
前回予告したように石炭火力発電所の話です。
昨年から南アフリカ共和国からこんなニュースが伝えられています。
大規模な計画停電を実施、電力不足長期化の懸念(南アフリカ共和国)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/11/a68ca4fd12a4a920.html
老朽化した石炭火力発電所の故障などにより電力不足となり、昨年末から計画停電が実施されているとの事。
先日はこんなニュースも流れました。
南ア、記録的計画停電が22日夜まで継続=国営電力エスコム
https://jp.reuters.com/article/safrica-eskom-idJPKBN2UV09Y
昨年来のエネルギー資源高とドル高のダブルパンチで、日本など資源を持たない国々はエネルギー資源の調達コストの高騰に苦しむことになりました。
それに加えて米国金利の上昇でドル建て対外債務を抱える振興国の財政は火の車です。
財政破綻したスリランカがその最たる例です。スリランカに関しては昨年数回このブログでも取り上げました。
スリランカの話題に関する訂正と農業問題、地球環境問題
https://minkara.carview.co.jp/userid/3311343/blog/46256008/
しかし様々な鉱物資源に恵まれ、石炭輸出国の南アフリカ共和国で電力危機とは只事ではありません。
昨年石炭輸出国はウクライナ紛争にともなうエネルギー危機で「空前のバブル」とも言える状況になっていたはずです。
焦点:戦争長期化で石炭に「最後のブーム」か、アフリカに活況
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-coal-idJPKBN2QN0FP
しかしながら南アフリカ共和国の経済は昨年後半低迷し、30%を超える失業率を記録しています。
【速報】南ア・10-12月期失業率は32.7%
https://zai.diamond.jp/list/fxnews/detail?id=414856
新興国ですし汚職とか腐敗の問題や貧富の格差もあるのでしょう。国内問題で石炭輸出が低迷していた事情はあったようです。
南アフリカ:Glencore、 2023年の南アフリカからの石炭輸出量の回復に期待 : レポート一覧 | JOGMEC 石炭資源情報
https://coal.jogmec.go.jp/info/docs/230222_4.html
しかしながら、石炭輸出国の発電所が老朽化等で電力不足・電力危機に至るというのは尋常ではありません。産油国であるベネズエラが国内問題で石油生産ができなくなり、ハイパーインフレ等の経済的大混乱を来しているのは有名な話ですが、南アフリカ共和国からはそのような話は伝えられておりません。
地球環境問題で石炭火力発電が不当にやり玉に挙げられ、最新のコンバインドサイクル等と呼ばれる高効率石炭火力発電所への更新ができないのでしょう。
そんなことのために非効率的な旧式の石炭火力発電所を無理に使い続け、挙げ句電力危機を招くなど愚の骨頂としか言いようがありません。
冒頭画像はジェトロの下記記事から拝借した南アフリカ共和国の2019年の電源構成割合です。
電力不足と石炭依存からの脱却目指す(南アフリカ共和国) | COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2022/1003/9558d39eac21d53c.html
この記事によれば、国営電力公社エスコムが世界最大規模でCO₂を排出している企業と批判され、事実上石炭火力発電所新設が不可能な状況に追い込まれていることが伺われます。
老朽化し、効率の悪い旧式の石炭火力発電所を最新の大規模高効率石炭火力発電所に更新していくだけでもそれなりにCO₂の排出は抑制されます。
南アフリカ共和国が石炭を消費しなくても、輸出されて他国で消費されれば地球レベルでの炭素の収支は同じです。
上記ジェトロの記事によれば南アフリカ共和国は2030年までに石炭火力発電の依存度を約半分にまで削減する目標を掲げ(させられ?)ています。
こんな無理ゲーな計画で慢性的な電力不足の状況を更に悪化させて経済が破綻してしまうのなら、SGDs…「
持続可能な発展」など絵に書いた餅です。
SDGsの開発目標の筆頭に掲げられているのは脱炭素などてはなく「貧困の撲滅」です。
電力危機から経済破綻に至れば、治安の悪化や貧富の格差拡大は避けられません。本末転倒とはまさにこのことです。
昨年高騰した石炭の先物価格は、今年になって欧米諸国の暖冬により暴落し、既に「石炭バブル」は崩壊しました。
南アフリカ共和国やモザンビークなど、アフリカ南部近海の海底には大規模な油田やガス田の存在が確認されております。
大規模ガス田の掘削装置がケープタウンに到着、「新型コロナ禍」での開発継続を歓迎(南アフリカ共和国)2020年08月21日
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/08/8665b5267a635d02.html
これらに適切な投資が行なわれれば南アフリカ共和国でも石炭から天然ガスへの移行が進むでしょう。
しかし海底油田やガス田の開発にはシェール以上にコストがかかります。
「脱炭素」へのムーブメントが止められない中、新たな石炭火力発電所の建設にも海底油田・ガス田の開発へも資金が思うように集められないまま旧式の石炭火力発電所が老朽化し、
「石炭資源を持っていながら電力不足」という残念な事態に陥ったというのが実情のようです。
昨今の脱炭素のムーブメントは、資源に恵まれた南アフリカ共和国でもこのような混乱を引き起こしています。
国内問題による自業自得の面が多大にあるのだとは思いますが、
SGDs…持続可能な発展という理想からはかけ離れて暴走している現実が垣間見えます。
地球環境問題を地球全体の問題として捉えるなら、地球全体を見渡す広い視野が必要です。
Posted at 2023/03/04 06:51:18 | |
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