
日本の道路事情は特殊です。
道幅は狭く、信号のある間隔が短く、法定速度は低く抑えられ、停められる場所も少ない。
そんな道路事情に合わせた「軽自動車」「5ナンバー」「3ナンバー」などという区分があり、それに当て嵌まるような車作りが成されてきました。
しかし海外に目を向ければ、日本の規格には収まりきらない「
セグメント」という区分となっています。
そして道路事情や、他セグメントと意外に大差ない車両本体価格、日本より割安な税制や車検制度、それらによるドライバーの心情にまで余裕があるので、日本と比べて1サイズ大き目が当たり前です。
海外においてはコンパクトカー扱いされる日本車も、世界で通用する性能と居住性と安全性を発揮するため、外車や海外道路事情に合わせて、モデルチェンジのたびに大型化しているのが最近の傾向です。
その結果、
Cセグメントや
Dセグメントには合致しても、5ナンバーや3ナンバーという枠には収まりきらない車が増えてきました。
確かに、大きい車だと、本当に余裕がありますね。どこまでアクセルを踏んでもしっかり走ってくれるし、車内は静かだし、快適なので疲れないし。
何より、年々厳しくなっていく衝突安全基準に対しても、大きい車なら安全装置をふんだんに装備できるので、ドライバーにも同乗者にも歩行者にも安全です。
それは分かっています。
分かっているのですが、最近思うのは、あまりにも海外に軸足を置きすぎて、日本車にも係わらず肝心の日本で運転しづらくなっていやしないかと。
冒頭で述べた通り日本の道路事情は特殊であり、セグメントによる分類が、必ずしも日本にも合致するとは限りません。
元々は5ナンバー車として誕生したにも係わらず、モデルチェンジの度に大型化して、今は3ナンバーぎりぎりが当たり前となった車の多いこと。他、明らかにサイズといい排気量といい見た目は5ナンバーなのに、実際には3ナンバーとして登録されてしまう車も多い。
貧乏じみた発想しかできない僕なんかは、たまにゴルフや206やアクセラなどを見ると、「どう見ても5ナンバー車なのに、3ナンバー車と同じ税金や維持費や車検代を払わされるなんて、馬鹿馬鹿しくならないのかな?」と、いらぬ心配をしてしまいます。
何より、Dセグメント車ってだけでもあれなのに、それ以上のセグメント車を狭い道路で路駐されると、周りは本当に大変です。
駐車場でも区画からはみ出すので、傷付けてしまわないか冷や冷やします。だから特に大きな車とは、隣に並べないようにしています。
車は年々大きくなっていくのに、日本の道路や駐車場は、それに合わせて広くなるような工事がされているわけではなりません。
そんな流れが、最近になり少し変わってきたように感じます。
今まで一般的だったC~Dセグメントより、更に下位の
Bセグメントに、各社注力しつつあるように思えます。
大家族も大きな荷物も持たない若年層ドライバーや主婦ドライバーに向け、以前からラインナップ自体はありました。
ミニ ワン、
プジョー 206、
フィアット 500(チンクエチェント)、
フノー トゥインゴ、
シェヴォーレイ クルーズ(1stジェネレイション)…。
日本車でも、
スズキ スイフト、
本田技研工業 フィット、
マツダ デミオ、
トヨタ自動車 ヴィッツ、
同 アクア、
日産自動車 ティーダ、
三菱自動車工業 コルト…。
今まではおまけ的な存在感でしかなかったのが、各社これまで以上に力を入れてきているように見えます。三菱も、往年の
ミラージュを、日本向けコンパクトカーというより新興国向けBセグメントとして復活させ、このジャンルに力を入れています。
先日
見学した
フォルクスヴァーゲン ザ=ビートルに至っては、全幅の都合上日本での登録こそ3ナンバーですが、1.2リットルという排気量だけを見れば更に下位の
Aセグメントです。
遂には、大型車ばかり作っていたメーカーも、Bセグメント市場に参入してくる事態に。
アウディ A1、
アストン=マーティン=ラゴンダ シグネット、
アバルト 695・トリブートフェラーリ、
同・トリブートマゼラーティ、
ミニ クーパーS・ワン“インスパイアード・バイ・グッドウッド”…。
欧州を中心に広まっている環境保全への配慮と、豪奢な大型車を好む成金趣味へのカウンターとしての流行。そして何より、次の大手車市場である中国やインドやシンガポールやマレーシアといった新興国では、自家用車を買えるようになった中産階級が増えてきており、需要が急激に延びているといいます。
もっともアウディの場合は、大型高級の
FセグメントセダンやクロスオーバーSUVで安定した収入が得られるので余力があるのと、何より
TTという成功例があるので尚出しやすかったというのもあるでしょう。
フェラーリやマゼラーティやアストンやロウルズ=ロイスなどは、ブランドイメージを大切にしたいからCセグメント以下は出せないけれど、興味だけはあるのでコラボレーションという形で出しているのかなと。
この傾向は欧州車のみならず、国土事情とも相俟って、大きいことが長年美徳とされてきたアメ車にさえも波及しています。
シェヴォーレイ スパーク、
シェヴォーレイ ソニック、
フォード・モーター フィエスタ…。
4km/Lも走らない8リットルV8や、本国以外では取り回しのしづらいフルサイズピックアップこそが、アメ車の伝統的なアイデンティティだったのに。
勿論そういった車もラインナップの一つとして相変わらず存在するものの、海外特に欧州向けとしての主力の座は、こういった小型乗用車に移行していくんでしょうかね。
あの
フォード・モーター マスタングも、次期
7thジェネレイションでは、相変わらずの5.8リットル・V型8気筒・自然吸気だけでなく、2.5リットル・直列4気筒・過給器付きの「エコブースト」エンジンを搭載した小排気量仕様や、日英豪向けに右ハンドル仕様もラインナップされるという噂があります。ということは、それだけの
スモールブロックを搭載するからには、当然車体自体も相応に小さく軽くなければならず…。
これは良いですね! 誕生当初の理念であった「ポニーカー」を、今度こそ体現してくれそうで、非常に楽しみです! これなら日本でも現実的!
ダァヂ チャレンジャー(3rdジェネレイション)も生産終了が決まったことと併せて、がっかりする向きも多いかも知れませんが、由緒正しいビッグブロックのマッスルカーなら、噂される
バラクーダ復活がありますしね。
遂には、アメリカンスポーツの象徴・
シェヴォーレイ コーヴェットでさえも、次期
C7では
同様の道を?
一台の車に対し、日本向けと世界戦略車という相反する要素を身に付けさせた結果、日本車なのに肝心の日本で乗りにくいという矛盾が生まれてしまいました。
そこへきて、欧州では環境保全と従来の価値観へのアンチテーゼとして、また新興国では中産階級が気軽に買える車として、小さい車の価値が見直されているのが、最近の世界的な傾向です。
勿論、ただ小さくするだけでは駄目。
分かりやすい豪華さよりは、身の丈に合い、しかし高い上質さが与えてくれる満足感を求める。
そういう中々目に見えにくい、しかし本質的なものに、これからの車の価値は移っていくんでしょうかね。
期待の持てる流れです。
これからの車が変わっていく鍵は、新興国が握っています。
そしてそれを契機とし、日本車も本来の姿に立ち返ってくれればと思います。
ブログ一覧 |
コンパクトカー | クルマ
Posted at
2012/08/20 12:58:24