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GSX-R1100_kissのブログ一覧

2012年12月21日 イイね!

第8話 帰宅

さて、前話では所持金に不安がありましたが、大女将の特別の配慮があり、宿泊費が浮き、その上連泊。出雲大社へお参りに行きました。
旅も大詰め。
今回は彼女の家に着きます。
彼女の心境、私の心境、複雑でした。(笑)

第八話 帰宅

宿に戻ると、すぐに夕食の連絡が来た。昨日は宿で夕食が摂れなかった。
ガイドブックによると、この宿は食事が評判らしい。昼食が遅かったので余り空腹でいし、
夕食の前に風呂にも入りたかったので、一番遅い時間をお願いした。
部屋にある露天風呂に私が先に入った。かけ流しの宍道湖が見渡せる露天風呂。
夕日に染まる宍道湖を眺めながら堪能した。彼女が風呂に入っているあいだに、
夕食の支度をしに仲居さんが来てくれた。

「あら、夕飯の支度が出来てる」
「さっき仲居さんが来てくれたよ」
「ここの食事、結構評判なんだって」
「知ってるわよ。」

彼女は笑って言った。
私は彼女が風呂から出るのを待って、フロントに電話をし、夕食の配膳を頼んだ。
お膳には前菜だけ用意されており、連絡を受けてから温かいものを出してくれるという。
次々と料理が運ばれて、テーブルは料理でいっぱいになった。どれも和の極みを尽くした料理で、
京風の味付けがされ、美味であった。

食事を終えると、散歩に行きたいというので、宍道湖の湖畔に出かけた。
日も暮れ、湖畔には涼しい空気が心地よく吹いている。湖畔には遊歩道があり、
浴衣で散歩を楽しんだ。私は浴衣が嫌いだからジャージでと言ったが、
彼女に無理矢理浴衣を着させられてしまった。

「明日、福岡に着く?」
「はい。夜になると思うけど」
「・・・そう」

彼女はうつむいていた。

「出会ったのが7月30日。今日が8月30日だから丁度一ヶ月ね」
「そうだね」
「一ヶ月間、ずっと一緒だったのね」
「そうですね。実家にいるときも同じ部屋だったから、本当にずっと一緒だ」

私は笑った。

「一ヶ月ってこんなに早いものなんですね」
「そうですね」
「私、変わった?」
「え?なんで?」
「いえ。なんでもない」
「どうしたの?」
「福岡に帰ったら話します」

翌朝、朝食を済ませ出発。幸いなことにクラウザーは帰ってきたのでパニアケースに荷物を入れ装着。エンジン始動。暖気の間、下足番と会話をして、旅館の方が見送る中を出発。

夏休み最終日。松江市内を抜け9号線で西に向かった。一桁国道で交通量も多く、
ペースは上がらなかったが、出雲市を過ぎると流れが良くなり、1時間弱で日本海沿いに出た。
しばらく日本海側を走り、昼を少し回ったところで浜田に到着。昼食を摂った。
昼食時に、益田から先の経路をどうするか、彼女と話し合った。

益田で、9号線を選択すると山口に向かい瀬戸内に出て2号線で下関。
191号線を選択すると、やや遠回りになるが、日本海側を萩を経由して下関。

「福岡に着くのは何時頃になりそう?」
「そうですねぇ。順調に行って、関門海峡までが200kmくらいだから、4、5時間かな。門司から福岡までが90kmくらいだから、2時間。合わせて8時間くらいかな。だから8時か9時頃だと思う」
「そんなに遅くならないなら、海沿いを行きたいな」
「OK。191号線で行こう」

コースが決まり一路下関を目指し走り出した。増田には30分ほどで到着。
予定通り191号線に入り、日本海側を西に。会話は少ない。寝ているわけでもなさそうだ。
彼女はただ、私に寄り添い、海を眺めて黙っている。GSX-Rに比べ前傾が少ないので、
彼女が私に寄り添う必要はないのであるが、彼女の鼓動を感じるくらい彼女は私に寄りかかっていた。

