ホンダ S660

ユーザー評価: 4.65

ホンダ

S660

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2016年式S660 α感想文 - S660

レンタカー

2016年式S660 α感想文

おすすめ度: 4

満足している点
1.貴重な軽オープンスポーツ
2.所有欲を満たす内外装意匠
3.高いスタビリティ
4. 低燃費

過去のブランドイメージを毀損しないため、
作り手の本気が商品から伝わってくる。
自動車業界に元気を与えてくれた存在。
不満な点
1.高回転域のパンチ不足
2.乗降時の足さばきの悪さ
3.冗談抜きで荷物が積めない
4. 死の薫りが漂ってこない

大きな背反が有りながら苦渋の決断をしたのだろう。
全指摘にはポジティブな理由がある。
作り手から勝手な事を言うな!と叱られそう。
総評
●床の間スポーツカー
ホンダが販売した初めての乗用車であるSの名を引き継いだ2025年現在の最新作。その名の通り660ccの軽乗用車である。



Sの系譜は幻のS360から始まる。ホンダの4輪進出にあたり、商用車のT360とともに2シータースポーツのS360が開発されたが、市場ニーズは商用車であるとしてT360だけがデビュー、S360は発売されず、1962年のモーターショーにS360と共に展示された小型車版のS500が発売された。その後S600、S800と進化を続け最終的には最高速度100MPHを達成し、本格スポーツカーとして認められる性能を誇った。



時は流れ、1990年にホンダ初のミッドシップスポーツカーのNSXがデビューしたわずか1年後の1991年、「ミッドシップアミューズメント」を謳うBEATが登場。BEATは開発中のスクープ記事はS660では?と期待されていたのに、結局S660を名乗らなかった。一説によれば「走る精密機械」と呼ばれたDOHCを採用しなかったからとも言われるが真偽は不明だ。他社が過給に頼る中、自然吸気のまま8500rpmまで回して64psを達成していたBEATは、ABC三兄弟の「B」として軽自動車の贅沢なパーソナルカーとしての可能性を示した。



ホンダのスポーツモデルは以降、本格サーキット走行も可能なTYPE Rが脚光を浴びていたが、1998年には許容回転数が9000rpmという超高回転型NAを搭載したS2000を発売した。ホンダはS2000のためにほぼ手作りの生産ラインを高根沢工場に用意し、専用のFRプラットフォームを与えた、私も10分ほど同級生が買ったS2000を運転したことがあるが、とにかくピーキーでじゃじゃ馬で、路面の凹凸でポンポン跳ねるような感覚があり、直線路でアクセルを深く踏めばレースカーみたいなデジパネのバーグラフが踊り、9000rpmまできっちり回った。

それ以後はシビックTYPE Rが作り続けられてホンダのスポーツイメージをけん引し続けてきた。

今回取上げるS660は2010年に本田技研50周年を記念して社内公募で選ばれた新商品企画案が基になっている。エクステリアデザインは2011年のEVスターというコンセプトカーをベースに、史上最年少の22歳(入社4年目)のモデラ―(クレイモデルを造形する専門職)が開発責任者になった。エンジニアではないため補佐役のベテランエンジニア達が彼を支えた。

スポーツカーにとっても最も大切な走りに大きな影響のあるパワートレーン・トライブトレーンはN-BOXで実績のあるS07AターボE/Gに対して軽自動車初の6速MTを新開発するという夢の様な組み合わせを実現してくれた。せっかくのチャンスとばかり、ほとんどの部品を新規開発するというこだわりきった開発には流用行為を拒絶し、専用設計を尊ぶ好事家もニッコリだろう。



S660は2015年4月から、2022年3月までの7年間に38916台が生産された。絶対値で言えば初代コペンの58496台(国内)に及ばないが、販売されていた年数を考えればほぼ互角の販売実績と言える(S660:463.3台/月 初代コペン:475.6台/月)。ただ、月間目標販売台数は800台だったので、ホンダとしてはもっと売るつもりだったのかも知れないが、月販3000台を謳ったBEATが5年半で33892台(513台/月)売った実績と比較して、S660は健闘している。



