キ「あの、でか尻女めッ!」
とあるマンガは、そう、書綴った。
羨む視線が突き刺さり、山口百恵の‘プレイバックPart2’の歌詞になる程のステータス性。
年の功64歳、白髪交じりの近所の親父は、TOYOTAアリスト(車名)を目の前に自慢気に語った。
「コイツぁ、‘ポルシェ’にだって負けない。」
六本木を闊歩する、飲み屋のお姉さんは鼻高々にこう言う。
「‘ポルシェ’って、なんであんなに値段が高いのか全然理解出来な~い。」
“ポルシェ”・・・
この場合で言う‘ポルシェ’とは、1997年迄生産された空冷フラット6エンジンを後ろに搭載したポルシェの中のポルシェ、“ポルシェ911”を示す。
フェルディナント・ポルシェ‘博士’が作った、良くも悪くも様々なベンチマークとなり比較の対象として名のあがる非常に高価な名車の中の名車。
1964年。日本グランプリにて戦後の日本国民は熱狂した。
流線型のポルシェに対し、もっとも身近な箱形のスカイラインが速さを競って食らいついてゆく姿に。
日本製の戦闘機が、まさに、他国の戦闘機と戦っているかのような錯覚でもあったのだろうか。
ガチンコ勝負とはこのことだ。
そして、そのDNAは受け継がれ、歴史を理解している者達は、いまだに熱狂するのである。
1998年。ポルシェは伝統である空冷方式水平対向6気筒エンジンを捨て、量産とメンテナンスに優れた水冷エンジンとなり・・・
2002年。スカイラインも同じく、伝統の直列6気筒エンジンを搭載したスカイラインGT-Rの生産を終了した。
日産はフランスのルノーに買収され、スカイラインからGT-Rの冠をはぎ取られ・・・
ポルシェは水冷エンジン搭載車の販売利益が、過去最高を記録し・・・
互いに、トヨタに負けじと、収益取り合い合戦のパワーゲームへと突入した。
‘エコ’という名を“大義名分”に、‘リサイクル税’を取りつつ、コスト削減された蛍光灯のように使い捨てにする現代の車達・・・。
ポルシェ vs スカイライン
車好きにとっての一時代は、幕を閉じたと言っても過言ではない。
互いに我が身を削って、会社が倒産の危機に追い詰められるまで速さを競っていたあの頃の・・・
がむしゃらな戦いが好きだ。
他人や流行りには流されず、頑なに自分のスタイルを貫く・・・。
勇ましくもあり、格好が良いではないか。
そういう者達こそ、カッコイイではないか。
“自分というものをしっかりと持っている者”
こういう者達こそリスペクトに値する。
かのベンチャー企業の著名人は言った。
「日本で成功したいのなら、‘赤い輸入スーパーカー’だけには乗るな。」
と。
日本人は世界の人々に比べ‘ねたみ、ひがみ根性の強い人種’が多くいるという説である。
‘ねたむ、ひがむ’というのは、人として一番みっともなく、してはいけないこと。
‘人の不幸は蜜の味’の逆で‘人の成功はどくだみの味’とでも言うべきか。
非常に残念なことだが、身に覚えがある。
12年来の付き合いのある自動車修理屋さんは、ブラックの缶コーヒーを片手にニコニコしながら語った。
「ポルシェ買ったら友達がいなくなっちゃった、みたいなね。(笑)でも、乗ってみなければ絶対に分からない事がありますから。そう思ったら、もう、乗るしかないんですよ。」
“空冷ポルシェ911ターボ”程、‘乗り手を選び、人を見られる’車はないであろう。
経済的にも、精神的にも。
エンジンオイル量は約9.5㍑(一般の車は約4㍑)。1000k走って約1㍑燃焼してしまうので、追加しなければならない。
100%化学合成油4㍑缶、約¥10000円×2+α、が3000~5000kmごとに。
プラス、1000km走ったら、1㍑のエンジンオイルを足しながら走行しなければならない。したがって、1000kmごとにガソリン代以外にオイル代、約¥2000円。
自動車税、重量税、自賠責保険、任意保険の他に必要になってくるランニングコスト。
その上、ねたみや、ひがみや、‘陰口を叩かれること’を覚悟しなければならない。
まずは、“ポルシェに相応しい男”にならなければいけないのである。
キャラクターもしかり、ポルシェに乗っている位で自分の地位や生活が危うくなるようでは‘ポルシェ乗り’失格なのである。
カエルのような愛らしいデザイン。
「ガラガラガラ・・・」という、ハスキーなアイドリング。
唯一無二である、あの、乾いた、唸るような金属音のする空冷エンジンサウンド。
‘ポルシェを着る’とも喩えられる程、タイトでシンプルな内装。
「バチャッ!」っと開き、「バシャッ!」っと閉まる、ドアの開閉の音。
そしてなにより、‘後ろ姿’である。
‘恋い焦がれる気持ち’を忘れてはいけない・・・。
“恋い焦がれる気持ち”を忘れた瞬間から、歳をとってゆくのであろう。
幼少の頃に聞いた山口百恵の‘プレイバック’が、いまだに脳の中で轟き、プレイバックしている。
♪緑の中を走り抜けてく真っ赤なポルシェ 一人旅なの私気ままにハンドル切るの♪
スカイライン乗りに、‘非国民だ!’と言われようとも・・・
“真の侍スピリット”とは、“強さへの憧れ”であり、自分を曲げない鋼の意志・・・
何十年もの間、研究を続け、少しずつ進化をさせ、不利な条件を知りながらも、頑なに空冷エンジンにこだわり、フラッグシップとして作り続けたポルシェ。
口先だけのバトル、うんちくを吹き飛ばす、‘論より証拠’の、‘‘本物の走り’’。
これが出来る者にこそ、“空冷ポルシェ911ターボ”はふさわしい・・・。