2時半を少し過ぎたあたりで萩に到着。休憩を取った。古民家風の喫茶店に入り、コーヒーを飲んだ。
ここでも会話は少ない。いつもは柔かな彼女が俯き加減でため息をついている。

「どうしたの?」
「・・・」
「体の調子でも悪いの?」
「いえ。大丈夫よ。さっ、行きましょ」

彼女は笑顔を見せた。

30分ほど休憩をとり、萩を出発した。長門から少しだけ山間に入り、また日本海にでて海沿いをひたすら西へ。やはり彼女は黙ったまま。

5時を回って下関についた。当時、高速2輪の二人乗りが禁止されていたので、
関門トンネルを抜けて九州入りするのであるが、関門トンネルも二人乗りが制限されていた。
彼女は人道トンネルを通り800m歩いて九州入り。
トンネルを抜けて人道トンネルの出口で彼女を待つことになった。
15分間の別行動。知り合ってから一ヶ月になるが、この一ヶ月間で別行動をしたのは、
私の実家で彼女が私の母と買い物に出かけた時をのみで、ずっと一緒だった。
すごく不思議な感覚になった。

九州に入り、人道トンネルの出口で彼女を待つこと15分。
彼女は手を振りながらバイクに駆け寄ってきた。ヘルメットを冠りタンデムシートに腰を下ろすと、
「しゅっぱーつ」と声を掛けた。3号線を福岡に向けて走り出した。

彼女は打って変わってよくしゃべる。

「私ね、唐戸市場はよく遊びに来てたから、この道はよく通ってたの。
国道は混んでるから裏道を使いましょ」
「僕は九州は初めてだから道も地名もわからないよ」
「大丈夫。私がガイドするから」

小倉まで3号線を走り、小倉からは山の中を走った。
現在は福岡に数年住んでいたので、どこを走ってきたか理解できるが、
当時は方角も地名もわからず、どこを走っているのか全くわからなかった。
距離的には80Kmほどあるのだが、非常にスムーズに走ることが出来、途中でコンビニにより休憩をとったが、ほぼ予定の時間に彼女が住む街まで走ることが出来た。彼女は福岡の中心地からやや西寄りの大濠公園の近くのマンションに住んでいた。午後9時。到着。
一ヶ月間の旅が終わり、彼女は帰宅した。

次回最終話 「旅の終わり」 に続く
Posted at 2012/12/21 15:28:23 | コメント(3) | トラックバック(0) | 企画もの | その他
2012年12月14日 イイね!

第7話 出雲詣で

前話では松江温泉の高級旅館に入り、
大浴場へ行っているあいだに盗難事件に巻き込まれてしまいました。
私はタンクバックに洗面用具と着替えと貴重品を入れ風呂に持って行っていましたので
被害はクラウザーのパニアケースと着替えくらいでしたが、彼女は部屋の金庫に貴重品を入れ
鍵を荷物の中に入れていて、見事に全て持って行ってしまわれました。


第7話 出雲詣で

警察が来て盗難の捜査が始まった。
被害届も出さなければいけないそうだ。
被害にあった3つの部屋意外にも被害がないかを調べ、宿泊客全員の氏名と住所を聞くそうで、
ロビーに用意された「簡易取調室」に順番に呼ばれるということらしい。
私達の部屋は鑑識が来て捜査するということなので、大広間で待機させられていた。
時刻は20時になろうとしていた。

「服、全部持って行かれちゃった?」
「うん。お風呂に行く前に浴衣に着替えちゃったから・・・」
「あなたは?」
「僕は、浴衣が嫌いだから、着替えないで風呂にいってたから、かろうじてGパンと
ポロシャツがあるよ。それとジャージ」
「ジャージ?」
「そう。浴衣嫌いなんだ。だからジャージ」

