
2025年、12月17日。 街は華やかなイルミネーションに彩られ、誰もが聖なる夜を待ちわびている。 だが、私にとっての12月24日は、ロマンチックな夜などではない。 愛車アベニール(2000年式)との「保証」という名の契約が切れる、審判の日だ。
よりによって、クリスマスイブ。 世のカップルが愛を誓い合うその瞬間に、私の彼女は「公式な庇護」を失い、ただの女へと戻る。
とはいえ、保証対象は「エンジン」と「ミッション」という心臓部のみ。 まるで「聖夜のベッドの上だけは保証してやるが、そのあとの腰痛や情緒不安定は知らんぞ」と言われているような、なんとも無慈悲な契約である。
だが現実は、想像以上に淫らで、そして切ない。 私の愛車は、心臓こそ力強く脈打っているものの、それ以外の部位はまさに「満身創痍」なのだ。
今の彼女が抱える「クリスマスの願い(不具合)」は、あまりに重い。
足回りからの「コトコト」音: 低速で這うように走ると、腰のあたりから異音が漏れる。まるで初夜の緊張で膝が笑っているかのようだ。
消えたインジケーター: メーターの「12DNRP」が闇に消えた。今、自分がどのポジションに「挿入」しているのか、手探りで感触を確かめるしかない。
鳴り止まない「ピーピー」音: 壊れたナビから3分おきに電子音が響く。早〇防止のタイマーか何かか? 集中力が削がれて、運転どころではない。
右リアの車高ダウン: なぜか右の後ろだけが垂れ下がっている。私の息子のように、常に左に曲がっているならまだしも、右に沈み込むのはどうにも座りが悪い。
右ウィンカーの不点灯: メーターの右矢印が沈黙した。外ではビンビンに光り狂っているらしいが、私にその反応は見せてくれない。
不明な外部入力: どこから受け入れてくれるのか、入口がどうしても見つからない。まるで初めての夜に焦る初心者の気分だ。
OFF時のブレーキ警告音: 鍵を抜いて一息ついているというのに、ブレーキを踏めば「まだ終わらせない」と鳴り響く。
沈黙のエンジンスターター: 遠隔で「熱くして待っていろ」と命じても、彼女はピクリとも動かない。
強烈に臭い排気ガス: 熟成された彼女の香りは、もはや「芳醇なフェロモン」を通り越して、私以外の周囲を寄せ付けないほどの毒気を放っている。
エンジンとミッションという「下半身」さえ生きていれば、彼女はまだ私のために走ってくれる。けれど、これだけの「機能不全」を抱えた彼女を抱えながら、私はあと7日で保証という名の庇護を失うのだ。
「もう買い替えたら?」という冷ややかな声が聞こえてきそうだが、この手のかかる感じ、決して嫌いではない。 むしろ、不具合が増えるたびに、この愛車が「私にしか扱えない、手に負えない女」になっていくようで、密かに興奮している自分もいるのだ。
保証という魔法が解ける、24日の24時。 サンタも訪れない車内で、私とアベニールの、より倒錯した、逃げ場のない「真の聖夜」が始まるのかもしれない。
正直なところ、インジケーターが消えていようが、右のヒップ(車高)が少々垂れ下がっていようが、私にとっては「愛嬌」の範囲内だ。排ガスが少しばかりキツくても、彼女の個性だと思えば耐えられる。
だが、あの足回りの「コトコト」という震えと、密室で3分おきに私を急かす「ピーピー」という電子音。これだけは、私の精神をじわじわと削っていく。
まるで、絶頂の直前で常に水を差されるような、あの居心地の悪さ。 この2つの「声」さえ鎮まってくれれば、私はこの2000年生まれの恋人を、もっと心ゆくまで愛してやれるのだが。
12月24日、保証という名のお守りが消え去ったその瞬間。 私とアベニールの、より深く、より逃げ場のない「真の関係」が始まる。
「心臓は元気なんだから、それぐらい我慢してよ」
バックミラーに映る彼女の虚ろな視線が、そう囁いているような気がした。

Posted at 2025/12/17 16:02:26 | |
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