突入した。
引きこもりと言っても会社を辞めはしなかったが、仕事と通勤の時間以外は、睡眠はおろか食事の時間さえ惜しんでヴァーチャル世界での生活に没頭したのだ。
初めて体験するオンラインのフィールドで他のプレイヤーと冒険を共にすることに比べれば、現世での出来事など、全てがちっぽけなものに感じられた。
このゲームに触れた者の多くがそうであったように、順調に廃人への階段を昇り始めた私。

しかし、ここで思わぬ伏兵が登場する。
「そうは問屋が卸さねえ。」と言わんばかりの勢いで私をリアルワールドに引きずり戻した男。
それこそが、先のパーティーで再会を果たした独身寮時代の後輩、Kである。
元々それほど交流があったわけではないのだが、何故か私に接触して来た。
「今度、T先輩の部屋で一杯やりませんか?」
同じく寮OBであるT先輩の名前を出され、私の中で絡まっていた糸が、少しだけ解けたような気がした。
私が寮を出てからも、T先輩とKは暫く寮に残っていた。
そこで私とは無関係に、2人の交流が深まったのではないだろうか。
一方、T先輩と私はKが入寮する以前から知った仲。
そう考えれば、Kが私を立てつつ3人で関係を深めようとしていてもおかしくはない。
こんな結論に達した私は、快くKの誘いに乗った。

当日、T先輩の部屋に到着すると、鍋を囲む3人の姿があった。
K、T先輩、そしてYである。
私の結論があっさりと否定された瞬間だったが、その時点ではそれ以上、何かを勘ぐることもなく輪に加わった。

それなりにプチパーティーが盛り上がった頃、Yがある提案をした。
「これから酸素さんの部屋に移動しましょう!」
私の部屋の常連みたいな言い方だが、ここまででYを自室に入れたことはない。
徒歩で5分程度の距離だから、行くのは簡単であるが。
同僚やT先輩の部屋に比べると、余り接客向きの部屋ではなかった。
2Kの間取りの内、居住スペースになっている部屋の真ん中には年季の入った万年床。
もう一方は、私が「夢とオモチャの領域(くに)」と呼んでいる部屋である。
プラモデルなどの二次元関連アイテムと、大物を含む車用のパーツ類が無造作に置かれているだけの空間だった。
興味の無い人間には物置にしか見えないだろう。
かと言って断るほどの理由も無かったため、反論することもなく自室へと向かった。

予想どおり、来訪者のルームウォッチングは早々に終了してしまった。
見るべきものに乏しいのだから無理もない。
解散でも良かった私だが、追い返すには少々早すぎるタイミングである。
手持ちぶさたな様子でたたずんでいるメンバーに、私はテレビゲームを勧めることにした。
2本しか持っていないソフトから私が選んだのは、同僚主催のパーティーでも稼働していたライトな音楽ゲーム
同僚の家で遊んでいる内に自分でも欲しくなってしまったもので、コアなゲーマー以外にも受けの良い作品だった。
このゲームには、他にも話題性があった。
ある新入社員が、主人公と瓜二つだったのだ。
そのため、両方を知る者が面白がるのもお約束となっていたが。
3人ともこのゲームの経験者だったこともあり、パーティーの時ほどは盛り上がらなかった。
更に、私は不穏な事実に気付いてしまう。
表面上は変わらないYの表情だったが、新人の話題が出る度に、その目に不機嫌な光が宿っていたのだ。

そうなると、残るのは私がハマっている真っ最中のネットゲームしかない。
だが、私は勧めるのを躊躇した。
ネットを介して大勢で遊ぶのには向いていたが、画面の前に雁首揃えて遊ぶ類のゲームではなかったことが一つ。
それに、出来ることなら私の使っているキャラクターを3人に見せたくなかった。
丁度その頃、最初に使っていた男性型に飽き、女性型のキャラクターを使い始めていたからだ。
ネカマという認識はなかったが、ゲーム内では女性風の振る舞いや言葉遣いも始めていた。
こんなことが堅い人間の多い職場に知れたら、普段の私が頑張って被っている猫達が絶滅してしまう。
私の口から、こんな台詞が飛び出したのも無理はないと言える。
「だ、誰か、一からキャラクターを作って遊んでみなよ^^^;;;;」