オープンエアモータリングが楽しめる軽スポーツカーというジャンルの中で、ヒット作とされる初代コペンと比較するとS660はルーフ開口が狭く、開閉が手動のため手間がかかり、ラゲージスペースは壊滅的に狭い。それでも結果的に善戦したのはS660の持つ「しつらえ」たメカニズムが神秘性を保ってきたからだと私は思う。

S660はBEATっぽさも残した元気印のエクステリアデザイン。充分以上の質感を持たせたオーセンティックなインテリア、しっかり高回転まで回るターボE/Gと実利も取れる6MT、4輪ディスクブレーキ、4輪独立懸架といったスポーツカーの記号性を大切にしている。



実際に運転してみても、スポーツカー特有の気難しさを感じさせずにどんどん踏み込んで、切り込んでいける。だから私のようなアホが「モアパワー!もっとスリルが欲しい」などと錯覚できるほど安定した走行性能はE/G以上に速いシャシ性能の成果であろう。

私の感じたS660の最大の弱点は、高い剛性を確保した結果の乗降性の悪さだ。膝周りのスペースとカウルサイド部の開口が不足しており、小柄な私でさえ足捌きに苦労するようでは脚が長い現代っ子にも辛いだろう。毎回シートをスライドして下げるのも億劫だった。モアパワー派のために社外品のECUを装着すればよいが、ボディは変えられないのでS660を購入したい人は乗降性だけは確認しておくと良い。

唐突だが私は一応、中型二輪の免許を持っている。2輪車で一番所有してみたいのは、意外かも知れないがホンダドリーム50である。乗った事すら無いのだが、カタログを中学生時代に入手したのだが、これは私が唯一持っている二輪車のカタログである。乗った事が無い私が考えるドリーム50の魅力はその美しさであり、「床の間バイク」という別名も持っているほど美しさに定評がある。クロームメッキが奢られたクラシカルな意匠、50ccでありながらDOHC4バルブを採用し美しく輝くE/G。いつか所有できなくても、走らせてみたいと思える私の憧れの一台だ。



ホンダS660はこのドリーム50的なものを感じている。作った人たちの想いとは違うと思うが、私はS660を見ていると本来は走ってナンボのスポーツカーなのに、きっと所有したら、毎日ガンガン乗るよりも飾っておきたくなる「床の間スポーツカー」になれる素質もあると思う。(個人の見解)

まだ終売から日が浅いS660も25年経過してしまうと、マイクロスーパーカー的な面白がり方をされて海外に渡ってしまう個体が増える。どうしても欲しいなら、プレミア価格なのが癪だが早めに中古車を抑えておいた方が良いだろう。

デザイン
4
ホンダの軽オープンスポーツというと私にはBEATやS2000が連想される。自分の同級生でもアルバイトを頑張って中古のBEATを買った人も居たものだ。エスハチやエスロクは既にイベントで展示されているような希少なノスタルジックカーになっていた。



S660のコンセプトは「ENERGETIC BULLET」。大径ホイールを外側に配置し、ミッドシップらしくウインドシールドを前出しし、横長のヘッドライトがコーナーを回り込んでフェンダーを突き刺さり、ドアのキャラクターと融合する、という処理はBEATと似ている。しかし、S660はウエッジシェイプをうまく使ってS07A型3気筒E/Gの背の高さを緩和している。



意外と見落としがちだが、軽自動車に特化したE/Gは長さ方向よりも高さ方向に寸法を使っている。mm単位で室内長を競い合うスーパーハイト軽のためにE/Gの前後方向の寸法を詰めたい。逆に、全高が高くベルトラインも高くなる事からE/Gそのものが腰高なのである。そもそもDOHCだからシリンダヘッドも大きく分厚い。そこで2代目MR2やアイの様に斜めに寝かせる事はしないのかと言えば、それもやっていない。

だから、S660の写真を見ると、E/G付近が分厚くなりがちなのだが、そう見えないのにはRrタイヤから上のフェンダーを大胆に削ってタイヤの張り出しを強調しながら、E/Gフードの巧みなふたコブ形状と繋げる事によってリアを軽快に見せている。



