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2021年08月17日 イイね!

「BAYSIDE BLUE」第X話「On The Run」

「BAYSIDE BLUE」第X話「On The Run」※この記事は2015年2月27日記載の「BAYSIDE BLUE」第X話「Pick Up The Pieces」のリメイク記事です。(再放送風)


とある埠頭。霧雨の中、だいぶ使いこまれたコンテナや倉庫に隠れる様に、シルバーのスカイラインが停まっていた。警視庁17分署の覆面車だ。車内には、17分署強行犯係長の野沢大輔と、公私パートナーの才女、高城玲子がいた。二人ともシートを倒し、男の野沢はともかく、ミニスカート姿の高城は惜しげもなく脚を組んでいる。野沢はいつものサングラスで視線を隠し、何処を凝視しているか分からない。
しかしこの二人は、霧雨と物陰に隠れて車内で何かをしようとしている訳ではない。これでもれっきとした任務中なのである。その証拠に、リラックスしているが、二人は笑っていなかった。高城が気だるそうな声を出した。
「・・・今、何時?」
腕時計を見た野沢が、似たような声の調子で答えた。
「・・・15時30分」
高城が言った。
「いつまでここにいんのよ?」
「・・・定時まではいるか」

この二人がここにいる理由、それは野沢が長年使っている情報屋が今朝たれこんだ情報だった。この港で、今日の正午に某国の貨物船が到着する。その中には大量にして相当な額となる麻薬と外国の組織の大物が乗っているという。組織名は聞いたことはなかった。受け取り人は、これまた外国人だった。ミスターチャーリーと呼ばれる男だった。こちらは何度か名前を聞いたことがある人物で、生活安全課や麻薬取締局が何度も摘発を行っているが撲滅に至らず、むしろ勢力を拡大している麻薬組織の長である。
ミスターチャーリーはかなり用心深い人物で、まともに撮れた写真はなく、望遠で撮れたぼんやりとした物しかない。そんな人物が出てくる取り引きが真っ昼間から行われるなどとは随分と眉唾物な話であるが、野沢は情報屋の話を信じた。その情報屋が持ってくる話はまず間違いなかったからだ。
野沢は時間がなかったことから刑事課長を通さずに、パトロールや近隣の署、更には機捜隊の応援をかき集め、海上保安庁にも連絡を取り、その港を張った。貨物船が接岸する予定の岸壁に近すぎず遠すぎない場所にスカイラインを停めた。

そして現在に至る。
貨物船は確かに現れた。が、受け取り人のミスターチャーリーは来なかった。船には組織も麻薬もなかった。野沢は携帯電話で情報屋を怒鳴り散らした後、包囲体制を解いた。わざわざ、大型巡視船まで用意した海上保安庁は今頃何処に文句を言っているのか。野沢はうんざりしていた。上司に無断で、海上保安庁まで動かしたのだ。分署に戻れば、どれだけ絞られるか。
野沢は分署に戻る気になれなかった。結局は戻るしかないのだが、僅かな望みをかけて、残った。何か起こるかもしれないというまったく可能性の低い望みだ。高城は野沢の子供っぽさに付き合った。野沢の指示になんら反論せずに従ったのだ。一心同体だ。


高城は腕時計を見た。15時48分。梅雨時の天気、スカイラインは水滴に覆われていたが、雲の隙間から日差しが見える。一心同体の心構えも、正直飽きてきていた。
「ちょっと飲み物でも買ってくるわ」
高城はそう言ってシートを立てると、スカイラインを降りた。野沢は高城に、
「俺の分も頼む」
と言った。
「勿論」
高城はそう答えると、霧雨の中、港湾事務所に向かった。大抵はそこに飲料の自販機がある。事務所まで来ると、案の定、3つ程自販機があった。
「ええと・・・ポッカポッカポッカッカッ・・・」
高城はおどける様に呟きながら好みのメーカーの自販機を見つけると、自分と野沢の分の缶コーヒーを買った。缶が取り口に落ちてくる。自然とため息が出た。なんて私はお人好しなんだろうと、自嘲のため息だ。
その時、彼女の背後に水しぶきの様な音が聞こえた。車が走ってきた様だ。霧雨でも降り続ければ水溜まりができる。水をかけられてはたまらないと、車の動向を確認しようとそちらに向いた。それはありふれたワゴン車だった。黒色で珍しくはない。車は彼女の前を通りすぎた。幸い水しぶきは飛んでこなかった。しかし、彼女はそれに何か違和感を感じた。


スカイラインの無線が鳴った。一斉指令だった。17分署管内で、銀行に武装強盗が押し入り立てこもっているという内容だ。場所はここからかなり離れている。野沢はこの現場を離れることに迷った。しかしそれは一瞬だった。どうせ呼び出されるに決まってる。倒していたシートを跳ね上げ、シートベルトを締める。高城が戻ってきた。車内の野沢の様子に気がつき、小走りになって車に戻った。高城はスカイラインに乗り込みながら言った。
「どうしたの?」
「武装銀行強盗で籠城だと。ここからかなり遠いが、どうせ呼び出される」
「そうね」
高城もシートベルトを締めた。再び無線が鳴った。今度は、17分署と隣の署との境界線付近で同じく銀行強盗が発生した。こちらもここからはかなり遠い。野沢は言った。
「なんだなんだ、こりゃ大忙しだな」
野沢はスカイラインを発進させようとする。その時、高城が叫んだ。
「ちょっと待って!」
野沢は思わず急ブレーキを踏んだ。
「なんだ!?」
野沢の問いに、高城は言った。
「ちょっと待って!」
「だからなんで!?」
高城は必死に考えた。無線を聞いてから、先ほどの違和感が非常に強くなったのだ。しかし、それがはっきりしない。焦れた野沢は、助手席の足元に置いてある赤灯を取ると、ルーフに載せる。
その時、高城が言った。
「ワゴン、いやワンボックスじゃない・・・」
「なに?」
高城の言葉が理解できず、野沢は上ずった声を出した。高城は独り言の様に続けた。

「あれはハッチバック・・・、あのナンバー。レンタカー!」
「なんの話だ」
野沢はやや声を荒くした。高城は言った。
「さっき私の後ろを、ハッチバックが走ってったのよ」
「それがなんだ!珍しくもない」
「レンタカーだったのよ。こんな荷物年がら年中積み下ろす場所に、商用のワンボックスのレンタカーならともかく、普通の乗用車みたいなレンタカーって不自然じゃない?それに、無線を思い出して」
「無線?」
「ほぼ同時に、ここから遠く離れた場所で凶悪事件が発生。一つはうちの管内、もう一つは隣との境界線」
「・・・パトが総動員だな」
「自ら隊や機捜も飛んでくでしょうね」
「管内は手薄だな」
「そしてここは遠く離れた場所」
高城の言葉に、野沢は考え、言った。
「そのワゴンだかハッチバックだか、怪しいな」
野沢は続けた。
「偽装したミスターチャーリーか・・・。行ってみるか。どうせ銀行に行ってもビリだしな」
野沢は、スカイラインを岸壁へと向かわせた。



