スーパーママチャリグランプリ ～劇場版～（その3）

たかがママチャリと言いながらも、俺は軽く興奮していた。タイムキーパーにスタートからの経過時間を確認し、ヘルメットを被ってインカムを付ける。そして早朝の山麓の寒さに耐えるよう、普段着の上に着込んでいたスキーウェアとジャケットを脱ぎ、ストレッチを始めた。その間も、目の前を通り過ぎるママチャリの渦は切れ目を見せようとしない。
塊になって走ると、互いの走行ラインが少しぶれただけですぐに接触事故を呼び込んでしまう。最悪の場合は接触後に転倒し、数多のアスリート達に踏みつけられてしまう。このシーンを思い浮かべた時、俺の興奮度は増した。

右耳に仕込んだインカムに、第1走者の声が響く。
「コカコーラ・コーナー入ります！」


その連絡を受け、回りがざわめく。
「本気チームと変わらない！」
そう。初めは半周という弱気な発言をしていた彼が、いきなりの快走を見せたのだ。彼の走りはメンバー全員を刺激し、満面の笑顔を誘引した。

いつまでも途切れない巨大な蛇と化した自転車のうねりを見ながら、ストレッチは続く。寒さで固くなっている身体は一向に暖まる気配を見せないが、インカムから第1走者の喘ぐ声が届いた。
「もうじき、ヘアピンです」


コカコーラ・コーナーの時とは、明らかに違う。身体が酸素を欲しがるリズムに逆らい、振り絞る声で自分の場所を伝えてきた。
最高のタイミングと高揚の中で、バトンを渡せるように。


＜つづく＞