ルノー・メガーヌ エステートGT(FF/6MT)【短評】 (2012.9.6)
【スペック】全長×全幅×全高=4565×1810×1490mm/
ホイールベース=2700mm/車重=1420kg/
駆動方式=FF/2リッター直4DOHC16バルブターボ(180ps/5500rpm、30.6kgm/2250rpm)/
価格=315万円(テスト車=同じ)
希少な“本場の味”
「ルノー・メガーヌ」シリーズのスポーティーなワゴンモデル、「エステートGT」が日本上陸。
その走りは? そして乗り心地は?
マニアックなワゴン
ボディーはステーションワゴンで、180psの2リッター直列4気筒ターボに6MTの組み合わせ、
ハンドル位置は左ハンドルのみの設定で、サスペンションはルノー・スポールがチューニング……。
「ルノー・メガーヌ エステートGT」のスペックを知った時の第一印象は、みなさんと同じだ。
「マニアックなやつ入れるなぁ」と思った。日本人の舌に合わせて味を変えたりしない、本場の味だ。
そういえばグルメ雑誌を読むと、本場の味をそのまま出すお店のポイントが高いという印象がある。たとえば「フランクフルトの屋台で食べたのと同じ味のソーセージ」とか、
「韓国の家庭の食卓に並ぶオモニの味」とか。
エンスーとグルメは、日本人の舌に合わせない本場の味が大好物だ。
で、オートマだとか右ハンドルだとか、日本人の好みに合わせることなく本場の味を貫いた
「ルノー・メガーヌ エステートGT」に乗り込む。
フロントシートに腰掛けてインテリアを見まわすと、300万円超級のモデルにしては
殺風景なことに気付く。メガーヌは実用車だからそれでまったく問題はないけれど、
ピカピカ光らせて高く見せようという色気が感じられない。
工夫らしい工夫はタコメーターの盤面を白くしたぐらいか。
けれどもよくよく見ると、手をかけることにはこだわっているのがわかる。
おとなしい速さ
ルノー・スポールが開発を手がけた運転席シートは自分の体の形にしっとりと沈みこんで、
ホールドしてくれる。エンジンを始動しようとしてクラッチペダルを踏むと、
靴底に伝わる感触がクールだ。確認すると、ペダルはアルミ製だった。
エンジンをスタートする前から、どこにお金をかけるのかを
はっきり割り切ったモデルだということがわかる。
仕切り直しでエンジンスタート。適度な踏み応えのクラッチペダルはミートポイントがわかりやすく、
アイドル回転のままクラッチをつなぐのも造作ない。そこからぐいぐいと加速する力強さは、
1200rpmという低回転域から作動するロープレッシャー(低圧)ターボの手柄だろう。
回転計の針が2000rpmを割ってもそこから文句を言わずに速度を上げる太っ腹な性格は、
「GT」という名前にふさわしい。
ちなみに、30.6kgmというこのクラスとしてはぶっとい最大トルクは2250rpmとかなり低い回転域で
発生するから、市街地を流す時には早め早めにぽんぽんぽんとシフトアップする
運転スタイルとなる。
早めにシフトアップするのは、回してもカーンと突き抜ける快音を発するわけではない
という理由もある。エンジンをブン回せばもちろん速いけれど、誤解を恐れずに言えばそれだけ。
エンジンは「ムー、ムー、ムー」とくぐもった音を発するだけだし、
低い回転域からパワーもトルクも出ているので高回転域でのドラマチックな展開がない。
おとなしいのに速い“むっつりスケベ”型エンジンで、若い読者の方はご存じないでしょうが、
90年代前半の「ルノー21ターボ」を思い出した。ほぼ同時期の「アルピーヌV6ターボ」も
こんな感じでまったり速かった。
GTの名にウソはない
乗り心地は相当にいい。タウンスピードからハイスピードまで、
しっとり路面に吸い付く感じが変わらない。
「ルノー・メガーヌ エステートGT」は、「ルノー・メガーヌGTライン」(ハッチバック)から
ホイールベースが60mm延びていて、車高も130mm高い。
それでも変わらないコーナリング特性を得るために、足まわりが固められている。
具体的には、バネのレートでフロントが10%、リアが6%ほど高くなっている。
それでいながらこの乗り心地を実現したルノー・スポールのチューニング、お見事!