野沢はある程度近づくと、スカイラインを物影に隠し、そこから岸壁を伺った。これは完全に運の問題だった。そして運は野沢達についた。
高城が目撃したハッチバックは岸壁にいた。黒色で、良く見ると最新のスポーツタイプである。職員が通勤で使用するならともかく、海辺で荷物の運搬業務にまで使用するとなると不自然と感じる。レンタカーなら尚更だ。そして作業着姿の影が三人。モーターボートが接岸しており、そちらから何か受け取り、ハッチバックの荷台に乗せている。動いてるのは二人。一人はただ見ているだけだ。あれが組織だとしたら、恐らくただ見ているだけなのが、ミスターチャーリーであろう。今から応援や海保を呼ぶ暇はない。野沢は高城に言った。
「二兎を追う者なんとやらだ。取り引きが終わったら、あのワゴンだけ押さえる」
「あれはハッチバックでしょ」
「どっちだって一緒だ」
二人は監視を続けた。そして、取り引きは終わった様だ。人影三人はハッチバックに乗り込み、ゆっくり発進した。こちらに向かってくる。野沢が言った。
「行くぞ、車に乗れ」
高城が高揚したように答える。
「ここで撃っちゃえば!?」
「いきなり運転手ぶっ殺すわけにもいかん」
「バズーカでも持ってくれば良かったかしら」
「俺はバズーカ持ってるぞ」
「あらヤだ」
色々と物騒なことを言いながら二人はスカイラインに乗り込む。そして野沢はタイミングを見計らって、物影からスカイラインをハッチバックの目の前に飛び出させた。ハッチバックは目の前に突然現れたスカイラインに急ブレーキを踏んだ。と同時に猛烈に後退しだした。間違いない、こいつらはミスターチャーリーご一行だ。いつのまにかサングラスをかけた高城が言った。
「行きましょ」
「オーライ」

野沢は答えると、アクセルを踏み込んだ。

一気にエンジンの回転数が上がり、往年のターボが唸りテールが沈みこみタイヤがスライドする。強烈な加速感に二人はシートに押し付けられる。スカイラインはサイレンとスキール音を盛大に響かせ追跡を開始した。


ハッチバックは後退したまま逃げる。しかし速度は出ず、スカイラインとフロントを付き合わせるような状態になっている。ハッチバックが速度を維持したまま急ハンドルでスピンターンし、逃走を続ける。車の性能も良いが、運転手の腕も中々だ。高城はサイレンアンプのマイクをひったくり喚いた。
「止まりなさい!」
しかし、止まれと言われて止まる犯罪者はいない。ハッチバックは、周囲で作業している職員や車両を蹴散らして逃走を続ける。すると、助手席の窓から一味が身を乗り出してきた。見ると、手にはオートマチック拳銃を握っており、スカイラインに向けて発砲してきた。野沢は急ハンドルや蛇行運転で弾丸をかわすが、何発かは着弾する。フロントガラスにも当たり、ガラスが砕けるかとおもいきや火花を散らしただけだった。高城が言った。
「防弾にしてたの、これ?」
「新車だから、特別にしておいたのを忘れてたぜ」
野沢が答えると、逃げるハッチバックに向かって微笑み、手招きまでしてみせた。
「撃ってこい撃ってこい」
野沢は回避行動を止め、余裕でハッチバックに接近する。途端、ハッチバックのリアガラスが粉々になり、奥から無数の火花が上がり、スカイラインに多数の鉛が襲いかかった。どうやら、ガラス越しにマシンガンらしきものを撃ってきたのだ。マズルフラッシュで、銃撃の主が微かに見える。やや高年の鬼の形相だ。野沢は、
「こいつ、笑顔で発砲してきやがって」
と、いくら防弾とはいえさすがにこれは精神的に良くないと、回避行動を始めた。
高城は、腰のホルスターから愛用のオートマチック拳銃シグP239を抜くと、
「やってくれたわね。倍返しよ」
と、一味の銃撃のスキを見計らい、助手席から身を乗りだしハッチバックに9ミリ弾を撃ちまくる。ハッチバックの助手席の一味は、思わず銃を取り落とし、車内のマシンガンヤロウにはダメージを与えたのか、その後の反撃はこなかった。高城は、車内に身を戻すと、風で乱れた髪を整えながら、
「はっ!清々した」
と言いながら、全弾撃ちきりスライドが解放されたシグの弾倉を取り替える。野沢は不敵に微笑みながら、
「グッドショット。後は任せろ。ショータイムだ」

と、アクセルを踏み込む。突如、ハッチバックの命運が尽きた。横からなんの前触れもなく、大型トラックが出てきて、ハッチバックの横腹に衝突した。ハッチバックは横に回転しつつ横転し転覆、一回転し元に戻り、停止した。野沢は急ハンドルと急ブレーキでそれをかわし、スカイラインを止めた。
と同時に、野沢と高城はスカイラインを素早く飛び出した。野沢はショルダーホルスターから愛用のリボルバー、S&W44マグナム3.5インチを抜き、スカイラインのドアを盾にして構える。高城は弾丸を再装填したシグを構え、ゆっくりとハッチバックに歩きだした。
「玲子」
野沢が高城を呼び掛ける。高城は、微笑して野沢を一瞥しただけで、歩みを止めない。
ハッチバックのエンジンからはラジエーター液漏れだろうか、水蒸気が上がっている。辺りは静まり返っていた。高城は構えていたシグを下ろすと、野沢に振り向き、言った。
「ショータイムじゃなかったの?」
途端、野沢がダブルアクションでマグナムの引き金を引いた。

盛大な発砲音と共に、44口径が高城の顔の横をすり抜けた。高城は考えるより先に身体が動き、斜め前へ飛ぶように転がると、自慢のミニスカートが捲れ上がるのも気にせず即座に膝立ちで振り向きシグをハッチバックへ構えた。
「何すんのよ!?」
高城は何をされたか分かっていたが、そう野沢に言ってしまった。ハッチバックを見ると運転席から一味の腕が出ており、地面には拳銃が落ちていた。高城が気を緩めた瞬間、銃撃されかけていたのだ。
「ショータイムだろ?」
野沢が言った。高城は、野沢お気に入りの厚い唇を噛み気を取り直すと立ち上がり、
「スーツが台無しよ・・・」
と愚痴りながらスカートを整える。湿った路面に前転したおかげで、スーツが汚れていた。そして、改めて二人揃ってハッチバックに近づいた。運転手は野沢が撃ち倒し、助手席の者は気を失っているようだった。
野沢は、助手席側から後部のドアに手をかけると、一気に開け放った。
すると、車内から頭や鼻、腕から血を流した高齢の男が、鼻息も荒く野沢を睨んでいた。日本人かは不明だがアジア系の顔付きである。左肩には銃創があり、高城に撃たれたマシンガンの主であろう。証拠に、男の足元には空薬莢とメーカーは分からないがマシンガンの類いが見えた。弾倉は装着されているが、残弾があるかは分からない。男の右腕が僅かに動く。野沢はしかし慌てず、ややオーバー気味かつゆっくりとした動作でマグナムの撃鉄を上げた。弾倉シリンダーが回転し固定され、引き金を引けば、即シングルアクションで弾丸が発射されることになる。野沢は言った。
「Don't move(ドント ムーブ)」
男は怪訝な顔で身動ぎを止めた。すると、高城が野沢の脇に立ち、
「今時はFreeze(フリーズ)って言うのよ」
と言った。野沢は、片方の眉を上げ、僅かに高城の方を見ながら、
「そうなの?」
と言った。高城は、
「うん」
と頷いた。
男は撃たれた痛みに顔をひきつらせながら、
「Give up(ギブ アップ)」
とハッキリと言い、ゆっくりと無傷の腕だけを上げた。