彼女は笑った。

「お腹減ったね」
「そうね。この旅館、確かレストランが別であるはずだから食べに行きましょうか」
「この部屋出ていいのかな?」
「ちょっと聞いてきます」

彼女は旅館の人に声をかけ、何やら話している。
旅館の人の隣には警察官が立っている。

「だから、食事をさせて欲しいって言ってるんです!。もう8時過ぎてるんですよ。
みんなお腹がすいています!」

彼女が声を荒立てている。
私は彼女に走り寄った。

「どうしたの?」
「この部屋から出てはいけないっていうの」

彼女はまだ興奮している。

「まぁまぁ。お腹がすいてイライラしてるんでしょ。落ち着いて」
「被害者を拘束して食事も摂らせないなんて有り得ない」
「済みません。何か食べるものはないのですか?」
「いま、従業員も尋問を受けていまして」
「自販機に何かないのですか?」
「簡単なスナック類ならあります」
「警官と同行して、スナックとお茶でも出して頂けませんか?皆さん空腹だと思います」

警察官も納得したようで、別の警官を呼び、従業員が数名一緒にお茶とスナック類を
用意しに行った。
10分ほどして従業員がポット数本とお菓子類をもって帰ってきた。

それから1時間ほどが過ぎ、警官が被害者の尋問を始めた。
私と彼女が呼ばれてのは10時近くなってからだった。

「盗られてものをリストにしてくだいさい。服はメーカーや色も書いてください。」

なるほど時間がかかるわけだ。
私たちはできるだけ詳しく盗まれたもののリストを書いた。

「一番高価なものは何ですか?」
「私は現金です。」
「僕は、バッグです」
「バッグですか?」
「はい。ドイツ製のオートバイにつけるバックです。」
「お幾らする物ですか?」
「約10万円です」
「ドイツ製ですか。メーカーは・・・クラウザーですね」
「はい。」

警官は無線で連絡して何やら話している。
10分ほどすると別の警官が現れた。なんとクラウザーのトップケースを手にしてい
る。

「これですか?」
「多分そうだと思います。鍵を合わせてみればわかります。」

私は警官に鍵を渡した。
鍵は合い、私のものと判明したが、指紋を採取するということなので私の指紋と彼女
の指紋が比較のため採取された。

解放されたのは11時を過ぎ。部屋も捜査のあとを色濃く残している。
寝室には既に布団が敷かれ、寝る準備は整っているが、空腹で寝るに寝れない。
外出するにも彼女は浴衣しかない・・・。
彼女は袖と裾をめくり私のジャージを着た。

「なんで私がジャージなの?そっちかしてよ」
「似合ってるよ」
私は笑いながら言った

旅館の人に近くになにかないかを尋ねると、居酒屋が歩いていける距離にあるというので、
そこに向かった。
こうしてやっとまともな夕食を摂り、午前1時過ぎに就寝した。

翌日。朝食の用意ができたとの事で大広間に行くと、大女将が私たちを出迎えた。

「昨日は大変ご迷惑をおかけしました。本日のご予定は?」
「はい。出雲大社へお参りして行こうかと思っています」
「ご宿泊は?」
「特に予定していません。」
「私共をご利用いただけないでしょうか?」
「申し訳ないですが、持ち合わせが・・・」
「昨日の分も含めて、お代をいただくつもりはありません。どうぞご利用くだ」
「いいじゃない。そうしましょうよ」

彼女は当然であるような口調で申し出を受け取り、連泊する事となった。
朝食を済ませ、松江の街へ出かけた。彼女は私の服を着ている。当然ブカブカ。
私はジャージ・・・。
先ずは松江警察に盗難届けの受理書を取りに行き、クレジットカードの再発行手続きする事にした。
私は学生でしたが、前年までの2年間を海外に留学していたのでクレジットカードを持ち合わせていた。しかし国内での限度額は学生ということもあり非常に低い。
彼女が契約しているクレジットカード会社の松江支店に行き、再発行手続きをすると、事情を考慮してくれ、即時再発行してくれた。
次に服を買いにデパートへ出かけた。
松江には一畑という地元老舗デパートが駅前にあった。当時松江にはこのデパートしかなかった。

