先月、みん友のプリンス654さんが長年所有するプリンス・ライトコーチの車検を取得。
遂に公道復帰を果たしました。
っと言うことで、早速乗車してきました!
まず「ライトコーチって何?」ってカンジだと思うので簡単に説明を・・・。
ライトコーチはプリンス自動車工業製のマイクロバスで、
初代モデル(AQVH-1L型)は1958年3月にデビューしました。
1963年10月にフルモデル・チェンジし第2世代(B632-4型)となり、
1966年4月19日には第3世代(B654型)へとモデル・チェンジしました。
ただし、第3世代は第2世代からのキャリーオーバーが非常に多い為、
ビッグ・マイナーチェンジと捉えることも出来ます。
1966年8月1日の日産・プリンス合併後も生産が続けられ、
1958年3月のデビューから数えて丁度18年となる1976年3月に生産終了となりました。
日産との合併後、プリンス車は冷遇され次々とモデル廃止・統合の憂き目に遭いましたが、
ライトコーチはグロリア譲りの高級感溢れるアピアランスとルーミーで瀟洒な車内空間という
生来の魅力を武器に好調を維持しつつ、
時流に合わせてディーゼル・エンジンやダブル・タイヤ車を設定しながら
合併という激流の中でも輝きを失わず、10年という長いモデル・ライフを生き抜いてみせました。
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1966年型プリンス・ライトコーチ(B654型)と1966年型プリンス グロリア・スーパー6(S41D-2型)
プリンス654さんのライトコーチは1966年型で、自分のグロリアと同年式です。
見ての通り、4連ヘッド・ランプ、フロント・グリル、バンパー、フロント・ウィンドウ形状などから
両車共通のイメージで仕上げられていることがわかります。
リヤ・ビューも瓜二つ
鍔付きのルーフ・エンド、キャッツアイ・テールライト、フラットデッキ・スタイル、
車体側面まで廻りこんだ三角断面のバンパー形状も共通したイメージで仕上げられています。
フラットデッキのプレス・ラインからテールライト廻りまでツートーン・カラーで
仕上げられている点も、プリンスらしい洒落たセンスが感じられます。
プレス・ラインに沿ったツートーン・カラーが施されています
ラップアラウンド・ウィンドウ、フラットデッキ・スタイル、ディープスカート・フェンダー等、
グロリアのイメージを引き継いだ威風堂々たるスタイリングが特徴です。
細いピラー、広大なグラスエリア、大きな開口部により車内は開放感に満ちています。
エンジンはグロリアやクリッパーと共通で、数多くのプリンス車に搭載された傑作エンジンである
G2型4気筒OHV1862ccで、トランス・ミッションは先進的なOD付5速コラム・マニュアルです。
タイヤはシングルのみの設定で、ダブル・タイヤ車やディーゼル・エンジンが
設定されたのは日産との合併後になってからでした。
当時(1963年10月時点)の国産最高級乗用車のデザインを応用したマイクロバス
と言うと、なかなか理解し難い感覚を抱かれるかと思われます。
レクサス・ディヴィジョンでは、トヨタ・ランドクルーザー200のフロントとリヤのデザインを
レクサスLSそっくりにしてレクサスLXとして販売していますが(日本未発売)、
グロリア顔のライトコーチは、レクサス・ディヴィジョンで
レクサスLS顔のトヨタ・コースターが売っているのと同じ、と言えばわかりやすいかと思います。
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前置きが長くなりましたが、それでは乗車編です。
7月31日、やたらとグズるステップをなだめつつプリンス654さんの家へ。
倉庫の中には、真新しいナンバー・プレートと車検ステッカーの貼られた
ライトコーチが佇んでいました。
少し長いクランキングの後、腹に響く轟音を立ててG2型エンジンが始動。
ヘッドランプ・リムを取り外している(錆びている為)ので、眼つきが怖い
