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交通事故で、あるおばあちゃんが死んだ。




世の中にあるのは経済的視点のみであり、有用性、換金性、その速度、・・・　つまり金回りですべてを見ていると思う。それが今の社会の現状だ。

一般に老人は生産的労働からは除外される。誰も言わないが不要なのだ。だがその不要だという決め付けは、老人を低能だという人自身の低能をさらしている。価値基準に多様性を持てないのである。バカだから。

老人の持つ調整力や経験、総合力は若いポンスケの能力をはるかに凌ぐ。一部の老人は確かに迷惑な人だ。

だがこのおばあちゃんは、四季の移り変わりをぐっと心に焼き付ける言葉を知っていた。「ナンボのもんだ」という尺度では測れない。

そのバカでもわかるように言うと、銭カネを媒介とした「ナンボのもんやねん」という基準。その基準一本でおおぜいが生きている。人間的な社会ではない。

だからこそこのおばあちゃんは僕らの宝だった。

マンジュシャゲがもう咲いたというのに一緒に眺めることも無い。


ゼニカネを否定する気はない。むしろ、僕ぐらいかせいでみろ、といい続けてきた。ところが、バカの線路は一本しかない。

人生は多くの価値基準に囲まれた複線、複列であることが通常だ。まともなら。



僕らは経済的価値基準ですべてを見るのを常識として、犬のように夜明けから深夜まで働く。人と会って、言い出せないが気になるのは相手の収入だ。つまり「ナンボのもんやねん」がすべてに優先するだろう。


われわれは、大きな間違いをしていないか。そういうなら、からけんは車に乗るな、というバカが出て来ては、刃向って来る。ところが、バカが思うほど世の中は単純じゃない。

公害がひどかった時代、公害による死者は交通事故に匹敵した。70年代、地方私立偽大学では、公害必要論が主流だった。バカが展開する交通災害に対する考えに共通するものがある。

工場がなければオマエの生活は成り立たないんだぞ。公害には慣れろ。70年代の主流をなした意見だ。工場をクルマに、公害を事故に置き換えたら、6000人の死者を必要な死として処理する考えが生まれる。

こうだ。クルマが無ければオマエの生活はなりたたないんだぞ。交通事故なんてそんなもんだ。


人の死が、いつの間にか必要悪にされていると思う。

気違いが刃物を持って20人殺しをしても死刑にはならぬことに憤慨する。その憤慨は一応よしとしとしよう。

だが6000人は20人より大きい数だ。




僕は、おばあちゃんからいつも野菜をもらった。朝5時から畑に出ておられた。人殺しは5年もすればシャバに出てくるぞ。産業界は有用な労働力と観ている。華奢なおばあちゃんに時速120キロ以上の車が当たり、人は原形をとどめなかった。

そこに倫理も条理もない。