「あと何日くらいで福岡につくの?」
「そうね。松江から福岡まで約450Kmだから、まる1日走ればつくかな」
「どこにも寄らないの?」
「今日は松江に泊まるでしょ。まぁ、距離的には走れるけど、萩あたりで一泊したいかな」
「萩、津和野の萩?」
「そうだよ。」
「私、萩は行ったことある」
「そう。じゃあ、今日泊まったら一気に走っちゃおうか」
「そうね。じゃあ二日分もあれば良いかしらね」

彼女は婦人服売り場でお気に入りを探すべく動き始めた。
私は、東京までの帰りを考え、5日分の下着と靴下、TシャツとかえのGパンを買った。
買い物を済ませ、婦人服売り場に戻ると、彼女はまだ何も買っていない。
「どうしたの?」っと声をかけたが「何が?」っと。
私は女性の買い物に付き合うのは初めてであったが、この日以来今日に至るまで買い物に付き合うことを避けるようになった。
洋服、下着、化粧品・・・一通り買い揃えると、着替えに旅館にり、出雲大社に向かった。
距離にして50Kmほど。宍道湖の北岸を1時間弱走り、出雲大社についた。
大社の周辺は駐車場に入るための渋滞がおきていた。
3時過ぎに駐車場に入りバイクを止めた。駐車場から大社には表参道を通らないで行けるのだが、彼女が表参道を通りたいというので、階段を上り、表参道から入ることにした。
週末でもあったので観光バスでお参りに来る人も多く、ガイドが表参道の説明をしていた。
「両脇にある松と松の間をご覧下さい。少しくぼんでいますね。これは10月にここ出雲大社を訪れる八百万の神がお座りになるためくぼんでいます。10月は通常「神無月」と言いますが、ここ出雲では「神在月」といいます」
ガイドの言葉に感心しながら表参道を進み、本殿まできた。
見たこともないような大きなしめ縄が飾られ、しめ縄から垂れ下がる部分に、よく見るとコインが挟まっている。
「しめ縄の垂れにコインが挟まると、必ず結ばれると言われています」
さすが縁結びで有名な出雲大社。
財布がない彼女は私に小銭をよこすように促すので、ありったけの小銭を渡した。
彼女はそれを一度に全てしめ縄の垂れにめがけて投げた。
出雲詣でを済ませ、参道の前にある出雲そば屋に入り遅い昼食をとった。

昼食を済ませ、松江に戻る。
宍道湖の南岸は国道9号線で、渋滞が予想されてので、来た時と同じ北岸を通り松江に戻ってきた。
旅館に戻ると下足番が「おかえりなさい」っと声をかけてくれた。
「このバイク、なんCCですか?」
「1100よ」
彼女は笑いながら言った。
「私たちね、北海道から走ってきたの」
「へぇー。北海道から。そりゃおどろいた」

バイクを軒先に止めると、彼女は下足番と楽しそうに話している。

「なにかいい事でもあったんですか?」
「ええ」
彼女は満面の笑みを浮かべた。

玄関に入り、ライディングブーツを脱ぎ、部屋に戻る。
「いいことあったの?」
「うん」
「なに?」
「ないしょ」

第8話に続く









Posted at 2012/12/14 11:51:45 | コメント(2) | トラックバック(0) | 企画もの | 日記
2012年12月05日 イイね!

第6話 あれ?