満場一致でYが選ばれ、自称「自らを模したキャラクター」でプレイを開始する。
そのゲームには、顔、体型や髪型、肌や髪の色に至るまで、細かく設定して自分の分身を作れる、という特徴があったのだ。
本名のままヴァーチャル世界の惑星に降り立つY。
早速、他のプレイヤーと合流しての冒険が開始される。

その中に1人、プレイそのものより周囲を笑わせることに情熱を燃やすタイプのプレイヤーがいた。
機転の利くYとの間で始まる、軽妙なチャット。
この2人のやりとりには、画面の前で観戦するT先輩とKも爆笑の連続である。
私に至っては、更に恋にも似た想いを募らせていた。
Yではなく、こんな魅力的なプレイヤーと出会える、素晴らしいネットゲームに。

プレイを切り上げて終了する間際、アクシデントが起こる。
私のキャラクターが、3人の目に留まってしまったのだ。
幸い、恐れていた類の突っ込みは入らなかったが。
安堵で胸を撫で下ろした私の視界に、満足気な笑みを浮かべるYの姿が映った。
ふと理由に思い当たり、先ほどまでとは異なる不安に駆られる私。

そのキャラクターは、黒ずくめのメイド風ファッションに身を包んだ女性型アンドロイドだったが。
ゲーム内で見かける女性キャラクターの多くが、極めて容姿端麗に作られていることに気付いていた私は、メイキングの際にちょっとしたアンチテーゼを盛り込んだのである。
身長は、どんな男性キャラクターにも引けを取らない長身に設定。
データ上の最大値である。
こうなれば横幅もMAXまで、と行きたいところだったが、プレイ中はずっと彼女を眺めることになる。
さすがに、ビヤ樽まがいの体型になるMAX数値には出来なかった。
大胆な肉付きを実現しつつも、キャラクターへの愛着を維持出来るギリギリの線で寸止め。
名前は、機動戦士ガンダムというアニメに出てくる敵ロボットに似せた。
具体的には、「ドム」という機体にである。
あとはチャットで「ジオンの黒いスカート付きでえーっす☆」などとほざくだけ。
ゲーム内のガンダムファンからは、大抵の場面で大歓迎を受けることとなる。

そして完全なる偶然なのだが。
所詮はゲームのキャラクターなだけに、現実では考えにくいほどバストが大きかったり足が長かったりもするのだが。
そのキャラクターは、Yが自分を模して作ったキャラクターよりも、Yに似ていた。

私は恐ろしかった。
Yに気があるのに、奥手なせいで攻め手を欠いている男。
Yの目に、自分がそんな風に映っているのが手にとるように分かったからだ。

それにしても、偶然にしては出来すぎである。
私とYの間には、何か運命的なものが作用しているのだろうか。
だとするならば。
この後に私がとった行動は、どれも星の導きに背いたものだったと言えるかもしれない。



関連情報MOVIE

Posted at 2009/03/12 21:43:03 | コメント(13) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他
2009年03月08日 イイね!

暗く怖い場所の追想5

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ

つい先日まで自分を嫌っていたYという女性と、何故かペアで機上の人となった私。
傍目には恋人同士のように映ったであろうことを否定出来ないが、私は全く気にしていなかった。
何故ならYの心は、これから向かう先に居る同僚のことで一杯。
私の心は、そんなとんでもない思い違いで満たされていたからだ。

Yに窓際の席を譲ると、備え付けのヘッドセットで音楽を聴きながら、機内誌に目を通す私。
飛行機が初めてというYの反応は予想どおり、自分が初めて窓際から機外を眺めた時と、瓜二つだった。
「あの時の自分の隣でも、空の旅“上級者”な年上の異性が微笑んでいたことだよなあ・・。」
自分を上級者に見立てて一人悦に入る、おめでたすぎる私。
Yにアピールしようなどという発想は皆無のくせに、そんな自分をクールだと勘違いして無責任な事を考えていた。
「好みの娘と同じ状況になってもテンション抑えて同じように振る舞えれば、あると思います!」
ひとしきり妄想に現を抜かすと、今度は夢の中へとダイヴ。
そう、気持ちよく寝てしまったのである。
どこを切っても最悪とは、このことだろう。

