
最近、いろいろなディーラーで「一日試乗」のキャンペーンを実施するところが増えてきました。ユーザーとしては、気になるクルマをじっくり体験できる良い機会だと思います。そして今回、私はこのキャンペーンを利用して、フォルクスワーゲンのニューパサートに試乗をしてまいりました。
試乗車を借り出したのは、いつもポロでお世話になっているのとは別のディーラーです。いつものディーラーでは一日試乗用の車両を用意していないらしく、ネットで予約した際にそのお店を選択することができませんでした。
当日、用意されていたのはタングステンシルバーメタリックのパサートヴァリアントTSIコンフォートラインです。グレードとしてはパサートのラインナップ中、ちょうど真ん中に当たるモデルで、価格は378万9900円。
今回の新型パサートのトピックとしては、充実した運転支援機能と安全装備でしょう。運転支援機能ではレーンキープアシストシステムやレーンチェンジアシストシステム、アダプティブクルーズコントロール、渋滞時追従支援システム、エレクトロニックパーキングブレーキなど、また、安全装備ではプリクラッシュブレーキシステムやカーテンエアバッグ、ニーエアバッグといった装備が、最もベーシックなトレンドラインも含めて全モデルに標準装備されています。
お店で簡単なアンケートと必要書類にサインを済ませると、店の前に用意された試乗車へ。装備類の使い方などをざっとレクチャーしていただいて、早速試乗開始です。
営業マンに見送られながら店の駐車場から表の通りに出ようとしたとき、ちょっとした違和感を覚えました。それは、アクセルを踏んだ時の反応がかなり遅れるような感じがしたのです。往来するクルマの切れるタイミングを見計らって、いざ発進と思いアクセルをそっと踏み込んでみても、パサートはかったるそうにもぞもぞするだけで、すっと動き出しません。踏み込みが足りなかったかと思い追加でペダルを踏むと、今度は急にグッと加速してしまいました。DSGのセッティングなのか、電子制御スロットルの問題なのか、はたまたTSIエンジンの特性なのか、原因は分かりません。しかしこの緩慢なアクセルレスポンスに対する違和感は試乗中ずっとつきまといました。発進時は、まずアクセルペダルを少し開けて、その状態のままクルマが少し動き出すのを待ちます。そしてクルマが動き始めてから、さらにアクセルを踏み込み必要とする加速力を得る、そんな操作を心掛けていかないとギクシャクしがちなのは否めませんでした。まあ、動き始める待ち時間といってもほんのわずかなタイミングなのですが、やはり気になったのは事実です。
その一方で、走り始めてしまえば、大柄なボディに1.4リットルという排気量からは想像もつかないほど良く走ります。街中ではもはや「速い」という表現を使っても差し支えないほどの瞬発力を見せてくれます。また、丹沢湖周辺のタイトなワインディングでそこそこのペースで走らせたりもしてみましたが、コーナー立ち上がりの加速力も鋭く、トルクフルな走りを実感することができました。
ただ、高速道路では追い越しや合流などでもう少し余裕があればなという場面もありました。我が家のポロもそうなのですが、低中速回転ではトルクフルで良く走るのですが、アクセルベタ踏みで高回転まで回すと、もう一つパンチに欠けるという特性があるようです。このあたり、従来のNAガソリンエンジンよりも、むしろターボディーゼルエンジンのフィーリングに近いように思いました。低回転域でなまじ力があるだけに、高回転での伸びのなさが際立って感じられてしまう部分もあるのでしょう。
とはいえ、実用車という観点からしたら、十分過ぎるほどのパフォーマンスを持っていることは間違いありません。
乗り心地もフォルクスワーゲンらしいフラットさが感じられ、非常に快適です。試乗車は標準の17インチホイールを履いていましたが、固さは全くなく、路面のざらつきをよく吸収してくれる印象。カドのある入力に対しても当たりがとても柔らかく、ふんわりとした乗り心地を実現しています。
ハンドリングについては、こちらも典型的なフォルクスワーゲン流。基本的には安定志向のセッティングで、どんな状況でも安心してステアリングを握っていられます。
しかもそれでいて、ワインディングなどでもよく曲がります。ややオーバーペースぎみでコーナーに入ってしまった時や、奥でさらに曲がり込んでいるような場面でも、軽くステアリングを切り足してやれば、何事もなかったかのようにクリアしていきます。そうした場面でだらしなくアンダーステアを出したり、ESPに頼ったりするようなこともないので、新型パサートで採用された新シャシー「MQB」のポテンシャルは相当に高いように感じられました。
しかし、ほんの少しだけ注文をつけるとしたら、ステアリングインフォメーションがもう少しはっきりしていれば完璧でした。ステアリングに通じる路面からのフィードバックは、我が家のポロのほうがダイレクトで、より路面状況を把握しやすいように感じられました。ポロのほうがステアリングとタイヤが直結したイメージだとすると、パサートはその間に硬質ゴムを一枚噛ませたような印象。想像ですがこれは、アシスト機能など「余計な」機構がついた電動パワステの影響もあるのかもしれません。
そして新型パサートの目玉装備ともいえるのが、前述した充実の運転支援機能です。中でも特に便利だと感じたのが、前走車の速度に合わせて自動的に速度を調整して追従してくれる「アダプティブクルーズコントロール」と、走行車線を認識して車線を逸脱しないようにステアリングを自動で操作してくれる「レーンキーピングアシスト」です。これらの機能を駆使すると、半自動運転ともいえるレベルまで実現しています。特筆すべきはこれらの機能が100km/hから完全停止まで、幅広い速度域で使用することができるという点です。特にフォルクスワーゲンではこれを世界初の「渋滞時追従支援システム」としてアピールしています。
確かに、高速道路や渋滞した場所などではかなりのメリットを感じられます。試しに渋滞した市街地でこの機能をセットして、ペダルから足を離してハンドルから手を放しても、あたかも誰かが運転しているかのように速度調整・ハンドル操作を機械が肩代わりしてスルスルと走り続けます。
もちろん、こんな使い方は間違っています。これはあくまでも運転の支援のための機能であって、クルマがドライバーに代わって運転を肩代わりしてくれるものではありません。
また、この機能があることによって運転者に油断が生まれるのではないだろうかという不安もあります。自動で止まってくれるからとよそ見をしたり、眠気を感じているのにハンドル操作を手伝ってくれるからと無理に運転を続けたりするような人が出てくるのではないかと思います。そうなってしまっては、せっかくの安全機能の意味も台無しです。
こうした機能があったとしても、運転者は従来のクルマを運転するのとまったく同じ責任感を持ってステアリングを握らなければなりません。