グリルの上に 「P R I N C E 」のレターが入るのは
他のプリンス車とも共通する統一されたデザインです。
ウィンカーの位置は2代目(B632-4型)ではS4グロリアと同じくヘッド・ランプと
バンパーの間でしたが、3代目からはヘッド・ランプの上に移設されました。
この”眉毛”ウィンカーのデザインには、シェビー・トラックスの影響が感じられますが、
視認性向上の要求を満たす為の配置変更でもありました。
なお、ハザードは新車時から装着されていません(法的な義務付けは後年になってから)。
大きく湾曲したガラスを用いているので、外側からインナー・ピラーが
見えるのもグロリアと共通する点です。
「グォン・・・グォン・・・」と唸りながら動くライトコーチ
背が高い上に、この時代のクルマの例に漏れず最低地上高も大きいので
(当時は未舗装率が高く悪路や砂利道が多かった)寸法以上の迫力を湛えています。
乗り降りは車体中央左舷に設置された折戸式の乗降口から行います。
ドライバーの為の運転席ドアが設置されるのは、合併後のマイナー・チェンジ以降からでした。
このライトコーチは長期間、野外で物置として使われていた経緯から
ルーフ・パネルの傷みが激しいです。
身内では冗談めかして「オバケ」なんて呼んでましたが、ルーフ一面が
サビで迷彩塗装を施したみたいにまだらになっていて、実際オバケっぽいです。
車庫の中で鎮座している時は屋根は殆ど見えなかったのでそれほど気にしたことは
ありませんでしたが、こうやって外に出ると確かに傷みが目立ちます。
板金塗装、再メッキ等、やることは山積しているので、まだまだ”遊べる”クルマです。
特等席?の助手席からの視点
バスドアから乗車し整理券を取って、助手席に座って出発進行!
キャブオーバーで背が高く、しかもガラス面積が広大なのでなんとも不思議な乗車感覚です。
例えるなら走るガラスケース?
現代車のようなティンテッド・ガラスでは無いので上方向への視界も良好です。
ワイパーが逆ケンカ式というのも面白いです。
U字型に払拭するという特殊な方式の上、ブレードもガラス面積に対し明らかに
短いので、拭き残し面積がめちゃくちゃデカいです。
ちなみにウィンドウ・ウォッシャーはありません(こちらも新車時から無し)。
颯爽としたステアリング捌きで、ライトコーチの巨躯を軽やかに操るプリンス654さん
ステアリングはグロリアやスカイラインと変わらないサイズ(乗用車サイズ!)で、
高級感溢れる半月型ホーン・リングが備わっています。
当然ながらパワー・ステアリングでは無い(重ステ)ので、
据え切りはかなりの力仕事となります。
トランス・ミッションは先進のOD付5速!
当時、乗用車でも5速は極めて珍しく3速も数多くありました。
商用車としては日本初となる5速ミッションで、グロリア(OD付4速)よりも先進的です。
乗用車でもコラム廻りが剥き出しのクルマが多かったにも関わらず、
ライトコーチやクリッパーはコラムカバーを備えてスマートな外観とされています。
プリンスの徹底した高級志向、「商用車だから」という言い訳を盾にした
安易な妥協を許さない姿勢が強く感じられます。
運転席側の壁面には地図等を入れて置くのに便利なポケットが備えられています。
フロント・ウィンドシールドは2分割で、コーナーが大きく湾曲したパノラミック・タイプ
上方と側方に大きく湾曲したフロント・ウィンドシールドによって視界は極めて良好。
ボンネットの有無の違いはあれど、視界的にはグロリアと同じような感覚です。
ガラス越しに見える、補助ミラー付きの草履型ミラーが良いカンジです。
バック・ミラーの鏡は切りっ放し。
サンバイザーはバスの定番、濃いブルーのプラスティック製です。
これまた巨大なフロント・ウィンドシールドに対して控え目なサイズ。
ダッシュボード中央には、お洒落なjecoの時計が置かれています(当時のOP?)。
ちなみにこの時計、最初のうちは時間を合わせてもどんどんずれてしまっていたそうですが、
次第にずれが小さくなり、今では正確に作動しているそうです。
・・・電波時計か何かでしょうか?