到着した同僚の家は、想像を超える歓迎ムードだった。
と言っても、歓迎されていたのは主にYの方である。
これは私の想像になるが。
おそらく同僚とその両親の間では、事前に次のような会話が交わされていたのではないだろうか。

同僚「今度、前の職場の友達2人が遊びに来るっちゃがー。」
両親「ハルバルこっただトコまで、御苦労なこって。どうせムサ苦しい、おっとご衆だんべ?」
同僚「なーんゆーとるっちゃね。レッキとした女も来るけぇ、粗相しとったらよいわんでぇ!」
両親「あんれまぁ!!したっけれ、2人は夫婦け?」
同僚「全然。てか、付き合ってすらねーじ。」
両親「・・・・(これは目出度い!酒じゃ!!宴の準備じゃあ~!!1)。」

同僚が同郷の人間と話す時に使う、M県の方言らしきものを再現しようとしたが上手く行かなかった。
とても反省している。

とにかく、その歓迎ぶりたるや、生半可なものでは無かった。
親戚だという男性は、後の県知事が盛大にPRすることになる地鶏を携えて登場。
「さっき締めてキタコレ!」
また再現に失敗したが、意味的には近いことを言って私を恐縮させた。

されど、とにかく私は脇役なのである。
その空気を到着時点から感じていた私は、自分を殺してYのサポートに移る。
同僚の母上が私とYの関係を気にしているように感じられたため、疑問の解消にも努めた。

母上「全くウチの子と来たら、落ち着く気が無くて困ってるんですよ。」
酸素「すみません。よく一緒に遊んでた、僕がそうだからかもしれません。」
母上「やっぱり酸素さんも、漫画とかお好きで?」
酸素「好きというか、ほぼ恋人です。漫画を見ると、仕事の疲れとか吹っ飛ぶので(キリッ」

一例として、こんな会話をしたことを憶えている。
なお、方言の再現は諦めた。

では、Yはどうだったろうか。
母上に気に入られたのだろうか、なにもそこまで、というレベルの社交辞令を浴びるY。
「松嶋菜々子に似たベッピンさんだから、モテるでしょう?」
言われてみれば雰囲気ゼロということもないが、何事にも程度というものがある。
そこまで似てたら私などではなく、反町隆史みたいな男と普段から空の旅三昧だろう。
Yが不在の場面では「もう誰でもいいから嫁に来て欲しいんですよ。」などとのたまう、母上のスーパーテクニックと呼んでしまえばそれまでだが。
私には、Yが有頂天になる姿が容易に想像出来た。
いや、Yをそこまで単純と思っているわけではない。
気は利く方なので、半分は社交辞令のお返しとして、盛り上がって見せるのではないかと思ったのだ。

しかし、私の予想は見事に外れることとなる。
そこで私が見たものは、盛り上がるどころか、妙に取り澄ました対応をするYの姿であった。
普段のYと言えば、お調子者で活発な属性を持つキャラクターなのだが。
今、私の前で同僚の母上と会話をするYは、むしろ逆。
お行儀よくちょこんと座り、おしとやかな人形のように振る舞う仕草は、どこか冷たさも感じさせた。
「んまっ!・・この娘ったら、お母様の前でなんたる態度?!」
まるで仲人のような感想を抱く私。
「大柄で体育会系のお前に、そーゆーの似合ってないし!!」
こんなことも思った。
そう。
鈍感な私も、この時ようやく感じ取ったのである。
Yの態度が母上に気に入られるためのものではなく、一定の距離を置くためのものだということを。

唐突に、そこまでのいくつかの場面が脳裏に甦った。
猛烈に嫌な予感がした。

宴が終わると、翌日の観光に備えて就寝である。
当然ながら、私とYの寝室は別に設けられていた。
「じゃあ、同僚とYの寝室が一緒?」
こんな質問が出るかもしれないが、常識的に考えれば分かることなので説明は省く。
何事もなく平和な朝が訪れた。

