「86」と「CR-Z」、なぜ明暗が分かれたのか
(ゆめ痛 -NEWS ALERT-、2016年8月3日)
いや、86とCR-Zは、ライバル関係じゃないし……(´ω`)
片やFR、水平対向4気筒2L、ロングノーズ&ショートデッキの2ドアクーペ。
片やFF、ハイブリッド直列4気筒1.5L、3ドアハッチバック。
全く噛み合わない者同士なのですけど…。
まぁ、自動車に興味のない人にすれば、「だって、どっちもスポーツカーでしょ?」という認識なのでしょうけどね。
それはそれとして、
本田技研工業 CR-Zが、今年一杯で生産終了になるという発表がありました。
・ホンダ、スポーツHV「CR-Z」生産終了へ
(ゆめ痛 -NEWS ALERT-、2016年6月9日)
・「CR-Z」 α特別仕様車「Final label」を発売
(本田技研工業四輪ニュースリリース、同日)
CR-Zもまた、一代限りで血筋が途絶えてしまうのですね。
寂しいものです。
誕生当時は、スポーツカー冬の時代。
リーマン・ショックの直後であり、各社とも車種を絞り、コストダウンに次ぐコストダウン、WRCやF1など競技に参戦しているメーカーは撤退、現在まで続いている燃費競争の幕開け。
とりわけ、嗜好性に特化した車種は、真っ先にリストラ対象となった。
その一方で、「プレミアム」と銘打って、低予算で造った車を高級車と嘯いてぼったくる、阿漕な商売に手を染めたメーカーも。
CR-Zが生まれたのはそんな時代。
今でこそ公式ウェブサイトではスポーツカーとして登録されていますが、発売当時はスポーツカーの項目はなく、エコカーとしての登録でした。
前述の通り、当時は不景気だったのでメーカーにもユーザーにも余裕はなく、趣味性の強いスポーツカーが嫌われていた時代です。
インテグラ(DC5)や
S2000(AP1/2)は生産中止になり、他にスポーツカーと呼べる車は当時のホンダにはなかった。
それもあって、エコカーとして恐る恐る発売するしかなかったのでしょう。

当時のエコカーといえばハイブリッドエンジンを搭載したものが主流であり、トヨタ自動車 プリウスや、
インサイトがその代名詞でした。
どちらも時代を反映して、実用本位なセダン(見た目は5ドアハッチバック)。
そこへ現れたCR-Zは、前代未聞でした。
3ドアハッチバッククーペ、6MT、
CR-Xの再来を思わせる名前、そしてコンセプトカーほぼそのままの未来的な外観。
エコカーもここまで来たかと、感慨深くなったものでした。
後から知ったのですが、それより遥か以前から、CR-Xの四代目の案が、浮上と廃案を繰り返していたといいます。
それがエコカーとなることで、ようやく日の目を見たと。
その年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、発売直前にはmixiで無料プレゼントキャンペーンをやっていたのを、懐かしく覚えている人もいるかと思います。

新機軸のエコカーとして話題になりましたが、すぐに不幸に見舞われます。
そのスタイリングと名前を見込んで、走りを期待する人が続出したのが、ホンダにとって誤算でした。
実際には、滑らかな走りと低燃費を売りにするエコカーであり、重く、なのにトルクは小さく、サスペンションは柔らかく、価格も消費税やオプションや諸経費込みで350万円になる。
ウェブ上では「鈍亀」と罵る意見も見られました。
売り手と買い手のミスマッチを少しでも和らげるため、走行性能に訴える改良を、次々と重ねていきます。
後期型では、トレッドを拡幅し、高い電圧が望めてリサイクルも容易なリチウムイオンバッテリーに変更し、それによる恩恵としてプッシュボタン式電動ブースト「
PLUS SPORT システム」を搭載。
ホンダとしてもCR-Zを見捨てるどころか、大切に育てているのが窺い知れます。
しかしその間に、世の中はどんどん変わってゆきます。
既存のハイブリッドカーは、更なる熟成が進んだ。
レシプロエンジンでありながら、
ハイブリッドカーに迫る低燃費を叩き出す車が現れた。
ハイブリッドだけでなく、
電気自動車、
PHEV、
クリーンディーゼル、
燃料電池車、ダウンサイジングターボ、
多段式ATなど、新時代のエコカーが幾つも台頭してきた。

何より、リーマン・ショックから立ち直った企業や人が相次いだことで、それまでエコカー一辺倒だった世の中に変化が生じ、もはや燃費が良いというだけで手放しで歓迎される風潮ではなくなった。
そんな中でCR-Zは、エコカーとしてもスポーツカーとしても中途半端と見做されてしまった。

むしろスポーツカーであることを標榜しないフィット・RSのほうが、ホンダらしいライトウェイトスポーツカーを体現していたのは、皮肉です。
発売開始直後から、ハイブリッドを廃してターボエンジンを搭載するという噂が、何度も何度もありました。
生産終了になることで、その噂が又しても湧いてきました。
但しあくまで希望的観測に基づいた噂であり、ホンダ公式からは正式に否定されています。
・
生産終了のホンダ『CR-Z』、2Lターボ搭載で復活か
(ゆめ痛 -NEWS ALERT-、2016年6月29日)
確かに、現在のホンダが推していると思われる「
L15B」エンジン(1.5リットル・直列4気筒・直噴ターボ)を搭載すれば、面白いでしょう。
これは
ステップワゴン(DBA-RP1/2)&ステップワゴンスパーダ(DBA-RP3/4)や、
ジェイド・RS(DBA-FR5)に搭載されており、日本導入が秒読み段階になった次期
シビックへの搭載も目されているパワートレーンです。
でもそれは、CR-Zのアイデンティティを否定することでもあります。
こういう噂が出てくる辺り(それも一度や二度でなく)、「エコカーであり、スペシャルティカー」というコンセプトを理解してくれた人は、少ないのかなとも思えてきます。
CR-「
Z」と、アルファベットの最後の文字を宛がわれていたからには、或いはこうなることを始めから運命付けられていたのかも知れません。
改めて振り返ると、世の中に振り回された、波乱万丈の生涯でした。
今、エコカーはすっかり定着し、且つスポーツカーを再び受け入れる世の中になりました。
ハイブリッドカーの更なる進化として、今度は本格的に、スポーツカーにも搭載されるようになってきました。
全ては、CR-Zが切り拓いた道です。
更には、海外では、スーパーカー用のパワートレーンとしても、ハイブリッドエンジンの需要が生まれました。

フェッルァーリ ラ=フェッルァーリ…、

マクラーレン・オートモーティヴ P1…、

ドクトーァ・F(フェルディナント)=ポルシェ・インジェニエーァ・エーレンハルベ 918スパイダー…、

勿論、
NSX(二代目)。
燃費不正のせいで立ち消えになってしまったものの、
三菱自動車工業 ランサーエボリューションⅪも、当初はそれらと肩を並べるハイブリッドスーパースポーツとして復活させる案があったようです。
もう一つ、リーク情報とスパイショットによれば、開発中の次期コーヴェット(C8)も、ミドシップ化された上でPHEVを搭載するようです。
・
次期型シボレー・コルベット ついにミッドシップ化!?
(ゆめ痛 -NEWS ALERT-、2016年9月25日)
CR-Zは、そんなハイブリッドスポーツの
嚆矢(こうし)でした。
正にエポックメイキングな存在であり、唯一無二であり、国内スポーツカーだけでなく海外スーパーカーにまでハイブリッドを広めた立役者です。
それを思えば、CR-Zの功績は決して小さくはありません。
6年間、お疲れ様でした。