プリンス 世界を行く!
輸送船のデリックに吊られ船積みされてゆくスカイライン・・・
精鋭のプリンス各車は灼熱の南国から極寒の北国まで、世界各国に旅立ってゆきます。
かつて世界第3位の海軍国として世界各地に派遣された連合艦隊にかわり、平和の象徴と
して人々の生活に奉仕すべくプリンス車は厳しい環境に挑んでゆきました。
先回に引き続き輸出仕様について取り上げます。
いつも通り長いうえ、タイトルのPART1の通り各車種ごと複数回に渡ります。
この広告にはスカイライン・スーパー(S21D)とグロリア・デラックス(S40D)が掲載されている
ことから1962年9月から1963年6月までの間に印刷されたものであることがわかります。
1960年初頭の時点でかなりの数の国に輸出されていたことがわかります。
ただし、すべての輸出先にプリンス社の正規販売ネットワークが構築されていたわけではなく
各地の輸入車の販売業者と契約していたようです。
日本でいえばヤナセや近鉄などが外国メーカーの委託を受けていたような方式です。
補修部品や整備人員/技術の確保の点で不利な上、日本とはまったく違う過酷な環境の中で
これらのクルマを販売しメンテナンスする上での労苦は想像に難くありません。
600台のALSID-1がサンフランシスコ湾オークランド港に陸揚げされた当時の写真です。
オークランドは日本人移民の上陸地点であり、多数の日本人と日系人が居住していました。
同じ時期にトヨタもクラウン(RSL10)を輸出していますが、時速130~150㎞という高速で
流れるフリーウェイに於いて加速の鈍さゆえ合流が出来ない有様で販売が一旦中止されています。
ALSIスカイラインも同程度の性能なので、600台のほとんどは不良在庫になったと思われます。
そもそも当時の日本には高速道路が存在せず、高速連続走行が未知の領域であった日本車が
ぶっつけ本番でフルサイズが闊歩するアメリカのフリーウェイに挑むのが間違いといえるでしょう。
「日本製の自動車はアメリカで通用するか?」
こちらは当時のアメリカの自動車雑誌に掲載されたテスト記事です。
車名は「フジ プリンス スカイライン」と富士精密の名を冠しています。
アメリカ人は敗戦国からやってきた、ちっぽけな「クルマのようなもの」を見てどう感じたのでしょう。
やがて戦勝国を凌駕して世界一の座に君臨するとは、当の日本人も夢想だにしませんでした。
輸出仕様の外観的特徴として、国内仕様と異なるベルトラインの形状が挙げられます。
国内DXがストレートな形状なのに対して、リヤドア下部で一度ポップアップしています。
また、左ハンドル化と併せてアンテナ位置も逆側に移動しています。
ルーフとベルトラインを塗り分けたツートーン塗色など外装はDXに準じています。
ホワイトウォールタイヤとクロームのセンターキャップと組み合わされるスティールウィールは
ボディ同色としてトライカラーの瀟洒な雰囲気を醸し出しています。
記者による悪路の急坂走行テストの写真です。
リヤウィールアーチとマッチした形状でポップアップしたベルトラインは国内仕様のものよりも
大きな躍動感や軽快さを感じさせる素晴らしいものです。
国内STD用のフォード風ベルトラインも低重心を演出した優れたものですが、こちらは
ツートーン塗色と相まって躍動感と豪華さとを兼ね備えたものです。
こちらはフランス語圏向けと思われるカタログです。
日本の象徴にして社名の富士精密の語源でもある霊峰・富士山を背景にしています。
中島飛行機の6発超重爆撃機にも「富嶽」の名が冠されていました。
上側には車体に装着される車名のエンブレムがそのままM掲載されていますが
すべての世代に渡って、流麗かつの時代の変化にも「経年劣化しない」筆記体デザインを
与えられているのがプリンス車の美点です。
「スカイラインは、現代の最新の車にして日本の自動車産業の代表です」といった意味でしょうか。
誤訳の場合はエキサイト翻訳に文句をお願いします。
背景はこちらも日本の象徴である桜と神社仏閣が並んでいます。
当時はヨーロッパに於いてもテールフィンに代表されるデトロイト・デザインが流行しており
欧州で開催されたモーターショーに持ち込まれたALSIスカイラインも良好な評価を受けたようです。
この頁からはデラックスとスタンダードの両方が輸出されていたことがわかります。
スペック一覧とともにシャシーの写真も掲載さています。
城壁を背景に、着物を纏った美しい日本女性がスカイラインの横に佇んでいます。
富士山、桜と徹底して「和」の雰囲気を押し出し、アメリカ車風のデザインゆえ他のクルマに
埋没せぬようオリエンタルな演出が図られています。
さらに仏像の写真を添えて神秘的なムードを強調しています。
ダッシュボードはクラッシュパッドの一切ないシンプルでソリッドなデザインとなっています。
メーターは双眼鏡のようなナセルに丸型2眼が収められ、ステアリングは豪奢な半円型
ホーンリングが装着されています。
逆台形の時計とその下に並んだラジオが機能的な美しさを感じさせます。
こちらは鳥居を背景にした写真です。
本文には世界でも希少なド・ディオン・アクスルについての解説があります。
こちらはベルトラインの形状や英字表記であることから北米向けと思われます。
モデルの女性は洋服を着ています。
コピーは「他とは違う、日本の上質なクルマ」といった意味でしょうか。
日本国内には左ハンドルのALSIスカイライン輸出仕様がマニアの手許に存在するようです。
もともと日本国内でもきわめて希少な初代スカイライン、海外で残存しているのはまさに
奇跡といって差支えないレベルでしょう。
豪州およびニュージーランドにはスカイライン・スーパー(S21)など複数のALSIが
残存していることが確認できています。
引き続きこれらの車輛についても取り上げていきます。