
トヨタC-HR、なぜ7年で消えた?
―「走りのSUV」に誰も振り向かなかった決定的理由!
「ニュルで鍛えた足回り」はどこへ行った?
2025.5.4
春宮悠(モビリティライター)
C-HR(画像:トヨタ自動車)
「ニュルで鍛えた足回り」という言葉がかつて自動車市場で強力な訴求力を持っていた。トヨタC-HRがその象徴となり、走行性能の価値が広く支持された。しかし、時代の変化とともに、走りの優位性は次第に消費者の関心を引きにくくなり、C-HRの失速がその証となった。
■若年層支持と早すぎた失速
「ニュルで鍛えた足回り」は、かつて自動車の販売現場で強い説得力を持つフレーズだった。ドイツ・ニュルブルクリンクの過酷なサーキットで走行性能を磨いた車両という事実は、走りに妥協がない証とされ、走行性能を重視する層に強く訴求していた。
この言葉は、長らくスポーツモデルやプレミアムモデルの個性を際立たせるキャッチとして機能してきた。しかし2010年代に入り、その意味合いが徐々に変化する。より幅広い車種にも使われるようになったのだ。
象徴的だったのが、トヨタC-HRの登場である。スポーツタイプ多目的車(SUV)という一般ユーザー向けのカテゴリーでありながら、「ニュルで鍛えた足回り」を前面に打ち出したこのモデルは、若年層を中心に大きな支持を獲得。発売と同時にヒット商品となった。
従来、走りの性能は一部の愛好家向けと考えられていた。しかしC-HRの成功は、走りが大衆市場にも響く訴求軸になり得ることを証明したように見えた。
だがその後、C-HRは販売面で伸び悩む。国内市場では一代限りで姿を消す結果となった。初動のインパクトに比べ、走行性能へのこだわりは最後まで定着しなかった。
「ニュルで鍛えた足回り」という言葉は、果たしてもはや時代遅れなのか。かつては売れる言葉だったこのフレーズが、今もなお通用するのかどうか。スポーツモデルから一般車種へと拡張された背景をふまえつつ、その意義と限界を、C-HRの軌跡を軸にあらためて検証したい。
■ブランドとしての「ニュル仕込み」
「ニュルで鍛えた足回り」は、かつてスポーツカーやプレミアムモデルだけに許された特別な表現だった。その背景にあるのが、ドイツ・ニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(北コース)である。
全長は約20.8km。コーナーは170を超え、高低差は約300mに及ぶ。
・荒れた舗装
・ブラインドコーナー
・激しいアップダウン
といった要素が複雑に絡み合う過酷なサーキットだ。世界中の自動車メーカーがここで走行テストを行い、「開発の聖地」として知られてきた。
1周で一般道2000~3000km分の負荷がかかるともいわれるこのコースを走り込んだ車は、単なるカタログスペックでは語れない性能を備えている。そうした車両は“本物”として、クルマ好きを中心に高く評価されてきた。
「ニュル仕込み」と聞いて目を輝かせる層は、今も昔も変わらない。欧州ではBMWやポルシェ、メルセデスAMGが、ニュルでの開発をブランド戦略の核に据えてきた。日本でも、日産GT-RやホンダNSXなどがこの聖地での鍛錬を語ってきた。
この言葉が意味するのは単なる性能の高さではない。鍛え抜いた車という開発思想そのものを象徴している。
やがて、「ニュルで鍛えた足回り」は一般車にも使われるようになる。その象徴が、2016年に登場したトヨタC-HRである。
「TOYOTAの世界戦略SUV」
というキャッチコピーを掲げて登場したC-HRは、ニュルを含む世界各地で鍛えた足回りをアピールした。加えて、それまでのトヨタ車の印象を覆す斬新なデザインも話題となったコンパクトSUVだった。
■C-HRの戦略と終焉
トヨタがC-HRに託したのは、単なる新型SUVの投入ではなかった。狙いは、ブランドの刷新だった。
デザインにはダイヤモンドをモチーフとした絞り込みの効いたシルエットと、彫刻のように緻密な面構成を採用。開発キーワードは「センシュアル スピード-クロス」。量産車でありながら、コンセプトモデルのような強い造形言語をまとわせた。
実用重視のイメージが強かった従来のトヨタ車とは一線を画すデザインは、登場と同時に大きな話題を呼んだ。
デザインと並び、開発陣が強く打ち出したのが「走りのよさ」だった。C-HRは、ニュルブルクリンクで鍛えた足回りを武器に、走行性能に妥協しない姿勢を前面に打ち出す。サスペンションやステアリングフィールを積極的に訴求し、燃費や利便性ではなく、運転する楽しさを価値の中心に据えた。
C-HRはスタイルと走りの二軸で勝負をかけたモデルだった。