ブラックアウトしてロールバー風に見せているが、ボディ形状としてはコンバーチブルというよりタルガトップと呼んだ方がいい構造だが、黒い部分をうまく使って典型的オープンカーに見えるようにも調整してある。このロールバーは冷却風の入り口も兼ねているが、それを感じさせないところもスマートだ。

個人的に外装で気に入っているドアミラーにも触れておきたい。



車体側のステーだけ新規設計して、ミラー部は流用するのが当たり前という現代においてS660は専用品が着いている。コンパクトな車体ゆえ鏡面が小さくても不便はないし横にスッと伸びるシルエットがカッコイイ。なにはなくとも後方確認したくなるレベルだ。

インテリアは「SUPER COCKPIT」というテーマだ。スポーツカー特有の運転席を中心としたタイトな感覚を大切にしている。S660はドラポジの適正化(コストダウンを誤魔化す都合の良い使い方では無く、本当の意味での適正化)を行い、あらゆる諸元を見直した結果、軽規格に適合させながらS2000とほぼ同じ位置関係を実現しているというから、まさにMM思想が体現されている。



着座するとペダル・ステアリング・シフトレバーがキレイに配置されて真っ当に座れ、適正なドラポジに嘘はない。このパッケージを基本にスタイリングされた内装は、例えばゼブラ柄のシートやモーターサイクル感覚のメーターを持つBEATの様な跳んだ感じではなく、もっとオーセンティックな価値観で作られている。

ライバルのコペンも同じくセンタークラスターはドラポジのために幅が狭くなっているが、オーディオやA/C操作パネルも専用品を奢って違和感がないように調整されている。ちょうど良くニーサポートの役割を果たしてくれ、コーナリング時にぐにゃりと変形したりせず身体を支えてくれるしっかり者だ。

ステアリングはホンダ最小径のφ350mm仕様だ。下辺が乗降性のために削られたDシェイプステアリングであることはキレイに持ち替える意味でマイナスの仕様だ。乗降性を確保しつつ、持ち替えたときに違和感が出にくいようにフラットな区間を極力小さくして配慮したという。



シフトレバーはドライバーがスッと手を下ろしたところに配置され、その前方にはスマホが行けそうなトレイがある。センタークラスターの側面壁にはパンチング穴が開けられて光が射しているからトレイに置いたものが見つけやすい。ドライバー側に壁はないので運転席からのアクセス性も良い。

シフトレバーの後にはスマホが置けそうな溝が掘ってあるが、左腕を置く事もできる。そして右腕をドアトリムのアームレストに置くと、高さがピッタリ合っている。このドアトリムもドアを閉める際に掴みやすい位置に配置されてストレスがないのも良い。

また、CMFがうまく行っておりS660は全く安っぽく見えない。助手席側のソフトパッドには「何処にそんな金があったんだ」とツッコんでしまいそうになったが、質感で軽クラスを超えている。



エクステリアデザインはBEATっぽさとモダンさが共存できており★4。インテリアデザインは使いやすさとクラスレスな質感に充分満足でき★4。
走行性能
4
駐車場に止まっているS660はミニチュアのように小さい。



背が低くプロポーションが良いから小型車ではどこかには必ず現われるイビツさが無い。まるで海外の本格スポーツカーを縮小したかのように見える。

独特のドアハンドルを引いて車内に乗り込む。人間工学的に開けやすいという当たり前よりも、ドアを開ける瞬間から特別な経験に、という初代ロードスターのような想いがあるのかも知れない。

また、乗り込むにはちょっとしたコツが必要だ。実用面ではS660はしっかりとしたフレームワークを心がけた影響で乗降性に影響が出ている。エスパー伊藤の気持ちが今なら分かる。

サイドシルが高いのは車体の曲げに対してサイドシル(ロッカー)の補強が効果的だからだ。古くからオープンカーがこの部位を補強するケースが多いのは、ピラー、ルーフという部材を切り取ってボディ剛性が一気に悪化した分を幾分かでも取り戻すためだ。