日付が変わった深夜。野沢と高城はようやく書類整理を終えた。分署に戻ってからは二人は、まず課長に怒鳴られた。そして署長に怒鳴られ、蚊帳の外だった麻薬取締局と無駄足に終わった海保の代表からそれぞれ文句を言われた。麻薬取締局は文句を言った割には、取り調べは自分達に任せろとミスターチャーリーらをかっさらっていった。
野沢と高城には始末書の山が待っていた。高城が買ってきたままだった缶コーヒーと、野沢の部下から差し入れのドーナツで気を紛らわせながら書類を書き上げた二人は、とっくの前に帰宅した課長のデスクの上に、山の様な書類を置き、退勤した。



そして数日経ったある日、野沢と高城は警視庁本部にいた。ある場所へと向かう通路を歩く二人の姿は、珍しく制服である。野沢が言った。
「ラッキーだったな」
高城が言った。
「本当。ラッキーね」
ラッキーとは、あのハッチバックの一件である。逮捕した三人の内の一人、高城に肩を撃ち抜かれたマシンガンヤロウがミスターチャーリーであった。チャーリーなどと名乗っていたが、中国系アメリカ人であった。部下の内の一人、助手席で気絶していた男は片腕を勤める人物であった。
そしてハッチバックの荷台からは、麻薬が押収された。麻薬の純度は高く、所謂上玉であり、量としては段ボール箱5箱程度だが、純度からすれば売り払う額は軽く見ても百億円の価値になる。取り調べでは、ミスターチャーリーの片腕があっさり供述を始め、それらの供述を突きつけられたミスターチャーリーも話し出した。海外組織についても聞き出せるだろう。
情報屋の情報は確かに正しかった。しかし、どういった経緯かミスターチャーリーは情報が漏れていることを知った。野沢の情報屋に情報が入ったのは取り引き当日だが、それ以前に漏洩していたのだ。
用心深い彼は警察が既に漏洩した情報を入手していると考え取り引きを中止しようとするが、船は既に出発していたこと、そして日本の警察を「舐めていた」ことから、陽動作戦と偽装を考えた。まず海上で積み荷と組織の人間を別の船に載せ変えた。
到着し、警察が張っていたとしても最初の船に「お宝」はない。そして、時間をずらし街中が忙しくなる頃に、港が管内に入っている警察署や隣接する警察署の管内で大がかりな事件を実際に起こし人手をそちらに向ける。手薄になった所で、しかし用心に用心を重ね、取り引き相手の船を接岸させずそこから小型船で荷を運ばせ、自分自身は自前の格好つけた高級車やスーツでなく、ありふれた商用のワゴン車と作業着を用意し荷を受け取りに行く。その様な手筈だった。
しかし、ミスターチャーリーは運悪く、部下が手配した車はワゴン車に似た形はしているが、大きな荷の積み降ろしが日常の港湾で走るレンタカーには場違い感のある乗用車だったのだ。高城が偶然出くわさなければ、そもそも野沢らが港に残っていなければ、取り引きは成功したかもしれない。銀行強盗の方は、幸い死者を出すことなく解決した。



野沢と高城が制服を着て警視庁本部にいる理由。それはこれらの功績により、警視総監賞が与えられることになったのだ。高城が言った。
「あの缶コーヒー、奢ってあげるわ」
野沢は言った。
「いや、自動販売機ごと返してやる」
高城は、その台詞を何かの映画で聞いた気がしたが、思い出せなかった。
「それより、もっと英語勉強しなさい」
「昔のドラマじゃ、外人の犯人にああ言ってたんだがなぁ」



To next time
Posted at 2021/08/17 23:49:52 | コメント(0) | トラックバック(0) | 「BAYSIDE BLUE」 | その他
2020年12月24日 イイね!

「BAYSIDE BLUE」番外編「眠らない街」

「BAYSIDE BLUE」番外編「眠らない街」


※この記事は2017年12月17日記載の「BAYSIDE BLUE」番外編「わが町」のリメイク記事です。(再放送風)





「ど~も~、今夜はクリスマスツリーでぇ~す♪」
彼女はまさしくクリスマスツリーのコスチュームを着ていた。

なるほど、深緑の生地がツリーで、飾り付け風のアップリケが着いている。
「なんでツリーなんだよ」
「だってぇ、サンタさんじゃ定番じゃん。可愛いでしょ?」
「まあ、どんな格好でも脱がしちまえば一緒か」
俺は安物のソファに座った。薄いクッションに強力なバネがやたらに軋む。
「やだもお~」
そう笑顔で言いながら、彼女は俺の膝の上に座り、両腕を俺の首に回す。張りのある肌とその体温、そして香水の香りが、急速に頭の中を熱く満たして行く。その時、携帯が鳴った。画面には「木村」と出た。今日は玲子と当直のはずだ。
「悪い、ちょっとタンマ」
俺はツリーを抱き締めたい衝動を抑え、ソファに座らせると、鳴り続ける電話を取り、キッチンまで歩き、舌打ちをしてから応答した。
「なんだ」
「係長、木村です。事件です。殺しです。もう係長の家の前まで来てますんで、待ってます」
ただの喧嘩沙汰ならともかく、どうやっても断ることができない内容を伝えられた。玲子が当直の今夜、俺は久々に金で解決できる馴染みのアバンチュールを楽しもうと思ったが仕方ない、なにせ俺は刑事だ。俺は泣く泣くツリーにチップを渡した。
「すまんな」
「いいの。また呼んで」
彼女も俺の対応には慣れたもので、せめてのサービスと戸締まりは任せてと言い、軽いキスをくれた。俺はマグナムの入ったショルダーホルスターと手錠ケースを身に付け、上着とコートをひったくる。

