
素人インプレ~86/BRZ
今回から
従来のHPからブログに記載形式を変更してお送りいたします、素人インプレッション。
車名・型式・価格帯
トヨタ86/スバルBRZ ZN6 199.0~305.0万円
ミッション・駆動方式
6MT/6AT FR
エンジン型式・馬力・トルク
FA20 200ps/7000rpm 20.9kg/6400~6600rpm
スポーツクーペ。本来ならこういうクルマは
シェアトップのメーカーではなく、2位以下のメーカーが個性を発揮し差別をはかる為にあるべきクルマ、です。ところが、実際見渡してみると
日本はもちろん、世界中どこのメーカーも2000cc級のスポーツクーペをラインナップしていない、という現状。
それは
クルマ文化そのものが危機的状況である、と思います。
この86/BRZは間違いなく、
トヨタ自動車の豊田章男社長がGOサインを出したからこそ、この世に出たクルマです。
モータースポーツへの理解も、そして運転技術そのものもあり、なおかつビジネスマンの側面ともう一つ、創業者一族であるがゆえにクルマ文化そのものを守らなければという気概もつ豊田章男社長…
その使命感が根底にある新型スポーツカー、86/BRZ。さて、どのようなクルマでしょうか。
試乗車はBRZのRA…86の実質レースベースといえる
RC(199万円)に、HIDやエアコンなどの最小限の快適装備をつけつつ
225万円という驚愕のプライスタグを掲げるグレードです。
友人が購入したこの“漢”なBRZを、踏ませて頂きました。
スタイリング
ロングノーズショートデッキというスポーツカーの、いやさ
“人間が本能的に格好良いと思うデザインライン”に忠実なスタイルです。
フロントセクションはエンジンとサスペンションを配置した上に
ふわりと布をかけたような滑らかなボンネットは歩行者衝突安全基準の為にエンジンとのクリアランスを取りつつも低く、精悍。
これ、
この法規制を見据えてボクサーエンジンをチョイスしたんだろうな、と思います。衝突時にボンネットを持ち上げるアクティブボンネットなどはやはり重量とコスト双方が増えるのですから。
基本的なフロントデザインがLFAと同じというのも面白いところ。
さて、気になるのは兄弟車である86/BRZの違いですが…今回納車オフという事で86/BRZを並べてチェック。
リアセクションはエンブレム以外は全く同じ。
違いはフロントセクション、これバンパーだけじゃなくてヘッドライト形状からしてビミョーに違うんですね。ちょっと86の方が鼻先まで切れ込んでいます。
まぁ
個人的にはBRZの顔の方が好きかなぁ。
しかしホント、いかにもFR!って感じの
リアフェンダー付近の力感がイイ感じですねぇ。テールランプもそのリアフェンダーに乗るような感じで、正直写真で見た時はどうかと思っていたクリアのテールランプも、実写を見るとなるほどと納得。
というかリアバンパーのディフューザー風の処理とか、トレンドを取り入れるのも忘れてないところが上手い。
インテリア
基本的に、ブレーキサイズ以外の86/BRZのグレード間の違いは
そのほとんどがアルミホイールなどの豪華装備か、このインテリアの質感の違い、です。
まぁ86のRCのようにエアコンも内装パネルもついていない、というのはよほどの人じゃないと選ばないとは思いますが、このBRZのRAはそのあたりはちゃんと装備されていて、
パッと乗った感じでは違和感はありません。(とはいえスピーカレスは解りますが、スピーカコードも通ってないというのはなかなかにスパルタンというか…)
では質感そのものはと言いますと、
実はこれがしっかりしています。
まずステアリング。上位グレードでは本革ですが、RC/RAではウレタン。しかしこのウレタンステアリングの手触りが非常に良く、
正直言われるまでまったくウレタンだと気がつきませんでした。
シートも上位グレードはアルカンターラ風などになりますが、いやはや、フツーのファブリックで
十分。もちろん座り心地も良く、長距離もいけそう。
ドアグリップやシフトノブなどにもアルミ風な装飾が無く、樹脂丸出しになりますが、これがまた不快感というか安っぽさは全く感じない。
むしろ上位グレードの合皮貼りの方が安っぽさを感じてしまうほど。
デザインに関してはこれもトレンドのデコレーションパネルが並ぶダッシュボード。取り外しも容易で、ここにメーターを埋め込んだり、ボディ同色に塗装したりといろいろ
自分流のカスタマイズがしやすいようになっています。取り外しがカンタンという事はその日の気分や使い方によってチョイスする事も可能、例えばデートの時などはメーター埋め込みのデコレーションパネルを外してノーマルに戻すとかも出来るわけで。
エアコン操作パネルからシフトノブ周辺のデザインもぬかりなくデザインされていて、トグル風スイッチもイイし、ここもカラーリングで楽しめそう。
メーターはセンターに大きくタコメーターが主張して、これもやはり雰囲気あります。
エンジン・ミッション
以前に6ATの試乗車には乗りました。いや、その時点でも
「よく出来てるなぁ」と思いました。が、実は世の中「よく出来ているクルマ」っていうのは結構多いものです。
スポーツカーは
その一歩先、「楽しいクルマ」かどうか、が大事なんです。
ガツンとアクセルを踏ませてもらった86/BRZは…
ものすげぇ楽しいですね!