緊急速報でもお知らせしましたが、約20年ぶりに彼女が書いた日記が発見されました(笑)
ネタ帳は(ツーリング日記)は全部で9冊ありますが、(私が全国制覇ツーリングを行っていたときの日記)いま紹介しているエピソードは1冊目に記録してあります。
年毎に新しいノートを作っていたので、毎年新しいノートにしてました。ですから、ノートを全部使い切る事はなく、大体2/3程は残ってしまいました。
彼女は後ろから書き始めていました。しかし、20年の歳月を経て見つけるとは・・・。
みんカラにブログを上げなかったらいつ見つけたのか・・・。

さて、前回の続き。電気を消してからは、みなさんの想像にお任せします(笑)
ちなみに私の日記に彼女と話て電気を消したあとは何も記載がなく、その日が終わっていましたが、
彼女の日記には、あの日の心情ということで色々書かれていました。


第6話 あれ?
昨日は鳥取砂丘を目指して走っていたが、貫徹のライディングで15時に居眠り運転を始めてしまい、彼女に強制的にピットインさせられてしまった。
国道178号線の砂丘まで15Km程のところで宿泊。

「よく眠れました?」
「うん。よく眠れたよ。君は?」
「今日はどうするの?」
「先ずは砂丘。それから出雲大社なんてどう?」

彼女は地図を見ながら

「宍道湖とか、玉造温泉は?」
「出雲大社に行く途中だから寄れると思うよ。ここから出雲大社までは200Kmないくらいだから」

時間は9時を回ろうとしていた。
まだ爽やかだが8月終わりの暑い日差しが照りつけていた。
荷物をまとめパニアケースに入れ、バイクに取り付けてホテルを出た。
目の前は日本海。
海岸線を30分も走ると鳥取砂丘に到着した。
人が多い。
夏休み最後の週末とあって、観光客が沢山訪れていた。

砂丘のドライブインにバイクを止め、道路をは挟んだ反対側の砂丘へ歩いた。
彼女は険しい顔をしている。
イメージと違ったらしい。
観光客を載せるラクダが引く車に、砂山にはリフトがかかっている。

「なんか、違いますよね。これなら沖縄のビーチの方が綺麗」
「まぁ、せっかく来たんだから、少し散歩でもしましょう」

私はライディングブーツを脱いで裸足になると、彼女も靴を脱いで裸足になった。
波打ち際を1時間ほど散歩して11時前にバイクに戻ってきた。

砂丘から鳥取空港方面へ向かい国道9号線を西に向かって走る。
週末の海沿いの道は混み始めていた。
交通量が多く、思ったほど距離が伸びない。
時刻は1時近くなり、羽合のドライブインで昼食をとった。

「今日は玉造温泉に泊まらない?」
「いいですよ。でも週末で宿取れるかなぁ」
「コンビニで山陰のガイドブック買ったの」
「いつ?」
「さっきトイレによってくたでしょ。その時」
「それで、玉造温泉入りたくなったんだ」
「日本屈指の美肌の湯ですって」
「美肌ねぇ。それは入っておかないとね」
「どういう意味ですか?」

彼女ははしゃぎながら笑顔でそう言った。

食事が終わり、バイクに戻り彼女が買ったガイドブックを手に公衆電話へ向かった。
夏休み最後の週末。しかも玉造温泉はかなりメジャーな温泉だ。
当日予約は容易いことではなかった。
リーズナブルなところから電話をかけていったのだが、どこも満室。
13時過ぎの時間帯。夕食を旅館で取るにはそろそろ時間的に限界に近い。

「ここでもいい?」
「え・・・・僕、学生ですから、お金に余裕が・・・」
「お金の事は気にしないで。私が出すから」
「でも、いくらなんでもその値段は」

彼女は宍道湖に面した超高級旅館を指差していた。

「まだ取れると決まったわけじゃないし、とりあえず電話してみますね」

彼女は高級旅館に電話をした。

「今夜なんですが、夕食付きで大人二人、お世話になれませんか」

彼女は宿の人と何やら話している。
「はい。」
「そうなると一泊おいくらですか?」
「ではそれでお願いします」
「オートバイで行きます」
「いま羽合です。」
「はい。3時ですね」
「ではお伺いします」