同僚が案内してくれるM県の観光名所は、いずれも素晴らしいものだった。
開き直ったようにツーショット写真を要求してくるYさえ居なければ、もっと晴れやかな気持ちで各場面をエンジョイ出来たと思う。
これはお世辞でも何でもなく、後日、再びY抜きで訪れたほどだ。

救いは、同僚の態度だった。
雰囲気を察知して落ち込んだりされたら、私は立つ瀬が無かったのだが。
序盤、Yの態度に想定外という表情をする場面はあったものの、基本的にケロっとしていた。
そう。
同僚もYに、特別な感情など無かったのだ。

同僚「Yと初めて会った時、なんか水陸両用っぽいなってオモタ。」
酸素「水陸両用ぉ??もしやガンダムハンマーとか受け止めて、何ともない感じ?!」
同僚「そうそう!・・でも、お嫁さんにするなら、ああいうコかな。」

ふいに、こんな同僚との会話が克明に思い出された。
ここまで聞いておきながら気付けなかった自分が、残念でならない。
出来るなら、時間を逆戻りさせたい。
そして、この時の同僚に言ってやりたい。
「ハイハイいい人いい人。」

翌日、私は熱を出して観光をキャンセルした。
効果の薄そうな演技などするターンではない。
計算でも何でもなく、高熱で立てなかった。
当時の私は、こうして年末年始に寝込むことが多かった。
張り詰めた気が緩む時期であることと、脂肪という備蓄が現在のようには多くない肉体だったことが理由だと思われる。
もはや母上も大きな期待はしていなかったようだが、同僚の家で一日を過ごす私に対し、2人きりで観光地を巡る同僚とY。
布団の中で「そんな目で俺を見ないでえええ!!」と思いながらYを見送ると、僅かな可能性に賭ける私。

好みかと言われると微妙だが、別にYを毛嫌いしていたわけではない。
もし宴の晩、Yと寝室が一緒だったら何も起こらなかったとは言い切れない。
それでも、Yと付き合っている自分、何かの間違いで別れた自分を想像すると、何故か憂鬱な気分になった。
Yの性格と社内恋愛というカテゴリが、私にとって非常に居心地の悪い化学反応を起こすような気がしてならなかった。
ノリだけで意気投合し、ひとたびテンションが下がれば自然消滅。
電話もメールも放置すれば済むこと。
お互いの家も知らない相手と何度か経験のある、こんな付き合いが心地よかったせいだろうか。
「まだ、暫くは自由でいたい。」
私の心は、こんな気持ちで支配されていたように思う。

そんな私を嘲笑うように、状況は何も変わらないまま帰還の時が来る。



関連情報SONG

Posted at 2009/03/08 21:00:26 | コメント(16) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他
2009年03月06日 イイね!

暗く怖い場所の追想4

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ

同僚主催のパーティーに参加する障害となっていた、Yという女性の怒りを鎮めることに成功した私。
しかし、その同僚は故郷のある遠方に転勤になってしまう。

ここで話は、やや遡る。
それは私が参加した2回目のパーティーから、同僚が故郷に旅立つまでの期間のこと。

実はここで、もう1度パーティーが行われている。
同僚を故郷に送り出すための、壮行会という名のパーティーが。

この会場になったのが、同僚と私の部屋から程近いところにある、T先輩の部屋である。
このT先輩も同僚と同じく、私にとっては独身寮時代から知った顔だ。
そしてこの独身寮から、もう1人のOBがパーティーに参加していた。
私がT都の関係機関に出向となる直前に入寮した、Kという後輩である。
Kと再会したのは1回目か2回目のパーティーでの席上だったが、私は残念ながら彼のことをすっかり忘れていた。
彼の方から「寮で一緒だったKです。」と話しかけてくれなかったら、ずっと初対面だと思っていたに違いない。
同僚が去ってからの私の生活において、この2人の寮OBが重要な役割を果たすことになるが、それはまだ先の話である。