現代のサイドシルは衝突性能によってある程度の断面が必要になる部位だが、高速道路でのどっしり感にも影響がある部位としても知られている。前後輪を繋ぐ「梁」が弱ければ、前と後が別々に動こうとしてしまう。必要な剛性を確保しないと前後輪も正しく動けないし、ブルブルした振動が乗員にも伝わってどことなく不安な感じが出てしまう事もある。



ただし、乗り込んでしまえば特に狭苦しくも感じない。メーターバイザー右にある赤いスタートスイッチを押すと、メーターがスイープして始動する。父のN-WGNと同じ3気筒ターボE/Gが軽やかにアイドル回転を指す。左手を下ろした先にはすぐにシフトノブがあり、1速に入れて発進させた。
1t級のN-BOXを走らせるためのE/Gなので低速トルクが充分にあり、発進は極めてイージーだ。クラッチも踏力が軽く、ミートしやすいのでMT初心者が運転しても極めてフレンドリーでMT特有の操作が苦にならない。これならCVTに乗る必要性は全くないと言える。

「スポーツカーって運転が難しそう」というイメージは多くの人が持っているだろうが、S660はその常識を覆す存在だった。キャビンは身体にフィットし、操作系が軽く、リニアだから扱いやすい。本当に速く走らせるためには、思い通りに動かしやすい車が良いに決まっている。



車に慣れる意味も兼ねて近場の市街地を流してみたが、「スポーツカー」という単語から連想される敷居の高さから完全に切り離された快適性がよい。後方の窓を開けてやれば、軽快なE/G音を聞きながら爽やかな風が抜けてオープンエアが楽しめる・・・・・と思いきや、熱風が室内に入り込んで、暑さを感じるなど不快になってきた。試乗した日は9月初旬でまだまだ35度以上の猛暑日だった。信号待ちで停止すると日差しがきつく、帽子を被って対策したものの身体がジリジリと暑くなった。

こんな時に真価を発揮したのがMIDモードを持った空調システム。




MIDモードはスイッチを押す事で作動する。ポコポコとダンパーが動く音がし、空調の風が膝上めがけて吹いてくる。冬場の暖房にも使えそうだが真夏の冷房でも大活躍だった。当日は日差しが強く、太腿が暑くなっていた。ここにA/Cの冷風を当てると暑さが幾分かマシになる。

屋根を開けながらA/Cを使うなんて何だか勿体ない気もするのだが、少しでも快適にオープンで走れる機会を増やすのだから、それだけS660が輝ける時間が増えるのだとすれば悪くない。市街地の運転でも極めてスムースでイージーなので暑いことを除いて不満は少ない。

郊外を抜け、S660で走ってみたかった峠道を目指した。ここで急に雨が降ってきた。朝の天気予報では晴れになっていたのにポツポツ雨粒が見えてきたのでアプリを見ると雨マークが着いていた。
慌てずに路肩に車を止めてフロントフードを開けて幌を取り出した。コペンのアクティブトップには敵わないが、簡単に脱着ができるのでありがたい。

8kgの幌をつけると、S660のキャビンが急にタイトに感じられた。いままで空というアイテムが使えなくなったので、ここぞとばかりA/Cをガンガンにかけて身体を冷やした。

幌をつけても乗り味はほとんど変わらない。コペンの場合はルーフが着いているときと格納しているときで印象が大きく変わる。格納しているときの方が剛性感は高いが、ルーフを格納したときの方が重心が下がって軽快に走るようになる。それをクーペスタイル時の魅力と捉えるべきか性格の均一性が足りないと捉えるかは個人の好みだろう。格納式ハードトップと違い、ガチャガチャ言わないのは素晴らしいが、ルームミラーは絶えず横揺れしていた。

S660でウェットコンディションの登り坂を登り始めた。ワイパーが時間調整式間欠なのが大変親切で便利だ。後輪駆動の良さもあってトラクション不足を感じさせる事無くグイグイ登っていく。鼻先が軽く、気持ちよく操縦できるのでついアクセルを踏みすぎてしまったら、VSA(横滑り警報)が作動して私を守ってくれた。乗りやすいフレンドリーな特性ゆえにミッドシップスポーツカーである事を忘れかけていた。本当は景色が綺麗で街が一望できるのに私は運転が楽しくて全く景観など気にしていなかった。