玄関前では、覆面に乗った木村が待っていた。ルーフに赤灯は載っていなかった。俺は助手席に乗り込み、聞いた。
「殺しだってのに、サイレン鳴らさずに来たのか」
すると木村は苦笑いした。
「いやぁ…、実は喧嘩からの強盗事件で。被害者はかなり出血してるみたいですが意識はあります。転がってた鉄パイプで殴られたとかで。容疑者は被害者の財布を取って逃走しています」
俺は不愉快なのを微塵も隠さずに言った。
「なんで殺しだ、なんて言ったんだ」
木村は畏縮して言った。
「いやぁ、玲子さんがそう言わないと来ないだろうからと……」
俺はまた舌打ちをした。まあ遊んでいるのがバレているだろうとは思っていたが。俺はため息を着くと、足下に転がる赤灯をルーフに載せ、木村に言った。
「とりあえず行け」
「はい」
木村が返事をした後、俺はサイレンのスイッチを押し、眠らない街に盛大に鳴り響かせた。

この覆面のサイレンは今時は少なくなった、いかにもな電子音のサイレンだ。それを待っていたかのように、木村は遠慮なくアクセルを踏み込み、急発進した。

























今年も~、イブもクリスマスも~、予定なし~。








まあこんなご時世ですし。




リメイクにあたり、いつだか予約して買ったのに包装さえ剥がしてなかったレイズの機捜ティアナ出動。

いいなぁ。





我が愛車、久々にエンプティランプ点くまで走ってみた。久々に給油量が50リットル超え。

最近、やたらと燃費悪いんだよなぁ・・・。








しかし昨年辺りから褐色成分は常に補充できるが、相変わらずショートカット成分が足りない!!
と思ってたら。


北川景子のショートカットが実にイイ!!







そんだけ。
寒いなぁ。
Posted at 2020/12/24 23:08:33 | コメント(0) | トラックバック(0) | 「BAYSIDE BLUE」 | その他
2018年02月13日 イイね!

②「BAYSIDE BLUE」第X話「REBIRTH」

②「BAYSIDE BLUE」第X話「REBIRTH」





東京、ベイエリア。人口25万。自動車台数1万6千台。1日の犯罪、240件。私は刑事として色々な犯罪を見てきたけれど、まさか私がストーカーに遭って、更には拉致までされるとは思ってもみなかった。

「婦警さん、そろそろ食べてよ…。お腹空いてるハズだよ……。」
青年が私の口にサンドイッチを突きつける。私は顔をそむける。何度目だろうか。決して私が自ら口を開くことはないことを、この青年は理解できないのか?大体、今は婦警という呼び方はしない。
「ほら…。ほらあ!!」
私の顔を細い手で掴み、私の口にサンドイッチをねじ込もうとする。私は抵抗する。口に入った分を吐き出し、青年の顔に吹き飛ばす。
「またそういうことするんだ………」
青年がスイッチを握る。私は身構えた。私の首には首輪がつけられている。しかも、それは電撃が走る物だ。目が覚めてから何度か味わった。そしてそのスイッチは、今青年が握っているものだ。青年がスイッチを押した。
「ぐっ、ううっ」
電撃が走る。私は身を捩らせ、負けるものかと堪える。しかし今回はだいぶ青年の気に障ったのか、今までで一番長くスイッチを押されている。
「婦警さんが悪いんだ……。なんで、あの時みたいに優しくしてくれないんだよ………」
青年が泣きそうな顔をする。泣きたいのはこちらだ。大体優しくした覚えもないし、面識もない。
私は電撃に耐える。だが、悔しいが今度ばかりは限界の様だ。
「ああああ!」
口が開く。叫ぶ。体が跳ねる。気が遠くなった。

一週間程前か、気のせいか誰かに見られている気配は感じていた。そして、とある日の夜、一人で車で帰宅していた時、目の前に人が倒れているのを見つけた。注意深く近寄ると、後ろから襲われた。一人、二人と倒した直後、後頭部にかなりの衝撃を受けた。恐らくバットかなにかで殴られたのだろう。よく死ななかったものだ。そして今。窓も時計もないので、昼なのか夜なのかも分からない。恐らく、二日は経っているだろう。私は身ぐるみ剥がされ、しかし素っ裸にひんむかれた状態ではなく、代わりに拘束具の様な服と、首に電撃を加える首輪状の装置をつけられていた。とても良い趣味とは言えない。そして時折姿を現すこの青年。細くてとても犯罪者には見えないが。しかし、この部屋一面には、私の写真がところ狭しと貼られていた。どうも私の隠れファンらしい。優しくされたとかいうのは、きっと写真やらなにやらを見てる内に、自分の世界でその気になったのだろう。私を拐った目的を聞いても、ただ私と居たいだけらしい。これは厄介だ。



昼夜、俺はスカイラインを走らせた。型は古いとはいえ、直列6気筒のエンジンは滑らかに回り、車内は意外と静かだ。その静かな車内に無線のコールが鳴る度に聞き入るが、関係のない情報や事件ばかりだ。
17分署の刑事である高城玲子が行方不明になって二日。しかしまだ公開捜査にはならない。アイツの車が放置されていた場所からは手がかりは何も出なかった。その代わりに、俺の好物のスコーンと、血痕があった。
「あのぉ、野沢係長」
「なんだ?」
「そろそろ、昼飯にでもしませんか?」
助手席の木村が遠慮がちに声をかけてくる。そうか、もうそんな時間か。腹が減っては戦はできぬ。俺は直ぐに目に入ったファーストフード店に車を入れた。

玲子が、「気のせいか誰かに見られている気がする」と言ってきた時、俺は本気にしなかった。まさかこんなことになるとは。何年デカで飯を食っているのだろうか。この職業、恨まれることは山ほどある。

犯人め。タダで済むと思うな。



青年が、私の銃を弄くっている。間違って引き金を引かれてはたまらない。私は声をかけた。
「言っとくけど、それ、弾入ってるのよ。間違ったら大ケガするわよ」
青年は言った。
「知ってるよ。シグザウエルP230、32口径。婦警さんにはぴったりのピストルだね」
そう言って、安全装置を外しスライドを引くと、銃口をこちらに向けてくる。知識はあるようだ。指は引き金にかかってはいないが、非常に悪い気分だ。
「そろそろ帰してくれないかしら?あまり無断欠勤すると、ボーナスに響くわ」
「それは大丈夫だよ。だって、婦警さんはここで僕とずっと暮らすんだし、面倒は僕が見る。婦警さんはここに居てくれればいいんだ」
爽やかな笑顔だが言ってることはとんでもない。どうにかしなければ。
「僕は一目見た時から、婦警さんが好きになっちゃったんだ。ぶっちゃったのは悪かったけど、婦警さん強いからああでもしないと」
青年が近づいてきた。手はこの拘束服のおかげで動かせないが、足ならなんとかなるので蹴りでも入れてやりたいが、その後がどうにもならない。
「あの女の子にしてたみたいに、僕も頭を撫でて欲しいなあ…」
あの女の子…?そういえば、小学生の女の子が落とし物を分署に届けに来て、たまたま私が預かって…。それも見ていたのか。そんな近くにいたと思うとゾッとする。
「ねえ……、撫でてくれる?」
青年が自分の顔を、私の顔に近づける。手には電撃首輪のスイッチ。
「少なくとも、この状態じゃ無理ね」
「婦警さんが暴れないって約束するなら、腕を動かせる様にしてあげる」
「するわ」
「いや、嘘だね」
そう言って離れる青年。無茶苦茶だ。
「でも、いつか婦警さんは絶対僕の頭を撫でてくれるよ」
そう言って青年は笑った。



