2014年09月09日
94北往記16。ロイヤルという個室寝台
16・第5日/ロイヤルルーム、その空間
▽ロイヤルと名乗る、その装備
※イクイップメント
列車は苫小牧を発車。
その頃から部屋に着いている装備中最大の占有率を持つTVモニターが稼働開始。これを以てA寝台個室・ロイヤルの装備が総べて利用可能となる。
ただし、此のTVサービスは3チャンネルだがすべてが映画であり、
“ラストアクションヒーロー”
“1492コロンブス”
“まあだだよ”
と映画個体では魅力があるが、此処に来てまで観るものでもないと思われた。
私が自前で持って来た高倉健主演の“海峡”や“八甲田山”の方がよほど似つかわしい。
またTWxならではのオリジナルチャンネルが欲しいとも思った。
オリジナルという事で振り返ると最初に用意してあったロイヤル用の小物類はその意味ではグンと魅力的だった。
まず目を見張ったのが、TWxのトレードマークの輝く赤いビニールボックスに梱包されたサニタリー類。それもビジネスホテルで常備している物より点数も多い。
内容はと言えば、まずケース入りの石鹸、シャンプー、リンス、歯ブラシ、髭剃り。これに加えて“グリーンモイスト”洗顔フォーム・ローション・スキンミルク3点セット、“アウスレーゼ”ヘアートニック・リキッド・アフターシェーブローション三点セット。さらにシャワーキャップとコームが付属するという気配り振り。
何より圧倒されたのは、ユニセックスというケチな考えを持たず、必要と思われるものは何でも梱包してしまうというこの装備振り。
野郎には“グリーンモイスト”は必要無いだろうし、女が“アウスレーゼ”を使っている処など想像もしたくない。
なのに両方入っているのは「要らないだろう」という考えを持たないことのサービスだと思う。
主観で利用客を決めてかかる程の失礼は無い・と言う考えがあるが、それを地で行ったこの装備に感服。
なお、ドリンクがサントリーで統一されていたのに対し、これまでサントリーが揃える訳にはいかんので(当たり前か)資生堂の製品で統一されている。
一方でロイヤルのサービスか否かは定かでないが、これら泣かせる装備の中で少し首を傾げるものもあった。
貸しペンと絵葉書、便箋に封筒である(-_-;)。
記念品とあらば別に気にしないが、この手の品は元来列車内に長期滞在する時に実際に利用する装備のはずだ。
列車内にポーターも切手販売も無く、たった22時間半の旅には半分の役体しかない。
機関車と“サロン・デュ・ノール”のトレードマークの絵葉書。トレードマークがシンボルカラーで描かれた封筒は実用品というよりは記念品だ。はっきり言って使いそびれて未だ手許にある。
物は使って幾らという私には些か物足りない。
他は小型のボックスティッシュ、先に触れたクリスタルのアシュトレイ、そして各部屋用の屑籠が装備してあった。
※充実の車内外案内
リーフレット類はなかなか出色の出来であった。
“トワイライト旅情”と“車内営業のご案内・1994.7月~8月”の二葉だが、沿線風景と営業要項を描いた前者と車内営業の詳細に触れた後者で、車掌の案内が無くとも快適な旅が愉しめる。
特に“旅情”のほうは案内文の下端に簡単なダイヤが記載され、その中に季節毎の日の出日の入りが記載されたりと下手な時刻表より情報量が豊かだ。
沿線案内は京阪神三都、滋賀、福井、石川、富山、新潟、山形、秋田、青森、そして北海道と各項に分かれている。
それぞれが簡潔且つ詳細な案内に誘われ、これ一つ持っていても充分な観光案内になる。
これを場所に応じて通過しながら読むというのも一興だろう。列車案内を越えたリーフレットである。
一方で“車内営業”は“旅情”が列車外の案内を中心に扱うのに対して列車内を詳しく案内する。
食堂車と車内小物販売、サロンカー、AVサービスの説明と簡単な編成図が掲載してある。
内容を繙いて見よう。
ディナーの和洋食には、細かなメニューと名誉料理長がそれぞれ明記してあり、予算上恩恵に与かれなかった私にもその雰囲気が汲み取れた。なお和食は弁当型式になっており、こちらに限って個室利用者はルームサービスとして部屋まで持ち運んで貰える。
また朝・昼食は予約無しで頂け、モーニングは和洋とも\1500、セットランチは\2000、カレー・サンドイッチ\1000千円、スパゲッティー2種各\800、飲み物各\400という具合。
