
新型のアルピナB3の試乗予約をしていたのですが、その日に急遽車両の貸し出し(なんと
2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー 10ベストカーに残ってしまって審査)になってしまって中止、との事でがっかりしていたら、他の日に車両を地元まで持ってきていただいて試乗になりました(逆に超ラッキー)。
試乗車はアルピナブルーのリムジン(セダン)で、20インチの鍛造ホイール装着の車でした。やはりアルピナブルーは味わいがあって格好良いです。

乗り込むと標準のBMW3シリーズと見た目は大差無いですが、ステアリングはラヴァリナレザー張りで、Mスポーツのステアリングよりやや細身です。それでも先代までよりも太いですが。

メーターも最近のBMWに共通した、センターに地図などの情報を表示して左は速度計、右は反時計回りのタコメーターですが、アルピナのメーターはバックが濃紺なのでメーター表示(特に回転計)が非常に見易いです。
エンジンをかけると、そこそこ静かですがやや低音の混じったちょっと元気な排気音です。始めは新たに出来たコンフォートプラスモード(標準車のエコプロモードの代わり)で出掛ける事にしました。街中のちょっと荒れた路面を走っていても乗り心地は良く、デビュー当時のG20より乗り心地が良いです。
普通に走っていると1500〜2000回転でどんどんシフトアップしてしまい、ほとんどディーゼルエンジンのような感じです。いつもの山越えに入る上り坂を走っても、1500回転ちょっとで普通に登ってしまうので低速トルクも問題ない感じです。エコプロモードのようなまだるっこさもありません。

あまりに平和なので山道ではスポーツモードに変えてみるとメーター表示が指針の表示からバー表示になりますが(写真はXD4のものです)、緑のバー表示でこれまた見易く、BMWの標準車とは大違いです。エンジンも排気音がやや勇ましくなるとともに吹け上がりも鋭くなり、アクセルオフした際に「ババン」というアフターファイア的なサウンドもでます。
伊豆スカイラインに乗り入れて更に踏み込んでみましたが、2500〜3000回転を境にかなり吹け上がりが鋭くなり、一気に7000回転までパワフルに回ります。担当の方と助手席の姫との3人乗車でしたが、かなり慎重に走っても以前にポルシェ軍団と御一緒した時のペースと同等で走れました。
スポーツモードでマニュアル固定でスイッチトロニックを使用して走るとスピードの乗りが尋常では無いですが、エンジンブレーキもかなり効き、まるで自然吸気のMT車を駆使しているような感じです。その分、全開からアクセルオフするとそれなりの減速ショックも来ますし、盛大なアフターファイア音も出ますので、ちょっと刺激的(アルピナとしては下品?)ですが、スポーツカーやBMWのMと比較すれば同程度かもしれません。この間乗ったRS3より音量は抑えられていましたが、アフターファイア音はB3の方が盛大でした。助手席の姫からは「エンジンがボコボコ言っているのでどこか壊れたのかと思ったわ〜」というコメントいただきました(爆)。
コーナリングも安定して頭の重さもありませんし、4輪駆動のような癖も全く感じさせずに気持ち良く曲がれます。ただ、コンフォートモードに比べるとステアリングがかなり重く(2倍くらい?)なるので、生粋のスポーツカーに近い操縦感覚で、アルピナでは一番ステアリングが重いかもしれません。ただ、BMWの標準車や他社にあるような、単にアシストを減らしただけの重さではなくしっかり滑らかなステアリングフィールではあるので、慣れれば問題無いかもしれません。
ブレーキは初期制動はBMWの標準車に比べると微妙に甘い感じですが性能そのものは強力なので、ワインディングではコントロールしやすくて好みですし、一般道でもカックンブレーキにならずに好印象です。これで踏み始めからガツンと効くようですと、本当にMモデルと一緒なので、そこは一線を画しているかもしれません。
普通に流した時の穏やかさと比べると山道でのスポーツモードでの全開走行は豹変する感じで
「アルピナの皮を被ったM」
といった感じの2面性がありますね。自分1人で走る時と同乗者がいる時で使い分けもありかもしれません。スポーツモードにしなくても加速は非常に強力で気持ち良いすし、アフターファイア音も出ないので平穏ですし、ステアリングも普通の重さで楽です(爆)。最近はインディビジュアルモードで色々個別設定が出来るので、自分の好みのパターンに出来ますが、個人的にはアフターファイア音無しの「ジェントルスポーツモード」があったらいいな、と思いました(苦笑)。

