これまでに2回ほどスリランカのデフォルトに関する記事を書きました。
スリランカの迷走と不幸
https://minkara.carview.co.jp/userid/3311343/blog/46114694/
スリランカ情勢その後
https://minkara.carview.co.jp/userid/3311343/blog/46242315/
自分の不勉強もあってその後新たにわかったことがあり、過去に書いた記事を訂正しなければならなくなりました。
2つの記事を紹介します。
スリランカ大統領「デフォルト」で国外逃亡:主原因は有機農業、中国債務わずか10% | 中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/3357
と、この記事を引用しつつ書かれたこの記事
中国より恐ろしい「ESGの罠」、大統領が逃亡した破産宣言スリランカの誤算 化学肥料禁止で農業生産が激減した「グリーン優等生」の結末 | JBpress (ジェイビープレス)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71003
です。
スリランカのデフォルトというとどうしても中国による「債務の罠」の話になりがちですが、スリランカの対外債務のうち中国に対する債務は約10%程度なんだそうです。日本への債務とほとんど同じようです(冒頭画像;上記「中国問題グローバル研究所」の記事から拝借) 。
コロナによって観光による外貨収入が断たれたのが致命的だったのは確かだと思いますが、それに加えてゴータバヤ・ラージャパクサ大統領が、なんと「農薬・化学肥料禁止令」を出していたんだそうです。
それにより農作物の収穫量が大幅に減り、経済危機の火に油を注ぐ結果になったとか…
なんと言うことでしょう
ラージャパクサ大統領が問題にしたのは、化学肥料が農地の土壌でバクテリアに分解されて生成される亜酸化窒素(一酸化二窒素:N₂O)だと思われます。
この物質は「笑気ガス」とも呼ばれ、我々の業界では麻酔薬として古くから用いられて来ましたが、15年程前からその使用が激減しました。
医療現場ではN₂Oのいくつかの副作用(詳細は省きますが深刻なものではありません)が問題視されるようになりましたが、実はこのN₂OはCO₂の300倍以上もの温室効果をもたらす温室効果ガスでもあります。
そして人為的に排出されるN₂Oの大部分は農業・化学肥料由来であり、その他に化学繊維工場(レーヨンだったかナイロンだったかと思いますが失念しました)からも副産物として排出されています。
先の参議院選では
参政党が別の理由から農薬や化学肥料の使用中止を訴えていたようですが、農薬や化学肥料を使用せずに収穫量を簡単に維持できるほど農業は生易しいものではないでしょう。
ラージャパクサ大統領がなぜ突然農薬と化学肥料の使用禁止令を出したのかは上に紹介した記事の中に書かれていますので省略しますが、とても「サスティナブル」だとは言えない政策だったのは間違いありません。
いわゆるSDGsで挙げられている17項目の目標のうち、まず最初に挙げられているのは「貧困の撲滅」です。
決して「裕福」とは言えないスリランカでサスティナブルな開発目標を掲げたら国家が破産し、一気に貧困に陥ってしまった…なんて本末転倒です。冗談でも笑えません。
そしてこの化学肥料の原料を多く輸出しているのがロシアだったりするのがまた悩ましい話です。
世界有数の穀倉地帯であるウクライナが戦争で焦土と化し、ロシアに対する制裁で化学肥料が品薄となって価格が釣り上がっている状況で、近い将来世界規模で食料危機までやってきたら、人類は一体何をやっているのか…?っていう話になります。
「温暖化ガス排出削減交渉は軍縮交渉と同じ」「環境問題が盛り上がってたのは欧州の平和ボケ」などという意見もありますが同感です。
欧州各国がロシアの天然ガスへの依存度を高めた事がウクライナでのプーチンのご乱心の一因になったという側面もあります。
このブログでも何回か紹介させていただいたハイエクの言葉を、もう一度紹介させていただきます。
文明社会は人間の営みの結果ではあるが、その本質的な構造は特定の意志により設計されたものではなく、社会の試行錯誤を経て意図せず生じたものであり、そのはたらきの機序を人は充分に認識しえない。
よってそこに人間の理性(知力)が入る余地はわずかである。
その本質において能力の乏しい理性に基づき「社会の設計(設計主義)」や「革命的な進歩」を目指した場合、認識しえない構造を基礎としている文明そのものを破壊する。
人間社会に期待されるのは、所与の方向付けがされていない漸進的な自律変化である。
偉大な先人の言葉を今こそもう一度噛みしめるべきです。
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2022/07/18 03:25:05