この挑戦は、初期には成果として現れる。C-HRは2017年、SUV新車販売台数で首位に立った。支持層の中心は若年世代。トヨタの信頼性や燃費性能に魅力を感じつつ、そこにとどまらない走る楽しさや見せる喜びを求める層にとって、C-HRは最適な選択肢となった。
しかし、勢いは長く続かなかった。走行性能とデザインに注力した設計は、実用性や空間効率を重視する日本の主流SUV市場とズレを見せ始める。特に
・後席の狭さ
・荷室の小ささ
・後方視界の悪さ
は、日常的にクルマを使うユーザーにとって看過できない弱点だった。
2020年代に入ると、ヤリスクロスやカローラクロスなど、パッケージバランスに優れたSUVが次々に登場する。価格、使い勝手、装備の総合点で選ばれる時代へと市場は変化した。個性の強さがかえって敬遠されるなかで、C-HRは徐々に選ばれにくいモデルとなっていく。「特徴のある一台」より
「平均点の高い一台」
が支持される構造に変わったことで、C-HRは主流から外れていった。そして2023年。C-HRはフルモデルチェンジを迎えることなく、日本国内での販売を終了する。
■訴求力を失った「走り神話」
C-HRが「ニュルで鍛えた足回り」を前面に打ち出したのは、その言葉にまだ訴求力があった時代だった。走行性能の高さが、クルマ選びの大きな価値基準として機能していた時代である。
しかし、クルマに求められる価値は変わっていく。走る楽しさから、日常での使いやすさへ。そうした移行のなかで、鍛えた走りを象徴する「ニュル仕込み」という言葉は、次第にユーザーの心に届かなくなっていった。
C-HRの失速は、商品の限界だけでは語れない。走りの言葉そのものが持っていた力を、時代が手放し始めていた。その変化を象徴する事例だった。
デザイン面でも、C-HRは終始異彩を放った。大胆で前衛的なスタイルは強烈な印象を残したが、同時に好みの分かれる存在でもあった。のちにトヨタが展開したSUVは、より均整の取れたデザインを志向。C-HRのような造形は、ブランド内でも例外的な存在となっていく。
走りとデザイン。いずれも強い個性を宿していたがゆえに、C-HRは量産車の論理から徐々に外れていった。
「ニュルで鍛えた足回り」は、確かに当時は響いた。だが、それだけでは選ばれ続ける理由にはならなかった。走りのよさそのものが、ユーザーの選択において重要視されなくなりつつあった。C-HRが直面したのは、そうした価値観の変化そのものだった。
■C-HRが映した価値観の転換点
背景には、クルマの役割そのものの変化がある。1980~1990年代、クルマはステータスや個性の象徴だった。「いいクルマに乗る」ことが、社会的な評価と直結していた。走行性能や足回りの完成度は、その価値を支える中核に位置づけられていた。
やがて時代が変わり、ステータス性は徐々に後退する。それでも2000年代以降しばらくは、走りのよさが説得力を持ち続けていた。トヨタC-HRが2010年代にヒットした背景にも、その価値観の残滓がある。
しかし今、クルマは「欲しいもの」から
「必要なもの」
へと変化した。そうしたなかで、「ニュルで鍛えた足回り」という言葉は、一部の熱心な層を除けば意味を失いつつある。
とはいえ、完全に過去の遺物になったわけではない。「ニュル仕込み」は今も開発現場で重要な意味を持つ。過酷な条件下で走行性能を磨く姿勢は、実際の安全性や乗り味の向上につながっている。そこには、メーカーの技術に対する真摯な姿勢がある。
問題は、その価値がもはや一般ユーザーには届きにくくなっているという点だ。問われているのは、「走り」そのものではない。それをどう語るかである。「走りの言葉」は今、再定義のときを迎えている。
Merkmal
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トヨタ・ヤリスクロス
ヤリス クロス(YARiS CROSS)は、トヨタ自動車が生産・販売するBセグメントに属する小型クロスオーバーSUVである。
概要
製造国 日本、フランス
販売期間 2020年8月31日 -
ボディ
乗車定員 5名
ボディタイプ 5ドアクロスオーバーSUV
エンジン位置 フロント
駆動方式 前輪駆動・四輪駆動・E-Four
プラットフォーム GA-Bプラットフォーム
パワートレイン
エンジン ガソリン車:M15A-FKS型 1,490 cc 直列3気筒 DOHC
ハイブリッド車:M15A-FXE型 1,490 cc 直列3気筒 DOHC
変速機 CVT
車両寸法
ホイールベース 2,560 mm
全長 4,180 mm
全幅 1,765 mm
全高 1,560 mm
系譜-先代 トヨタ・ist
1.XP210型(2020年 - )
