2012年12月14日
第7話 出雲詣で
前話では松江温泉の高級旅館に入り、
大浴場へ行っているあいだに盗難事件に巻き込まれてしまいました。
私はタンクバックに洗面用具と着替えと貴重品を入れ風呂に持って行っていましたので
被害はクラウザーのパニアケースと着替えくらいでしたが、彼女は部屋の金庫に貴重品を入れ
鍵を荷物の中に入れていて、見事に全て持って行ってしまわれました。
第7話 出雲詣で
警察が来て盗難の捜査が始まった。
被害届も出さなければいけないそうだ。
被害にあった3つの部屋意外にも被害がないかを調べ、宿泊客全員の氏名と住所を聞くそうで、
ロビーに用意された「簡易取調室」に順番に呼ばれるということらしい。
私達の部屋は鑑識が来て捜査するということなので、大広間で待機させられていた。
時刻は20時になろうとしていた。
「服、全部持って行かれちゃった?」
「うん。お風呂に行く前に浴衣に着替えちゃったから・・・」
「あなたは?」
「僕は、浴衣が嫌いだから、着替えないで風呂にいってたから、かろうじてGパンと
ポロシャツがあるよ。それとジャージ」
「ジャージ?」
「そう。浴衣嫌いなんだ。だからジャージ」
彼女は笑った。
「お腹減ったね」
「そうね。この旅館、確かレストランが別であるはずだから食べに行きましょうか」
「この部屋出ていいのかな?」
「ちょっと聞いてきます」
彼女は旅館の人に声をかけ、何やら話している。
旅館の人の隣には警察官が立っている。
「だから、食事をさせて欲しいって言ってるんです!。もう8時過ぎてるんですよ。
みんなお腹がすいています!」
彼女が声を荒立てている。
私は彼女に走り寄った。
「どうしたの?」
「この部屋から出てはいけないっていうの」
彼女はまだ興奮している。
「まぁまぁ。お腹がすいてイライラしてるんでしょ。落ち着いて」
「被害者を拘束して食事も摂らせないなんて有り得ない」
「済みません。何か食べるものはないのですか?」
「いま、従業員も尋問を受けていまして」
「自販機に何かないのですか?」
「簡単なスナック類ならあります」
「警官と同行して、スナックとお茶でも出して頂けませんか?皆さん空腹だと思います」
警察官も納得したようで、別の警官を呼び、従業員が数名一緒にお茶とスナック類を
用意しに行った。
10分ほどして従業員がポット数本とお菓子類をもって帰ってきた。
それから1時間ほどが過ぎ、警官が被害者の尋問を始めた。
私と彼女が呼ばれてのは10時近くなってからだった。
「盗られてものをリストにしてくだいさい。服はメーカーや色も書いてください。」
なるほど時間がかかるわけだ。
私たちはできるだけ詳しく盗まれたもののリストを書いた。
「一番高価なものは何ですか?」
「私は現金です。」
「僕は、バッグです」
「バッグですか?」
「はい。ドイツ製のオートバイにつけるバックです。」
「お幾らする物ですか?」
「約10万円です」
「ドイツ製ですか。メーカーは・・・クラウザーですね」
「はい。」
警官は無線で連絡して何やら話している。
10分ほどすると別の警官が現れた。なんとクラウザーのトップケースを手にしてい
る。
「これですか?」
「多分そうだと思います。鍵を合わせてみればわかります。」
私は警官に鍵を渡した。
鍵は合い、私のものと判明したが、指紋を採取するということなので私の指紋と彼女
の指紋が比較のため採取された。
解放されたのは11時を過ぎ。部屋も捜査のあとを色濃く残している。
寝室には既に布団が敷かれ、寝る準備は整っているが、空腹で寝るに寝れない。
外出するにも彼女は浴衣しかない・・・。
彼女は袖と裾をめくり私のジャージを着た。
「なんで私がジャージなの?そっちかしてよ」
「似合ってるよ」
私は笑いながら言った
旅館の人に近くになにかないかを尋ねると、居酒屋が歩いていける距離にあるというので、
そこに向かった。
こうしてやっとまともな夕食を摂り、午前1時過ぎに就寝した。
翌日。朝食の用意ができたとの事で大広間に行くと、大女将が私たちを出迎えた。
「昨日は大変ご迷惑をおかけしました。本日のご予定は?」
「はい。出雲大社へお参りして行こうかと思っています」
「ご宿泊は?」
「特に予定していません。」
