TNGパトレイバー首都決戦
まず始めに、
実写化に際して不安と不満を感じていたことを押井守監督始めスタッフの方々におわびをしなければいけません。
正直、なまじ好きな作品だけに、
伝説の実写版『デビルマン』 越えもあるのではないか、と思っていました。いや、高確率で
そこまでは行かなくとも、遠からずであろうなぁ、 と思っていました。
自身の
過去の日記 を見ても、当時間違いなくそう思っておりますし、実写版ショート7本、長編1本を見終わってなお、
ちょっと信じられない という感すらあります。
実写版、面白かった。
そこにあるのは、まぎれもない『パトレイバー』の空気だったわ。
VIDEO
自分が
唯一 と言っていいほどハマった作品。小学校6年生の時に初めて観た『パトレイバーTheMovie』。それから多感な時期を一緒に過ごした作品。
「真面目にやっているものが報われる・報われなきゃいけない」をはじめとして、現在の自分の様々な思想・思考に影響を与えた作品であるのは、間違いないです。
だからこそ、怖かったのはありますね。
リメイクでメチャクチャ になるんじゃないか、っていう。『WXIII』は番外編としても、OVAのラストもしっかり『パトレイバー』らしい「明日も続く日常」でしたし。
『パトレイバー』って
”レイバーが出てくる”ってのはさして重要じゃない んですよね。ロボットものでロボットが登場しなくてOK、ってのは、まぁ『パト』知らないに人は何を言っているか解らないとは思いますが、そうなのです。
あのなんというか、
ダラダラとした日常の空気感と、スパイシーな非日常感のブレンド、これが『パトレイバー』 だと思います。
さて、前書きが長くなりましたが、ここから
ネタバレ含む感想 なので、まだ劇場に行ってない人はこの感想は読まずに、
”まず『パトレイバーTheMovie』『パトレイバーTheMovie2』『The NEXT GENERATIONパトレイバー』1~7話を観てから“ 観に行って下さい。
冒頭、「これは『パトレイバーTheMovie2』の
全くの続編である 」と宣言されます。ナレーションでも、BGMでも。これにはまず驚き。柘植は出てくるけど、そこらへんはもっと
曖昧な扱い なのだろうな、と思っていましたから、最初から押井監督のペースに呑まれている感があります。
そして自衛隊試作ヘリ
“グレイゴースト” による、レインボーブリッジの爆撃。セルフカバーもここまで来るともう
立派なもの で、まさに『パトレイバーTheMovie2』のベイブリッジ爆撃の完璧な実写版。
逆に考えると、
『パトレイバーTheMovie2』の完成度がどれだけ高かったか 、という事にもなりますが。
そして特車二課に持ち込まれたその爆撃シーンの解析映像を見て空気を読まずに軍事知識をまくし立てる佑馬。状況考えずに嬉々として語る
空気の読めないマニアを解説キャラに持ってくるのは便利なもの ですな。遊馬以上の使い勝手です。
まぁ全編通じて公安の高畑がなんでここまで特車二課に関わってくるのかイマイチ不明ですが、これはあれですか、
元公安の後藤隊長と関係あるのでしょうか。
『パトレイバーTheMovie2』の時は3機の戦闘ヘリ・ヘルハウンドで東京を蹂躙、そしてそれは使い捨てられ埋め立て地で爆破されていましたが、今回のグレイゴーストは
再びその姿を消した。 つまりその後ろにバックアップ・補給部隊がいる、そしてそれは
“次がある” という事になります。
この
じわじわ盛り上げていく焦燥感、素晴らしいですね。 ちなみにここまで、前述の佑馬のグレイゴーストの解説以外、若者の活躍シーン、無し。
筧利夫扮する後藤田隊長独壇場 です。ちなみにスタッフロールでも
一番上は筧利夫さん でした。
お約束の巨大水槽の前での密談、水面ギリギリからの目線、修理されているレインボーブリッジ・・・
「ちょうどいい押井ワールド」 がそこにあります。
しかし今回一番裏切られたのは、まぁ『パトレイバー』ファン、いや押井守を知る者なら「また長尺セリフを延々と抽象的な映像と一緒に見せられるシーンが大半を・・・」と思っていたら、
アクションシーンがまた多い!
そしてそのアクションが
リアリティよりも派手さや爽快感を最優先されている 、って事にも驚き。カーシャのアクション、なかなか見応えがありました。
そしてこの辺りから
後藤田隊長と後藤隊長のキャラがラップ してきます。
意図的に
ちょっとズラしてあった両者のキャラ が、徐々に近づいていく。
「先代」の影に隠れていた「現役」が徐々に「先代」を越していく感じ。 これちょっと気持ちいいですね。
あと南雲さんの登場。
ここまでハッキリと登場してくるというのも、予想外。 誰もが「こうすればいいんじゃないか?いや、でもなぁ。」と思っていた
”キャラは実写、声は元の声優” というある意味パンドラの箱を「フェンスの向こうの記録上非実在な人間」として制約を課すことで押し通してきました。これ、
ギリギリ です。
そして
同じ手法で後藤隊長を出演させなかった 、ってのも面白い。
あくまで後藤は後藤だけど、後藤田とラップさせる事によりその存在感をより浮き彫りに、って部分を重視しているんでしょうね。
まぁしかし『パトレイバーTheMovie2』の
会議室の再現はパーフェクト。 後ろの書道の「志」って字まで完璧。もうこのシーンだけで一杯やれるくらい。
あとグレイゴーストの搭乗員、灰原零。『パトレイバーTheMovie』の
帆場英一 のごとく、一切のデータを消去して、っての。
ちなみにこの帆場、
「松井さんがデータベース化されていない役所の書類を調べていくと、この帆場英一という人間は若い頃に亡くなっていて、あの箱船から飛び降りた帆場は一体誰だったのか・・・」というこれにより犯人に完全な匿名性を持たせるというアイディア があったそうで、でもこれはさすがに物語が解りづらくなってしまうのでボツになったそうです。
それをここに持ってきました。
これコアな『パトレイバー』ファンにしか解らねぇよ!と思いつつ、
このネタを26年越しでやりやがった、押井守!スゲェ! と思いました。
ところで爆撃のニュースの民衆のシーンで、あれ
樋口真嗣 監督ですよねって人いたのですけど、これはグレイゴーストのパイロットスーツが『ローレライ』のそれっぽかったのと何か関係あるのでしょうか?