2020年(令和2年)2月発売のヤリスに続き、GA-Bプラットフォーム採用車種の第二弾[注釈 1]。 開発はデザイン、設計ともにトヨタ自動車のヨーロッパ拠点が手がけた[1]。 後部座席が最小限でドライバーズカーとしての性格が強いヤリスに比べると、本車両は居住性や荷室空間といったSUVらしいユーティリティ性能を重視して開発されており[2]、ボディーサイズをヤリスと比較すると、全長・全幅・全高がそれぞれ240 mm・20 mm・90 mmずつ拡大されている[3]。これによってヤリスより広い室内スペースが確保されている[3]。
パワートレインは1.5リッター直3エンジンに発進用ギア付きCVT (Direct Shift-CVT) の組み合わせ、またはそのエンジンをベースとしたTHSの2種類。 駆動方式はそれぞれに前輪駆動・四輪駆動の2種類がラインナップされる[4]。なお、ヤリス同様、リアサスペンションは、前輪駆動モデルはトーションビーム式、四輪駆動モデルはリアデフを車体側にマウントしたダブルウィッシュボーン式となっている。
ガソリン仕様の四輪駆動システムは、通常は前輪駆動で、発進時や低摩擦係数路面で後輪に駆動を配分する『ダイナミックトルクコントロール4WD』に、マッド&サンド、ノーマル、ロック&ダートの3つの走行モードを選択できる『マルチテレインセレクト』を組み合わせている。ハイブリッド仕様の四駆も同様に、電気式4WDの『E-Four』(欧州名『AWD-i』)に、スノー、ノーマル、トレイルの3つのモードを選べる『TRAILモード』を同時採用している。またガソリン車、ハイブリッド車いずれも滑りやすい路面での降坂時に車速を一定に保つ『ダウンヒルアシストコントロール』を備えている。
第90回ジュネーブ国際モーターショーにて披露する予定であったが、COVID-19感染拡大防止のため開催中止となり、2020年(令和2年)4月23日、オンラインでの世界初公開となった[1]。日本では同年8月31日に発売、欧州では2021年半ばの発売が予定されている[2]。欧州向けとして開発されたモデルであるため[注釈 2] [5]、 当初、日本への導入予定は無かったが、当時社長であった豊田章男の「なぜ発売しないの?」という一言がきっかけで日本市場導入に至ったという経緯がある[6]。
1-1.年表
2020年(令和2年)
4月23日 - 世界初公開[2]。
8月12日 - 日本での発売を9月初旬とすることを発表[7]。
8月31日 - 日本で公式発表・発売[8]。キャッチフレーズは「気になったら、全部やる。」で、CMソングはサカナクション「月の椀」。
2024年(令和6年)
6月3日 - 国土交通省は、ヤリスクロスの「型式指定」を巡り不正行為が見つかったとして、安全性が基準に適合しているか確認できるまで出荷停止を指示した[12]。
6月5日 - トヨタ自動車が、認証不正に伴い、ヤリスクロスを含む3車種の生産を同月6~28日の間、停止すると明らかにした[13]。その後生産停止期間が延長されたが9月2日から生産を再開[14]。
2.AC200型(2023年 - )
2023年5月15日、インドネシアで公開。ダイハツのDNGA-Bプラットフォームが与えられた小型SUVで、同じ車名で日欧で展開される上記のXP210型とは全くの別物である。
全長4,310 mm、全幅1,770 mm、全長1,615 mm、ホイールベース2,620 mmとXP210型に比べてホイールベースが60 mm、全長が130 mm長く、1.5リッターデュアルVVT-i4気筒エンジンのガソリン車とハイブリッドが用意される[5] [16]。先進安全機能もダイハツのスマートアシストが搭載されている。
なお、2023年8月に投入された中華民国(台湾)向けもこちらのタイプが採用される。
3.その他
2019年11月、タイ市場でXP150型ヤリスの追加モデルとして『ヤリスクロス』が登場。独立した車種ではなく、SUV風の架装をしたパッケージオプションとなる[17]。
4.車名の由来
「Yaris」は、ギリシャの神々の名前の語尾によく使われる「is」と、開放的でダイナミックな発音である「Ya」を組み合わせた造語である。
「Cross」は、クロスオーバー(Crossover)に由来する。
ヤリスの血を引く、クロスオーバーという意味である[18]。
5.関連項目
トヨタ・ヤリス
トヨタ・GRヤリス
トヨタ・イスト - 事実上の先代車種
6.脚注
6-1.注釈
^ 前半のみGA-Bプラットフォームを採用するGRヤリスも含めると3例目である。
^ インドネシアで発表されたヤリスクロスはサイズがやや大きく、加飾が多くデザインも異なるなど、やや上級のしつらえとなっている。
