航空自衛隊の広報施設、浜松広報館にて去る1月22日に戦闘機地上展示が行われました。
先日行われた悪名高き”事業仕分け(笑)”の関係で広報施設にもかかわらず有料化(大人500円)されたため、入場者は激減してしまい、例年なら戦闘機地上展示にはそこそこの入場者があるものの、このようにガランとした状態でした。
展示されたのは浜松基地の第1術科学校のF-15J戦闘機とF-2A戦闘機です。
抜けるような青空の下で見る戦闘機はいいですね。
第1術科学校は、航空自衛隊の整備員を育てる学校で、F-15やF-2、T-4など航空自衛隊の主要航空機を学生教育用の教材として少数づつ配備されています。
ではじっくりねっとり見ていきましょう。
まずはF-2A戦闘機のコクピットを前からです。
よく見ると数多くのアンテナが設置されていることがわかります。
F-2はF-16をベースに開発されましたが、キャノピと風防が一体型のF-16とは異なり、F-2は風防とキャノピが分かれています。
鳥との衝突(バードストライク)対策のための強化型とのことです。
風防前に何枚か細長い板状のものが設置されていますが、こちらは発達型敵味方識別装置のアンテナ。
F-2のコクピット周辺を左前方側から。
機首のレドームに細長い線がいくつもはいっています。
これはライトニングアレスタでレドームに落雷したときの導電用金属ストリップなのだとか。
機首の後ろに黒い突起がありますが、IEWS(レーダ警戒用)アンテナになっています。
機首のレドームとIEWSアンテナの間に板が貼り付けられているのは補強板なんだそうです。
機首右側の後部。
大きな穴があいていますが、これが20ミリ機関砲の発射口になっています。
機首を真横から。
こうしてみるとF-2の機首は座席の部分が一番薄く、なだらかに機首が太くなっていますね。
機首のレドームにはマルチモード・アクティヴフェイズドアレイレーダを用いた火器管制システムJ/APG-1がおさめられています。
写真では見えにくいですが、空気取り入れ口に設置されてる衝突防止灯の付け根が黒く、また不自然にもりあがっています。
ここは中・高周波数妨害用のIEWSアンテナになっているようです。
ところで座席が傾いて取り付いているように見えます。
これは座席を30度傾けることで、パイロットが高いGに対して耐えやすいようにしてるんだそうです。
コクピットを後部から。
コクピット部分がチラっと見えますが、透明な板状のものがあるのがわかります。
これはヘッドアップディスプレイ(HUD)とよばれるもので、ここに飛行や戦闘時に必要な情報(速度、機体の姿勢、方向、照準、Gなど)が表示されます。
飛行中、特に空中戦中にコクピットのモニタや計器に目を移動させているよりも、透明な板に情報を表示させておけば、パイロットは計器盤に目を移動させることなく状況を把握することが出来ます。
機首下にある空気取り入れ口の下部です。
前脚ドアには2つの大型のライトが設置されてます。
上側が着陸灯、下側がタキシー灯なんだとか。
また、空気取り入れ口横に黒い突起がありますが、こちらは低周波数妨害用のIEWSアンテナになっているようです
左主翼先端部です。
主翼の先端にはこのようにレールが設置してあります。
ここはAAM-3やAIM-9といった短射程空対空ミサイルのランチャになっています。
ランチャの上部の白い長方形は編隊灯、上下にある透明部分は衝突防止灯のようです。
また垂直尾翼付け根にある大型のフィン状のものはUHF/VHFアンテナになっています。
後部をみていきましょう。
こちらはエンジン排気口ですが、F-2はF110-IHI-129ターボファンエンジンを搭載しています。
米国のF110-GE-129をライセンス生産したもので、アフターバーナ使用時には13.4トンもの強大な推力を出すことが可能です。
排気ノズル部分です。
ノズルはエンジンパワーによって断面積が広がったり狭くなったりするような可動式になっています。
エンジンノズルの内側が白色になっていますね。
エンジンノズルの上部は垂直尾翼取り付け部になっていますが、空洞のようになっています。
ここにはドラッグシュートと呼ばれる制動傘がおさめられています。
着陸時にこのドラッグシュートを開いてブレーキにして制動距離を減らすものです。
米国のF-16にはドラッグシュートはありません(ベルギーやオランダ空軍のF-16にはドラッグシュートが追加されています)が、F-2は地上攻撃や対艦攻撃といった非常に過酷な任務を行う性格上、必要時に短距離・短時間に滑走路で停止できるための措置なんでしょうね。
ドラッグシュート収納部の左右と上部に設置されているのは低周波、中高周波妨害用のIEWSアンテナです。
垂直尾翼です。
機体の大きさに比べて非常に大きな垂直尾翼ですね。
部隊マークは第1術科学校のものです。
垂直尾翼先端後部はレーダ警戒用IEWSアンテナになってるようです。
機体前方から全体を。
こうしてみてみるとF-2はF-16とずいぶん形が違うことが判ります。
日本の運用思想を織り込まれているようですね。
F-2を後方から。
F-16と比べると主翼と水平尾翼の面積が大幅に広げられています。
新素材の炭素繊維の採用など、新技術を積極的に取り入れられていたほか、F-2の飛行制御システムを国内開発したものを採用しているところが注目されます。
現在の飛行機は高い機動性を確保するために機体形状を静的に不安定にすることがあります。