師走に入った頃だったろうか。
M県の同僚から会社のPCに、Eメールが届く。
詳細は憶えていないが、確か次のような内容だったと記憶している。
「宿は家を提供出来るから、この年末年始、みんなで遊びにくれば?つかむしろ来て。」
一読した私は、同僚の置かれている状況を何となく想像してしまった。
故郷とは言っても、暫くぶりに戻った彼にとっては水の合わない面も少なくないのではないか。
そう大げさなものではないとしても、物足りなさや退屈のひとつも感じているのかもしれない。
そう考えると、この誘いをムゲに断るわけにもいかない。
別に少しも行きたいとは思わなかった私だが、たまたま予定が空いていたこともあり、仕方なく遊びに行くことを決めた。

ここで、ある事を思い出した私はビルの2階へと向かう。
勘のいい読者は既にお気付きのとおり、共に同僚を見送ったメンバーのところである。
メンバーは他のフロアや別のビルにも存在するが、とりあえず最も集中している所から攻めてみたのだ。
勿論、「みんなで遊びに行きますからね!」という台詞を吐いた張本人、Yもいる。

それぞれの見解を聞いた限りでは、私のように行くことを即決した者は居ない様子だった。
それはそうだ。
年末年始と言えば、余捨て人でもない限り、何かしら予定があって然るべき時期。
しかも海を渡ったM県に行くとなれば、費用だって馬鹿にならない。
この状況は、その後確認した他のメンバーにも当てはまった。
当然ながら、結論は先送りされることとなる。

そして数日後。
私以外の世捨て人が明らかになる。
Yだけだった。

一瞬、行くのをやめようかと思った私だが、すぐにその考えを撤回した。
こんなタイミングで辞退したら、またYを激怒させかねない。
それに何より・・。
ユーフォリックフィールドと呼ぶに相応しい南国の大地や、同僚が建造した総費用4桁万円に届こうかというオーディオルームには興味など湧かないが、彼のSOS信号を放置するわけには行かない。
この時、私の頭を支配していたのは、主にこんな使命感だった。

早速、準備に取りかかったが。
勝手が分からないというYに代わり、航空券その他の手配を引き受ける私。
出向中は仕事で各地を飛び回っていたため、この辺りの手続きは手慣れたものである。
ここで気のせいとは思えない尊敬の眼差しを感じた私は、「あの頃の俺に、この経験値があれば・・。」と唐突な後ろ向きモードに突入。
すぐに正気に戻ると、冗談ぽく「あ、君は惚れなくていいから。」と心の中で呟いた。
今だから思うが、どうせなら声に出しておくんだった。
だがこの時の私は、更に救いようのない、的外れな推理を始める。
今にして思えば彼一流の社交辞令に過ぎなかったのだが、同僚はある時、Yのことを「お嫁さんにするなら、ああいうコかな。」と評していたのである。
今にして思えば気にくわない私への当てつけに過ぎなかったのだが、初対面の時のYは同僚のことを人一倍慕っているように見えた。
そしてこれらの事象から私が導き出した答えは「2人は惹かれ合ってるんじゃね?よーし、パパ愛のキューp(ry」という目も当てられないものだった。
口説いてもいない相手から好意を寄せられた経験に乏しい、可哀想な男の視野とはこんなもんである。

出発を前に、私はもう1つ重大なミスを犯す。
個人的には不可避だった気がしているが、一般的に考えて、やはり何としても避けるべきだった。
当日では無かったと思いたいが、おそらくクリスマスシーズンのどこかだった。
当時、ランサーエボリューションという高性能な車に乗っていた私に、Yが切り出した。

Y「酸素さんて、峠とか走ってるんですか?」
私「そーね。たまに。」
Y「連れてってくれませんか?私、頭文字Dとか大好きなんです!!」
私「別にいーけど。」

Yと同僚が両想いと信じて疑わない私は、何の疑問も持たずに「走り屋物語」が好きという彼女の言葉を信じた。
そして「全く、同僚の将来の嫁は人使いが荒いぜ・・フッ・・。」などと見当違いな張り切り方をするのだった。
こんな時に限って、無駄に自分の株を上げるイベントが待ち受けているとも知らずに・・。
漫画の登場人物さながらに、T県ナンバーのランエボで走り屋のステージに繰り出す私。
シフトダウン時にあおるエンジン音を「素敵・・。」などとのたまうY。
地元の走り屋達との間に生まれる、ドラマチックな交流。
嗚呼、消したい。
消せるものなら、このミステイクだけは何とかして私の行動履歴から削除したい・・。

やがて、2人を乗せた飛行機がM県に向かって飛び立った。



関連情報MOVIE

Posted at 2009/03/06 02:49:24 | コメント(10) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他
2009年03月03日 イイね!