頂上に近い広いスペースに車が居なかったのでVSAをカットし、ローギアで旋回しグッとアクセルを大きく開けると確かに後輪が流れ出したが、そこからの修正は比較的容易だった。

そうこうしているうちに雨が止んできた。再びオープンで走れるチャンスが到来した。サッと海苔巻きルーフを格納し、呼吸を整える。

乗り心地
4
(走行性能続き)
少し走るとトンネルがあり、そこを抜けると森の中の下りセクションが始まる。峠の下りではS660の動力性能は過不足無く使い切れてちょうど良い。ブレーキングからのコーナリングは終始安定しており、立ち上がりも思い通りの加速ができる。しっかり荷重が載せて曲がれば何処までもインを向くような錯覚に陥りそうになるがちっとも過敏じゃない。



感心したのは、橋の継ぎ目を超えたり舗装の荒れた部分を通過してもステアリングシェイクがほとんど気にならない事である。同じコースを走った初代コペンの場合、ステアリングポストがワナワナと揺れていたのにホンダはガッチリ剛性が高いボディでそれを押さえ込んでいる。オープンボディはボディ剛性が緩いというのは多くの人の共通認識であり、諦めにも似た理解を示しているものだがS660は本当にボディがしっかりしていると感じる。乗降性を犠牲にしてまでAピラー根元を固め、トンネルやサイドシルの断面をしっかり確保し、ねじりに対してもドアとボディに干渉させてドアを剛性部材として使う「ドアスタビライザー」の様なゴム板を設定するなどの対策が功を奏している。



コーナリングで縮んだ脚にさらに入力が入った際に、フェンダーライナー干渉の音も出さず、S660のクオリティの高さを示している。結局、あっという間に下りきり、私はおもわず「おかわり」をしてしまった。登りでは主に立ち上がりの加速を大いに楽しんだ。全開にしても怖くなるほど速くないからである。そんなにトバせない私でも登り坂では「ちょっと息切れ感があるな」と思ってしまうが、その分いかに減速させずにスムースなライン取りを取れるか、どこで減速をすれば良い感じで曲がれるかという脳と身体を使った実験がじっくりできる。



本当に速い人はそのあたりが狂い無く判断できる、もしくは野生の勘で分かる人なのでそういう人には終始物足りないのかも知れない。そんな事を想いながらS660で走ると登りは「あとちょっと」と思うものの、頂上で転回して下りは「これで充分」と思えるので「足るを知る」感覚だ。

結果、私は3本もこの峠を走ってしまったのだ。

晴れ間の中、頭上を抜ける風を感じながらワインディングを楽しんだ。S660にはアジャイルハンドリングアシストが着いており、ステアリングを操舵した瞬間に必要に応じて内輪にブレーキをかけてつまむことにより応答遅れなく曲がるようにアシストする制御が入っているが、この制御の存在を感じる事は無い。知らぬ間に気持ちよく走らせてもらっていた。



クロスレシオの6速MTの2速と3速を駆使しながら最高回転数7700rpmまで回る。音質こそ4気筒に及ばないものの、各種規制が厳しい現代でも小排気量スポーツエンジンをラインナップしてくれる事が有難い。レッドゾーンが7700rpmから、といえど実際の加速では自主規制が関係して6000rpm程度で加速度は頭打ちになる。しかし、高回転域まで引っ張れる事で「あとちょっと・・・」というシーンで今のギアを維持しながら余裕を持ってコーナリングの準備ができる。下りでは欲しい加速を十分発揮し、コーナーで優秀なシートに身体を支えられながら、NEOVAは余裕で強力なグリップを発揮し続けてくれるし、ブレーキは最後まで持ちこたえた。