俺は机で、捜査資料を整理していた。信田が側までやってきた。俺は顔をあげた。
「係長、ちょっと私のパソコン見て貰えますか?」
妙に声を落としてそう言った。俺は信田と一緒に彼女の割り当ての席まで行く。青野がこちらを伺っている。渡辺と木村は捜査に出ている。本庁捜査一課の捜査班と近隣の署からの応援も含め、極秘に捜査本部が設置されていた。指揮を執るのは、捜査一課から派遣された班の管理官だ。
「なんだ?」
信田は、業務に使っているノートパソコンを一瞥してから俺に言った。
「あるネットの掲示板の書き込みなんですけど……」
「俺はそういうのは分からん。何か見つけたのか?」
「名前は出てないんですが、恐らく玲子さんのことが書かれていると思われます」
「何だって…?」
俺は大声を出しそうになるのを堪えた。有力だが、まだ確実な情報ではないのだろう。それで信田は声を落としていたのだろう。彼女は椅子に座ると、パソコンを操作した。聞き耳を立てていた青野も寄ってきた。
「書かれている内容なんですけど「知り合いから高額のバイトをしないかと声をかけられ、手伝った。女を襲った。それは刑事だった」、と書かれています」
「野沢、こいつは……」
青野が息を飲む。書き込まれた内容の続きを読んで行くと、犯行時の行動が書かれていた。当然場所等は書かれていなかったが、俺たちが推測していたのとほぼ同じだった。
「他に、画像がアップロードされていました。玲子さんの写真じゃないんですが…」
信田が開いた画像は、警察手帳と拳銃だった。手帳はバッジのみを写していた。銃はシグの様だった。玲子もこれと同じ物を持っている。
「…信田、俺と一緒に管理官に報告してくれ。そしてこれを書いた奴がどこのどいつか、調べるんだ」
「はい」



「…婦警さん」
声をかけられ、ハッとした。眠っていた様だ。さすがに飲まず食わずで電撃をくらっては体力の消耗も激しい。そして人間、どんなに気を張っていても眠い時は眠い。
「だいぶ疲れてるみたいだね」
「そうね、誰かのせいでね」
「だって、婦警さん何も食べてくれないんだもの」
確かにそれもそうだ。これ以上体力を消耗しては、抵抗する気力も起きなくなる。悔しいが、食事は受け入れることにした。薬でも盛られないことを祈ろう。しかし一切外からの音は聞こえない。防音がしっかりしているのだろうか。今何時で、ここは一体どこなのだろう……。



三日目の夕方。そして、もうじき夜が来る。
今日は青野と組んで捜査している。インターネットの掲示板に書き込んだ奴の身元が割れ、朝早くからしょっぴいて聴取している。今は渡辺と信田が締め上げてる。余程の意識がないと、人は不思議と秘密を喋りたがる。今回はそれに助けられた。
「分署から分署17」
無線で呼び出される。助手席の青野が無線に答えた。
「分署17、分署どうぞ」
「渡辺だ。高城の居場所が分かったぞ」
「本当か?」
その場所は、ある廃工場で分署からそう遠くない場所だった。舐められた物だ。
「至急パトを向かわせ、包囲する。それまで待機してくれ」
それを聞いた俺は、無線を握る青野の腕ごと掴んで引き寄せると、無線に怒鳴った。
「そんなのんびりしていられるか!」
「落ち着けよ。準備するまで待つんだ。管理官がそう言ってる!」
「なんにしろ俺たちが一番乗りだ!」
青野が「へ?」と小さな嘆きの声をあげた。渡辺が言った。
「野沢さんよ、あんたの気持ちはよく分かる。だが落ち着いてくれ。青野さん、何とか言ってやってくれ」
俺に腕を掴まれたままの青野は、やや無線に体を近づけて言った。
「あー、無理無理。もうこいつは誰の言うことも聞かないって」
「そうだ。俺は、今なら警視総監の言うことだって聞かないってことだ!」
俺はそう言うと、青野の腕を離した。青野は無線を切ると、
「まったくもー、しょーがねーなー」
と言い、回転灯をルーフに放りサイレンのスイッチを押した。俺は騒音ばりのサイレン音に負けない様に
「すまんな、相棒」
と大声で言った。青野も同じ様に、
「そりゃどういたしまして」
と返した。俺は床を踏み抜くぐらいにアクセルを全開にし、スカイラインの直6エンジンを唸らせた。




今回の食事に、やはり何か混ぜられていたらしい。どうも頭がぼやける。それに体がだるく、力が入らない。今までの言動から体を狙ってはいないと思っていたが、やはり腐っても男。目の前に女がいれば、手を出したくなるか。
「婦警さん、どお?頭の中、気持ちよくない?」
「知らないの…?今は……婦警って言わないのよ……」
言い返してみるが、どうも呂律が回らない。青年は息をやや荒くして、私の体をなで回す。覚えてなさいよ。
その時だった。何かを壊す大きな音が聞こえた。今まで何も聞こえなかったこの部屋に初めて外部からの音が聞こえた。気のせいか、サイレンの音も聞こえる。
「な、なんだ!?」
青年は慌てて部屋を出た。音の原因を確かめに行ったのだろう。



我ながら派手な登場の仕方だった。懐かしの刑事ドラマ宜しく、盛大にサイレンを響かせ廃工場のシャッターをぶち破り、内部に踊りこんだ。玲子が危険に晒されるとか車が傷つくといった思考は働かなかった。工場内部の土埃が舞い上がり、それをヘッドライトと赤灯が照らす。車から降りると同時に銃を抜いた。リボルバーでスミスの3.5インチ、44マグナムだ。玲子はそろそろ軽いオートマチックに変えたらと言うが、このズシリとした重さと大きさが命を守ってくれると実感できるのだ。青野も、ベレッタを抜き周囲を警戒している。俺は青野に言った。
「俺は右に行く」
「じゃあ俺は左」
そうして左右に別れた。玲子は、この内部に作られた部屋に囚われているとのことだ。パソコンの掲示板に書き込んだ男の供述によると、主犯が、バイト代をたんまりやるから手伝えと言ってきた。ある女を襲った。そしてここまで運んできた。所持品から刑事と分かった。主犯には隠れて銃とバッジの写真を撮り、つい面白半分でインターネットに投稿したのだという。しかし、情報はその男の供述だけで、俺と青野は、この工場内部の見取りなど一切分からない。しかも、その男は工場前までしか来ていないという。内部のどこに玲子を監禁している部屋があるのかは知らないとのことだ。完全に勘だけが頼りだ。灯りもない。工場の窓や劣化により空いた穴や隙間から入る街の光だけだ。今さら、渡辺の言うとおり応援を待った方が良いような気がしてきた。しかし神様は勘を助けてくれたようだ。背中の方で扉を閉めるような音が聞こえた。ふと振り返ると、鉄骨階段の先にそこそこ大きなプレハブが見えた。外側はオイルのような液体や埃で汚れ窓ガラスは割れている。ドアは開いている。だが俺は確信した。きっとそこだ。なるべく音を立てないように階段を上り、プレハブに近づいた。そして中に入る。ボロボロになったデスクやソファーがあった。事務所として使われていたのだろうか。奥にまたドアがあった。それは新品のドアだった。俺は慎重に近づくと、思い切り足でノックした。
「警察だ!」
怒鳴る。部屋があった。しかしそこは無人であり、そして部屋一面には玲子の写真が貼られていた。



