2012年12月21日
第8話 帰宅
さて、前話では所持金に不安がありましたが、大女将の特別の配慮があり、宿泊費が浮き、その上連泊。出雲大社へお参りに行きました。
旅も大詰め。
今回は彼女の家に着きます。
彼女の心境、私の心境、複雑でした。(笑)
第八話 帰宅
宿に戻ると、すぐに夕食の連絡が来た。昨日は宿で夕食が摂れなかった。
ガイドブックによると、この宿は食事が評判らしい。昼食が遅かったので余り空腹でいし、
夕食の前に風呂にも入りたかったので、一番遅い時間をお願いした。
部屋にある露天風呂に私が先に入った。かけ流しの宍道湖が見渡せる露天風呂。
夕日に染まる宍道湖を眺めながら堪能した。彼女が風呂に入っているあいだに、
夕食の支度をしに仲居さんが来てくれた。
「あら、夕飯の支度が出来てる」
「さっき仲居さんが来てくれたよ」
「ここの食事、結構評判なんだって」
「知ってるわよ。」
彼女は笑って言った。
私は彼女が風呂から出るのを待って、フロントに電話をし、夕食の配膳を頼んだ。
お膳には前菜だけ用意されており、連絡を受けてから温かいものを出してくれるという。
次々と料理が運ばれて、テーブルは料理でいっぱいになった。どれも和の極みを尽くした料理で、
京風の味付けがされ、美味であった。
食事を終えると、散歩に行きたいというので、宍道湖の湖畔に出かけた。
日も暮れ、湖畔には涼しい空気が心地よく吹いている。湖畔には遊歩道があり、
浴衣で散歩を楽しんだ。私は浴衣が嫌いだからジャージでと言ったが、
彼女に無理矢理浴衣を着させられてしまった。
「明日、福岡に着く?」
「はい。夜になると思うけど」
「・・・そう」
彼女はうつむいていた。
「出会ったのが7月30日。今日が8月30日だから丁度一ヶ月ね」
「そうだね」
「一ヶ月間、ずっと一緒だったのね」
「そうですね。実家にいるときも同じ部屋だったから、本当にずっと一緒だ」
私は笑った。
「一ヶ月ってこんなに早いものなんですね」
「そうですね」
「私、変わった?」
「え?なんで?」
「いえ。なんでもない」
「どうしたの?」
「福岡に帰ったら話します」
翌朝、朝食を済ませ出発。幸いなことにクラウザーは帰ってきたのでパニアケースに荷物を入れ装着。エンジン始動。暖気の間、下足番と会話をして、旅館の方が見送る中を出発。
夏休み最終日。松江市内を抜け9号線で西に向かった。一桁国道で交通量も多く、
ペースは上がらなかったが、出雲市を過ぎると流れが良くなり、1時間弱で日本海沿いに出た。
しばらく日本海側を走り、昼を少し回ったところで浜田に到着。昼食を摂った。
昼食時に、益田から先の経路をどうするか、彼女と話し合った。
益田で、9号線を選択すると山口に向かい瀬戸内に出て2号線で下関。
191号線を選択すると、やや遠回りになるが、日本海側を萩を経由して下関。
「福岡に着くのは何時頃になりそう?」
「そうですねぇ。順調に行って、関門海峡までが200kmくらいだから、4、5時間かな。門司から福岡までが90kmくらいだから、2時間。合わせて8時間くらいかな。だから8時か9時頃だと思う」
「そんなに遅くならないなら、海沿いを行きたいな」
「OK。191号線で行こう」
コースが決まり一路下関を目指し走り出した。増田には30分ほどで到着。
予定通り191号線に入り、日本海側を西に。会話は少ない。寝ているわけでもなさそうだ。
彼女はただ、私に寄り添い、海を眺めて黙っている。GSX-Rに比べ前傾が少ないので、
彼女が私に寄り添う必要はないのであるが、彼女の鼓動を感じるくらい彼女は私に寄りかかっていた。
2時半を少し過ぎたあたりで萩に到着。休憩を取った。古民家風の喫茶店に入り、コーヒーを飲んだ。
ここでも会話は少ない。いつもは柔かな彼女が俯き加減でため息をついている。
「どうしたの?」
「・・・」
「体の調子でも悪いの?」
「いえ。大丈夫よ。さっ、行きましょ」
彼女は笑顔を見せた。
30分ほど休憩をとり、萩を出発した。長門から少しだけ山間に入り、また日本海にでて海沿いをひたすら西へ。やはり彼女は黙ったまま。
5時を回って下関についた。当時、高速2輪の二人乗りが禁止されていたので、
関門トンネルを抜けて九州入りするのであるが、関門トンネルも二人乗りが制限されていた。
彼女は人道トンネルを通り800m歩いて九州入り。
トンネルを抜けて人道トンネルの出口で彼女を待つことになった。
15分間の別行動。知り合ってから一ヶ月になるが、この一ヶ月間で別行動をしたのは、
私の実家で彼女が私の母と買い物に出かけた時をのみで、ずっと一緒だった。
すごく不思議な感覚になった。
九州に入り、人道トンネルの出口で彼女を待つこと15分。
彼女は手を振りながらバイクに駆け寄ってきた。ヘルメットを冠りタンデムシートに腰を下ろすと、
「しゅっぱーつ」と声を掛けた。3号線を福岡に向けて走り出した。
彼女は打って変わってよくしゃべる。
「私ね、唐戸市場はよく遊びに来てたから、この道はよく通ってたの。
国道は混んでるから裏道を使いましょ」
「僕は九州は初めてだから道も地名もわからないよ」
「大丈夫。私がガイドするから」
小倉まで3号線を走り、小倉からは山の中を走った。
現在は福岡に数年住んでいたので、どこを走ってきたか理解できるが、
当時は方角も地名もわからず、どこを走っているのか全くわからなかった。
距離的には80Kmほどあるのだが、非常にスムーズに走ることが出来、途中でコンビニにより休憩をとったが、ほぼ予定の時間に彼女が住む街まで走ることが出来た。彼女は福岡の中心地からやや西寄りの大濠公園の近くのマンションに住んでいた。午後9時。到着。
一ヶ月間の旅が終わり、彼女は帰宅した。
次回最終話 「旅の終わり」 に続く
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Posted at
2012/12/21 15:28:23
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