このシャシーの余裕の大きさはS660の魅力であり、「モアパワー」と思われる弱点なのだろう。コンパクトなミッドシップスポーツカーなどというと、キビキビ・ヒラヒラと走る代わりに認知・判断・操作を一歩間違えればどこかへ飛んでいってしまいそうなピーキーさがあるんじゃ無いかと恐れ(期待?)てしまう。ヒリヒリするようなドライビング体験を楽しんだ際に「死の薫り」を感じる事がある。それが僅かに含まれる事は運転のスパイスになるのだがS660は剛性の高いボディや確実なシャシー性能が動力性能に圧倒的に勝る事で動力性能を完全に使い切る走りを実現している。こういう車で正しい運転をゲームやスポーツのように楽しむ事が健全なはずなのに、「死の薫り」が漂ってこないのが物足りないという人間の我儘さを痛感した。

クールダウン運転を続けていたが、旧街道の宿場町に迷い込んだ。狭い日本のための小さな軽自動車はそんな日本の旧い町並みにもマッチングが良い。



道幅の狭い旧道をゆっくりと楽しんだ。頭上が空いているから、暑さや匂いも感じられて訪れている土地と繋がっているような気になる。この感覚はバイクに似ている。雨が降っても困らないバイクだ。ふと気づいたのはS660は斜め後方視界があまり良くない。ロールバー形状のボデー骨格やE/G搭載のための張り出しが影響して振り向いたときの開放感がない。駐車場では慎重にミラーも活用して欲しい。



大きな国道に出て片側2車線に整備された峠を超えた。周囲の車と同じペースを守りながらもリズミカルに加速し、コーナーを抜けたり、シフトダウンを楽しんだりとS660はどんな道でも楽しく走らせてくれる。

そのまま高速道路に流入。0-100Km/h加速は10秒を切る実力らしいが、私は高回転までふかさず料金所からそのまま全開加速させると12.9秒程度だった。もう少し早めにシフトアップするとタイムが縮みそうだった。

高速道路でルーフを開けていても風の巻き込みはドアガラスとリアウィンドゥを調整する事で完全にコントロール可能だ。100km/hクルーズ時のE/G回転数は3000rpmと軽自動車としては充分ハイギアードだ。身近な例だとカローラの3500rpmより低く、RAV4と同値だ。この回転数なら高速道路も不足無く走れ、騒音も全然許容出来るレベルに収まる。



車速を上げて追い越し車線を走らせても全く恐怖感がない。しかし、大型トラックの後ろで風を避けながら走らせると最もリラックスできて疲労が少なく、これなら距離が重ねられそうだ。

短距離だけ走った高速を降りて試乗車を返却する時刻が迫ってきた。ちょうど返却予定時刻に到着するように調整していたのだが、目的地に着いたとき思わず通過して1ブロックだけ遠回りして返却した。いくら人も荷物も載らなくて不便なS660とは言えども、走っている限りは全自動車の中で運転のしやすさや愉しさが上位に位置する。(私調べ)

ついつい別れが惜しくなってしまったが、S660は市街地からワインディング路の下りまでではコンパクトな車体とシャシーの良さを活かしてハイレベルな走りを見せる。一方、ワインディング路の登りや高速道路の追い越し車線では絶対的パワーの不足感が垣間見られる。



恐らく、短時間の試乗であればS660のパワー不足が目立ち、遅いという評価になっていた気がする。色々なシチュエーションでじっくり乗ってみることでS660の動力性能の良好なバランスを知る事ができた。




評価するなら市街地4★ ワインディング★4(下り5★登り3★) 高速道路4★ 総合4★である。
社外ECUなどによってモアパワーが実現されるなら★5をあげても良いくらいだ。

乗り心地に関しては、突き上げが少なくこのクラスとしては良好な乗り心地だと感じた。静粛性に関して、不快な高周波や(ソフトトップゆえ)こもり音のない納得感のある騒がしさのため、★4とする。
積載性
2
走るために生まれたS660は、決して荷物を便利に運ぶための車では無い。とは言え、ドライブ中にスマホや飲み物が置けないようでは困りものだ。

コックピットにはグローブボックスやシートバックポケット、コンビニフックやスマホを立てて収納できるスリットが設けられている。



1991年のBEATでは細やかなトランクルームがあったが、S660の場合、Rrのコーナー部がラウンディッシュでラゲージスペースにしてもさほど期待できない。S660は法規の緩和によってスペアタイヤを積まなくて良くなった分、Frに収納スペースが設けられた。ただ、樹脂ケースの中には外したルーフが収納される。

