前回の続きです・・・。
さて、セミトレの基本的な動きについては、
この特集記事が、これまで読んだ書物の中では一番分かりやすくセミトレの動きを解説していると思います(本当に今回の企画、もろずみ先生に助けられておりますね・・・)ので、この記事を中心に・・・
これらの書籍も参照させて頂き、自分なりの解説を行いたいと思います。
なお本文中の引用は、上記5冊から大半行わせて頂きました。フェアユースである旨を明確化するため、後日インデックスを付ける予定です(追記;10/19 インデックスを付記しました)。
またこれらの書籍の選定にあたっては、
http://type-z10.com/report/catid_86-itemid_650.html
が大いに参考となりましたので、この場をお借りしてお礼申し上げます。
さて、セミトレの基本的セッティングは、
① 上から俯瞰して;アーム後退角によるセッティング
② 前後方向から見て;アーム下反角* によるセッティング
* 基本的に、アームの上反角(バンザイアーム)のセッティングは X のようです(後述)。
③ 横方向から見て;アームピボットと車軸との位置関係
(多くが「前下がり」の姿勢をとるが、これがテールスクォートの原因となる)
の3方向から分析する必要があります。
前述の記事はそのあたりを非常にうまくまとめているため、基本的にコピペしつつ、補足的に解説させて頂きます。
①上から俯瞰して;アーム後退角によるセッティング
後退角の深いセミトレは、深くロールしても外側輪が対地キャンバーを立てる(=ふんばる)ように動かすことができるのですが、一方でセミトレの「癖」である、バンプ/リバウンド時のキャンバー/トー変化も強くでてしまい、操安性に悪影響を及ぼしやすいという問題があります。
それを避けるため、特にスポーティーカーでは後退角が浅くなる(=フルトレに近くなる)方向に進みましたが、そうすればキャンバー/トー変化は少なくなる反面、セミトレの長所たる、ロール時に対地キャンバーを立てる動きもまた減少し、深いロールでは外側輪がポジティブキャンバー気味になりやすくなります。
そのため基本的に、後退角の少ないタイプのセミトレは、あまりロールを許さず(=固い足。スポーティーカー向け)、またイニシャル状態でネガティブキャンバーをやや強めに付けておくとかの工夫が必要になるかと思います(Z31 などはそういうセッティングですね)。
② 前後方向から見て;アーム下反角によるセッティング
アーム下反角は、ロール時の外側後輪をトーイン方向にもっていくためであることが説明されています。
また、ネット検索で見つけたのですが、
http://blogs.yahoo.co.jp/fdkuro/31411370.html
では、別の視点からアームに上反角が付くことのまずさを解説しておられます。
アームの上反角(バンザイアーム)は、ただでさえ操安性でシビアな面をもつセミトレにとって「百害あって・・・」であること、「車高を弄るなら、ロールセンターの再調整は必須!」 ということがご理解頂けるかと思います。
③ 横方向から見て;アームピボットと車軸との関係
とくに後退角の深いタイプのセミトレでは、リバウンド時のポジティブキャンバー/トーアウト傾向を抑えるため、多くが「前下がり」の形態をとっています。
すごく簡単に言うと、擬似的にイニシャルの状態でリヤサスが「少し縮んだ」ような状態にしている訳ですが・・・・

(巻末参考文献 4) より)
これがテールスクォートの原因となる訳です。
じゃあ・・・
写真は海外サイトから拝借した、 E21 型BMW 初代3 シリーズのセミトレ。
こんな風にアームピボット位置を高くしてやればテールスクォートは抑えられるじゃないかと誰しもが考える筈ですし、確かにテールスクォートについてはその通りでしょうが、前述のように、とくに後退角の大きいセミトレでは、リバウンド時のポジティブキャンバー/トーアウト傾向がでやすくなるでしょうし、ピボット位置の上昇によってロールセンターも高くなり、ジャッキング現象もおこしやすくなるなど、挙動がシビアになりやすいという問題もあるようです。

(巻末参考文献 2) より)
また、サスメンバーがリヤシート下に位置するセミトレは、アームピボット部位を高くすることでスペース上の問題もでてくるそうです。

(巻末参考文献 3) より)
なおロールセンターの話は、これまた走り屋さんにとっての一大テーマでして、素人のわたしごとき
があまり口をさしはさみたくないので、
http://www5.plala.or.jp/Fulcrum/eng/collections/rena/re21.htm
などのサイトをご参照下さいませ。
この動画の最後に、あのニキ・ラウダ帝王が E21 型BMW を駆る CM がありますが、E21のコーナーリングフォーム、たとえラウダ帝王の神ドライビングをもってしても、何となく腰高で安定感に欠けるように思うのは自分だけでしょうか・・・
ともあれ、日産車のような深めの後退角、低めのアームピボット位置のセミトレでは、どう調整してもテールスクォートの問題は解決困難なように思います・・・。
・・・・ここいらで、セミトレの長所・短所を整理してまとめたいと思います。
セミトレの長所としては;
① シンプルな構成(メンバー、左右アーム、ショック&スプリング、の3点が基本。ブッシュ類の数もマルチリンクなどよりずっと少なく、低コスト&メンテも楽)
② メンバー/アームを、リヤシート下部~背部に配置するレイアウトによりスペース効率がよい。
今でこそ安全対策、およびガソリンタンクを樹脂で自由に成形できるようになったので、ガソリンタンクをリヤシート下に配置する車種が多いと思いますが、かつてのセダン型乗用車はガソリンタンクをリヤシート背面(もっと古くはトランクルーム床下)に設置する車が多く、リヤシート下の空間にメンバー/サスアームをすべりこませるレイアウトが可能なセミトレは、IRSの中では比較的スペース効率のよい形式だったと考えられます。