電話をおいて彼女は微笑んだ

「予約できました。ここへ向かってください」

場所は宍道湖の湖畔、松江温泉。
羽合から80Km程。時間的には4時頃到着できる。
13時半。羽合のドライブインを出発。
大仙を左手に見ながら夏の日本海沿いを走った。
午後になり、朝よりは交通の流れがよく、スムーズに走ることが出来た。
米子まで1時間ほどでついた。
時間に余裕ができたので、9号線を離れ境港を経由して松江に向かうことにした。
境港で街を散歩して、431号線で松江に向かった。

「立派な旅館だなぁ」

車寄せにバイクで入るのを一瞬躊躇したが、押していくわけにもいかないので、玄関まで彼女を乗せたまま
車寄せに入った。
純和風とモダンさが融合した重厚な作りの玄関には下足番がいる。

サイドスタンドを立てバイクを止めると、下足番が「お泊りですか」と声をかけてきた。
彼女は「はい。予約してあります」っとヘルメットを脱ぎながら答えた。
「旦那さん、バイクはここへ止めてください」
玄関の軒先で雨露を防げるところだった。
「おっきいバイクですね」
どうやら下足番はバイク好きであるようだった。

バイクを止めクラウザーのケースを外し、旅館に入ると、彼女はチェックインを済ませていた、
仲居さんが走ってきて、私が抱えていたヘルメットとパニアケースを持って、部屋に案内をしてくれた。
「こちらになります」
大仙と言う部屋の名前らしい。
中に入ると、10畳の部屋と8畳のニノ間付きの、宍道湖が見渡せる部屋だった。
「お風呂はそちらに露天風呂が。お食事は18時ころこちらの部屋にご用意させていただきます。大浴場もございますので、どうぞご利用ください。では」

彼女はいつものようにお茶を入れてくれた。

「大浴場で両手両足を伸ばしてお風呂に入ってこよう」

彼女は笑いながら風呂の支度をしている。
私も支度をして、二人で大浴場に向かった。

「夕食が18時からだから、55分に出てここで待ってるよ」
「うんわかった。じゃ後でね」

17時45分、私は大浴場の前に用意された休憩スペースで扇風機に吹かれていた。
彼女も50分に出てきた。

「部屋で冷たいビールでも飲みましょ」
「いいね!」

部屋に戻ると、違和感を感じた。
彼女は備え付けの冷蔵庫から瓶ビールとコップを取りだし、テーブルで注いでいる。

「ねぇ、部屋、おかしくない?」
「なんで?」
「あ!荷物が無い。ここにパニアケースと僕たちの荷物があったはずなのに!」
「仲居さんが片付けてくれたんじゃないの?」

クローゼットを開けるとライディングウエア2着とヘルメット2つが並んでいる。

「ほら、あるじゃない」
「違うよ。バイクにくっつけるケースが無い。僕たちの着替えとかが入っているカバンも!」
「貴重品は入っていたの?」
「いや。着替えだけ。君は?」
「私も着替えだけよ。貴重品は金庫に入れて鍵してある」
「鍵は?」
「あ!荷物の中!」
「とにかくフロントに電話してみよう。」

フロントから慌てて旅館の人が現れ、私達の両隣の部屋にも声をかけた。
なんと、軒並み盗みにあっていた。
金品を物色したというより、手当たり次第全部もって行ったようだ。

「こんな高級旅館なのに、物騒ね」
「金庫、開けられるって?」
「予備キーがあるって」

予備キーで金庫を開けてもらうと、中は空。やはり持って行かれていた。

「あなたお金持ってる?」
「え?あんまりないよ」
「いくらあるの?」
「4万円位かなぁ」

私は財布の中身を見せた。

「一人分もないのね」
「え?そんな値段だった?」
「あの部屋、特別室なのよ。そこしか空いてなかったから」
彼女は笑っていた。

第7話に続く
Posted at 2012/12/05 02:31:52 | コメント(3) | トラックバック(0) | 企画もの | その他
2012年12月02日 イイね!