暗く怖い場所の追想3

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG




ここまでのあらすじ

同僚が主催するパーティーでYという女性の怒りを買ってしまった私は、なんとかそれを鎮めようと奔走を開始する。
しかし、実際にはそれほどチャンスがあるわけではない。
僅かにあるとすれば、それは同僚とYのいる部署がある、ビルの2階に顔を出す時。
私の所属する部門は6階にあったが、2階にはビルの受付や社用車のキー置き場も存在するため、それなりに足を運ぶ機会があった。
それに、私がパーティーでテンションを上げた娘は、ここの受付嬢の1人だった。

私「おつかれー。」
娘「あ、おつかれさまでーす!」

この娘、Aはとにかく人懐っこい雰囲気の持ち主で、話していると癒される。
猫と狐のハーフのようなルックスも愛くるしいが、恋人というよりは妹にしたいキャラクターだろうか。
別の受付嬢も交えて軽く談笑をしていると、そこにYが現れた。

Y「あ・・。」
私「あ、おつかれー。」
Y「・・おつかれさまでーす。」

こちらから声をかければ無視は出来ないようだ。
やや面食らった様子の彼女に対し、最初から遭遇の可能性を想定していた私に動揺は無い。
ちなみに、一応は私が目上なこともあり、YもAも敬語で接してくる。
打ち解けていないから、という理由も否定は出来ないが、打ち解けたからといって先輩社員にタメ口を使う娘はいない職場だった。
そんな彼女達を相手に、僅かな不平等も生じぬよう、慎重に振る舞う私。
同じ失敗を繰り返すわけには行かないのだ。

業務の途中だったこともあり、そこに長くは滞在しなかったが、手応えはあった。
「じゃあ、また週末にでも。」
主催でもないくせに、パーティーの開催予告と誘い紛いの言葉を吐いて去る私を、笑顔で見送る彼女達。
その中心には、少なからず心を開いてくれた様子の、Yの姿があった。

実際、その週末にもパーティーは開かれた。
当時の同僚は、それくらいホームパーティーにハマっていたのである。
予告どおり出席することになる私だったが、その前にもう1度Yと遭遇する場面があった。
女性社員の退社が多い夕刻の、通用口付近でのニアミスである。
このビルは屋外階段から続く来客用のエントランスが2階にあり、通用口は1階に位置する。
ここにビル内の全社員のタイムカードが設置されているため、出退社のタイミング次第では遭ってもおかしくないのだ。
しかし、多くの男性社員同様に退社時間が遅い私は、すっかりこの可能性を失念していた。
出社時の可能性さえ忘れていた理由については、後ほど触れることになるが。
では、この時の私は何故、夕刻に通用口に居たのか。
記憶は定かではないが、おそらく軽食の買い出しに出かけるか、逆に戻って来たところだったと思われる。
関連機関への出向から戻って間もなかった私が、自社という新環境でのライフスタイルを形成する中に、そんな行動パターンが加わったのが確かこの時期だった。

ここでYと交わした言葉と言えば、挨拶以上のものは無かったと記憶している。
ひょっとしたら週末のパーティーにも触れていたかもしれないが、今となっては憶えていない。
他に憶えているのは、Yと初めて2人きりになったのが、この時だったということだけである。