再びの会議室シーン。後藤田がつるし上げられるのだけど、後藤隊長のような激情を表すシーンが
あえて無い という対比が面白い。ここで
「だから!遅すぎたと言ってるんだッ!」ってセリフを期待した人全員に肩すかし感 を与えつつ、かといって後藤田も
切れ者だけど食えない人間である事を印象づける、状況を察して机の下にスルスルと身を隠すシーン はキャラ表現としてもギャグとしても秀逸。
あと二課棟の襲撃シーン。戦力としては皆無に等しい特車二課を襲撃したのは、これは柘植が逮捕された事への復讐なのか、もしくは灰原と明に通じる「こだわり」の部分なのか。この辺り、明と野明の違いがある。明はどっちかってぇとバド的な部分があり、野明の方が成長してプロフェッショナルになった感じがある。この辺りの成長を描くのは長編じゃないと無理か。
特車二課棟を破壊されて慟哭するシゲさん。
そこからの「テメェら、やるぞぉ!!」って流れも、『パトレイバー』のそれ だよね。しかし今回も整備斑大活躍。ブチ山先輩の暴走ッぷりはまさに若かりし頃のシゲさん。
グレイゴーストの補給シーン、これアレですな、
マンガ版の『ケルベロス』。 ちなみにその時のヘリ整備斑のトップが
ブチ山先輩 という。
そしてふと思ったのが、『パトレイバーTheMovie2』では
テロリスト側である柘植に対する感情移入というか、スタンスがそっちに近かった押井監督の心情の変化。
捕まった柘植のシンパ・グレイゴーストの首謀者が
ニヤニヤしながら高畑への受け答え をしているところ。そしてそこからの
高畑の強攻策からまさかという表情の変化。
これ、昔の押井監督なら首謀者をニヤニヤさせたままで発砲シーンはなかったんじゃないだろうか、と思う。直前に押井守のコラム『世界の半分を怒らせる』を読んだ感想も含め、
「今の世間に甘えたまま反対反対とわめいてるだけの連中に愛想を尽かせたのでは」、と思った。
手を出せないだろうと高をくくって好き勝手言ってる人間にグーで殴りつける快感、まさか押井監督作品でこれが見れるとは、思わなかった。
あ、ちなみに上記の『ケルベロス』では「投降すれば命まではとられないだろう」って整備斑が
皆殺し にされます。
そしてラストのゲートブリッジでの攻防。
2号機が先にフルボッコ というこれまたお約束ののちの
再起動スイッチが「98式と同じ、首の後ろ」ってのもまた 。これ全シリーズ通じて初めてじゃないですか?イングラムのここが開いたのって。
そしてフロントハッチ爆破。そこからのモーショントレーサーでの射撃。
いい、これはいい。歓喜のシーンといい、まさかまさかの
『パトレイバーTheMovie』からの連続のセルフカバー。
これはあれか、
『パトレイバー』にずっと付いてきてくれた人への、ご褒美 なんだな。
押井監督の数々の『パトレイバー』への愛憎表現。
ラストは
愛憎の”愛”の部分 だったってのは本当に面白い。
ふと思い出したのは、米良美一さんがどこへ行っても『もののけ姫』の歌の人って言われて苦痛だった、ってエピソード。自分が他にやってきたものを見てもらえず、それだけを見られる表現者としての苦痛。
押井守監督にも、こういう部分があったのかなぁ、と。
前述の米良美一さんの話の続き。でもそこから入ってきてくれたファンがたくさんいて、自分の歌をちゃんと理解してくれて、それを感じ、すべて飲み込んでからはその苦痛を感じなくなった、というもの。
自分が今回の映画で感じたのは、こういう部分。
すべて飲み込んで、じゃあ最後ブワ~~ッと楽しませてやろうじゃないか!といい意味で開き直ったのがこの実写版『The NEXT GENERATIONパトレイバー』だったのかな 、と。
多分生粋の押井守監督マニアには、物足りなさを感じる作品だと思う。
そして一般の人は前作を観てないと解りきらない内容だとも思う。
ただただ『パトレイバー』が好きな人への、映画だと思う。
だが、それがいい。
エンターテインメントとして、どれだけを対象とするか。
自分は『TNGパトレイバー首都決戦』は、ちょうどいい対象範囲のチョイスであったと思う。
これ以上でも以下でもない、絶妙のさじ加減。
いや、本当に面白かった。
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