
今日は先日報道されたこのニュースから
コーヒー豆の袋に麻薬「ケタミン」隠しドイツから密輸 ベトナム人の男を逮捕 麻薬密輸グループの指示役か | TBS NEWS DIG
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/cbc/129529
この「ケタミン」という薬、報道では「麻薬」となっていて、実際麻薬取締法での規制薬物なんですが、その実体は「麻薬」というより「麻酔薬」です。
モルヒネ等の「オピオイド」と呼ばれる麻薬性鎮痛剤とは全く異なる薬物で、静脈内注射や筋肉内注射することにより一定時間の意識消失を生じます。臨床現場で経口投与することはありませんが、経口摂取によっても作用発現します。
一般的な麻酔薬と比較してやや癖のある薬物で、日本の臨床現場で用いられる機会はあまり多くはありませんが、戦地外傷や災害医療現場、あるいは動物相手の獣医さんなどには世界的に重宝されよく使用されている薬物です。
また近年では少量投与で速効性の強力な抗欝作用がある事が判明し、希死念慮があるような重症の鬱病患者への投与もされるようになっています。
「癖がある」という話の詳細は省きますが、意識消失している間に夢を見るなどのちょっと不思議な体験ができるらしく、90年代あたりから香港などで「不適切な使用」がなされるようになり、日本でも「スペシャルK」などという隠語で不適切な売買や乱用がなされるようになりました。
そのような事態に対応するため日本では2003年のことだったかと記憶してますが、麻薬取締法の規制薬物に指定されました。
一般的な麻薬のように依存性や禁断症状が出るような薬物ではありませんが、
一定期間の乱用により難治性の膀胱炎を来たし慢性的な排尿障害を引き起こすことが知られています。
ケタミン誘発性の膀胱炎の患者を自分は見たことがありませんが、膀胱容量やトイレでの一回の排尿量が著しく減少してトイレに行く回数が何倍にも増える羽目になったりするみたいです。
もちろん過量投与などにより命に関わる事態にもなりえます。
実際にこの薬を患者さんに投与したり、投与された患者さんの管理などに携わったりしたことはありますが、投与された患者さんがそんなに気持ちが良さそうにしてるようには見えません。
人工妊娠中絶の手術の麻酔でケタミンを投与された患者が、術中にレイプされている夢を見たとかっていう話で、それが「夢か真か…?」で裁判沙汰になったという事例もあるらしく、教科書には副作用として「悪夢」と記載されたりもしています。
覚醒時の悪心・嘔吐の頻度も高く、こんな薬を乱用して楽しいのか…?と言われると甚だ疑問ではあります。
医療現場にはこのような麻薬や向精神薬が手近にあり、それに手を出してしまって人生を棒に振った医療従事者を自分は何人も知っています。
病院内での対策が進んで最近はほとんど聞かれなくなりましたが、「病院のトイレの個室の中で倒れて○んだ状態で発見されて、傍らには〇〇の空アンプルが転がっていた」なんて話は業界内では幾多もありました。
言うまでもありませんが、覚醒剤を含め
薬物乱用
ダメ!絶対!
です。
一回だけなら大丈夫…なんてことはありません。一度でも手を出した人は、ほぼ例外なくバレるか死ぬまでやり続けます。
ちょっとした好奇心で一回でも手を出したら人生終了します。
もちろん今回逮捕された「運び屋」のベトナム人は相応のペナルティを受けるべきですし、その背後関係については徹底的に捜査されるべきです。
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2022/08/21 01:30:12