その他パブタイムメニューもある。
車内販売は食堂車。このカウンターにサニタリー、ステーショナリー、アクセサリー類を販売している。
高価な物を所望しなければ\3000で買い物は充分だろうが中には1万円ほどの商品もあるので注意されたし。
また食堂車で使用している食器類の注文販売も承っている。
5人分単位でフルセットが\50000ほど。2~5人用の単品販売もあるという。
B寝台利用者の各施設は、食堂車・サロンカーにほぼ集約されており、この案内も細かく書かれている。
旅馴れた人の中にはホテルの利用案内を碌たま読まないで係員に何でも訊ねたがる方も居られるらしいが、このような案内書を読みもしないで係の手を取らせるのは相当の失礼にあたる。それが車掌なら尚更のことだ。その意味ではこの案内書は係要らずとも言えた。
※ロイヤルと呼ばれる個室
車内のレイアウトは最初に述べたが、身の丈ほどのソファーベッドに身を委ねて正面を見る。
窓際の壁には幅20cmほどの細いクローゼット。ここに着替えなどを収納するが、私は使用しなかった。
その隣の列には、ドライヤーとインターホンのユニットがスモークグラスの奥にビルトイン。
真下に14インチTVモニター、その下にAVコンソールスイッチがそれぞれ縦一列に装備。
その隣の列に半身用の鏡、下のタオルホルダーにはタオルが二枚。
最後に通路側にシャワー・シンク・トイレの統合された部屋の扉がある。
シンク・洗面台とトイレは共に格納式で同時使用は出来ない。
それらは限られたスペースのシャワーを使う為の苦肉の策でもある。
洗面台にはコップと鏡、コンセントと小物置きが装備され、シャワー室・洗面台共に使い勝手をはかっている。
実に簡単に書いたが、実際列車内で水道が個人レベルで自由に使える事の有難さと贅沢さは筆舌に尽くせない。シャワーこそ20分というリミットはあるが、身だしなみや、いつでも気軽に水が飲めることの有難さは乗車中痛感した。
なお、好評につき後になって増結された2号車のTVモニターにはソニー製のテレビデオが装備され、8mmビデオの再生が出来るようになっていた。
これはけっこう悔しかった。
これさえ知っていれば、また2号車に割り当てられていたら、あの大きな“ビデオウオークマン”まで持ち出す必要なぞ無かったのだ。
(なお室内改編の際TVは液晶化されてテレビデオも撤去された模様(T_T)
仕方がないから(T_T)部屋に戻ってビデオウオークマンをセットした。
ベッド側に目を向けよう。
ベッドはドア口のスイッチ1つでダブルベッドに変わるタイプで、座席時の肘掛けが装備されている。
頭の上にはコンソールスイッチがあり、アラーム付きアナログ時計と照明・空調のスイッチ群。
また非常警報も此処にある。
主立った操作が寝たまま出来るのは近年の寝台特急個室の共通仕様。
また反対の足側の上、丁度通路の上に当たるが、小さな開放型の押し入れがあり、此処に浴衣、布団、枕が二人分揃えてあった。こちらはTWx仕様ではなく、JRの寝台特急共通仕様だった。
また、気になっていた装備としては交流100vのコンセントが部屋に2口、洗面台に1口あった。
ただ充電機がそのままでは入らないので平型のテーブルタップが必需品だ。
こいつにヘッドホンステレオ、ビデオ、シェーバーの各充電機を繋いだ。
▽北海道のハート
※大動脈の最果て
そうこうしているうちに登別に到着した。
温泉街で有名な登別ではあるが、駅から温泉街は望めない。山の中にあるから海岸線から全く見えないのだ。
マァ私はその頃他の車両を覗きに行っていたからよくは解らないんだけどね(^^ゞ。
暫時の後に登別も発車。東室蘭へ向かう。
この列車は“特急”である筈だが、思いの外快速感がない。
キロポストをタキメーターで計ってないので時速は解らないのだが、そんな事をも忘れる位悠然と走って行く。
大きな窓に広漠とした台地が拡がっているせいかも知れないが、それを差し引いても然程の速さを感じない。
さすがに駅通過の時には速度感もあるが、長らく各駅停車に乗っていたせいもある。
私はTWxの乗車が他の列車に対して異常に浮き立ち過ぎはしないかと思ったが、意外な事に不自然感がない。
リラックス偉大なり!
