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まとめ記事(コンテンツ)
2026/04/28
オストワルド熟成の話
サルフェーションとは、硫酸鉛の結晶が肥大化つまりオストワルド熟成したものだと書きましたが、言葉と現象(=多数の小さな結晶が集まり大きな結晶、それも表面がつるつるの結晶に成長する)は理解していても、なぜそうなるのかが良く解っていなかったので、改めて勉強したのでメモも兼ねて公開します。
まず、概要ですが、
・結晶多形を有する化合物が溶液から晶析する時、熱力学的安定性の低い準安定形が先に晶析し、その後安定形が出現する現象をオストワルド(Wilhelm Friedrich Ostwald)の段階則という。
・オストワルド熟成(Ostwald ripening)とは、同一多形でも結晶の大きさに不均一性がある場合、小さい結晶が溶解し大きい結晶が成長する現象をいう。
・これは、「粒子表面の分子は、内部の分子に比べてエネルギー的に不安定である」という事実から生じる。
ということになりますが、ちょっと難解なので、もっと解りやすくしてみます。
【結晶の融点は、そのサイズによって変わる】
結晶の表面が曲率を持つと、曲面による内部圧力の変化に伴い融点が変化しますが(ギブス・トムソン効果)、融点の変化は曲率が大きいほど大きいため、結晶のサイズが小さいほど効果が顕著になります。
※つまり小さい結晶ほど溶けやすくなる。
例えば、氷の融点は摂氏0度と言われていますが、半径1μの小さな氷結晶の場合は、融点は氷点下0.1度くらいになります。
【なぜ合体するの?】
異なるサイズの2つの結晶を、水の中に隣り合わせておいたらどうなるかを考えます。
小さいほうの結晶Aの融点を氷点下0.3度、大きいほうの結晶Bの融点を氷点下0.1度とすると、水の温度が氷点下0.2度であれば、小さい結晶Aは融解して隣の大きい結晶Bに吸収(合一)されながら成長します。
※このように多数の結晶が同じ環境の中にいるとき、小さな結晶が大きな結晶に吸収されて更に大きくなっていく現象を、オストワルド熟成という。
身近な例に、アイスクリーム中の水分(氷)の結晶の肥大化があります。
※古いアイスクリームがザラザラ、ガリガリした食感になるのは、大きい氷の結晶が小さいそれを吸収して成長するから。
【丸くなる(表面が平滑化される)のは何故?】
また、融点の変化は曲率に影響されると書きましたが、結晶の形が丸ではなく四角形のような形の場合、同じ結晶でも場所によって融点が異なることになります。
※四角形の辺は曲率がゼロですが、角の部分は曲率が大きいから。
この場合、曲率が大きい角の部分のほうが融点が低くなるため、優先的に溶けていき、角が消失していき最後は丸くなります。
※そのため表面の凸凹がなくなり、つるつるになる。
【逆サイクルは可能か?】
オストワルド熟成とは、大きな粒子が小さな粒子よりエネルギー的に有利なため、熱力学的に駆動されて自然に起こる粒子成長現象(注1)、つまりは自然現象であり不可逆です(注2)
もっとも、以前にエアコンの話をした時に書いたように、系の外から何らかの仕事を加えれば理論上は逆反応も可能かもしれませんが、現実にはサルフェーションを元の粒子サイズに戻すのは困難であり、それが出来れば当然学会なりで発表されているはずですが、そのような話は聞きません。
※当たり前だが、氷のようにハンマー等で叩いて砕く訳にはいかないので(笑)
つまり、まずは大粒子であるサルフェーションを化学的に溶解する必要がありますが、それには通常の硫酸鉛に比べ非常に多くの電気エネルギーを要するため、他へ影響を及ぼさずにサルフェーションのみ溶解するとなると、確率的にはほぼ不可能に近いからです。
※サルフェーションだけでなく、活物質の軟化脱落なども一緒に起きる。
逆説的に言えば、「極板等への影響を与えずサルフェーションを除去分解し・・・」などと謳うような、微小なパルスを与えるだけの商品では、サルフェーションを溶解することなど到底出来ません。
なので、現実的には前にも書いたように、オストワルド熟成の進行を抑えること(=深放電したままで長期間放置しない)が我々の出来る唯一の対策になります。
※メーカーでも対策はしていて、添加剤として使われる硫酸バリウムは硫酸鉛の粒子を微細化する性質を持つが、活物質を極板から脱落させてしまう性質もあるため、大量には使用できない。
【ネット時代の都市伝説が発端?】
「パルスでサルフェーションを分解除去する」という話は、「硫黄分子の共振周波数に働きかけ溶解を促す」とする海外の一電子工作マニアの言説が発端で、これに色々と尾ひれがつきながら、ネットで瞬く間に世界中に広まったのが案外真相のように思います。
※個人の感想です(笑)
この手の商品ですが、産業用(非常電源設備用)の方がメインで、車用はオマケ程度でしょうが、エルマシステムのような有名処以外にも、電気工学系の元大学教授が関わるスタートアップ企業などが、様々な製品を商品化しています。
※ただ、いずれも肝心の「サルフェーションがどのように分解するか」という化学的なプロセスについては触れず、効果があったとする所見だけを載せている。
いずれにせよ、以前に書いた「貼るだけの節電カード」もそうですが、少しでもランニングコストを抑えたいという(企業も含めた)消費者心理を上手く突いた商品ですね(笑)
※エルマシステムなどは「寿命を最大で2倍にする」などと謳っているようですが、なんで消費者庁は指導しないのかと思うのだが、「最大で」と言えば問題がないのか、それともBtoB商品だから管轄外なんですかね。
(注1)
系がその全体のエネルギーを下げようとすれば、ケルビン方程式に従い、小さな粒子の表面にある(結合数が少なく)エネルギー的に不利な分子は、粒子から解離して液中に溶解する。
小さな粒子が溶解すると、それにより液中の遊離分子の濃度が増し過飽和になるので、遊離分子はより大きい粒子の表面に濃縮される。
従って、小さな粒子はすべて縮み大きな粒子は成長して、平均サイズは増加し、時間が無限大に近づくと、全粒子が1つの巨大な球状粒子になって全表面積が最小となる。
(注2)
系の外、つまり外界への影響も含めて完全に元の状態に戻すことが出来る変化の過程を可逆過程、出来ない過程を不可逆過程という(熱力学第2法則)
自然界においては、準静的な過程は実現不可能であるため(状態が変化する途中で必ず非平衡状態が間に挟まる)、非静的な過程となる。
準静的な過程は可逆だが、非静的な過程は不可逆であるため、自然界で見られる現象は全て不可逆である。
Posted at 2026/04/28 14:00:25
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