
「撃てっ」
教官の号令に、しかし、僕も含めて誰も撃たない。最初はドキドキワクワクだが、勉強するにつれ、いかに拳銃が怖いものかと理解しているからだ。
「おーい。誰か撃たねーかー?」
教官がのんびりと言った。誰かが発砲した。途端、誘発され発砲する仲間。まるで爆竹だ。
あの頃は1発撃つだけでも大変だったのに、今は何発撃ってるのか。連射した。スライドし9ミリの空薬莢が飛ぶ。しかし手応えはない。逆に3発返ってきた。やり過ごし、隠れ場を変え反撃しようとした時、更に別の方向から2発。思うように身動きが取れない。応援を呼ぼうにも、ここは東京なのに今時携帯が繋がりにくい場所だ。
行き付けのコンビニだった。帰りがけの買い物を終え、車まで戻ってくると、どうしたことか傾いている。見ると、パンクしていた。いやさせられていた。ナイフが柄の部分までしっかり刺さっている。
「あーーーーーっっ!!なんだこりゃあ!!!」
思わず声が出る。周りに視線を飛ばすと、ある一人のチーマー風の男がニヤニヤしながらこちらを見てる。直感で奴が犯人だと思った。
「おい、アンタ!」
声をかける。途端にチーマー風は走り出した。
「待てこら!!」
当然追う。足には自信があるが、しかしチーマー風も中々早い上スタミナがある。夜で涼しくはなっているが、段々汗をかいてきた。気がつくと、ある廃ビルまで追っていた。1部屋のテナントのドアが開いている。広い室内に入ると、持ち歩いているハンドサイズのマグライトを取りだし叫んだ。
「おい!俺は警察だ!もう逃げられないぞ!出てこい!」
今思えば、この辺りででも応援を呼ぶべきだった。しかし、自分の車がパンクさせられたことにだいぶ頭に血が上っていた。
「出てこい!さもないと撃つぞ!」
もちろん脅しだった。次の瞬間、暗闇から銃声と、壁に着弾があった。
11発目。しかしこれも外れだ。相手は恐らく3人。機関銃を持ってないのが救いか。明らかに、僕を狙った犯行だ。
「おい!一体なんのつもりだ!警官相手にして、只で済むと思ってんのか!!」
何度目かの喚き。すると、初めて応えが返ってきた。
「お前がアニキをパクりやがったからだよ。サツなんてみんなくたばればいいんだ!」
そして銃声。アニキ?ヤクザか?奴らはその手下か。拳銃を持っているから、その辺りの暴走族やギャングではなさそうだ。しかし、ヤクザはまず警察に喧嘩を売る奴はいない。そんなややこしい奴を捕まえた記憶は――――――
再び銃撃。
あった。思い出した。少し前に、クラブの手入れで、僕は偶然ある組織の幹部を逮捕した。なんてことだ。仕返しだ。それもかなり執拗だ。僕の生活パターンを調べ、罠をかけたのだ。奥歯を噛み締めると、隠れていたデスクから身を乗りだし、反撃。これも手応えはない。スライドが固定される。弾切れだった。空になったマガジンを捨てる。マガジンポーチに手をやり、ゾッとした。マガジンは一つしかなかった。予備のマガジンは2つ持っている。そういえば、さっきリロードしたことを思い出した。既に30発以上撃ったことになる。時間の感覚がなくなっている。あれだけ撃って膠着状態なのに、残り17発でこの状況をどうにかできるのか…。そう思った瞬間、冷や汗がどっと出てきた。考えてみれば、1人きりの銃撃戦、それも多人数と撃ち合うのは初めてだ。応援も呼べず、人数では敵わない。少なくとも、相手は6発以上は撃てる銃を持っている様だ。もし予備の弾を持っていたとしたら、弾数でも敵わない。僕のグロック17も装弾数は多い。けれど銃口は1つだけだ。体が震えそうになった。
「逃げるしかない…」
言葉が漏れた。悔しい。僕は警察官だ。けれど…。ふと、相手の銃撃が止んだ。弾を温存する気か、それとも弾が切れたのか、リロード中か。どちらにしてもチャンスかもしれない。どうやっても今は自分が不利だ。退却するしかない。僕は今までどう動いたかを思い出そうとしたが、ほとんど反射的に動いていたので、方向の感覚もない。勘で出入口の方向を定め、飛び出した。4歩目で銃撃が来た。僕はヘッドスライディングで床に逃げた。すかさず、銃撃の方に反撃した。
「ぐあっ」
手応えがあった。ようやく当たった。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとはよく言ったものだ。僕はその勢いで立ち上がり走った。また銃撃された。走りながら撃ち返す。すると弾が出ない。ギョッとした同時に、何かに躓いて倒れた。すぐに隠れる。銃を確かめると、最悪だ。ジャムっていた。弾切れよりはマシだが、よりによって起こってほしくない時に起きる。限りなく起きないだけであって、起きなくはないのだ。
「よくもやりゃーがったなあ!!」
犯人の1人が喚く。僕は詰まった弾を取り除こうとするが、焦って手間取る。その時だった。
「警察だっ!」

どこかで聞いたことのある2つの怒声と、部屋に眩しい光が入る。マグライトの光だ。僕はその光とは反対の方向にいた。絶対絶命だったわけだ。なんとか銃を撃てる様にした。追った光の1つが、犯人の1人を照らした。なんと僕のすぐ近くだ。僕は咄嗟にそいつを撃った。奴は短く声を上げると、そのまま倒れた。もう1人がなにか喚き、銃撃した。直後、別の銃声数発がそれを倒した。
「動くな!」
僕の顔に強烈なLEDと、女性の声が浴びせられる。僕は直ぐに手を上げ怒鳴った。
「撃つな!警官だ!17分署だ!」
「34君!?」
声の主はシノダさんだった。
「大丈夫!?」
シノダさんが寄って、僕の肩に手をやった。
「ハイ、なんとか…」
埃と硝煙の匂いしかしなかった中に、シノダさんの香水の甘い匂いが鼻を擽る。一気に緊張から解放された。
「生きてるかー?」
別の方向から声が聞こえた。権兵衛さんの様だった。
翌日。

どうして僕が助かったのかというと、あのコンビニの店員が通報してくれていたからだ。その通報を受けて来たのが、権兵衛さんとシノダさん。僕の車がパンクさせられていたことと、僕に連絡がつかなかったことを不審に思い、付近を捜索してくれていたそうだ。そして、微かだが銃声の様な音が聞こえ踏み込んだそうだ。犯人は3人で、2人射殺、1名重傷。射殺された1名は権兵衛さんとシノダさんに。もう1名は僕だ。そしてやはり、先日逮捕した組織の幹部の手下だった。僕は、言葉少なくしかししっかりと係長に叱られ、女さんには頭を撫でられ、権兵衛さんとシノダさん、そして何故かゆうたろうさんに昼食を奢ることになった。
『今回は運が良かっただけだ。以後、より用心する様に』
係長に言われた一言が、身に染みた。そして、初めて人を殺したことも。
To next time
Posted at 2013/06/19 21:40:48 | |
トラックバック(0) |
「17th PCT」 | その他