リア側のスタイルを見ると、パサートヴァリアントが極めて正統派のステーションワゴンだということが分かります。長く伸ばされたルーフとリアオーバーハングにより、実に広いラゲッジスペースを確保しています。最近はステーションワゴンでもスタイリングが優先されて斜めに傾斜したハッチゲートやショートデッキスタイルで荷室の容量・使い勝手をそれほど追及していないクルマが多くなっている中、実用性を重んじるパサートには好感がもてます。

広々としたラゲッジルーム。ホイールハウスの張り出しも少なく、床面が真四角に区画整理されているのは高ポイントです。サイド部分がホイールハウスの形状で凸凹していると、容量的には十分でも実際の使い勝手はデッドスペースが多くて、思ったほど荷物が載せられないということがあります(実はこれ、デリカの泣き所です)。やはり荷物を積むステーションワゴンはこうでなくてはいけません。

コンフォートラインではオプションとなるカーナビ。スマホのようにピンチ・フリックで操作するタイプですが、動きが少々カクカクしていて反応が鈍く、あまり使いやすいとは思いませんでした。画面は解像度も高く、きれいでしたが。

薄型のヘッドライトレンズと相まって、非常に精悍なルックスとなるLEDヘッドライト。コンフォートライン、ハイラインにOP設定されるLEDライトは、ぜひ装着したいオプションです。なお、Rラインは標準。

パサートには低燃費対策として、アイドリングストップ機能と低負荷時に2シリンダーを休止させる機能が付いています。いずれも作動は自然で、特に違和感を覚えるようなことは全くありませんでした。
なお、今回の試乗は、渋滞の一般道3割、丹沢湖周辺のワインディングを含めた郊外の一般道3割、高速道路4割といったところ。その中での燃費は14.4㎞/lでした。特に低燃費走行を心掛けたわけでもないのに、これだけの数字を出したのはたいしたものだと思います。もっと丁寧に走れば、15~16km/lぐらいはいくのではないでしょうか。

ドアミラーには後続車両を検知して車線変更を安全に行えるかどうかをドライバーに伝える「レーンチェンジアシストシステム」がついています。
ただ、このシステムは安全マージンを多めに取っているようで、かなり後方にいる車両まで検知してしまいます。
今回の試乗中も、車線変更しようと思いドアミラーに目をやると、かなり後方に後続のクルマがミラーに写っています。しかし同時に、ドアミラーに内蔵されたオレンジのインジケーターランプも点灯しています。ミラー死角にクルマがいるのかと思って後方を振り返って目視確認しても、そこには後続車はいません。どうやら、ミラーに写っているかなり後方にいる車両をセンシングしているようでした。ちなみにこの時、後続車との速度差も少なく、車線変更は十分にできるぐらいの距離がありました。
確かに、安全を考えれば遠くから注意喚起することも大切になるかもしれません。しかしこれが継続されると「狼少年」状態になってしまうのではないでしょうか。インジケーターが点いているのを見ても「どうせ遠くにいるクルマのことだろう」と思って車線変更を強行したら、実はミラーの死角に入っている車両があった、ということがあり得るかもしれません。
(総評)
エクステリア、インテリアともに高質感に包まれ、また乗ってみてもフォルクスワーゲンらしい安心感がある心地よくしっかりとした乗り味。ステーションワゴンとしての使い勝手をまじめに追及した使いやすさ。それに加えて、最新ハイテク技術満載の運転支援システム、安全装備数々。これらが400万円以下で手に入るというのは、相当なバーゲンプライスと言えるのではないでしょうか。
ブログ一覧 |
試乗 | クルマ
Posted at
2016/02/25 15:17:14