そしてひとたびワインディングロードに足を踏み入れれば、シュアな足取りを見せてくれる。
適度な重さのステアリングホイールを操作してコーナーに侵入すると、
入り口では後方の長い荷室の存在を忘れてしまうぐらい素直に向きを変える。
コーナリング中のロール(横傾き)は決して少なくない。けれども前後のサスペンションが
バランスよく沈み込んで、きれいなフォームでコーナーをクリアする。
FR車のような「カキン、コキン」というダイレクト感はないけれど、
6MTのシフトゲートは東西南北どの方向の移動量も適切で、作動もスムーズだ。
しんなりした乗り味に身を任せ、この6MTでむっつりスケベなエンジンと遊んでいると、
いつまでもどこまでも運転していたくなる。
BOSEのサウンドシステムも長旅のお供にぴったりで、まさに本場の「GT(グラン・ツーリズモ)」だ。
ただし、本場の味ゆえに日本人の舌に合わない部分もある。例えば鋭い突起状の不整に弱い。
首都高速の段差を乗り越える時などは、想像よりはるかにキツい「どすん」というショックが襲う。
洗濯板状の不整路面も苦手で、どったんばったんする。
いずれも、ほかの場面での乗り心地がいいから特に目立つ。
「メガーヌ エステートGT」の販売台数は限定60台。
ボディーカラーはテスト車の「ブラン グラシエ」(白)と「グリ エクリプス」(灰)の
2色(各30台)となっている。
ここまでお読みいただいて興味をお持ちいただいた方には残念なお知らせ。
限定60台はほぼ完売で、各地のディーラーに何台かが残っているかどうかだという。
すでに激レア車決定なのだ。
5年後か10年後、『エンスーの杜』とかで深夜にこのクルマを見つけて、
かなり興奮している自分の姿が今から想像できる。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
ルノー・メガーヌ エステートGT220(FF/6MT)【短評】 (2013.6.9)
【スペック】全長×全幅×全高=4565×1810×1490mm/
ホイールベース:2700mm/車重:1420kg/
駆動方式:FF/2リッター直4DOHC 16バルブターボ(220ps/5500rpm、34.7kgm/2400rpm)/
価格:319万円/テスト車=319万円
ワルそうで、いい子
レーシングカーの開発を手がけるルノースポールがチューンした、
ルノーのワゴン「メガーヌ エステートGT220」に試乗。その走りやいかに?
いい“さじ加減”の鍛え方
高性能「メガーヌ」の代名詞といえば、3ドアの「ルノースポール」(以下R.S.)である。
2リッター4気筒ターボをFFとしては限界ともいえる265psまでチューン。
日本仕様の足まわりは最もハードな“シャシーカップ”で、変速機はもちろんマニュアル。
そんな硬派なフレンチロケットが「入ってくれば売れる」人気を誇り、
去年は約400台の販売を記録したという。「カングー」と「メガーヌR.S.」が
ルノー・ジャポンの二枚看板である。
「エステートGT220」はやたらハイカロリーな日本仕様のメガーヌシリーズに加わった
オルタナティブだ。3ドア/5ドアのメガーヌよりホイールベースを6cm延長したワゴンボディーに、
R.S.用を220psまでデチューンしたエンジンを搭載する。変速機はこちらも6段MTのみだが、
ドアの枚数や戦闘的すぎる雰囲気でR.S.までは踏み切れなかった人にとっては、
耳寄りなニューモデルかと思う。
ワゴンボディーは5ドアハッチバックよりカッコイイし、
これもR.S.と同じくらい売れるんじゃなかろうかと考えながら、ステアリングを大きくきって
ルノー・ジャポンのパーキングをスタートする。
以前、R.S.で同じことをやったら、ロック率の高いLSDの作用か、
フロントタイヤが恥ずかしいほどキュウキュウ鳴ったが、このクルマは静かである。
ダッシュボードのカーボン調化粧板に“RENAULT SPORT”のロゴが入るコクピットは