「来てよ!来るんだよ!」
襟元を掴み、私を引きずりあげようとする青年。しかしあまり筋力がないのか、かなり苦労している。まったく力を入れない大人は重い。片手には私の銃を持っていた。青年がようやく私を起こす。青年はいつも現れる方向とは別の方向に進んだ。隠し扉があった。そこから出る。通路の様だ。また扉を開ける。風を感じる。今度は外に出た様だ。暗く涼しい。そして暗闇の中で所々灯りが見える。どうやら夜の様だ。
「動くな!」
突然、どこからか声が聞こえた。それは同僚の青野さんの声に聞こえた。青年は意味のない叫び声をあげると、その方向に何発か銃撃した。弾丸が金属に当たり跳ね返る音がする。青年は更に何発か撃ち、また私を引っ張る。目の前に階段が見えた。そこを下る。足がもつれ、転びそうになる。口の中に鉄と砂っぽい味が広がる。遠くから、サイレンの音がいくつも重なって聞こえる。聞き飽きたやかましい音だけれど、今はとても頼もしく思える。
「くそっ、くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!!」
青年が声を裏返す。銃を振り回し、しきりに周囲を警戒している。かなり動揺している。銃に弾が何発残っているか分からない。けれど、助けが来た。チャンスと感じた。青野さんがいるなら、きっと彼もいる。あの二人は長い付き合いだから、こんな時は必ず一緒にいるはずだ。ご都合楽観主義の勘を原動力に、私は力を振り絞り青年の手から逃れると、
「だああっ!!」
喉が壊れるかと思うような声を勢いに、ジャッキー・チェンもびっくりな渾身の回し蹴りを青年の顔面に食らわせた。青年共々地面に倒れる。受け身が取れず、かなりの衝撃を食らった。なんとか立ち上がろうとする。しかし、威力が不十分だったのか、青年の方が早く立ち上がった。土と鼻血でグロテスクになった顔は、怒りと悲しみが入り交じった様な顔だった。私の髪の毛を掴み、そして私の額に銃口を押し付ける。息がかなり荒い。汗と血が私の顔に落ちる。手が震え、銃も震えている。殺される。覚悟した。
その時、リボルバー独特の撃鉄を上げる音が聞こえた。それは離れた場所から小さく、けれどはっきりと聞こえた。そして、低く抑えた男の人の声が聞こえた。ダンディー、それでいてセクシーな声だ。
「女を離せ」

私にとってサイレンよりも頼もしく、そして心地良い声だ。青年はその声の主を睨み、何故か笑いを含みながら叫んだ。
「アンタか!なんでアンタ、ここにいるんだよ!?アンタさえいなけりゃ婦警さんはさあ!!」
私の髪を掴んでいた手が離され、私はまた地面に倒れた。痛い。また男の人の声が聞こえた。
「銃を捨てろ。捨てれば、助けてやる」
青年は叫んだ。
「うるさい!あの世に行けええ!!」
銃声がした。私は思わず目を瞑った。
人が倒れる音が聞こえた。

「先に行ってろ」

銃声は44マグナムの重々しい音が一度だけ。目を開ける。そこには、倒れた青年がいた。青年は、私に顔を向けた状態で倒れていた。身動き一つ、瞬き一つしない。そしてその顔は、とても頭を撫でたいとは思わない表情で固まっていた。しかし、監禁されなぶられそうになり、そして殺されかけたと言うのに、哀れみを感じた。改めて見れば、まだ子供の顔だ。
「玲子」
私は名前を呼ばれ、現実に引き戻された。私を呼んだ男の人の声は、夜のベイエリアの灯りに照らされた、彼だった。私の上司でもあり、最も――――。
「大丈夫か」
声の主に抱き起こされる。拘束服の腕の拘束箇所が外され、やっと腕が自由になった。
「……そい」
「…なにぃ?」
「おそぉい…!」
私は力なく、彼の胸を叩いた。まるで酔っぱらいだ。呂律が回らないから仕方ない。彼、ハードボイルド気取り警部補様の野沢大輔は苦笑した。
「ああ、すまん。遅くなった」
「本当に、遅いわよぉ………!」
顔が歪む。痛みのせいじゃない。目が霞む。薬のせいじゃない。喉が震える。土埃のせいじゃない。悔しいけど、涙が出てきた。私は今出せる精一杯の力で彼に抱きついた。



キャリアウーマン巡査部長の高城玲子が泣いた。並大抵じゃない気の強さの女だが、今回はとても辛い思いをさせたのだろう。人の気配がした。俺が撃ち倒した男ではない。気配に視線を向けると、少し息を弾ませ、スーツを汚した青野が見えた。撃たれたようだが、無事なようだ。青野は俺と玲子の姿を見ると、安堵と落胆と呆れが入り交じったような顔を浮かべ、スカイラインの方へ向かった。無線を送りに行くのだろう。いつも貧乏くじを引かせてしまう、長年の頼りになる相棒だ。俺は心の中で青野に詫びた。そして、玲子を抱き締め、言った。
「遅くなって、悪かった」

俺は彼女を強く抱き締めた。幾多のサイレンが夜を包んだ。





End
Posted at 2018/02/13 18:06:12 | コメント(0) | トラックバック(0) | 「BAYSIDE BLUE」 | その他
2018年02月13日 イイね!