またステルスのためにどう見ても飛びそうもない形の飛行機だったりもします。
そのような飛行機はマトモに飛ばすことすら難しく、人間の操縦では対処不可能です。
そこでコンピュータが機体の姿勢制御を行ってパイロットの入力に応じた操縦を行います。
コンユータの機体姿勢制御は現在の航空機で最も重要なシステムです。
F-2はF-16をベースにしたにもかかわらず、米国が提供をしぶったこともあってF-16の飛行姿勢制御システムのプログラムを入手できませんでしたが、日本は独自の研究機を作って飛行制御システムを研究し、それがF-2の制御システムとして採用されています。
ではF-15を見てみましょう。
まずはコクピットまわりです。
キャノピーが非常に巨大ですね。
非常に視界がよく、全周を見渡すことが出来ます。
キャノピーの枠にはバックミラーのようなミラーがあります。
機首を横から。
機首下部にあるフィン状の板はUHFアンテナとTACANアンテナです。
空気取り入れ口下のL字のものはAN/ALQ-8電子妨害アンテナになっています。
コクピットにはヘッドアップディスプレイがありますが、F-2のHUDと比べるとずいぶん形が異なりますね。
左主翼付け根付近です。
主翼付け根が青色っぽく塗られていますが、ここは空中給油口のドアになっています。
空気取り入れ口は実は可変式で、的確な角度にセットされます。
主翼にぶらさがってる板状のものはパイロンとよばれるもので、ここに落下式燃料タンクやミサイル、爆弾などを搭載します。
レール状になっているのはAAM-3やAIM-9といった短射程ミサイル用ランチャです。
左主翼先端です。
翼端の黒い突起はJ/APR-4レーダー警戒装置用アンテナになっています。
そのすぐ後ろの赤いものは翼端灯ですが、反対側の右主翼の同じ場所は青色になっています。
その後ろにあるギザギザ状(実際はギザギザになってませんが)にみえるものは編隊灯です。
主翼の形状を見ると沿っていることがわかります。
コニカルキャンバとよばれるもので、こういう形にすることで大迎角時の翼端失速を防ぐはたらきがあるそうです。
垂直尾翼の先端です。
米軍のF-15と航空自衛隊のF-15の外見上の一番大きな部分がここです。
米空軍のF-15は左垂直尾翼の翼端が太くなっています(電子戦アンテナになってます)が、航空自衛隊のF-15は両方とも細くなっています。
また、後部に黒い突起が出ていますが、米空軍のF-15はここが白くなっています(主翼の突起も米空軍は白い)。
ここも主翼翼端と同じくJ/APR-4レーダ警戒アンテナになっています。
エンジン排気口です。
非常に巨大で強大なパワーを生み出すF100-IHI-100またはF100-IHI-220Eが搭載されます。
やはり内側が白色になってますね。
こちらのノズルもF-2と同じく推力によって断面積を増減することができます。
このエンジンは1基で実に11トンもの推力を出すことができますが、これを2基搭載しています。
エンジン排気口の下側ですが、中央にはアレスティングフックがあります。
平たく言えば着艦フックで、艦載機についてるあのフックです。
とはいえ、F-15は艦載機ではないのでこれをつかっての着艦はおこなっていません。
緊急時に短時間・短距離で着陸・停止するなどのときに使用されます。
エンジン排気口のノズルを横から。
F-2のエンジンノズルには外板がありましたが、F-15は外板が取り外されています。
振動で脱落が発生したためと言われていますが、興味深いですね。
かなり複雑な構造なのがわかります。
胴体部分を右側から。
主脚が白く塗られていることが判ります。
これは油漏れなどが発生した場合に発見しやすいためなんだそうです。
胴体下部に金属の突起がありますが、ここはAAM-4やAIM-7といった中距離空対空ミサイル用ランチャになっています。
半球状の金具でミサイルを押し出して発射します。
右側主翼付け根です。
左側と比べると上部に格子状のスリットがあります。
ここには20ミリ機関砲が収納されています。
右主翼付け根を前から。
写真では見えにくいですが、20ミリ機関砲が見えます。
この機関砲はM-61通称「バルカン砲」とよばれるものですが、「バルカン」はこのM-61の商品名だったりします。
6本の銃身を高速で回転させながら弾丸を発射・装填・排きょうさせることで、実に1分間に6000発という恐ろしい発射速度を誇ります。
ただし機体のスペース上砲弾は6000発も搭載できず1000発以下になっています。
機体右側前方です。
巨大な空気取り入れ口と主翼付け根の機関砲発射口ノフェアリングが特徴的です。
写真ではよくわかりませんが、この空気取り入れ口をのぞくとエンジンのファンが見えます。
右側機首部を横から。
こうしてみると機首がかなり太いことがわかります。
この機首のレドーム内にはAPG-63火器管制装置が収納されています。
こうしてみてみると同じ戦闘機といいながらF-2とF-15ではずいぶん違いますね。
F-2はシンプルな固定式の空気取り入れ口なのに対してF-15は可変式、
F-2は単発・単垂直尾翼なのに対してF-15は双発・双垂直尾翼
F-2は比較的小型なのに対してF-15は大型
そのほかによくみると主翼の前縁がF-15は単純な固定式だったり、設計思想が全く違います。
F-2のベースとなったF-16の初飛行が1974年、F-15が1974年と比較的近いですが、こうやってじっくり見ていくとその違いに気がつかされます。