競合のコペンではどうだろうか。アクティブトップを収納するために広大なラゲージスペースを要求される関係で、クーペ状態だとゴルフバッグやスーツケースが積載できるレベルのラゲージスペースを持つ。帰省や旅行に行けるコペンと、外部にキャリアを載せないと荷物が積めないS660。

そこを比較するとどうしてもS660が不利になってしまうが、それが大きな欠点になっていないのはS660の凝縮感あるエクステリアデザインに寄るところが大きい。コペンの場合はどうしてもRrが分厚くなってしまうが、S660はそこを巧みに回避している。コペンとS660はしっかりキャラを分けているので競合しつつ共存できている。

今回の試乗では何回も通り雨に降られたためルーフ開閉を繰り返すチャンスがあった。

ロータス・エリーゼを参考にしたと思われる海苔巻きソフトトップの使い方は簡単だ。

センターのロックを外し、ルーフサイド部はボタンを押しながらレバーを90度回転させて解除し、グルグルと巻いていくと取り外しができる。




収納はFrのボックス内にピッタリ入るようになっている。エリーゼに対するアドバンテージは、S660の場合は骨を内蔵しており、グルグル巻いたらそのまま収納できる事だ。(エリーゼは骨が残るので別で外さねばならない)



ラゲージに関して言えば、1名乗車なら助手席足元にカバンを置いたり小振りのスーツケースをシートに載せてシートベルトを締めておく事もできるだろうが、2名となるとゲストに少しシートスライドしてもらい、シート後ろにちょっとした荷物を置くくらいしかスペースがない。MR-Sの様に座席の後ろにゴルフバッグが入るようなラゲージは軽規格では逆立ちしても望めないので、荷物が積めない事に関してはピカイチである。個人的には助手席をN-VANの様なジャンプシートにして1+1スタイルにしてしまうオプションがあっても良かったと思う。座席を取り外すと乗車定員を変更した事になり車検には通らないが、畳みやすい補助席にしてしまえば荷物が積みやすくなっただろう。



居住性に関しては悪くない。ペダルレイアウトやステアリングの位置関係など、運転を楽しむ人のコックピットとして何ら不満がない。ドラポジが決まるのはチルトだけで無くテレスコがあるからだ。流石2015年の自動車だと感心した。また、φ350mm(ホンダ最小径)というステアリングも居住性格に寄与している。ステアリングが大きいと脚~ステアリング最下端の寸法が厳しくなり、乗降性や乗る人の体格に制約を与えてしまう。S660は下端をほんの少し切り飛ばしたDシェイプを採用している。Dシェイプステアリングはステアリングを回す際に、綺麗な動作の妨げになるのだが、クイックなステアリングギア比のお陰で幸い持ち替える機会が少ないのは救いがある。同じ目的で円形だが、偏心させたステアリングも存在しているが、どちらがマシなのだろう。

一方で注文をつけたくなるのが乗降時だ。ドアを開け、左足をステアリング脇の窪みに合わせながら乗り込む。これをやらないと膝にインパネの尖ったところがヒットする。私は郵政カブのエアクリを思い出した。



上記が上手くいっても、必ずDシェイプのステアリングにひざをぶつけながら右足をフロアに収めた。ロッカーもボディ剛性に配慮して高めなのでS660は乗降性がネックになると感じた。足さばきを考えるとドア開口をもっと前に拡大したいのだが、Aピラーとロッカーを大断面で結合しているからこそ初代コペン比でAピラーの揺れが少なく、ステアリングシェイクが革命的に減ったのだろう。それは走りの質感を語る上で素晴らしい事に違いないのだが、乗降する度にエスパー伊東のネタのような苦行を強いられるのはハードだと言わざるを得ない。

降りるときはシートスライドを使ってリアモーストにずらしてから降りれば、次に乗るときは幾分か楽になる。残念な事に、メモリーつきシートスライドではないので毎回ドラポジがズレてしまう点が難点だ。