正直
今まで乗ったクーペの中で一番楽しいかも。いや、“かも”じゃない、
明確に“一番楽しい”わ。
ただ、
どこがどのように、と説明するのはすごく難しい。
エンジンフィールが劇的かと言われると、そうではない。
グリップが飛び抜けているかと言われると、それも違う。
ハンドリングがものすごくシャープかと言われると、そうじゃない。
だけど、
とにかく楽しい。
発売前までは他メーカーオタクのネガティブな意見が散乱していたのが、発売し
試乗車が出回ると同時にピタリと無くなった理由が、明確に解った。
実際乗ったら、文句の付けようがない。
速いとか遅いとかそういうのじゃなく、楽しい、
この部分には嘘はつけない。そういうものだ。
いや、スペック的な話をすると、例えば自分のNCロードスターは170馬力/1100kgで86/BRZは200馬力/1190kgとなり、パワーウェイトレシオなどの数値上の性能は86/BRZが上になる。
が、実際(エキマニ交換しているとはいえ)
自分のロードスターの方が加速は速い。
そしてタイヤも、これが驚いたのだけど、16inch仕様についている標準タイヤがなんとヨコハマ
dB。いうまでもなく、コンフォートタイヤ。コーナーも早い段階からタイヤのヨレが感じられて、限界も速度も低い。
だけど
だからどうしたといわんばかりに、楽しい。
しかも、この乗り味、スバルのそれではなく、
明確にトヨタのスポーツカーの乗り味なんだよね。極めて自然で、まるで手足の延長線上であるかのような感覚、これがその正体だと思う。メカニカルな部分はスバルなのだろうけど、ホント
乗り味はNAの80スープラや最終型のMR-Sのそれに近い。最終的なセッティングにトヨタが大きく関わっていると思う。素晴らしい素体に出会い、さらにトップがGOサインを出してくれる環境であると、なるほど、こういうクルマが出来上がってくるのかと。
さてエンジンそのもののフィールはというと、上に書いた通り、VTECやロータリーのように劇的なものではないけれど、滑らかに、キレイに上まで回る心地よいフィーリング。
あと面白いのが先にロードスターのマイナーチェンジで装備されている、マツダで言うサウンドエンハンサ、トヨタ/スバルでは
サウンドクリエータと言われる、エアインテークから室内に導入されているパイプで、吸気音を聞こえるようにしている、というもの。
まぁつまりは
“踏んでる雰囲気アップ”な官能アイテム。
外は静かに、中は雰囲気を…いや実際、この考えは正しいと思います。ただでさえ
エコというエゴが幅をきかせている時代、スポーツカーはちょっとエキゾーストを奏でるだけでも悪者にされますから、現行モデルのスポーツカーメーカーとしての両社がこの装備を選んだのは正解と思います。
しかしこれ、NC2以降のロードスターに装備されているんですが、正直オープンで試乗したロードスターではあんまりその存在感が解りませんでしたが…この86/BRZではもう
主張しまくり!ゴパァァアア!ってリアル『イニシャルD』の効果音状態ですよ。
まぁこれ合う人と合わない人がいるだろうな、と思います。しかしそこは両社考えてます、このサウンドエンハンサにしてもサウンドクリエータにしても、
取り外しが容易。エンジンルームのインテークパイプからの分岐を外すだけ。
ただここからがトヨタ/スバルのすごいところで、このサウンドクリエータ用に
音量調整のエアクリーナーキットみたいなのがTRDから発売されているんです。これは後発の強みですな。アフターパーツで楽しんでもらうというコンセプトにもマッチしているし、商売的にも美味しい、このあたりの
商売っけと遊び心の融合をマツダには大いに学んで欲しい。
ただ誤解無きようにしたいのは、書いた通り、中速域での加速はロードスターの方が上だけど、今回使えなかったその上のレッドゾーンギリギリのパワー感は解らない。
なにせ
クーペでパーツを換えてガンガンサーキット走って下さい!という86/BRZと、
オープンで心地よくかつ本格に走ってもOK!というNCロードスターの、クルマとしてのスタンスの差がエンジンセッティングの違いとして出ているという印象を受けるから。
ああ、ちなみに当日同伴してました友人の
FDシビックTypeRは、これはもうなんてぇか本籍地サーキットな感じで速さに関してはもう86/BRZもロードスターもまったく相手になりません。むっちゃくちゃな速さです。もちろんエンジンも“それ”用の、下のトルク犠牲にしてでも超高回転命!なユニットです。
なんてぇかアレですわ、
戦闘民族サイヤ人。
ホンダはある意味
この路線で行く所まで行って矢尽き刀折れ前のめりに手折れて欲しかったところですが、まぁ当然そんなわけにも行かず、この路線はFDシビックTypeRで打ち止めでした(当たり前だ)
足回り
ブレーキは奥でグッと効くタイプ。この辺り、初期制動からガッツリ効かせたがるマツダとは対照的。しかし元々のタイヤが前述の通り、コンフォートタイヤだから絶対的なグリップ力は低めなので、数字的な制動距離そのものは決して短くはないと思う。ただ知識的にそう思うだけで、
