
つい先程、NHKスペシャル『新・映像の世紀』を視聴しました。
今夜の放送は、「
Chapter02 グレートファミリー 新たな支配者」です。
石油王ロックフェラー、化学王デュポント、金融王モルガン…。
いずれも、アメリカを陰から操ると言われる、ユダヤ系超巨大財閥。
個人的には、新聞王マードックや、鉄鋼王カーネギー、ロスチャイルド家についても言及があれば尚良かったのですが、話が広がりすぎるから仕方ないですね。
そんな中で、自動車王
ヘンリー・フォード一世だけが、取って付けたような扱い。
にも拘わらず、実に印象的な役回りを与えられていました。
ジョン・ロックフェラーが今際の際、見舞いに来たヘンリーに
「先に天国で待っている」
と告げると、帰ってきた言葉は
「あなたが天国に行けるならね」

その富や権力や名声とは裏腹に、お金に執着するあまり高潔さとは無縁で、「
泥棒男爵」と蔑まれながら孤独にこの世を去った、ロックフェラー。
それに対し、ヘンリーも同じくたった一代で財閥を築いた億万長者でありながら、一貫して労働者の立場に立っていました。
それは、16歳で高校を中退し、一介の機械工として現場叩き上げでここまできたという出自が、そうさせるのでしょうか。
フォード、マツダ株を全部売却へ。これはまさか...
(ゆめ痛 -NEWS ALERT-、2015年11月17日)
冒頭の、ロックフェラーとヘンリーの会話を聞いて、このニュースを思い出しました。
排ガス不正問題で揺れているフォルクスヴァーゲンは今、他社を巻き込もうと必死です。
当然、SKYACTIV-Dを売り出しているマツダも、虎視眈々と付け狙われていることでしょう。
そんな時期に舞い込んできた、
フォード・モーターがマツダ株を全株手放したというニュースです。
これは単に、リーマン・ショック以降段階的に手放していたマツダ株が、これでようやく全て捌けたというだけなのでしょう。
そのタイミングが、たまたま今だっただけで。
一部で囁かれているような、
「やはりマツダもディーゼルエンジンで不正しているのではないか?」
「フォードはそれを知っているから、急いで手放したのではないか?」
というものでは、恐らくないはず。
昔、マツダは多チャンネル化(マツダ、ユーノス、アンフィニ、オートザム、オートラマ)で勢い付いていました。
しかしバブル経済が崩壊したことで、多チャンネル事業は裏目に出ます。
そんなときに、手を差し伸べてくれたのが、フォードでした。
フォードは、1979年からこちら、マツダ(当時は東洋工業)の筆頭株主でした。
以来、親会社・子会社の関係であり、マツダはフォード・グループの傘下。フォード出身の社長が四代続けて就任するなど、その関係は敵対的なものではなく、至って良好。
オートラマ店は、マツダ系列におけるフォード販売網。

初代
フェスティバは、名車です。
フォードバッジを付けていても、実質的にはマツダ主導での開発。
デザイン、大きさ、使い勝手、維持費、どれもが手堅く纏まっている。
舶来品という箔もある。
トップグレードでは本革シートや本革ドアトリムが標準装備であり、にも拘わらず108万円という破格の値段。
当時の欧州車的な雰囲気や、開放的なキャンバストップが、持ち味です。
小粒ながら良い意味で日本車離れしていました。
この
DAプラットフォームや培ったノウハウは後に初代デミオに、
B型エンジンは後に初代ロードスターに、それぞれ受け継がれて、更なる発展を遂げることになります。
株取引だけに着目すれば、マツダが経営難のときに株を安く買い、経営が上向きになってきたら高く売るという、正攻法です。
しかし実際には、経営が苦しいところを、助けてくれているのですよね。
フォードはマツダに対し、株主ないし親会社としての威光を振りかざして
「時代遅れのロータリーエンジンなんかにしがみ付いてるから、会社が傾くんだ。今すぐ止めろ!」
と言うことだって出来たはずなのに、それをしなかった。
先日の東京モーターショーで、RX-VISIONが参考出品できたのは、ロータリーエンジンの火を絶やすまいとするマツダを、当時のフォードが暖かく見守ってくれたから。
・「RX」復活か…マツダ、スポーツコンセプト 初公開へ
(ゆめ痛 -NEWS ALERT-、2015年10月1日)
・マツダの新型ロータリーエンジン「16X」、SKYACTIV技術で復活秒読みか!?
(同、2015年10月19日)
・マツダ、ロータリー搭載「RX-VISION」世界初公開!
(同、2015年10月29日)
・マツダがロータリーエンジン復活へ! マツダ役員「6合目くらいに来ていると思っている」
(同、2015年11月22日)

マツダだけではありません。
ボルボ・カー・コーポレーション然り、ジャギュヮー・カーズ然り、ランドローヴァー然り、アストン=マーティン=ラゴンダ然り…。
フォードに拾われたメーカーは、皆その後、奇跡的なV字回復を遂げています。
そして、成長を見守った後は、笑顔で去ってゆく。
フォードは救いの神なのでしょうか…?
「自動車の生みの親」と称されるドイツの
カール=フリードリヒ・ベンツと対比して、ヘンリー・フォード一世は「自動車の育ての親」と言われます。
そのヘンリー亡き後も、企業を挙げて、育ての親としての役目を果たそうとしているかのようです。
まるで、それこそが創業者の理念であり、又アメリカにモータリゼーションを根付かせた第一人者としての責任だとでも言わんばかりに。
企業はよく「才能」を求めますが、それは間違いなのですよね。
今の世の中に求められている人材は、実は「才能を育てる才能」なのですが、そこに気付いている企業は残念ながら少ない。
だからこそ、育てる才能が目立つフォードのような企業は、貴重なのです。
そしてそれだけに、三菱を体良く使い捨てたダイムラー=クライスラー(当時)や、スズキを陥れようとしたフォルクスヴァーゲンや、他人の弱みに付け込んで現在進行形で日産を食い物にしているフノーには、やりきれない思いが募るというもの。
今のフォードは「ワン・フォード」をスローガンにしており、当時とは社風は異なるでしょう。
グローバル企業としての合理化とグループ内の一体化を進めるに当たって、子会社の主体性を尊重するだけの余裕は、或いは今はないのかも分かりません。
実に良きパートナー、良き育ての親、良き父でした。
フォードもマツダも、単に良い車を造るだけではない、企業として人としての「善さ」を今後も期待します。
ヘンリー・フォード一世の名言集(一部抜粋)
──奉仕を軸にした事業は栄え、
利益だけを追い求める事業は衰えるものです。
──整理整頓の出来ていない工場に、
素晴らしい職人はいません。
──お金しか生み出さないビジネスほど、
つまらないビジネスはありません。
──失敗を恐れた瞬間から、あなたの中のパワーが無くなってしまうのです。
でも、失敗こそが、あなたを成功に導くチャンスなのですから、失敗を恐れることも、恥じる必要もないのです。
むしろ恥じるべきは、失敗を恐れる心なのです。
──金で自由が買えると思うのは誤りです。
この世で本当に頼りになるのは、知識と経験と能力だけです。
──見返りを期待しなくなったとき、倍の報酬がやってきます。