
本年最後のこってりブログです (^ ^;
冒頭の画像、お好きな方にはお馴染みの光景ですよね。
世界選手権を争うレースとしては、最後の開催年となった'73タルガフローリオ。
この年にデビューしたカレラRSR勢の活躍によって、ポルシェの独り勝ちとなったレースでもありました。
で、この画像。
なんとなく...違和感を覚えた方は相当なナロー通、もしくは空冷症 (ビョーキね) と認定します (苦笑
え、なんのことだかサッパリ !?
そっか~、ではこちらのアングルなら...
画像はワークスチームの三番手として出走した、シュテケーニッヒ/プッチ組の107号車。
チームメイトの車両と比べるとイマイチ地味で、今まで気がつきませんでしたが...
リアのオーバーフェンダー、なんか可笑しくないですか ? (*´艸)ププッ
見慣れたRSRフェンダーより若干低い位置から、水平にブニって突き出てる感じ。
ふつうのRSRは、もう少しなだらかな角度で張り出してますよね ?
このレースで優勝したワークス一番手の
8号車と比較すると、お解り頂けるかと思います。
で、もう一点、'73年式RSRとしてはおかしな特徴が...
ウインカー周りとホーングリル、黒じゃなくてメッキですね。
さらに下の画像をご覧いただくと、助手席側ドア後方に楕円形の黒い影 !? (p_-)
そう、この個体は右リアフェンダー上にオイルリッドを持つ、'72年式の911なのです。
'73年シーズンに向けて進められていたカレラRSプロジェクト。
開発の初期段階では、'72年のレースやラリーの実走個体 (2.5リッターのS/T) をワークスが途中で引き揚げ、車体番号を打ち直して使っていたそうです。
'73カレラRSの車体番号は911 360 0011から始まっていますが、欠番となっている0001~0010はこうした開発車両に割り振られていたと考えられています。
当時の広報写真等から実際にその姿が確認されているのは、0001と0002の二台だけ。
タルガフローリオを走ったのは、このうちの一台 (たぶん0002 "RS2") ではないかと言われています。
これら初期のプロトタイプは、走行試験やカレラRS2.7のグループ4へのホモロゲーション申請といった役割を終えた後、'72年の終わり頃には社内のスポーツ広報部門へと配置換えされ、以降はレースの練習走行用にワークスドライバー達に貸し出されました。
このクルマも、もともとは練習走行車として'73年のシチリア島に送り込まれました。
ところが練習開始直後、ジュリオ・プッチがレース本番で使用するはずだった本来の107号車 (911 360 0974 "R8") をクラッシュ大破させたため、急遽代役に抜擢。
エンジンとフューエルタンク、フロントフードを107号車 (R8) から移植して本選に臨み、結果見事6位入賞...ということだったようです。
下の画像はフロントフード移植前のもの (マルティーニ・ストライプの形状に注目)。
ゼッケンの横に、T-car (トライアルカー) の名残を示す “T” の文字が確認できますね。
いろいろ資料蒐集していたら、シュテケーニッヒの絡みで下の画像を拾いました。
ツェルトベク1,000kmに、シュトレーレ・アウトシュポルトから出走した911“S”。
ドライバーはギュンター・シュテケーニッヒ/ビョルン・ワルデガルド。
特徴的なリアオーバーフェンダーやマッドガードの形状から、この車両こそがプロトタイプRS2の母体となった、'72年式S/T (911 230 0841) ではないかと思われます。
オーバーフェンダー以外にも、センターオイルクーラーを備えたフロントエアダム。
そして下の画像、アルミ板切り出しのダックテール !? (@_@;
レースが行われたのが “1972年” の6月であることを考えると、これは驚きです。
ポルシェ本体と繋がりの深いシュトレーレ、ポルシェの技術者でもあるシュテケーニッヒとワークスドライバーのワルデガルド...
この個体が、ヴァイザッハの息がかかったモノであることは間違いないでしょう。
'72年の段階で、カレラRS-RSRのアイコンでもあるこれらの技術がすでに実戦投入されていたんですね。
かなり興味深いヒストリーを持つRS2ですが、その後の消息は現在のところ不明です。
ポルシェの歩みを研究する上で重要なマスターピースであるこうしたプロトタイプも、一度歴史の闇に埋もれてしまうと、その詳細はようとして知れません。
しかし近年、好事家達の手により発掘され、再び脚光を浴びるケースも出てきています。
下の画像は今年、フランスのディジョンで開催されたヒストリックカー耐久レースの模様。
車体番号 “911 360 0001”...
そう、'72S/Tを母体として製作されたもう一台のプロトタイプ、RS1が復活したのです。
RS1のヒストリーは比較的しっかりと残されています。
'72年に911S/T2.5 (911 230 0769) として製作され、ワークスのラリードライバーであるソビエスラフ・ザサダの許へ。
7月のポーランド・ラリーでクラッシュした後、ワークスが回収しリペア。
エンジンはボアアップで2.8リッターRSR試作バージョンに、車体番号は911 360 0001に打ち直されました。
以降はRSL (カレラRSライトバージョン) のプロトタイプとして、ホモロゲーション申請等に使用されたようです。
'74年にイギリスのプライベーターに放出された後は、カレラRS2.7のスペックで主に英国内のラリー等に出場。
'90年代にもともとのS/T2.5スペックで一度レストアされたのですが、今世紀に入ってから、アメリカ人の前オーナーの許で、タルガフローリオ仕様のRSR2.8プロトタイプとして再レストアを受けました。
レストアの過程で、心臓部はエンジンルーム内にオイル投入口を持つ911/72型に換装。
それに伴い、右リアフェンダーにあったオイルリッドは塞がれたようです。
オーバーフェンダーも通常のRSRの形状で再現されています。
RS1は、2013年にモナコの現オーナーの許へ。
2014年の今年、フランスで開催された4月のツール・オート・ラリー、6月のディジョン・ヒストリック1,000km、7月のル・マン・クラシックに、ジェラール・ラルース、ガイス・ファン・レネップ、ユルゲン・バルトといった往年のマルティーニ・レーシング=ポルシェ・ワークスのレジェンド達のハンドリングで出走しました。
最後はル・マン・クラシック2014での一コマ。
ジェラール・ラルース御大と、ガイス・ファン・レネップ御大の貴重なツーショット。
御二方とも七十を超えてまだまだ現役バリバリ、お盛んなご様子ですネ (^_^;