乗降以外でも飲み物を置こうとしたりするだけで、身体を捻らないと行けないのでツイスターゲームの如く関節の可動域が拡がりそうな可能性すら感じる。

★を着けると1。そら(コペンより積めないんだから)そうよ。

しかし、ドラポジが決まったあとの居住空間は好ましいタイトさがある。よって若干緩和して★2とする。
燃費
5
全身でスポーツカーを体現しているにも関わらず、それでいて現代の車らしくアイドリングストップ機構を備え6MTで21.2km/L、CVTで24.2km/Lという驚くべき低燃費も誇る。

バイパス路をのんびり走っていると燃費計が30km/hを超えてそのまま淡々と走れる。軽さは正義という言葉の正しさが実感できる。鈴鹿峠のようにペースが早めの国道をリズミカルに走らせている分には燃費悪化はほとんど無い。高いギアでアクセルオフすると燃料カットしたまま延々と惰行するイメージだ。走れば走るほど平均燃費計はどんどん数値が上がっていくのだが、山岳路のスポーツ走行を敢行すると燃費は一気に悪化。



最終的に半日のドライブで194.4km走らせて燃費計は17.0km/Lを指していた。満タンにすると、13.85L入って14.0km/Lとなった。初期状態で本当に満タンだったか怪しいレンタカーのため、普段より誤差が大きいのだろうと予測する。しかし、あの走りを思えば充分低燃費だと言える。
価格
4
2015年デビュー時の価格は表にする必要が無いくらいの明朗会計だ。

変速機による価格差は無く、グレードは上級(α)と標準(β)の2種類。それぞれ218万円と198万円だ。

軽自動車で200万円とはけしからん!と激怒する向きもあるだろうが、2002年に149万円でスタートしたコペンも2014年の全面改良時には179.8万円~になった。

その意味でS660の価格は充分に想定の範囲内におさまっていると言える。

βの税抜き価格は183.3万円で、1991年発売のBEATは138.8万円だ。当時メーカーオプションでエアバッグが8万円で設定されていたので、それを追加すると146.8万円となる。当時の大卒初任給が17.9万円で2015年が20.5万円だから、BEATの価格を現代に直せば146.8×1.145=168.1万円となる。現代の貨幣価値に換算してもS660は15.2万円高いが、DOHCターボエンジンを積んでいる事に目を瞑ったとしても、アルミホイール、6速MT、オートA/CやLEDヘッドライト、P席エアバッグ+サイドエアバッグやABSなどが備わり、BEATより仕様は充実しているから、βのお買い得度は高い。

βでも充分基本的な装備が備わっており、お気に入りのパーツに組み替えたいカスタム派や贅沢なお買い物カーとして気軽に付き合うならβは決して外れの選択ではない。

αは内外装がドレスアップされているに過ぎず、例えばアルミホイールが切削塗装になり、内装のシルバー、メッキ加飾が追加され、本革ステアリング、本革シフトノブ、クルーズコントロールが備わる程度で到底20万円分の価格差が生じる差が無いのがポイントだ。



βの完成度が高い割に、αは見た目に関する装備向上に特化し「せっかく買うんだから」という庶民の心情を巧みに突いてくる。肩肘張らずβでカジュアルに付き合う真のお洒落さに尊敬を抱きつつ私のような俗っぽい人間は本革ステアリングが良いな!リセールも良いかもしれない!などと考えて20万円の募金をホンダに支払う人が多いのでは無いか。

スポーツカーは夢見がちな誇りを持って乗るものだから、その意味でコスメティックな性能を磨いたαの方が街でよく見かけるのは理解ができる。

特にαはお買い得でもないが、決してボッタクリでもない。今の中古車価格の高騰を見ると、ビビビと来てサッと新車で買った人が一番お買い得だったのだろう。
故障経験
E/Gフードを開けた時、ロック部に大量のスポンジが貼ってある事に気づいた。フードを締めて手で揺らすとギシギシと嫌な異音が聞こえてきたのでスポンジはフードを動かさないための隙詰めの役割があるようだ。幸い対策が功を奏して試乗中異音に悩まされる事は無かった。



また、実害は無かったが幌のほつれが発生していた。幌なので豪雨の中など水漏れのリスクがあり、屋根無し駐車で放置は故障リスクが高いと考えられる。

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