オプションの20インチ鍛造ホイールは4本で15Kg近くの軽量化になり、走行中も乗り心地など問題なくかなり魅力的でしたが、帰り際の駐車場の段差に乗り上げるときにかなり衝撃を感じたので、段差やキャッツアイなどは要注意だと思いました。普段使いを考えると19インチの方が無難かもしれないです。
とても楽しい車だと思いましたが、現行のアルピナオーナーとMやメルセデスAMGのオーナーで微妙に評価が分かれるかもしれませんね。今までのアルピナテイストからすると、太いステアリングホイールやスポーツモードでの過剰演出とも思われるエンジン音、アクセルオフ時のショックや重いステアリングフィールなどは不必要な感じもします。他の車種のオーナーさんからはこれらのスポーティーな演出の部分は逆に歓迎かもしれません。
しかし、標準BMWのM340iがほぼ1000万円である事を考えると新型アルピナB3は差額を考えても十分楽しく魅力的な車だと思いますし、両車を比べたら迷わずB3を選択してしまうでしょう。ディーゼル好きから見てもとても楽しいガソリン直6スポーツセダンである事は間違いなく、これ以上にスポーティかつ上品な車は純EV以外は今後出て来ないかもしれません。
あとは、これから出て来るD3SがB3より150Kg近く重くてもどれだけ楽しいか、という点が最大の興味だったりします(爆)。これも試乗してみないと分かりませんが、B3ほど刺激的な演出はしてこないと思うので、従来のアルピナオーナーにはこちらが合うかもしれません。もしD3Sもスポーツモードでこんな過剰演出でしたら、B3の方を買う気になる気がします。
ウェブや雑誌などで試乗記もちらほら見かけるようになりましたが、絶賛に近い評価が多く、ニコルにも問い合わせや受注が増えているそうです。2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー 10ベストカーにも選ばれたのでもっと評価が上がるかもしれません。アルピナは生産台数が限られているので、ちょっと(数台)受注が増えても納車が数ヶ月延びる事はざらですので、興味のある方は早めに試乗や問い合わせをされた方が良いかもしれません。
ところで、どうして新型B3にMのS58型エンジンが搭載されているか疑問でしたが、ちょっと気が付いた事がありました。

デビュー当時のB58型エンジンは素直に3気筒分をまとめたツインスクロールのシングルターボでした。

先代のB3Biturboはこれをベースにツインターボ化していたのですが、

昨年スープラに搭載された改良型?のB58型エンジンは

なんとシリンダーヘッド内にエキゾーストマニフォールドが内蔵されており、ツインスクロールのシングルターボに合わせて近接した形の排気口になっています。
これをわざわざツインターボにするのはアルピナといえども至難の業と思われるので、素直に元々ツインターボのS58型エンジンをベースに選んだものと思われます。こういう所はBMWの開発にも協力しておりエンジンの改良スケジュールなども知悉しているアルピナのアドバンテージかもしれません。
もちろんS58型をそのまま使ってECUチューンだけでトルクを太らせている訳ではなく、タービン径などを再設計し、冷却系なども強化した別物になっています。

実際にM3のエンジンと比較してみると、低速からのトルクの立ち上がりは明らかにB3の方が上回っており、5300回転辺りまでは全域でパワーも上回っています。トルクの変曲点が違うので、ECU制御ではなくタービンそのものが違う事が分かりますね。それでも、B3でさえ2500回転前後からのパワーの盛り上がりはやや急激な感じも与えるので、本家のS58型エンジンはさらに高回転型の性格なのでは、と思われます。

F30世代のB3Biturboはここまで過激な設定ではないため、パワー、トルク共にあるもののややジェントルな感じです。実際の試乗の時もそんな印象を受けました。
というのも、さらに先代にあたるE90型のB3Biturboでは(改良後のN55ではシングルターボになりましたが)元々ツインターボだったN54型エンジンをベースにしており、マーレの鍛造ピストンにして圧縮比を10.2から9.4まで落としてブーストも1.1barまで上げたため、335i(306ps/400Nm)に比べると高回転域でかなりパワフル(370ps/500Nm)になっており、比較するとF30のB3Biturboは低回転側からのトルクもあるため全体的にはおとなしめの感じになった訳です。
そういう意味では今度のB3は先祖返りかもしれませんが、アルピナも社長が交代した事でやや若返り路線を図ってスポーティーな味付けにしているのかもしれませんね。まさか2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤーを取るとは思えませんが、こちらもちょっと楽しみですね。