再び開催されたパーティーには、いくつか前回とは異なる点があった。
その内の1つは、最初のパーティーで私が萌えた娘、Aが来なかったことだ。
これは後で知ったのだが、この頃Aには恋人が出来、その関係が深まっていったらしい。
更に後で判った相手の男は、私が僅かな期間在籍した、社のサッカー部のメンバーだった。
私の参加回数が少なすぎることもあり接点は少なかったが、ケチの付け所の無い、社内でも将来を嘱望された人材だったという印象である。
そんな相手の詳細はどうでもいいのだが、とにかく交際の順調さを裏付けるかのように、その後の集まりでAの姿を見ることは無くなった。
他に異なった点と言えば、2人の女性が新規に参加して来たこと。
1人は既に登場済みの人物で、AやYと一緒に私が雑談をした、同じビルの受付嬢である。
もう1人は、私が勤めるビルと同市内にある、本社ビルに所属している女性。
正確には、社長秘書である。

他にも異なる点があったかもしれないが、少なくとも私が認識した変化は以上である。
女性に絡んだ変化にあらずんば変化にあらず。
こう取られても仕方の無い、ある意味すがすがしいまでの本能への忠実さだと我ながら思う。
ではこの時、誰かにこう問われたらどうだったろうか。
「新メンバーである彼女達に、君は萌えているか?」
残念ながら、答えは否だった。
肩書きに踊らされない自分を発見した瞬間である。

いずれにしろ、この2人とYを女性メンバーとしたパーティーは、今度こそ私にとって難なく終了した。
ならば反省点が無かったかと言えば、私はあったと思っている。
例えば初対面の社長秘書とは、あまり会話を交わすこともなく終わってしまった。
つまり他の女性2人に比べて、差を付けてしまったと言えなくもない。
しかし、社長秘書がそのことに気分を害したかと言えば、特にそのような形跡も無かったのだ。
何故ならパーティーを通して、彼女が私との会話を欲したと思われる場面など無かったのだから。
いや、私以外との会話でも大きく盛り上がっている様子は無かった。
そう。
彼女は我々に興味など湧かなかったのだ。
そして眼中に無いメンバーになど、どのように扱われようとも気にも留めない。
その他大勢に持ち上げられてまで、お姫様になりたいとは思わない。
退屈な道のりの果てに、心を奪ってくれる王子が1人、見つかればいい。
そんなタイプの人間に見えた。
そのことに気付いた私はと言えば、全く気分を害することもなく時が過ぎるのを待った。
ひょっとしたら彼女と同じかもしれない、冷めた心を強引なテンションで隠しながら。

こうしてYとの間に生じた亀裂の修復にも成功し、平和が戻ったかに思えた。
しかし運命の歯車は、大きな音を立てて我々を弄び始める。
同僚が、海を渡ったM県にある支店に異動となったのだ。
このように書くと良くないイメージに受け取れてしまうが、M県は同僚の故郷。
本人の長年の配属希望が叶ったというだけのことである。

空港の出発ロビーで彼を見送る、パーティーの参加メンバー達。
餞別と称して、巨大で死ぬほど部品点数の多い、Zガンダムのプラモデルを贈る私と先輩。
案の定、所持品検査で足止めを食う同僚。
プギャーする一同。
「休みになったら、みんなで遊びに行きますからね!」
お約束の口約束をするY。

当然ながら、この時の私には、これから起こる出来事を想像することさえ出来なかったのである。



関連情報MOVIE
Posted at 2009/03/03 23:00:43 | コメント(10) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他
2009年03月01日 イイね!

暗く怖い場所の追想2

「暗く怖い場所の追想」THEME-SONG



ここまでのあらすじ

同僚の部屋で行われたホームパーティーに参加した私だったが、そこに来ていた好みな娘に、軽くテンションを上げてしまったらしい。
その日は総勢7、8人の内、2人か3人が女性だったのだが。
好みの娘にしか興味が無かったので、よく憶えていない。
我ながら、評価出来るのは本能に忠実という部分だけである。

この悪癖も、周囲の条件によっては特に問題にはならない。
むしろ、「お前はホント分かり易いな。」程度の冷やかしを受けて終わる場合が多い。

しかし、この日は違った。
テンションの上がらなかった側の女性が、私のこの態度に激怒した様子。
「様子」というのは、確証が持てないからだ。
実際、自分の中では最初、怒っている理由が分からなかった。
いや、今も本当に分かっているのかと云えば、想像で書いているに過ぎない面がある。
なぜなら、好みの娘だけを相手に盛り上がってしまったと言っても、これまでの例に比べ、それは非常にささやかなレベルだったからだ。
正直、自分では差があったとは思っていない。

