遊星歯車機構について（その２）

先日の，「遊星歯車機構について」の続き。

SKYACTIV-DRIVE は，従来のトルコン（トルクコンバータ）での滑りを極力抑えてロックアップ率を上げることで高効率を実現しているトランスミッションである。
発進時のみトルコンを使って，走り出すと直結状態（ロックアップ）にしているらしい。低速では，トルコンを使ってクリープも実現しつつ，走行中は従来のステップATにある滑り感をなくし，MTのようなダイレクト感を感じることができるステップATになっている。
といっても，最近のステップATは同様に高いロックアップ率を実現しているのだとう思うが... （Mazdaさんの以外のステップAT車を運転したことがあまりないので分からない（汗））

前回は，ステップAT（Automatic Transmission）の変速を実現する遊星歯車機構についてまとめてみた。今回は続きを...

おさらいすると，遊星歯車機構の構成要素は，
(1) サンギア（太陽歯車）（Sun gear）
(2) プラネタリギア（Planetary gear）
(3) リングギア（内歯車）（Ring gear）
(4) プラネタリキャリア（Planetary carrier）
である。



今回は，どのぐらい減速（増速）されるのかを考えてみる。

ここでは，リングギアを固定する場合で考える。
考えやすくするために，固定のリングギアをフラットなギアとしてみる。
頭の中でリングギアの一箇所をカットして，フラットになるように広げてみよう。
下の図の右側のようなイメージである。



ここでサンギアを回転させることを考える（上図の右上）。
分かりやすいように，サンギアには位置を示す番号をつける（1, 2, 3）。
回転するサンギアの歯車位置に噛み合うプラネタリギアにも対応する番号（1, 2, 3）をつける。
サンギアが右回り（時計回り）に回転すると，プラネタリギアは左回り（反時計回り）に回転する。
プラネタリギアが回転すると，プラネタリギアの歯車位置を示す文字（a, b, c）がリングギアと噛み合って動くのが想像できるだろう。
リングギア（フラットに書いているが...）側にプラネタリギアと噛み合う位置に文字（a, b, c）を書いておく。
今，リングギアは固定なので，サンギアが回転すると，プラネタリギアも回転し，上の図だとサンギアとプラネタリギアのセットは右側に動くことになる。

サンギアが1回転以上動いたときの様子が上の図の右下になる。

つまり，サンギアが回転すると，プラネタリギアはコロコロとリングギアに沿って動く。
上の図の左側で考えると，プラネタリキャリア（サンギアとプラネタリギアをつないでいる黄色部分）が，右回り（時計回り）に回転することになる。

どれくらい減速するか考えてみよう。
ここでは，まず考えやすくするためにプラネタリキャリアを固定する場合で考える。



サンギアが1回転すると，サンギアの外周分だけプラネタリギアが回転し，同じだけ，リングギアに沿って進む。
ここでは，プラネタリキャリアを固定しているため，上の図の右側だと，リングギアに想定するフラットな板が左側に動く（つまりリングギアは逆回転になる）。

リングギア（に相当する板）がリングギア内周の1周分に相当する距離を動く場合，リングギアの内周分だけプラネタリギアが回転する必要がある。
リングギアの内周を Lr，サンギアの外周を Ls とすると，サンギアを Lr / Ls 回転させるとリングギア（に相当する板）がリングギア内周1回転分に相当する距離を動くことになる。
リングギアの内周はリングギアの内径によって決まるし，サンギアの外周はサンギアの外径によってきまる（円周 = 2 π r，ここで r は半径）。

リングギアの内径を Rr，サンギアの外径を Rs, とすると，
リングギア（に相当する板）がリングギア1回転に相当する距離を動くときの，サンギアの回転数 N は，

N = Lr / Ls = 2πRr / 2πRs = Rr / Rs

N は，リングギアの内径とサンギアの外径の比で決まる。

サンギアとプラネタリギアの半径が同じ場合を考えると，サンギアの半径を R とすると，リングギアの内径は，3R（= R + 2R) となる。
このとき，プラネタリキャリアを1回転させるサンギアの回転数 N は，

N = Rr / Rs = 3R / R = 3

となり，サンギアが 3回転すると，リングギアが 1回転（逆回転）することになる。
別の言い方をすろｔ，サンギアが 1回転すると，リングギアが 1/3 回転（逆回転）することになる。

プラネタリキャリアを固定し，サンギアを入力とすると，出力のリングギアは減速（逆回転）となることが分かる。


次に，リングギアを固定する場合を考える。

先程のプラネタリキャリア固定のとき，サンギアを Rr / Rs 回転させるとリングギアが1回転逆に回転した。リングギアを固定することは，逆回転した1回転分を正回転方向に全体をぐるっと回してあげるといいことになる。
すると，リングギアは0回転（固定），プラネタリキャリアは1回転，サンギアは Rr / Rs 回転に加えてさらに1回転ということになる。

つまり，サンギアを Rr / Rs + 1 回転すると，プラネタリキャリアが 1回転することになる。
サンギアを1回転させるとき，プラネタリキャリアは 1 / (Rr / Rs + 1) 回転することになる。

サンギアとプラネタリギアの半径が同じ場合，Rr = 3 Rs なので サンギアが 3 + 1 = 4 回転で，プラネタリキャリアが1回転となる。サンギア 1回転だと，プラネタリキャリアが 1 / 4 回転である。

まとめると...
リングギアの内径を Rr，サンギアの外径を Rs, とすると，

プラネタリキャリア固定のとき，
サンギア Rr / Rs 回転でリングギア -1 回転
サンギア 1 回転でリングギア - Rs / Rr 回転

リングギア固定のとき，
サンギア Rr / Rs + 1 回転でプラネタリキャリア 1回転
サンギア 1 回転でプラネタリキャリア 1 / (Rr / Rs + 1) 回転

つづく...

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