①「BAYSIDE BLUE」第X話「REBIRTH」

①「BAYSIDE BLUE」第X話「REBIRTH」※今回の記事は、恐れ多くも、私のブログをよくご覧頂いてる淀川長治知ってますよみたいなマニアックな方々向けの内容です。車一切関係ありません(笑)。みんカラ要素一切ありません(笑)。どうかご容赦ください。
m(_ _)m



さて隠れファンの多い(?)「17th PCT」「BAYSIDE BLUE」の新作書いてる(打ってる)!なんて言いましたが、実際はまーなかなか難しいもんで……。でも言ったからには、ねぇ(笑)。

そこでふと思ったのが、それなりに?真面目なストーリー作っても登場人物の名前がちょっと今一で。もともと、おふざけで書き出したので、みんカラ友人やリアル友人を登場させる為にハンドルネームやあだ名を使ってたんですが、それだとどーも緊張感がおかしくなるので、むかーしむかし、私が高校時代に漫画サークル的なので描いた漫画に使ってたり考えた登場人物(誰も知らねぇ!)を参考に、「BAYSIDE BLUE」の人物に名前をつけてみました。そしてそして、過去に書いた「17th PCT」「BAYSIDE BLUE」の話をリメイクといーますか加筆してみましたですハイ。


ってわけで、ここで登場人物を紹介してみます。生暖かい目で見てやってください(笑)。当時同窓でもありサークル仲間でもあった現役漫画家友人曰く「どれだけ自分の世界を書けるか!!」

人物の名前の後のかっこ書きは、今まで文書で使っていた名前となります。



野沢大輔(警部補)…警視庁17分署刑事課強行犯係・係長(警部補)。警視庁一の検挙率と始末書枚数のベテラン刑事。
青野譲二(ゆうたろう)…同係・捜査員(巡査部長)。野沢の相棒で、長い付き合い。恐妻家。
高城玲子(女)…同係・捜査員(巡査部長)。元内務調査。野沢とは公私のパートナー。
木村峻一(er34)…同係・捜査員(巡査)。元墨東署交通課。野沢にスカウトされ17分署に異動となった。
渡辺利樹(だらしな権兵衛)…同係・捜査員(巡査部長)。古株で、野沢とは青野に次ぐ付き合い。
信田麻里絵(シノダ)…同係・捜査員(巡査長)。元新宿署。木村より先輩だが刑事歴は一番若い。とあるアイドルに似ていると評判。



名前の由来や設定の多くは、好きな海外ドラマの役名・設定・出演声優、外見がとある有名人や俳優に似てるからとかです。




と、いうわけで?記念すべき??第一段(続くのか?)は、「17th PCT」第X話「Addicted」を改めた物になります。
Posted at 2018/02/13 18:05:34 | コメント(0) | トラックバック(0) | 「BAYSIDE BLUE」 | その他
2015年02月24日 イイね!

「BAYSIDE BLUE」第X話「Pick Up The Pieces」

「BAYSIDE BLUE」第X話「Pick Up The Pieces」とある港。やや日差しに色がついてきた。だいぶ使いこまれたコンテナに隠れる様に、黒いスカイラインが停まっていた。17分署の覆面車だ。中には、警部補と女がいた。二人ともシートを倒しリラックスしている。しかしさぼっている訳ではない。女が気だるそうな声を出した。
「…今、何時?」
腕時計を見た警部補が、似たような声の調子で答えた。
「…15時30分」
女が言った。
「いつまでここにいんのよ?」
「……定時まではいるか」

この二人がここにいる理由、それは警部補が長年使っている情報屋が今朝たれこんだ情報だった。この港で、今日の正午に某国の貨物船が到着する。その中には大量にして相当な額となる麻薬と外国の組織の大物が乗っているという。組織名は聞いたことはなかった。受け取り人は、これまた外国人だった。ミスターチャーリーと呼ばれる男だった。こちらは何度か名前を聞いたことがある人物で、生活安全課や麻薬取締局が何度も摘発を行っているが撲滅に至らず、むしろ勢力を拡大している麻薬組織の長である。ミスターチャーリーはかなり用心深い人物で、まともに撮れた写真はなく、望遠で撮れたぼんやりとした物しかない。そんな人物が出てくる取り引きが真っ昼間から行われるなどとは随分と眉唾物な話であるが、警部補は情報屋の話を信じた。その情報屋が持ってくる話はまず間違いなかったからだ。警部補は時間がなかったことから刑事課長を通さずに、パトロールや近隣の署、更には機捜隊の応援をかき集め、海上保安庁にも連絡を取り、その港を張った。貨物船が接岸する予定の岸壁に近すぎず遠すぎない場所にスカイラインを停めた。

そして現在に至る。
貨物船は確かに現れた。が、受け取り人のミスターチャーリーは来なかった。船には組織も麻薬もなかった。警部補は携帯電話で情報屋を怒鳴り散らした後、包囲体制を解いた。わざわざ、大型巡視船まで用意した海上保安庁は今頃何処に文句を言っているのか。警部補はうんざりしていた。上司に無断で、海上保安庁まで動かしたのだ。分署に戻れば、どれだけ絞られるか。警部補は分署に戻る気になれなかった。結局は戻るしかないのだが、僅かな望みをかけて、残った。何か起こるかもしれないというまったく可能性の低い望みだ。女は警部補の子供っぽさに付き合った。警部補の指示になんら反論せずに従ったのだ。一心同体だ。


女は腕時計を見た。15時48分。一心同体の心構えも、正直飽きてきていた。
「ちょっと飲み物でも買ってくるわ」
女はそう言って車を降りた。
「俺の分も頼む」
警部補はそう女に言った。頭の中では、始末書の文面を作っていた。女は港湾事務所に向かった。大体はそこに飲料の自販機があるのだ。案の定、3つ程の自販機があった。女は好みのメーカーの自販機を選ぶと、自分と警部補の缶コーヒーを買った。缶が取り口に落ちてくる。自然とため息が出た。なんて私はお人好しなんだろうと、自嘲のため息だ。その時、彼女の背後を車が走った。それはありふれた商用のワゴン車だった。港湾でも珍しくはない。しかし彼女はそれに何か違和感を感じた。


スカイラインの無線が鳴った。一斉指令だった。17分署管内で、銀行に武装強盗が押し入り立てこもっているという内容だ。場所はここからかなり離れている。警部補はこの現場を離れることに迷った。しかしそれは一瞬だった。どうせ呼び出されるに決まってる。倒していたシートを跳ね上げ、シートベルトを締める。女が戻ってきた。車内の警部補の様子に気がつき、小走りになって車に戻った。女は警部補に言った。
「どうしたの?」
「武装銀行強盗で籠城だと。ここからかなり遠いが、どうせ呼び出される」
「そうね」
女もシートベルトを締めた。再び無線が鳴った。今度は、17分署と隣の署との境界線付近で同じく銀行強盗が発生した。こちらもここからはかなり遠い。警部補は言った。
「なんだなんだ、こりゃ大忙しだな」
警部補はスカイラインを発進させようとする。その時、女が叫んだ。
「ちょっと待って!」
警部補はブレーキを踏んだ。
「なんだ!?」
警部補の問いに、女は言った。
「ちょっと待って!」
「だからなんで!?」
女は必死に考えた。無線を聞いてから、先ほどの違和感が非常に強くなったのだ。しかし、それがはっきりしない。警部補は女の足元に置いてある赤灯を取ると、ルーフに載せる。

