当直と”無資格”助産

ちょっと前の話になるが、看護士による”無資格”内診で書類送検されていた横浜の堀病院が不起訴処分となった。
とはいえこの病院がたまたま不起訴になったというだけで、看護士による内診そのものが合法化されたわけではない。

ここで、ちょっと内診の法的位置について考えてみる。
保健師助産師看護師法
の第1章によると、助産師は「助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行う」とされている。また看護士は「傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行う」とされている。

現在問題となっている「内診」が、助産師のみが行える「助産」行為にあたるのか、また看護士でも行える「療養上の世話又は診療の補助」に含まれるかどうかについては長らくはっきりとは決まっていなかった。

それが明文化されたのは、2002年と2004年に厚生労働省から出された通達の中である。言いかえれば、2002年までは看護士による内診は違法や無資格ではなかったということだ。

つまり2002年を境として、はしごを外された格好。慢性的な人不足の中で新たな助産師を確保したり、看護士に助産師の資格を取らせるのが困難だったのは想像に難くない。
経験により看護士でも助産師とみなすとか資格取得を簡略化するとか、弾力的な運用があってもよかったのではないか。

院長が「約４０年前の開業当初から無資格助産をしていた」と供述しているそうだが、恐らく一字一句このままの発言内容ではあるまい。内診は40年前からしていたとしても、無資格となったのは2002年以降なのだから。

通達が出た後も看護士に内診をさせていたのは、たしかに明らかな非である。が、40年間違法行為を続けていたような報道は明らかなミス。（あるいは作為か？）
この件に限らずマスコミの医療に対する姿勢については、多くの医師が不当な攻撃と感じている。

なおこの件については、ここやここによくまとまっている。

さて、話は変わるが。
ここに、同じく厚生労働省による通達がある。法的効力については、上に出てきた通達と全く一緒。

医師の宿日直（いわゆる当直）に関する通達なのだが、医師とはいえ一応は労働基準法の規定内で働くべし、ということにはなっている。しかし宿日直にあたっては連続労働時間などで規定の範囲外となってしまうため、基準を設けて許可制となっている。

許可条件を抜粋すると以下の通り。
まず「常態としてほとんど労働する必要のない勤務」で「原則として、通常の労働の継続は許可しない」とある。

特に医師、看護師等の許可条件は…

(1) 　通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。
※註：つまり、通常の勤務態様が続いているのであれば、勤務から解放されているとはいえない。日中と同じように働いては「違法」ってことだ。

(2) 　夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外に、病院の定時巡回、異常事態の報告、少数の要注意患者の定時検脈、検温等、特殊の措置を必要としない軽度の、又は短時間の業務に限ること。
（応急患者の診療又は入院、患者の死亡、出産等があり、昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものは許可しない。）
※つまり次々と外来患者がやってくるような、日中と大きく変わらない労働であれば許可されない。すなわち「違法」。

(3) 　夜間に十分睡眠がとりうること。
※えと、今の職場は割と暇なんですが、以前いたところでは4時間も寝られればよく寝た部類でした。完徹もそれほど珍しくなかったです。が、もっとハードなところがあるのも知ってますので、実はあれは「十分」な睡眠だったのかも知れません。

…これが遵守されている病院、いったい全国にどれだけあるだろう？
看護士の内診が違法というなら、こっちも違法。こんな恣意的なダブルスタンダードが許されるのか？「医師による違法宿日直問題」などとマスコミで取り上げられればちょっとは面白いのに。