偶然も重なって、図らずもスクープしてしまった「パイロットスポーツ5」ですが、1月28日に日本ミシュランからも正式発表がありましたね。 なんでも、今回の「パイロットスポーツ5」から日本市場向けは全サイズ、欧州生産からアジア生産の製品に切り替えるとか。 つまり、先日のブログで取り上げた「ST」が、日本国内でも「パイロットスポーツ5」の正規品になっていくということですね。 ただ、前モデルの「パイロットスポーツ4 ST」は、構造やコンパウンドをアジア専用品にしてグローバル版と差別化(コストダウン)していましたが、今回の「パイロットスポーツ5」はグローバルで共通化を図るようなので、もしかすると「ST」という製造コード自体がなくなるかも… いずれにしても、元々「パイロットスポーツ 4/5」は大量生産が可能な「通常製法」で製造されているので製造拠点の移管は難しくありません。 一方、「パイロットスポーツ 4S」や「パイロットスポーツ カップ」などに使われている「C3M」製法は特殊なため、その後継モデルも含めて、製造拠点は引き続き欧米内に留めて生産を継続していくものと思われます。 ■ 「C3M」製法のナゾ 1980年代に確立された(実質的な実用化は89~90年ごろ)、ミシュランの「C3M」製法は業界内で「Secret Technology」と呼ばれるほど謎の多いタイヤの製造方法です。 他社も追随しようとしたものの、なかなか実用化には至らず、ようやくピレリが「MIRS」という類似の製法を実用化できたのが1999年でした。 この時点ですでに「C3M」に遅れること10数年、その「MIRS」もいまだ「C3M」には追い付いていないと言われています。(※) ※ 米Tirerackのサイトに「C3M」と「MIRS」の解説が載っていますが、「C3M」製法の説明では「still a secret (未だに謎)」というフレーズを連発しています。もうここまでくるとほとんどネタ扱いですねw 日本のタイヤメーカーも、明らかになっているところでは、ブリヂストンやトーヨータイヤが「C3M」を研究して類似製法の確立を目指しました。 例えば、ブリヂストンが2002年に実用化した「BIRD」という製法もその一つで、途中に「C3M」に似た工程を導入して、現在も「ポテンザ」や「レグノ」のプレミアムグレード上位銘柄の製造に使われています。 ちなみに「BIRD」はその後、最新のICT/AI技術と組み合わされて2016年に「EXAMATION」へと発展し、こちらはボリュームゾーンであるセカンドグレード(プレミアム下位銘柄)の製造に使用しているそうです。 ■ 「通常製法」と「C3M」製法の違い 通常のタイヤ製造工程では、まず、ゴムやワイヤー/コード類を構造材としてカーカス、トレッド/サイドウォール、ビードといったパーツごとの中間部材を作ります。次にそれらのパーツを繋ぎ合わせた「生タイヤ」を釜(プレス機)に入れて、加熱、加硫しながら金型で一体成型すると最終製品すなわち「タイヤ」の完成です。 一方、「C3M」は中間部材をほとんど作らず、回転するドラムに材料を直接グルグルと巻きつけながら、同時に加硫、成型まで完了させてしまうと言われています。(詳細はミシュランも明らかにしていません。) 下の画像は、左が「通常製法」、右が「C3M」製法の概要です。 ![]() ![]() 一見すると「C3M」製法の方が単純に見えますが、「C3M」は中間工程がなく、材料の正確な射出、供給から最後の成型まで一貫して高度な制御が要求される一方、中間部材を経由する「通常製法」は歩留まりも少なく、ライン方式で製造できるため工業製品としての生産効率は高いのです。 したがって、「C3M」製法は大量生産には向いておらず、ミシュランのフラッグシップである「パイロットシリーズ」の中でもさらに最上位レンジの「パイロットスポーツ 4S」や「パイロットスポーツ カップ」および一部の少量生産モデルにしか採用されていません。 前述の通りミシュランに追随して類似製法の開発と実用化を進めた他社においても同様の状況で、これらの製法はプレミアムグレードの中でも上位レンジ向けに留まっているのが現状です。 現在はグローバルなフットプリントとスケールメリットを生かした大量生産が求められているため、今後もこの状況は変わらないと思います。 ■ 「C3M」製法で作られたタイヤの特徴 簡単に言うと「軽くてしなやか、そして丸い」タイヤです。 「丸い」というのは「ユニフォミティが高く、滑らかに転がる」という意味で、これこそが全工程を回転させながら作るため「継ぎ目」ができない「C3M」製法の利点です。 「しなやかさ」については、もし機会があったら、店頭で実際に「パイロットスポーツ 4S」を触ったり、握り潰したりしてみると良いと思います。 