その時、女が言った。
「綺麗過ぎた」
「なに?」
女の言葉が理解できず、警部補は上ずった声を出した。女は独り言の様に続けた。
「あの商用のワゴン、綺麗過ぎた。…そうだ、あのナンバー。レンタカーだ!」
「なんの話だ」
警部補はやや声を荒くした。女は言った。
「さっき私の後ろを、商用のワゴンが走ってったのよ。それもレンタカー」
「それがなんだ!珍しくもない」
「確かに珍しくないわ。でも無線を思い出して!」
「無線?」
「ほぼ同時に、ここから遠く離れた場所で凶悪事件が発生。一つはうちの管内、もう一つは隣との境界線」
「……パトが総動員だな」
「自ら隊や機捜も飛んでくでしょうね」
「管内は手薄だな」
「そしてここは遠く離れた場所」
女の言葉に、警部補は考え、言った。
「ワゴン車、珍しくはない。ないが、実に怪しい」
警部補は続けた。
「偽装したミスターチャーリーか……。行ってみるか。どうせ銀行に行ってもビリだしな」
警部補は、スカイラインを岸壁へと向かわせた。



警部補はある程度近づくと、スカイラインを物影に隠し、そこから岸壁を伺った。これは完全に運の問題だった。そして運は警部補達についた。女が目撃したワゴンは岸壁にいた。作業着姿の影が三人。モーターボートが接岸しており、そちらから何か受け取り、ワゴンの荷台に乗せている。動いてるのは二人。一人はただ見ているだけだ。あれが組織だとしたら、恐らくただ見ているだけなのが、ミスターチャーリーであろう。今から応援や海保を呼ぶ暇はない。警部補は女に言った。
「二兎を追う者なんとやらだ。取り引きが終わったら、あのワゴンだけ押さえる」
「OK」
二人は監視を続けた。そして、取り引きは終わった様だ。人影三人はワゴンに乗り込み、ゆっくり発進した。こちらに向かってくる。警部補が言った。
「行くぞ、車に乗れ」
「ここで撃っちゃえば!?」
「いきなり運転手ぶっ殺すわけにもいかん」
物騒なことを言いながら二人はスカイラインに乗り込む。そして警部補は物影からスカイラインを飛び出させた。ワゴンは目の前に突然現れたスカイラインに急ブレーキを踏んだ。と同時に猛烈に後退しだした。間違いない、こいつらはミスターチャーリーご一行だ。警部補はサイレンのスイッチを押し、追跡を始めた。

ワゴンは後退したまま逃げる。しかし速度は出ず、スカイラインとフロントを付き合わせるような感じになっている。女はマイクをひったくり喚いた。
「止まりなさい!」
しかし、止まれと言われて止まる犯罪者はいない。ワゴンは往生際悪く、あちこちに車体をぶつけながらそれでもバックのまま逃走を続ける。しかしいきなりワゴンの運は尽きた。横からなんの前触れもなく、大型トラックが出てきて、ワゴンの横腹に衝突した。ワゴンは一回転して止まった。警部補は急ハンドルと急ブレーキでそれをかわし、スカイラインを止めた。と同時に、警部補と女はスカイラインを素早く飛び出した。法律では、警察業務に用いられる緊急車両で、犯人逮捕に際してはシートベルト着用義務は免除されている。二人はそれぞれ、マグナムとシグをホルスターから抜くと、注意深くワゴンに近づいた。ワゴンの中の三人は気を失っていた。警部補と女は、安堵のため息を漏らした。



日付が変わった深夜。警部補と女はようやく書類整理を終えた。分署に戻ってからは二人は、まず課長に怒鳴られた。そして署長に怒鳴られ、蚊帳の外だった麻薬取締局と無駄足に終わった海保の代表からそれぞれ文句を言われた。麻薬取締局は文句を言った割には、取り調べは自分達に任せろとミスターチャーリーらをかっさらっていった。警部補と女には始末書が待っていた。唯一救いなのは、今回は拳銃を発砲していないことだろう。一枚でも二枚でも書類は少ない方が良い。書類を書き上げた二人は、とっくの前に帰宅した課長のデスクの上に、山の様な書類を置き、帰宅した。



そして数日経ったある日、警部補と女は警視庁にいた。ある場所へと向かう通路を歩く二人の姿は、珍しく制服である。警部補が言った。
「ラッキーだったな」
女が言った。
「ほんっと。ラッキーね」
ラッキーとは、あのワゴンの一件である。逮捕した三人の内の一人は、間違いなくミスターチャーリーであった。チャーリーなどと名乗っていたが、中国系アメリカ人であった。二人の内の一人もその片腕を勤める人物であった。そしてワゴンの荷台からは、麻薬が押収された。麻薬の純度は高く、所謂上玉であり、量としては段ボール箱5箱程度だが、純度からすれば売り払う額は相当な物になる。取り調べでは、ミスターチャーリーの片腕があっさり供述を始め、それらの供述を突きつけられたミスターチャーリーも話し出した。海外組織についても聞き出せるだろう。
情報屋の情報は確かに正しかった。しかし、どういった経緯かミスターチャーリーは情報が漏れていることを知った。警部補の情報屋に情報が入ったのは取り引き当日だが、それ以前に漏洩していたのだ。用心深い彼は警察が既に漏洩した情報を入手していると考え取り引きを中止しようとするが、船は既に出発していたこと、そして日本の警察を「舐めていた」ことから、陽動作戦と偽装を考えた。まず海上で積み荷と組織の人間を別の船に載せ変えた。到着し、警察が張っていたとしても最初の船に「お宝」はない。そして、時間をずらし街中が忙しくなる頃に、港が管内に入っている警察署や隣接する警察署の管内で大がかりな事件を実際に起こし人手をそちらに向ける。手薄になった所で、しかし用心に用心を重ね、取り引き相手の船を接岸させずそこから小型船で荷を運ばせ、自分自身は自前の格好つけた高級車やスーツでなく、ありふれた商用のワゴン車と作業着を用意し荷を受け取りに行く。その様な手筈だった。女がワゴン車に違和感を感じなければ、あるいは警部補と女が港に残っていなければ、取り引きは成功したかもしれない。銀行強盗の方は、幸い死者を出すことなく解決した。



警部補と女が制服を着て警視庁にいる理由。それはこれらの功績により、警視総監賞が与えられることになったのだ。女が言った。
「あの缶コーヒー、奢ってあげるわ」
警部補は言った。
「いや、自動販売機ごと返してやる」
女は、その台詞を何かの映画で聞いた気がしたが、思い出せなかった。



To next time


Posted at 2015/02/24 20:38:45 | コメント(0) | トラックバック(0) | 「BAYSIDE BLUE」 | その他

プロフィール

「本人じゃないカバー版とはいえ、この時期に広末涼子の曲をリクエストするリスナーもそれを選ぶ某ラジオ番組もすげーなー。と25年前のスカイラインスーパーサウンドシステムで聞きながら。」
何シテル?   04/18 17:27
警部補です。 ある時は、墨東署の警部補。 またある時は、ベイエリア分署の警部補。 またまたある時は、17分署の警部補。 しかし、その実体は! ...
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