(巻末参考文献 4) より)
③ 突起乗り越し時、アームの後方引っ張り力により衝撃が緩和され、またリンクなどでサスの動きが制限されにくいのでサスストロークが長く、従って乗り心地をよくしやすい。
④ コーナーリング(ロール)時に、外側輪が対地キャンバーを立てる(ふんばる)ように動き、しかもそのセッティング幅がある。
これがフル・トレーリングアーム(フルトレ)だと、基本的には車体のロールに従って外側後輪はポジティブキャンバー方向に巻き込み、外側後輪のグリップ力は低下します。
ちなみに、この挙動が昔のFF車の強いアンダーステアを減弱する方向に作用したので、昔のFF車ではリヤにフルトレを用いることが多かったという訳です。

(巻末参考文献 3) より)
⑤ ブレーキ力はトレーリングアームを介して車体を下に引き下ろす方向に作用し、ノーズダイブが緩和される。
といったところでしょう。
そして逆に、セミトレの欠点は;
① 既に述べたように、荷重や重心移動によるキャンバー/トー変化が大きい(とくにアーム後退角が大きい場合)。それを避けるべくアーム後退角を小さくすれば、フルトレに近いサス運動となり、上記メリットの④が生かしづらい。
② 発進・加速時のテールスクォート現象(前述)。
③ ボディとの剛的結合点が少ない;NVH対策に不利。
この指摘は、両角氏の解説を読んで初めて気が付きました。
写真はF31 のセミトレ。
剛的な結合点は、左右のサスメンバーブッシュ(マウントインシュレーター)、およびコイル/ダンパー上部のアッパーマウント部の計4点のみ(+副結合部位としてのデフマウント部)です。
しかも、後述するトーコントロール機能をメンバーブッシュにもたせようとすると、ここをあまり強く剛結する訳にはいかず、これらのブッシュ類には相当の応力がかかるため、セミトレをOHする際にはこのあたりのブッシュをきっちり変えなければ初期性能を維持できない・・・ということは皆様ご承知のことと思います。
(巻末参考文献 2) より)

(巻末参考文献 5) より)
また後述するコンプライアンスステア対策のためには特に、デフマウントの横方向への剛性を高めてやる事が重要なようですが、デフマウントをあまり固めるとデフ系の NVH が後部座席などに伝わりやすくなり快適性が損なわれる・・・・という問題も発生します。
(ということで、セミトレ車にお乗りの方はデフマウントゴムの状態にも気を配らなければなりませんし、ここをやみくもに強化することについても慎重さが要求されると思います)
ところで比較のため、同じMF誌の特集号に掲載されていた20系ソアラ/70系スープラのサブフレーム(ボディとは6点でマウント)を見て頂きたいのですが・・・、リヤサスのマウンティングに、これだけの差があります。
まあ両角氏は「かなりの重量をもつサブフレーム+サスペンションが、ラバーマウントを介して、ボディから吊り下げられている。したがって、きつい入力を受けると、このマウントから下の重量物が共振してしまい、かえって不快な感覚を伝えることもある・・・」と、決して手放しで賛辞を送っている訳ではありませんが、ともかく素人目にも、ソアラ/スープラの方が圧倒的に「おカネのかかった」つくりである事がお分かり頂けるかと思います(アレッ? またトヨタを誉めちゃったよ・・・)。
④ そしてセミトレ最大の欠点(セミトレが淘汰された理由)といえるのが、

(巻末参考文献 5) より)
「コンプライアンスステア」による、アクセルオフ・トーアウト現象(→ オーバーステアによる易スピン性)だと思います。

(巻末参考文献 2) より)
セミトレは、横力、後方引っ張り力(=制動力)のいずれに対してもトーアウト傾向に作用するサスペンション形式です。
(下手くそな絵で恐縮ですが・・・)ただしアクセルオンの状態では、前述のロール・トーイン・ジオメトリーや、駆動力によるサスメンバーへの前方押し出し力などによって、基本的に外側後輪はトーイン方向にサス/メンバーとも動こうとするため、上記の横力トーアウト傾向はそれほど目立たなくなるものと思います。
しかしハイスピード・コーナーリング中に急にアクセルオフ(=エンブレ)/ブレーキングした場合・・・
外側後輪には横力・後方引っ張り力の双方が作用するため・・・
分かりやすくするためオーバーに書いていますが、こんなふうにタイヤ~リヤサスがトーアウト方向に回転するような力が強く働くのです。
ハイスピード・コーナーリング中のアクセルオフやブレーキングにより、リヤ外側輪がトーアウトしたら・・・容易にオーバーステア~スピンモードになります。
運転の上手な人ならともかく、普通の人にはけっこう恐ろしい現象です・・・
こういう挙動は、車がハイパワー&高速に、また車重が重くなるほどに(=慣性力が大きくなるほどに)重症化する訳で、1980年代に(ハイグリップタイヤの助けも得て)一気に高性能・高速・重量化した各車の性能に対し、各社のセミトレも、
・アーム後退角の減少
・アーム/メンバー等の剛性強化、ピボット部のスパン延長
・メンバーブッシュ機能の見直し(後述)
・トーコントロール機構の追加(BMW/FC3S/140系クラウン等)
などの改良・進化で対抗しようとしたものの根本的解決とはならず、MB190 を嚆矢としたマルチリンクサスの流れに、日産・マツダを含め各社が一気に追従していき、いつしかセミトレサスは過去のものとなりました・・・。
・・・と、ここまでが長い前ふりです(笑)。
次回は、本題のメインテーマである・・・
アームピボットやメンバーブッシュについて、自分なりの解釈を行いたいと思います。
ではでは。
* 9/27 一部加筆・修正を行いました。