他のタイヤと比べながら触ると(偏平率は高い方が分かりやすいです)、サイドウォール、特にショルダーとの境界部分が非常に薄く、しなやかなことが分かるはずです。 もともとミシュランは他のメーカーに比べるとサイドウォールが薄めに作られているのですが、「C3M」ではその特徴が顕著に出ます。 「パイロットシリーズ」で言うと、初代PSからPS2では少し厚くなりましたが、PSSでまた薄くなり、PS4Sも同じような傾向です。 ![]() 見た目で分かりやすいのはタイヤの裏側ですね。 ドラムに巻き付けながら製造するためか裏側がツルツルになっています。 これは他のタイヤにはない「C3M」製法の識別点となります。 左の画像がミシュラン「C3M」製法、右が他社の「通常製法」です。 ![]() ![]() ホイールとコンタクトするビード部分も特徴的です。 端折って言うと、ビードワイヤーが「通常製法」では到底不可能な組み込み方をされていて、とにかく柔らかく作られています。 そのため、ホイールに組むのは容易ですが、ビードを上げたときに嵌合不良を起こしやすい(上がりきらないことがある)と言われています。 柔らかい方がビードが上がりやすそうな気もしますが、実際にはビードは硬めで形状が崩れにくい方が「パンっ!」と一発で決まりやすいのです。 (機会があったらショップのメカニックさんに聞いてみてください。逆に失敗が少なくて作業効率が高いのはブリヂストンだそうです。) 嵌合不良は空気漏れの原因になりますが、そこまで酷くない場合でも高速域でシミー/ジャダリングを起こすことがあります。 実際、 僕も過去「C3M」製法のタイヤで、ビードが上がりきらなかったことが原因で振動が発生し、後日組み直したことが何回もあります。 ビードの上がり具合というのは微妙で分かりにくいためショップでも見過ごしがちなポイントです。これはしなやかすぎるゆえの欠点ですね。 もう一つの欠点は空気圧の変動にシビアなこと。 これは「C3M」製法のタイヤが構造的に薄い(特にサイドウォール)、つまりタイヤ単体で支える力が弱いことが大きく影響しています。 皆さんも定期的に空気圧は点検していると思いますが、僕の場合は2週間に1度ぐらいなのでインターバルはけっこう短めな方かと。 正確には、そう心掛けているというよりも空気圧が減るとすぐに分かるので補充せざるを得ないというか… 走行中になんとなく気になって、翌朝に冷間点検すると5kPa(0.05キロ)ぐらい減っていることが多いですね。 10kPa(0.1キロ)も減ってしまうと確実に分かります。 一方、いま乗っているG15は、純正ランフラットの「P ZERO (PZ4) RF」のままですが、空気圧が減ってもほとんど感触が変わらないので、めっきり点検回数が減ってしまいましたw (ホントはいけないことですけどね。) ■ 「ミシュラン」信者について はい。僕のことですねw もちろん僕も皆さんと同じく、いろんなタイヤを経験してきました。 (これまでのタイヤ遍歴を以前書いた記憶があるのですが、どこか分からなくなってしまいました… すみません。) 昔はずっとB党だったので、ブリヂストンを軸にいろんなメーカーのタイヤに浮気してみるという感じでしたね。 国産だけでなく憧れのピレリを履かせてみたり… ただ、ミシュランに関しては当時から「MXX3」などの評判を伝え聞いてはいたものの、学生の身分では高すぎて縁遠い存在でした。 その後、価格改定もあって少し手が届きやすくなった「初代パイロットスポーツ」を初めて履かせたとき… まさに目から鱗でしたね。 それ以来、ミシュランが評価基準になってしまいました。 もちろんその後もいろんなメーカー履いてますよ。 ブリヂストン、ヨコハマ、ダンロップ、コンチネンタル、ピレリ… でも、結局はミシュランに比べてどうか、という見方になっているので、ちょっと偏っているのは否めませんねw ![]() そもそもタイヤというパーツは、グリップや剛性感、乗り心地など人それぞれの好みや乗っているクルマの性格で評価がガラッと変わるので、どのメーカーがイチバンなどということはないと思います。 例えば、PS4Sの特徴であるしなやかな特性についても、剛性感がなくて頼りない、中立位置がダルくてレスポンスが悪い、と評する人もいますが、その評価も決して間違いではないのです。 お国柄か『自動車はタイヤに付属する一部品に過ぎない』(← 普通は逆w)とまで言い放ってしまうほど強烈な自負をもったクセの強い会社ですが、「C3M」などそう言わしめてしまうだけの技術力を持っているのも事実。 個人的にはそんなバックストーリーも嫌いではないし、今後もしばらくはミシュランを評価基準にしていくことになるのかな、と思っています。 |
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