緊急速報

現在連載中の90年代前半に私が体験したツーリングでの出来事も、残すところあと2話になりました。
タンデムのツーリングはあと2日で終わってしまいます。
しかし、二人の時間はもう少しだけ続きました。
彼女を家に送り届け、その後2日間程を私は九州で過ごすことになるのですが、彼女の車で日帰りドライブをしました。

私のツーリングレポートは、九州からの帰りは小倉からフェリーに乗ったので、フェリーに乗船した時点でレポートは終わっています。
私の記憶もフェリーで終わっているのですが、ブログを書くために、先ほど日記を読み返していたら、
日記の後ろの方のページに何やら日付と日記らしきページを見つけました。

私も今始めて目にする、彼女が書いたドライブの日記です。
まだ読んでません。

これから読んでみます。(笑)


Posted at 2012/12/02 12:46:48 | コメント(1) | トラックバック(0) | 企画もの | その他
2012年11月28日 イイね!

第5話 ソウルメイト

第4話で貫徹で走りましたが、15時過ぎに居眠り運転(バイクですよ(笑))
危険を感じ、彼女が「休憩」を強要(笑)
真夏のビーチ沿いのホテルに「休憩」に入りました。
半分意識が既に夢の中でした。
第5話のためにネタ帳(当時のツーリング日記)を読み返すと、なんと4ページも書いていました。
そこには彼女の直筆でコメントも書いてありました。
読んでいて思わず当時の事を色濃く思い出してしまいました。
さて、第5話、今回は走りません。ホテルでの出来事を(笑)


第5話 ソウルメイト

彼女はいつものように備え付けのお茶を入れてくれ、私は飲み終わるとほぼ同時にベッドに倒れ込んでしまった。予定では鳥取砂丘で夕日を観る予定だったが、鳥取砂丘まで15キロほど東の兵庫県との県境あたりで力尽きてしまった。ホテルは海沿いにあり、砂丘ではないが夕日は見ることができたらしい・・・。
私は夢の中だったが。

一眠りして砂丘へ行くつもりだったのだが、私が目を覚ましたのは20時を過ぎたあたり。
ぐっすり寝いってしまった。
彼女はテレビを見ていた。

「おはよう。よく寝れました?」
「はい。夕日、すみません・・・。」
「明日も見られるでしょ。」
「そうですが・・・」
「お腹すきませんか?私はペコペコ」

彼女は笑った。
既にフロントへ電話で「休憩」から「宿泊」に切り替えて、デリバリーのメニューをもらっていた。

「何たべる?色々選べますよ」
「へぇ。出前がくるんだぁ」
「お寿司、中華、ピザ、色々ありますよ」
「せっかく海の前にいるんだから、お寿司がいいんじゃなかな。」
「そうね」

注文の電話をして15分ほどで寿司が来た。
この早さには二人共驚かされた。
近くに人家らしきものはないので結構時間がかかると予想していたからだ。
ドアを開き寿司桶を受け取り精算を済ませたのだが、お釣りを取りに車に戻ったとき
寿司屋の車のボンネットに大きな文字が見えた。

「出前迅速!」

寿司をつまみながら寿司屋の車の話をすると、彼女は大笑いしていた。
食事を終え、TVを見ながら、お茶を飲んでいると、彼女が話し始めた。

「もうすぐ九州でしょ?」
「そうですね。明日か明後日には福岡に着きます」
「ひとつ聞いていい?」
「何ですか?」
「確か25歳よね。大学卒業できなかったの?」
「あれ?大学院の博士課程って言いませんでしたっけ」