登別を過ぎて山の端が随分海岸線に近付いてきた。
山が近付くと風景がつまらなくなるという私にしては然程の関心を魅かない。
国道36号線と道央自動車道が伴走してくれるが、この自動車道が山の手へ引っ込むと室蘭は間近である。
ただ室蘭も函館同様“出島”に開けた街なのでこの列車が辿り着くのは郊外の東室蘭である。
その東室蘭発車は15:48。
発車して、室蘭本線の盲腸線を見送ると、札幌を発車して以来初めての非電化区間になる。
いよいよ北海道の大動脈から先に踏み出したのだ。
小窓の窓外には貨物ヤードと小規模なコンビナートが並ぶのが見える。その間を掻い潜るように母恋富士と測量山、それに挟まれ抱かれる室蘭市内が見えた。大きな鉤崎を持つ室蘭は大洋の中の良港で、貨客共に大きな規模を持つ港であることがこの風景からも感じられる。
その活気溢れる姿は紛れもなく北海道有数の拠点都市である。
※風土の抑揚
太平洋が左手に見えてきた。
眩しい西陽を浴びて黄金色に輝く内浦湾は穏やかで美しい顔を見せていた。
上空は絹のような雲で覆われているものの暗さは全く感じない。
西陽を穏やかに過透しているからだ。
昨日の悪夢とはまさに天地の差がある。
昨日は大地と空の苛立ちをまともに被ってしまったが、今は海の上機嫌をお裾分け。
そうか、あれからまだ24時間そこらしか経っていないのか。
水平線までストレス無く拡がる太平洋と穏やかな波に慰められて気分も安らか。
やがて右手に堆い山並みが壁となって現れた。
山頂に綿雲を頂き・と思ったらこれは水蒸気。北海道で今一番熱い活火山群、有珠山連峰であった。
有珠山の右手に現れた岩肌の粗い、茶褐色の綺麗な錘状の山・昭和新山でそれとハッキり解った。
昭和新山は50年前の火山活動で誕生し、また本嶺である有珠山も17年前に噴火して麓の虻田町他を潰滅的被害に遭わせた。
伊達紋別の次の長和駅に差し掛かると昭和新山は本嶺の後ろに隠れてしまうが、駅ホームから有珠山を仰ぎ見ることが出来る。
大地の怒り、まさに此処に有りと言わんばかりの薄曇りの中の熱気を感じ取る。
ただよく解らないのはこんな危なっかしい火山連峰を抱えながら観光地だから是非お越し下さいと言う事だ。
と言うのも、この北にある洞爺湖は眺望抜群の温泉保養地。
火山ある処に温泉有りというのはマァ仕方無いにしても、今長崎・雲仙の現状を考えると余り喜び勇んで行く気にはなれない。
火山がある位で逃げんで下さいと言うのとは少し違うと思う。
大地の怒りを物見遊山で見に行く気には私にはなれない。
この後に到着の洞爺では機関車交換のために暫時10分ほどの停車。
この洞爺が今日最後の停車駅であることから、私もホームに出て腰を伸ばして一休み。
カードキーで部屋に錠を掛けられる安心はやはり助かる。のーんびり一休み。
※意外に長い札函間
さて洞爺を出て、この後電気機関車に繋ぎ替える函館・五稜郭駅まで先を急ぐTWxだが、この後風景の抑揚は殆ど無くなる。左手には内浦湾、右手は北海道には珍しく山の端が近い。
こんどは国道37号線が伴走してくれるが、長らく絶景がなかったように思える。
そして時折この“王様”に道を開ける地元の気動車が見受けられる位である。
この退屈な間に、札幌-函館間の陸路を不意と考えた。
地図や時刻表を見るまでもなく、札函間は異様に屈曲した路線を強いられる。
函館を出ると、渡島半島を北に上る。
途中の長万部で鉄路は二つに分岐し、倶知安・小樽を経て札幌に至る函館本線と、東室蘭・千歳を経て札幌に至る室蘭・千歳線が有る。共に札函間を直線で引いたコースとは大きな差異がある。