^ 「X」からToyota Safety Sense(プリクラッシュセーフティ(歩行者[昼夜]・自転車運転者[昼]検知機能付衝突回避支援タイプ/ミリ波レーダー+単眼カメラ方式)、レーントレーシングアシスト、レーダークルーズコントロール(全車速追従機能付)、オートマチックハイビーム、ロードサインアシスト)、先行車発進告知機能、セカンダリーコリジョンブレーキ、インテリジェントクリアランスソナー[パーキングサポートブレーキ(静止物)]が非装備化され、メーカーオプションの16インチアルミホイール(センターオーナメント付)、パノラミックビューモニター、LEDヘッドランプ+LEDクリアランスランプ+LEDデイタイムランニングランプとフルLEDリアコンビネーションランプのセットの設定が不可となる。
6-2.参考文献
^ a b “【トヨタ ヤリスクロス】ついに発表! BセグメントのSUV”. Response. (2020年4月23日). 2020年5月2日閲覧。
^ a b c “TOYOTA、新型車ヤリスクロスを世界初公開”. トヨタグローバルニュースルーム (2020年4月23日). 2020年4月26日閲覧。
^ a b “【トヨタ ヤリスクロス】日本は2020年秋、欧州は2021年半ばに発売へ[動画]”. Response. (2020年4月24日). 2020年4月26日閲覧。
^ “トヨタが新型SUV「ヤリスクロス」を世界初公開”. WebCG (2020年4月24日). 2020年5月2日閲覧。
^ a b “インドネシアの『ヤリスクロス』は、日本とは別物の上級車と張り合えるクルマだった”. Response. (2023年8月13日). 2023年10月7日閲覧。
^ “ヤリスクロスは売る予定では無かった!? くるまのニュース 豊田社長が登場したラインオフ式での秘話とは”. 2020年9月17日閲覧。
^ 『新型車「ヤリスクロス」“9月初旬”デビュー』(プレスリリース)トヨタ自動車株式会社、2020年8月12日。2020年8月31日閲覧。
^ 『TOYOTA、新型車「ヤリス クロス」を発売』(プレスリリース)トヨタ自動車株式会社、2020年8月31日。
^ 『2つの新しいヤリス クロスが誕生-走りを追求したGR SPORT、アグレッシブなスタイルのZ“Adventure”を追加-』(プレスリリース)トヨタ自動車株式会社、2022年7月19日。
^ 『TOYOTA GAZOO Racing、ヤリス クロスにGR SPORTの設定を発表』(プレスリリース)トヨタ自動車株式会社、2022年7月19日。2022年7月19日閲覧。
^ “トヨタ、「ヤリス」「ヤリス クロス」を一部改良 新色「マッシブグレー」など採用”. Car Watch (2024年1月17日). 2024年1月17日閲覧。
^ “トヨタなど5社、認証不正で立ち入りへ 6車種出荷停止”. 日本経済新聞 (2024年6月3日). 2024年6月4日閲覧。
^ “トヨタ3車種、28日まで生産停止 認証不正、「ヤリスクロス」など”. 時事ドットコム (2024年6月5日). 2024年7月16日閲覧。
^ “トヨタ、ヤリスクロスやカローラフィールダーなど9月2日から生産再開”. 日刊自動車新聞電子版 (2024年8月24日). 2025年2月15日閲覧。
^ “トヨタ、「ヤリス」「ヤリスクロス」一部改良 特別仕様車「Z“URBANO”」新設定”. Car Watch (2025年2月27日). 2025年2月27日閲覧。
^ “かっこいい!インドネシア トヨタ 新型 ヤリスクロス 「RAV4」顔になって 2023年5月15日発表”. 自動車最新情報. (2023年5月15日) 2023年5月17日閲覧。
^ “新型カローラアルティス GR&ヤリスクロス発表!! タイ製新SUV&スポーツ日本導入を熱望!!”. ベストカーWeb (2019年12月23日). 2020年4月29日閲覧。
^ “車名の由来について”. トヨタ自動車株式会社. 2021年1月12日閲覧。
7.外部リンク
トヨタ ヤリス クロス|トヨタ自動車WEBサイト
最終更新 2025年4月13日 (日) 17:44 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
≪くだめぎ?≫
『ヤリス クロス (YARiS CROSS)』は本来"欧州版専売車"として開発された。
結果、「C-HR」と立場が逆になり、また"
走りのSUV"を極めるとして、
2代目C-HRが欧州投入となった。
確かに初代C-HR末期は少なくなったようだが、
"C-HR"4,360 mm、"ヤリス クロス"4,180 mm、
"カローラクロス"4,490 mm、"ライズ"3,995 mm
2代目"C-HR"4,360 mm、
「SUV絶頂期」とはいえ、躊躇するだろうね。