「風のガーデン」のルノー４

偶然TVで観たドラマ「風のガーデン」がすごく気に入ってしまった。登場人物の中の緒形拳が演じる老医師が、在宅医療で往診に使うクルマが古いルノー４なのである。この番組は三菱自動車がスポンサーになっているが、よくドラマで使えたと思う。普通はスポンサーとなるメーカーのクルマがあちこちで使われ、崖から落ちて大破するクルマは他車メーカーと決まっている。フランス映画でドイツ車が出てきたら、まず最後はクラッシュさせられると思って間違いない。
　もっとも、ルイという娘の使っているクルマはパジェロミニなのだが。

　今のカレラ４もずっと乗り続け、爺さんになってもこのように乗って歩いたらどんなものかと想像してみた。たぶん悪くないと思う。

　ところで、このドラマの主人公はこの老医師ではなくその息子である。中井貴一が演じる麻酔科医なのだが、女癖が極めて悪い人物として描かれている。その中で、若いデヴュー前の歌手の友達がいる。これは平原綾香が演じる女性で、年齢は男の半分という若さだ。ちょっとうらやましい。
　平原綾香自身は、あの「ジュピター」でデヴューした歌手だが、どこか微妙にアンバランスで美人とはいえないが不思議な魅力を持った女性だ。音大でクラシックを学び、そちらの素養もある。

　今回はテーマ曲も歌っており、なんとショパンのノクターンのカバーヴァージョンなのである。柳の下戦略と言えなくもないが、やはり名曲の持つ深い味わいは聴くたびに深まるから不思議だ。
　ここで用いられたノクターンは映画『戦場のピアニスト』で何度も流れたものでノクターン第20番嬰ハ短調「遺作」として知られている。この映画は珍しく映画館に足を運んで観たが、最後の「華麗なる大ポロネーズ変ホ長調」の演奏シーンが流されエンドロールが終わるまで会場で席を立つ者がいなかった。

　話を「風のガーデン」に戻すと、これは様々な花が美しく咲き誇るブリティッシュガーデンを中心として、生と死をテーマとした人間ドラマで、緒形拳の実際の死と重なり、なお一層ショパンの音楽が胸に沁みる構成となっている。

　その中での、老医師の白いルノー４は、自分のスタイルを貫く頑固さが表れていて、とてもよく見える。三菱には悪いが、これがパジェロやコルトだったら物語にはならない。

　　クルマもまた人生を語るのである。