小振りなグローブ・ボックス
フラットで広大なダッシュボードの面積の割にグローブボックスは控え目なサイズ。
ただしこのグローブボックスは専ら書類入れで、真下には大容量のパーセルシェルフ(荷物棚)が
設置されているので、手廻り品や荷物の置き場所には全く困りません。
また、車体後部にもトランク・スペースがあります(猫の額程のサイズですが・・・)。
グローブ・ボックスのリッドには「Prince」のエンブレムが輝き、
手前には助手席用アシスト・グリップが備わります。
広大なダッシュ・ボードの窓側にはシボ加工の施されたクラッシュ・パッドが貼られ、
その境目にはS4グロリアやS5スカイラインの外装に用いられている細かなリブの刻まれた
クロームのモールディングが埋め込まれています。
大型キャブオーバー車ならではの広々としたレッグ・スペース
足元は広く、運転席と助手席の間には充分なスペースがあるので
大きなグラス・エリアと相俟って開放的で快適です。
が、運転席と助手席の間にはエンジンが置かれているので暑いです。
真ん中にストーブが置いてあるようなもんなので、夏場はツラいです。
反面、冬場は暖かくて良いかも?
トラぶった時は手の届く場所にエンジンがあるので、
原因追求や応急処置の点で有利だと思います。
あと、エンジンの唸り声や振動もダイレクトに伝わってきます。
さすがはプリンスG型シリーズ、音質は自分のグロリアのG7とそっくりでした。
足元中央のスリットは走行風を導入するベンチレーターで、
運転席側のペダルを足で操作して開閉します。
助手席側の足元にある銀色のお鍋みたいなのはダルマヒーターで、
中央にプリンスのマークが刻まれた純正品です。
ただ、このダルマヒーターだけでは車内を万遍なく暖めることは無理そうなので、
どうやって暖房を効かせていたのか気になるトコロです。
デフロスターのダクト
巨大なフロント・ガラスに対して、これまた能力不足を疑わずにはいられない
小さなデフロスターのダクト(しかも一対のみ)。
しかしながら単なる吹き出し口ではなく、わざわざ別体式のグリルでカバーして
見映えを良くするあたりはプリンスらしい芸の細かさが光るポイントでもあります。
しかし、なんか見覚えがあるな~・・・
あ、コレだ
そう、グロリアのボンネット・ダクト形状と良く似ているのだ。
こういった小さなパーツひとつからも、徹頭徹尾「グロリアのバス」を目指したことが伝わってきます。
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今回は時間の都合上、短いドライブでしたがライトコーチに乗車でき感無量でした。
3年に渡る悲願が遂に叶いました。
車検付/ナンバー付の実働のライトコーチは現在の所、この1台のみでは無いかと思われます。
勿論、その存在を知られていない個体も在るかも知れません(願わくば在って欲しい)が、
そのサイズや用途故に個人所有の難しいマイクロバスでは多くを期待することは難しいです。
また、ライトコーチに関しては輸出が行われていたかどうかが不明なので、
やや大袈裟になりますが、日本国内で1台=世界で1台ということになります。
正規輸出で無くても、中古として輸出された可能性もあります。
広い世界のどこかで、半世紀前に造られたライトコーチが現存していることを願って止みません。
いずれにせよ、極めて希少な個体であることは確実です。
斯くの如し個体に身近に接することが出来る事を、
オーナーのプリンス654さんに感謝するばかりです。
次は秋、収穫を終えて聊かの時間が出来た頃合いに
グロリアとのランデヴー走行を企画しています。
今は亡きプリンス自動車が47年前に製造した2台のクルマが、
半世紀を経てこうして並ぶことに、ある種の特別な”何か”を感じ得ずには居られません。