体感として不足を感じる部分はなく、当然不安感は全く感じない。
まぁ発売前に散々聞いた「フロントサスがストラット」っての、いやこれがまた
気持ちよく曲がるんだわ。そう、これ
ものすごく荷重移動が解りやすい脚になってる。コーナー手前でスッとアクセルを抜くか、軽くブレーキングをしてノーズを入れていく一連の動作が非常にキレイに決まる。逆に、例えばコーナー途中でハンドルを切り足したりすると、その途端に姿勢が不安定になる。
これ、
ものすごくドライバーを育てるクルマだと思う。
こういうのはマツダに一日の長があると思っていたけど、そのアドバンテージ、
一気に巻き返されたと思います。というか
元々技術力においてトヨタは特許もノウハウも世界一だから、本来の実力通りの結果、なのかもしれませんが。
ある程度攻めていくと、やっぱり最初にギブアップするのはタイヤ。dBのサイドウォールの丸さがすごくよく解る。
こんなにハッキリタイヤの動きが解るというのは、スゴいよ、実際。
あとパワステ。いままで電動パワステは油圧パワステにフィーリングではまだ追いつく事はないと思ってましたが…
追いつかれましたね。まぁまだまだ酷いフィーリングの電動パワステは多いですが、この86/BRZの電動パワステはホント、よく出来ている。駐車場の切り返しでその電動っぽさを感じたくらいで、それ以外では全く気にならない。これは良いわ。
総評
例えるならですね…
SEGAが製作して、宮本茂/任天堂チェックが入ったゲーム、とでも言いましょうか。
正直な感想を言いますと、自分が
オープンカージャンキーであるという前提で、
運転する楽しさを表すと…
オープンにしてるロードスター>86/BRZ>>>>>>>>>クローズドのロードスター
です。
しかし実際、86/BRZとロードスターは競合しないと自分は思っていました。が、
考えてみればロードスター購入者の多くは、あまり屋根を開けていないんですね。
ハッキリ言いますが、
普段から常に屋根を開けない人は、間違いなく86/BRZを買った方が幸せになれます。
少なくとも自分は、
常に屋根を開けない人には86/BRZを勧めます。屋根を開けてもらえないオープンカーは、
ただただクルマもオーナーも不幸になるだけですし。
オープンカーは
屋根を開けた時に最適化されてセッティングされています。
走りも、乗り味も、エキゾーストサウンドにしても、全て。当然、屋根を閉めた状態ではそのベストセッティングとは違うものを味わうわけで。
そしてこれも当然、クーペモデルである86/BRZは屋根を閉じたまま(クーペだから当たり前だけど)の状態でのベストなセッティングになっています。
つまり
かたや“ベストな状態”かたや“望まれざる状態”、そもそも比べるまでもないものなんですわな。ええ、
屋根もロクに開けないクセにロードスターの走りが~とか語る馬鹿が世の中かなり多いので、ここはハッキリさせておきたい。
走りの楽しさという点で、オープンにしていないロードスターでは86/BRZには到底太刀打ち出来ません。自分のように
オープンに絶対的な価値観を感じる人はロードスター一択でしょうが、そうじゃない人が86/BRZに乗ったら、そっち選びますわ、これは。
価格帯を見ても、そう。ロードスターの最廉価グレードは
233万円。86/BRZの同等装備グレードとなると248万円になりますが、アルミホイールにしてもオーディオにしても、交換するという考えだと86のRCはともかく、BRZのRAの
225万円というプライスは
衝撃です。ってかそこらの
ナンタラカスタムとかいう軽四にいろいろ付けたのとあんまり変わらない価格ですよ、これ。
ロードスターにはアルファロメオとの共同モデルという形で次期型への道がありますが、もしそれがなかったとしたら、
ロードスターは無くなっていたかもしれません。それほど、この86/BRZの出来はイイです。
自分は86/BRZの登場を
スポーツカーの復権と喜びました。
が、それはもしかすると、
諸刃の剣であったのかもしれません。
そう、
楽しさにおいてこの86/BRZを越えるクルマがカンタンに作れるとは、思わないんです。
マツダはイイです。やはりロードスターは
オープン専用ボディというアドバンテージがあり、そのノウハウもある。さらには
アルファロメオとの共同でいろんなアプローチが出来る。
しかし
ホンダや日産がクローズドとしての86/BRZやオープンとしてのNCロードスターを越える楽しさを持つクルマを発売出来るかと言われると…かなり難しいのではないかと。
速いクルマなら作れるとは思います。が、
“それ以上に面白いクルマを”となると…当然後発ですから、そのハードルを越さなければとすると…
よほど、よほどの覚悟がないと、開発そのものにゴーサインが出ないんじゃないかと。それこそ、豊田章男社長ほどの信念を持ったトップがいないと…ってどんだけ高いハードルなんでしょうか、それ。
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