「R.S.とそんなに変わりませんよ」と出がけに説明されたが、タウンスピードで走り始めると
「R.S.ではない」ことは明らかだ。あんなにほえないし、乗り心地もフツーだ。
もっとR.S.に近いかと思ったら、違った。しかしそのさじ加減がGT220のいいところだと思う。
飛ばさなくても楽しめる
R.S.に比べると2割近いドロップとはいえ、なおリッター100psオーバーの220ps。
パワーに不満はない。しかも車重はこちらのほうが10kg軽い。
0-100km/hを7.6秒でこなすスピードワゴンである。ルノースポールの一族だから、
自分でゼロヨンやラップタイムや加速Gなどを測れる「R.S.モニター」も付いている。
荷物を積んでコーナーを攻める人もいないと思うが、空荷ならワインディングロードでも楽しい。
というか、個人的にはこれくらいのほうが好きだ。
日本仕様のR.S.の足まわりは、いわばサーキットのタイムアタック用だ。
ターゲットスピードが高くて、ズデンとし過ぎのきらいがある。265psを御するには、
取りあえずあれくらい固めないとだめなのだろう。
その点、GT220はバネ下がより軽快だ。ホイールベースや全長が延びた分、
機敏さは少し失われたが、サスペンションの動きはよりはきはきしている。
簡単にいうと、低いスピードでも楽しめるようになった。
ファミリーカーやデートカーに使うとなると、R.S.の乗り心地はそろそろぎりぎりである。
行きはよくても、帰りはコタエそうだ。村上春樹なら「やれやれ」って言うだろう。
その点でもGT220は現実路線である。18インチの専用ブラックホイールはワルそうだが、
乗り心地はいい子だ。もちろん硬めだが、イヤな硬さも突き上げもない。
タイヤが減ったときの乗り心地の落ち込みもR.S.ほど大きくはないはずだ。
「使える」のは強み
R.S.と同じシフトレバーを握り、ブラックのダッシュボードごしに前を向いて運転していると
フト忘れがちだが、GT220はステーションワゴンである。
しかも、ホイールベースをハッチバック系より6cm延ばした今どき珍しい本格ワゴンだ。
リアのオーバーハングも延長し、メガーヌの5ドアと比べると、
荷室の奥行きは平常時で9cm、後席を畳んだ最大時で13cm(いずれも実測)長い。
ワゴンだから開口部に敷居はない。
最近のハッチバック車の荷室は、「後席の背もたれだけを前に倒してハイおしまい」式が多いが、
これはもちろんクッション部も90度起こせて、奥までまっ平らな荷室がつくれる。
フロアの標高はワゴンとしてもかなり低いから、重量物の出し入れもラクにできそうだ。
貪欲に無慈悲に荷物を積むフランス人のワゴン、という感じである。
そんなリアルワゴンボディーにルノースポールのほどほどに高性能なエンジンと足まわりを
組み合わせた。GT220は大いに“あり”だと思う。
昔でいえば、「ランチア・デルタ インテグラーレ エヴォルツィオーネ」に通じる“オーラ”は
R.S.の独壇場だが、普段使いの性能はGT220が抜きんでている。
日本車だと、ワゴンボディーにもR.S.と同じエンジンと脚を与えてしまいがちだが、
あえてそうしなかった抑制感も二重丸である。
世界最速のFFという3ドアR.S.の称号にも傷がつかないというわけだ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰昌宏)
この二台を同じ方に乗ってもらい、インプレ記事を書いてもらったらより参考になりそうです。
今後もRJがメガーヌより上級クラスが導入されないとしたら、
今から3~5年後くらいにカングーの次を考える頃には一番の候補になりそうな2台です。
現時点でもエステートGTは中古車でしか手に入らないし、
その頃にはエステートGT220だって導入が続いていないだろうなぁ…
購買するであろう層のパイをを考慮すれば、
導入された事自体が奇跡と言える二台かもしれません。