彼女は私が学生とは認識していたが、学部の学生で4年間で卒業できず、未だに通っていると思っていたらしい。

「そう。こんな感じで、私はあなたのことを何も知らないの。どんな過去を過ごして、どんな未来を過ごしたいのか教えてくれる?」

いつもなら微笑んでいる彼女だが笑っていない。

「分かりました。」

私は私の思い出を話した。
子供の頃はやんちゃだったこと。
高校で大病を患い死にかけたこと。
国立大学に行くしか道がなかったこと。
サッカーとバイクレースに夢中なこと。
中学の同級生だった婚約者が3年前に死んだこと。
大学院に進学して、物理学者を目指していること。

2時間以上話していたが、彼女は自分のことのように耳を傾けてくれた。
婚約者が病死した話の時は涙を流してくれた。
死んだ婚約者の話を他人にするのは初めてのことだった。

「ありがとう。いろんなことがあったのね。そんな辛い経験をしてるのに・・・。私なんて些細なことだったのかもしれない」

今度は彼女が話してくれた。

沖縄のこと。
福岡に出てきた訳。
医療の道に進んだこと。
職場のこと。
不倫のこと。

彼女の退職の理由は上司との不倫だった。
離婚を前提に付き合い始めて、結局相手の家族を巻き込んでの泥試合になったしまったことを話してくれた。

「男女の事は僕にはわかりません。でも、一人が悪いなんてありえない。」
「あなたは学者だから論理的に物事を考えるのね。でもね・・・。」

彼女は話し始めてからやっと笑顔を見せた。

「でもね、論理的に説明がつかないことも沢山あるでしょ。例えば私達。」

確かに論理的に説明は不可能だった。
彼女はまたお茶を入れて、風呂に湯を張りにいった。
私はベッドに横になり両手を頭のしたに敷いて天井を眺めていた。
彼女は私の腕を伸ばし、私の腕を枕にして寄り添うように横になった。

「なにを考え込んでいるの?」
「うーん・・・」
「なぁに?」
「正直に言うよ」
「うん」
「君を抱くかどうか・・・」
「・・・私は・・・」
「僕は、今にも理性を失いそうだよ。でも・・・」
「私はそんな価値ない?」
「そうじゃないよ。ここで君を抱くと、僕は君の感情に付け込んでいるような気がして・・・」
「いいんじゃない」「え?」「いいのよそれで。無理矢理じゃないし。私はそれを望んでるかもしれないでしょ」
「そうなの?」
「どうでしょうねぇ」

彼女はクスクス笑いながら風呂へ入りに行った。
交代に風呂に入り、私が風呂から出ると、彼女はベッドでTVを見ていた。
私もベッドに入りTVを見ようと思ったのだが、彼女が電源を切り部屋の明かりを消した。
彼女は服を着ていなかった。

「ここまでしてもあなたは私を抱かないでしょ」

彼女が笑った。

「私達、ソウルメイトね」
「ソウルメイト?」
「そう。ソウルメイト」

第6話に続く
Posted at 2012/11/28 11:06:43 | コメント(6) | トラックバック(0) | 企画もの | その他

プロフィール

「買ってしまった(笑) http://cvw.jp/b/1495722/47174696/
何シテル?   08/26 13:31
GSX-R1100_kissです。よろしくお願いします。 車はアウディTTクーペコンペティション バイクは09ハヤブサに乗ってます。 いじるのも好...
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2021/05/21 00:19:16
ドラマチックツーリング 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2019/06/01 03:45:36
再開しまーす(笑) 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2019/06/01 02:36:01

愛車一覧

アウディ TT クーペ TT君Ⅱ (アウディ TT クーペ)
2013年6月21日納車! 2014年3月10日現在で12600km走行。
スズキ GSX1300R HAYABUSA (ハヤブサ) 零号機 (スズキ GSX1300R HAYABUSA (ハヤブサ))
2013年1月12日納車 中古で9300km走行していたものを購入。 2014年10月 ...
スズキ GSX-R1100 初号機 (スズキ GSX-R1100)
新車で91年に購入 現在走行距離16万オーバー 現役です 2015年9月某日。メーター2 ...
ポルシェ 911 ポルポル (ポルシェ 911)
いい感じだった。

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