本音を言えば、全体的に無理をしてテンションを上げていた。
生来の社交性の無さもあり、どちらかと言えば、その場に居ること自体が苦痛だった。
では、なぜ出席したのか。
主催が、一緒に遊ぶことの多かった同僚だからである。
簡単に言えば、パーティーに行ったのは同僚と遊ぶためであって、他のメンバーには仕方なく付き合っていたのである。
そう考えると、根本的な原因は周囲への無関心さだったのかもしれない。
怒った彼女だけがこの事実に気付いたのか、全ての参加者が気付いていたのかは分からない。
いずれにせよ、気分を害した彼女の手により、私には立つ瀬の無い世界の創造が始まった。

彼女をYと呼ぶことにする。
Yは基本的に明るい性格で、頭も柔らかく気の利く部類の女性なのだが。
所謂「お姫様ポジション」への憧れが、非常に強いと思われる節がある。
そんなYを差し置いて別の女性に興味を示してしまった自分が、ただで済むはずもなく・・。
各参加者と会話を交わして場を盛り上げつつ、私だけ無視するという報復に晒されることとなる。
一部の参加者は途中でこれに気付いたらしく、「やれやれ、また始まったか。」という表情を浮かべる。
かと言って、こんな私を積極的に助けてくれるはずもないのだが。
それでも私は、少しだけ救われた気分になった。
このような目に遭ったのが、自分だけではないらしいと分かったからだ。

こうして散々な一時が過ぎた。
自業自得な部分もあるので、Yを責めるつもりは全くないのだが。
普通に考えて、Yとは縁が無かったと考え、距離を置くべきだろう。
しかし、同僚はホームパーティーを続ける気満々である。
同僚と私は同期入社で、入社から暫くの間、一緒に寮生活を送って来た関係なのだが。
Yは同僚と同じ部署であり、ホームパーティーの主要メンバーのようだ。
つまり、ホームパーティーが開催されれば出席する可能性が非常に高い。

こうなると、選択肢は当面、2つに絞られる。
同僚もろとも距離を置くか、彼女に機嫌を直して貰い距離を縮めるか。
僅かな葛藤を挟み、私は後者を選んだ。
では、その先に起こることを、もし私が知っていたらどうだったろうか。

それは全てが終わった今でも分からない。


                                つづく



関連情報MOVIE

Posted at 2009/03/01 22:34:45 | コメント(14) | トラックバック(0) | 恐怖体験 | その他

プロフィール

「@soyoka555 新宿のソチラは閉店、もはや銀座が最後の砦みたいなのですがそれは」
何シテル?   11/19 20:09
こ、こんな動画ちっとも興味ないけど、関連動画だから仕方なく貼ってあげてるだけなんだかんね! とゆう体で好きな動画を紹介するだけの空虚なページがこちらです。

ハイタッチ!drive

みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

掲示板

<< 2025/8 >>

     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

リンク・クリップ

等身大の絶望とは 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2020/08/28 23:26:15
クリオは、いまは、ほとんど全裸体であった 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2019/07/03 23:49:55
スーパー耐久富士24h 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2019/06/16 22:21:34

愛車一覧

スバル フォレスター ブラックヒストリー (スバル フォレスター)
ひょんな外圧によりトレイルブレイザーには乗れなくなってしまったため、限られた条件の中で欲 ...
その他 二足歩行 女騎士 (その他 二足歩行)
とある時代の聖ロガンにより創設されて以来、腹痛や歯痛と闘い続ける 『 聖ロガン騎士団 』 ...
その他 カトー お笑いコンビ (その他 カトー)
■一般人の認識 ガンダム:安室とシャーがたたかう話 エヴァ:パチンコ マクロス:歌 ...
シボレー トレイルブレイザー ブラックディーム (シボレー トレイルブレイザー)
初めての左ハンドル買ったったwww 愛車ニックネームは、納車までに考えるつもり。 今 ...

過去のブログ

2015年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2011年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2009年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2008年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
2007年
01月02月03月04月05月06月
07月08月09月10月11月12月
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation