2021年02月05日
シリアの話
ミャンマーのクーデターの話を書いた際に「個人的趣味で国際情勢を…」という事を書きましたが、今回はシリアの話。
怖い人達が外国人ジャーナリスト等を捕まえて首を切り落としてYoutubeにアップしたりする無法地帯となっている事はご存知かもしれませんが、そもそもシリアで何が起こったのか、よく知らない日本人がほとんどだと思います。
それもそのはずで、今に至るまで続いているシリアの内戦が始まったのが2011年3月の事。日本は国難に見舞われ海外の出来事を気にしている余裕など全くなかった時の話です。
背景事情から説明するなら、第一次世界大戦後のオスマン帝国解体の時の話から始めないといけませんが、そうなるときわめて話が長くなるので…
シリア共和国は世俗主義の国。政教分離が国是です。
ざっと国民の7割がスンナ派ムスリム、2割がシーア派、1割がキリスト教徒です。
そのうちシーア派はアラウィやドゥルーズ、12イマーム、イスマーイール等の分派があります。
現在の大統領のバッシャール・アル=アサドはアラウィ派ですが、夫人はスンナ派です。
2010年にチュニジアから「アラブの春」という民主化運動が始まりました。この運動によりエジプトではムバラク政権が倒れました。
この運動を主導したのが「ムスリム同胞団」と呼ばれるスンナ派の集団です。ムスリム同胞団は西洋近代文明の影響で堕落してしまったイスラムの生活、文化をもう一度取り戻そうという事で第二次世界大戦前にエジプトで始まった運動ですが、彼らの思想は世俗主義とは相容れません。
社会制度や学校教育もイスラムの形式に則らないといけませんので、政教分離などあり得ない事になります。
今の大統領の父親であるハーフィズ・アル=アサドが大統領だった時代に、ムスリム同胞団は政権と激しく対立します。政権が激しく弾圧するのに対しムスリム同胞団がテロ活動で応酬するという流れから、ついに1982年「ハマーの大虐殺」という事件が発生します。
シリア北部のハマー市街を占拠したムスリム同胞団に対し、アサド政権は軍を投入して街ごと破壊。地下に立て籠もった同胞団員に対しては地下道に燃料を流し込んで火を放つなどの方法で、数万人以上と言われる同胞団員を虐殺してしまいました。
それ以降シリア国内では非合法組織として姿を消していたそのムスリム同胞団が主導する「アラブの春」が2011年にシリアにも波及します。
スンナ派が多数派のシリア共和国でムスリム同胞団主導の民主主義が実現したら、世俗主義体制は崩壊し今度はシーア派やキリスト教徒が迫害される事になります。当然バッシャール・アル=アサドはこれを弾圧、鎮圧にかかります。
ムスリム同胞団の中にも穏健で平和的に民主化を進めようという人もいたようですが、アサド政権にとってはそんなのは無関係です。国際社会からの批判など構わずに力で抑え込みます。
それに対しテロ活動などで政権打倒を目指す勢力が加勢してきます。いわゆるアルカイダと呼ばれるスンナ派原理主義テロリスト集団です。当時は「ヌスラ戦線」と自称してましたが、今は「シャーム解放機構」と名乗っているようです。この対立で事実上の内戦に突入します。
そのうちにヌスラ戦線よりも更に過激な連中が出現します。「イスラム国」とか「ISIS」とか「ダーイシュ」と呼ばれる集団てす。スンナ派原理主義過激派なのはアルカイダ系と同じですが、過激度が半端ない連中です。一時はシリアの北東部からイラクにかけての広大な地域を支配するに至りました。
この状況に対し、オバマ政権などの西側諸国はアサド政権を批判してシリア共和国に経済制裁をする一方で「イスラム国」を打倒すべく、北東部に住むクルド人と協力して「有志連合」と称して介入します。
アサド政権に対してはイランとロシアが支援します。イランに支援されてるレバノンのシーア派武装組織である「ヒズボラ」も加勢します。内戦への関与は不明ですが、アサド政権は中国や北朝鮮と友好関係にあります。
ヌスラなどのアルカイダ系組織にしろイスラム国にしろ、サウジやカタールなどのスンナ派原理主義者の富豪がスポンサーとなって支援します。
イランと敵対しているイスラエルは、シリア国内のイラン革命防衛隊の部隊やヒズボラなどを見つけてはミサイル攻撃したり空爆して、国際社会の批判を浴びない範囲内でこっそり介入します。
これだけの勢力が入り乱れての内戦が延々と続きます。
現在は「有志連合」とクルド人によって「イスラム国」はほぼ鎮圧されましたが、一部残党がシリア国内に潜伏しています。トランプ政権はシリアからの撤退を試みましたが、ここで撤退してしまうと再び「イスラム国」が息を吹き返しかねません。結局今現在も米軍は駐留を続けてます。
ヌスラなどのアルカイダ系グループは、ロシアやイランの支援を受けた政府軍の攻勢により、現在は北部のイドリブという地域に追い込まれて籠城している状況です。
有志連合の支援を受けたクルド人ですが、トルコやイラン、イラクに跨がる地域に居住している民族です。トルコのクルド人の一部にトルコからの分離独立を謳ってトルコ国内でテロ活動を行なっている集団がいます。この集団に近いシリア国内のグループも米軍などの有志連合の支援を受けてイスラム国掃討で活躍しましたが、この人達が台頭してしまうとトルコにとって脅威となります。そのためエルドアン政権もシリア内戦に介入します。トルコ国境に近いシリア領内を占領し緩衝地帯を設ける一方、イドリブのアルカイダ系グループを支援します。トルコ共和国は世俗主義国家ですが、エルドアン大統領自身はムスリム同胞団に近いイスラム主義者です。
ここ一年くらいはやや膠着した状況が続いてますが、停戦に向けての道筋は全く見えていない状況です。「独裁者vsテロリスト」の戦いと言われますが的確な表現と思います。
非常にザックリと書いたつもりですが、それでもこんなに長文になってしまいました。
震災から間もなく10年。
福島原発周辺から避難している被災者をはじめ、震災からの復興はまだ道半ばと思います。
3月11日になればあの時の記憶を教訓として思い返す事になるかと思いますが、それと同時期から始まった遠い国の不幸な出来事についてもちょっと気に留めておきたいものです。
ブログ一覧
Posted at
2021/02/05 20:54:29
今、あなたにおすすめ