「私共をご利用いただけないでしょうか?」
「申し訳ないですが、持ち合わせが・・・」
「昨日の分も含めて、お代をいただくつもりはありません。どうぞご利用くだ」
「いいじゃない。そうしましょうよ」
彼女は当然であるような口調で申し出を受け取り、連泊する事となった。
朝食を済ませ、松江の街へ出かけた。彼女は私の服を着ている。当然ブカブカ。
私はジャージ・・・。
先ずは松江警察に盗難届けの受理書を取りに行き、クレジットカードの再発行手続きする事にした。
私は学生でしたが、前年までの2年間を海外に留学していたのでクレジットカードを持ち合わせていた。しかし国内での限度額は学生ということもあり非常に低い。
彼女が契約しているクレジットカード会社の松江支店に行き、再発行手続きをすると、事情を考慮してくれ、即時再発行してくれた。
次に服を買いにデパートへ出かけた。
松江には一畑という地元老舗デパートが駅前にあった。当時松江にはこのデパートしかなかった。
「あと何日くらいで福岡につくの?」
「そうね。松江から福岡まで約450Kmだから、まる1日走ればつくかな」
「どこにも寄らないの?」
「今日は松江に泊まるでしょ。まぁ、距離的には走れるけど、萩あたりで一泊したいかな」
「萩、津和野の萩?」
「そうだよ。」
「私、萩は行ったことある」
「そう。じゃあ、今日泊まったら一気に走っちゃおうか」
「そうね。じゃあ二日分もあれば良いかしらね」
彼女は婦人服売り場でお気に入りを探すべく動き始めた。
私は、東京までの帰りを考え、5日分の下着と靴下、TシャツとかえのGパンを買った。
買い物を済ませ、婦人服売り場に戻ると、彼女はまだ何も買っていない。
「どうしたの?」っと声をかけたが「何が?」っと。
私は女性の買い物に付き合うのは初めてであったが、この日以来今日に至るまで買い物に付き合うことを避けるようになった。
洋服、下着、化粧品・・・一通り買い揃えると、着替えに旅館にり、出雲大社に向かった。
距離にして50Kmほど。宍道湖の北岸を1時間弱走り、出雲大社についた。
大社の周辺は駐車場に入るための渋滞がおきていた。
3時過ぎに駐車場に入りバイクを止めた。駐車場から大社には表参道を通らないで行けるのだが、彼女が表参道を通りたいというので、階段を上り、表参道から入ることにした。
週末でもあったので観光バスでお参りに来る人も多く、ガイドが表参道の説明をしていた。
「両脇にある松と松の間をご覧下さい。少しくぼんでいますね。これは10月にここ出雲大社を訪れる八百万の神がお座りになるためくぼんでいます。10月は通常「神無月」と言いますが、ここ出雲では「神在月」といいます」
ガイドの言葉に感心しながら表参道を進み、本殿まできた。
見たこともないような大きなしめ縄が飾られ、しめ縄から垂れ下がる部分に、よく見るとコインが挟まっている。
「しめ縄の垂れにコインが挟まると、必ず結ばれると言われています」
さすが縁結びで有名な出雲大社。
財布がない彼女は私に小銭をよこすように促すので、ありったけの小銭を渡した。
彼女はそれを一度に全てしめ縄の垂れにめがけて投げた。
出雲詣でを済ませ、参道の前にある出雲そば屋に入り遅い昼食をとった。
昼食を済ませ、松江に戻る。
宍道湖の南岸は国道9号線で、渋滞が予想されてので、来た時と同じ北岸を通り松江に戻ってきた。
旅館に戻ると下足番が「おかえりなさい」っと声をかけてくれた。
「このバイク、なんCCですか?」
「1100よ」
彼女は笑いながら言った。
「私たちね、北海道から走ってきたの」
「へぇー。北海道から。そりゃおどろいた」
バイクを軒先に止めると、彼女は下足番と楽しそうに話している。
「なにかいい事でもあったんですか?」
「ええ」
彼女は満面の笑みを浮かべた。
玄関に入り、ライディングブーツを脱ぎ、部屋に戻る。
「いいことあったの?」
「うん」
「なに?」
「ないしょ」
第8話に続く
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Posted at
2012/12/14 11:51:45
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