
それは金曜日から始まる、黒い週末だった。
金曜日の仕事を終えて帰宅する直前のこと。来月分の勤務表を見たら、困るような事態になっていた。
暫定的な勤務表らしいので、決定事項ではない模様。
しかし、来月の勤務が変わることに対して、僕は何の話しも聞かされていない。相談もされていない。
あくまで役職者が独断で決めたことらしい。
個人的なことのため詳細は省かせて頂くが、これでは困ってしまう。
僕は上司に自分の希望や上司から部署の現在の状況を聞き、来週以降に検討してもらう約束を取り付けた。
こうした問題から、暗黒の週末は始まった。
次の問題は、金曜日から始まったくしゃみだった。
熱があるわけではないが、喉の違和感とくしゃみ。
帰宅したら喉が痛くなってきた。これはまずい。ただの風邪だといいな。もうコロナはお腹いっぱいです。
土曜日の朝。鼻詰まりとタン。
あぁ…。これはもう風邪引いたよ。手元にある風邪薬を飲む。
これで早く良くなると良いけど…。
土曜日は用事を済ませて終了。
なんだか金曜日の勤務表の問題から色々と疲れた。身体もダルい。
お昼過ぎに帰宅した僕は、再び風邪薬を飲んで熱を測る。
何度も測っているが、どうやら熱は無い。今週は身体を痛めてしまい、仕事がとても大変だった。その疲れなのかな。とにかく昼寝しよう。
この昼寝が、今思えば効いたのだと思う。
お昼過ぎから夜まで眠る。
相変わらず鼻水は出るが、ダルさは消えた。いつも通り動けるので、近所でお買い物。そして就寝。
雨の日曜日。今日は特に予定はない。土曜日よりも身体はさらに良くなっていた。
もう喉の痛みはないし、鼻詰まりが少しあるだけだ。
恐らく軽い風邪だったのだろう。コロナだったら熱があるはずだし、鼻詰まりだけで済んで良かった。
陽が沈んだあと、少しだけケイマンに乗りたいと思い、準備をする。
色々と悪いことが重なった週末だ。
雨も上がったことだし、少しだけ気分転換がしたい。
しかし今は夜だ。
あまり暖気に時間をかけ過ぎるわけにもいかないので、アイドリングが落ち着いたら自宅を出発する。
その時、また一つ問題が起きた。
もういい加減にして欲しいと思った。
なんて週末だろうか。良くないことは重なる。
ケイマンのエンジン周辺から、タペット音のような打音がする。
回転に合わせて『タンタンタンタン』
自宅から100メートルほど離れた駐車場で、暖気している間はずっとタンタンと音が鳴っていた。
しかも回転に合わせて打音は早くなる。完全にエンジン回転と同調している。
これは僕が最も恐れる音だ。
ポルシェが空冷から水冷に変わり、1999〜2008年までのカレラ、ボクスター、ケイマンに共通する爆弾。
オープンデッキシリンダーのエンジンの断末魔の音。
皆の知ってるタペット音だったらまだ良い。
最悪な事態は、6番シリンダー問題。
つまり、4〜6番シリンダーのキズ付きだったら最悪です。
もうエンジンが終わってしまうので、良くてもシリンダー打ち込みしなければならない。当然、ピストンも交換。
最悪の場合はシリンダーやブロックにクラックが入り、修復不可能。リビルトエンジンに載せ替えとなってしまう。
ちょうど、春から娘が乗るためのクルマを契約した直後だったので、修理するための体力がない。
『このタイミングでは勘弁して欲しい!』
そう思った。
僕は一般的なサラリーマンだ。頑張って維持とイジリをしているだけで、余裕があるわけではない。だから大きな修理は、今は困ってしまう。
祈るように水温計が真ん中まで来るのを待つ。水温計が真ん中まで昇ったところで、ゆっくり走らせて温める。
1〜2kmほど走らせたころだろうか。
そうすると、いつの間にかタンタンという打音は聴こえなくなった。
もしもシリンダーに問題があれば、音は消えることはなく打音が鳴り続ける(はずだと思う)
その後近くのガソリンスタンドまで走らせたが音は鳴らない。
どうやら今回は助かったようだ…。本当にホッとした。
しかし油断は禁物。今後も状態は観察して行かなければならない。
もしかしたら、温度が高くなってピストンとシリンダーの状態が良くなったのかも知れないし。
何の音だったのだろう。これを書いている今でも思う。
結局は、エンジンを下ろして開けるか、シリンダーをスコープで覗くしかない。
空冷から水冷になったあとのポルシェ(元々、ターボやGT3は除外)は本当に気を使う。
オイル選定、暖気はキッチリ行うことしか出来ない。それでも、問題が起こっていないとされる排気量(ポルシェは同じエンジン形式で、ボア径とストロークアップだけでグレード及び車種展開している)を選んだつもりだ。
そういった悩みから解放されるには、やはり空冷か、空冷のクランクケースを使うターボやGT3。もしくは直噴エンジンに変わった2009年以降のエンジンに乗るしかないのか…と思う。
でも僕は今乗っているポルシェのスタイリングやポート噴射のエンジンのフィーリングをとても気に入っている。だから、よほどお買い得な金額で空冷のオファーが無い限り、乗り換える気はない。それに空冷エンジンは常にオイル漏れ、古い故の修理のハードルがそれなりにある。
それこそ、リーマンショックあたりまでは空冷ポルシェはさほど人気は無かったし、本当に乗りたいコアなファンしか買わなかった。だから中古価格も現実的だった。
もし現在でも、300万円で964シリーズが売っていたら間違いなく購入していた。
今では1,000万円以上を支払うことになるので、それは現実的ではない。
僕は機械的な雰囲気があるポルシェが好きだ。
だから内装や制御を含めて、どこか空冷の雰囲気が残るポート噴射の水冷ポルシェが好みだ。そして空冷ポルシェのクランクケースを使うGT3やターボも大好きだ。
空冷エンジンの回転感は特別なフィーリングがする。それは地上を舞う戦闘機でも書いた『997後期のGT3RS』でも共通する。なぜなら、空冷のクランクケースを使っているから。
今乗っているケイマンには現代の、なんでもお節介なポルシェにはないアジがある。そこが僕の好みには合う。
現代のポルシェを否定はしない。なんと言ってもカッコいい。内装もエンジン音も素晴らしいものがある。最初こそ最良のポルシェという言葉が存在する。
それぞれ好きなポルシェ(クルマ)に乗ればいい。要は好みのお話しなので。
ともかく、僕にとっては色々と悪いことが重なった週末となった。
これを暗黒の週末と呼びたい。
良くないことが起きた流れでは、じっとしていることも必要なのかもしれないと思った。