内浦湾口を横断できたら、長万部から直線距離で札幌間で鉄路が引けたら、そう思えるほどの屈曲振りである。
むろん、両方法には限界がある。
昔は北廻りに“北海”、南廻りには“北斗”とそれぞれ特急があったが、効率を考えて結局北斗が残った。
千歳と室蘭の二都市を結ぶ路線である事、屈曲が比較的少なく高低差があまり無いという事からだと思う。
ただその為に倶知安廻りの路線が寂びれたのは寂しい限りだ。
今北廻りの函館本線には特急列車は全廃、普通列車すら直通で十往復を切り、長万部-札幌直通列車に至っては僅か一往復となってしまった。
南廻りの北斗が“スーパー”を冠して増強されるのとは好対称である。
また、函館-長万部も特急列車に彩られはしているが、殊普通列車に関しては北廻り同様の寂びれ様である。
実は札幌-根室間を普通列車でその日のうちに辿り着けたのは極めてまれなケースであり、稚内行きを断念させた原因でもある。
JRHの普通列車は、山陰本線やJR四国の様に地域内の輸送が主で、地域間輸送は特急列車に一任している格好を取っている。
18切符で列島を駆けずり回った私にとってこの様なダイヤ構成は本当に頭痛の種である。
時間消費の割には先に進めず、直通列車1本有れば違う処を、走破目前で終便を迎える。
宿代を切り詰めてより遠くを目指す私に対する大きな壁でもある。
この壁が、私を九州から、山陰から、西四国から、南紀から遠ざけている。
恐らくこれはJRの経営方針に対する挑戦でもあるように思う。
不採算部門を切り詰めたがるJR側と、それこそが列車旅を繋ぐか細い道と考える私と。
のちの96年春、この18切符から発行型式がチケットから冊子になり、一括・または順繰りの使用しか出来なくなってしまった。
換金や個人売買が横行したのが原因だが同時にJRがその様な漫然とした列車旅を快く思わなくなって来た顕れだとも思える。
一方でJR各社は課題でもある国鉄の残した膨大な借金を返す目途が遠のく。
いわゆる三島(九州・四国・北海道)会社は株式公開をしたくても満足な収支が得られない。
結果値上げに踏切りざるを得なくなった。
不採算部門、いや、その要素は一つでも多く削り取りたいのが偽らざる本音であろう。
だが公益事業のジレンマで、利用者の利便を奪い取ることは採算の為だとしても許されない行為である。
そこで“あそび”を削り取ることが目下の課題になってしまった。
特に思惑通りの使い方をされていない制度は真っ先に削除して行く訳だ。18切符の発行方法変更はそういう思惑を感じ取られる。
仕方の無いことだとは思うが、かつては“太っ腹”と快く握っていた切符が“特殊な”切符となって、何かしら懐持ちの細る思いまで抱かせる。これは非常に哀しいことだと思う。
特急列車や新幹線が増強され、見せ掛けだけの華やかさだけがひとり歩きをして、いつの間にか動脈だけの残った半身不随の鉄道網なんて何の魅力もない。
そこに無い魅力を探る鉄道旅、その先行きは渾沌と暗くどよめいている。
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う~ん、折角豪華個室寝台で盛り上がってるのに終章で随分滅入ってしまった(T_T)。
そしてこのTWxさえ来春廃止。
もうこのレポを書いた96年時点で現在の寂寥が現実以上の物になるとは。
列車の旅、凄くつまらなくなりました!
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Posted at
2014/09/09 00:45:27
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