昔、私の家にガイコクジンがやってきました。
「チョトスミマセーン、アナタハ、シアワセニナリタノデハナイデスカー」
「はぃ?」
「ゼヒ、コノホンヲヨンデクダサーイ。アナタ ト セカイノヘイワヲ…」
「いりません」
「…デハ、イツカ ヨミタクナタトキニ…」
「いらないです」
「…トリアエズ、ココニ、オイテオキマスノデ…」
「置かないでください。持って帰ってください」
「…ドウシテデスカ、セッカク…」
「あなたは親切かも知れないが、私にとってはものすごーい迷惑なんです。ゴミなんです。明日、その分厚い本をわざわざゴミ捨て場まで捨てに行かなければならないので。絶対読まないので、紙がモッタイナイし」
ガイジンさん、眉間にしわを寄せ、首を振りながら帰って行きました。
友人に、オマエは非道いヤツだと言われました。
しかし、せっかくの休みの日、グータラとワイドショーで
大好きな「デヴィ夫人VS野村サッチー特集」を見てたのに、それを
ピンポン一発で中断され、
いそいそと着替えて玄関のドアを開けたら、
近所に見られたら誤解されるから、こっそりと捨てに行かなければならないような「厄介なゴミ」を渡してくる。
「アナタノ タメヲ オモッテ」
前回の続き。
言っておきますが、私はケンカしたり、怒ることはしません。
もー毎日毎日、漫才みたいなバカをやって、キャッキャと笑ったり笑わせたりするのが好きですから。
しかし、そんなノーテンキな私の心にでも
地雷があるようで…。
「そんな!私たちは彼女のためを思って…」
「子供の事を考えるならば、自分で責任を取らせるのが『躾』ってもんでしょう」
「ですが、彼女は…」
「引きこもりの何がわるいんです?」
「…?」
「厚底サンダルを履いてよそ見か何かをして、それでカマ掘った。何の苦労もせず、親に買ってもらったクルマは100馬力。簡単に人を殺せるパワーだ。そんな恐ろしさも知らないで乗るのなら、家で引きこもってる方が世のため人のため、自分のためだ。損保やってんのに事故の怖さも知らないのか、アンタは」
「…実は、私はこういった事故の交渉は初めてでして…」
「何ぃーっ!?ならばなぜ出しゃばるんだ。慣れてないならマニュアルに従ってくれよ!」
「そうですね…。ところで、彼女はそんなカッコで運転してたんですか?」
「都合の悪いことは話さない。過失を認めている当事者の供述なんてそんなもんですよ。」
事故現場で少しは申し訳なさそうにしていたアイスクリーム娘。だから助手席のバカよりも多少はマトモであるということは何となく感じてました。
しかし、周囲のバカな保護者共のおかげでどんどん堕ちていくのを想像すると、この大人達に対して止めどなく怒りがこみ上げてきました。
「それに『友達』とかいっても、オレのクルマに『ぜんぜん平気じゃーん』とか笑って、マニキュアで尖った指をカリカリ突き立てる『しょーもないバカ』なんて、百害あって一利なしだ。現場は新宿方面の夕方。意志の弱い娘がその辺に夜な夜な通ってたらどんな風になるか想像できませんか。『友達』なんて建前で『アシ』にされてたり、飲酒運転もするかもしれない。家で引きこもっているほうが安全だ!」
「…」
「まぁ、それでヒドイ目にあうのも一つの経験ですが。」
「いや、それは…」
「与えすぎるのがいけないんじゃないですか。引きこもる場所、遊ぶカネ、免許、クルマ、困ったときの代理人。いい歳の娘が、何でもかんでも誰かにやってもらって、マトモに育つわけないだろ!」
このしょーもないダメ野郎の私が説教たれているのです。自己嫌悪。
しかし、『ハァハァそれはお気の毒でございますねぇ』と聞いていたら相手の要求を受け入れてしまうことになるので、言いたい事は徹底的に言うわけです。
しかし、
相手は火に油を注ぐことばかり。
「ですよね、私も、ちょっと過保護なのかなぁと思ってました」
「おい。ちょっとまて。あんた、自分のことはマトモだと思ってるのか?」
「え?」
「事故後の処理は保険会社がやる、それがルールだ。それを交渉経験もないのにアンタは出しゃばった。」
「ですが、それでは代理店の役割が…」
「普通にセンターで処理すればもうとっくに終わってる話だろ。100:0のオカマ事故だよ。過失割合の算定なんてないんだよ。アンタとババァがそっちの理屈で訳のわかんない失礼な事ばっかりすっから、オレがメチャメチャに腹を立ててコジれまくっているんだぞ!それで契約者が満足なんてするのか?自己満だ!」
「…」
「それに、社会人としてもズレてる」
「はい?」
「あんたのクルマ。なんだッ、あれは!」
「ああ、昔から好きでして…」
「クルマ趣味のことを聞いているんじゃない。謝罪する相手のトコに『ベンツ』で来るのが普通ですかって聞いているんだよ!」
「…」
「あんた、サラリーマンやってたんだろ?営業が何で乗りたくもないようなみすぼらしいライトバンで、安いドブネズミ色の背広を着るかわかってるだろ。」
「そうですね…」
「ベンツとはいえ、あれが型遅れの190、つまり普通のセダンだってのは私はわかるよ。だけど、普通の人からすればベンツだ。『シャチョーの乗るエラいクルマ』、『コワモテ』だ。そんなんで来られた相手がどう感じると思うんだ!」
「すみません…あれしかクルマがないもので…」
○○と言えば、××と言い訳が返ってくる。その言い訳は、常に自分の都合。
まただ!どうしてこの男は頭を使おうとしないんだ!常にオレを腹立たせるような事を言う!
そして、それに対していちいちムキになる大人げない自分にも気が狂いそうになります。
「電車やタクシーがあるでしょう。それがダルくてイヤなら、こっそり離れた駐車場に止めるとか、ずる賢くとも『相手と自分のため』を思ってそういう配慮をしますよ。」
「…ごもっともです」
「それに、そこは上座。」
「あっ、失礼しました」
「さて、事故の件ですが…毎日医者に診てもらい、補償を妨害した代理店のクレームを保険会社に叩き付けることも可能です。」
「…」
「しかし、とりあえずあなたはここに来た。だからそれは一応の誠意として受け取り、そういうことはしません。約束します。しかし、それはあなた自身が出しゃばって補償プロセスを混乱させたことの謝罪としてです。」
「はい!」
「ただ、娘さんとの事故は一切関係ない。彼女と両親の謝罪の気持ちは感じない。さっきの話ですが、私はあなたが彼女に同情を求めるような話をしてきたから、第三者として客観的に感想を述べたまでです。」
「わかりました。勉強になりました」
「勉強?ふざけんな!!あのねぇ、アンタは保険のプロで年上、オレはシロウトで年下。しっかりしてくれよ!このオレにとってどーでもいい無駄な時間、どうしてくれるんだ!」
いや、ホントに私はあんまりキレることなんてないんです。
周囲から年甲斐もなく…と言われるようなイタズラばっかりして笑っているようなダメなオッサンだと思います。
けれど、何かこういう善意とか誠意とか熱意とか情熱とか、いわゆる世間一般で『正しいこと、美しいこと』を、その奥にある本質を自分の脳みそをフル回転して理解するような努力をせず、ステレオタイプに
「私は正しいことを一生懸命やってるんだ。いい人なんだ!頑張っているんだ!だから大変かも知れないが理解して!」と、難しい作業だけを人にぶん投げ、求めてきて、最後にちゃっかり自分の手柄にしようとするような
クソワガママな天然利己主義野郎(長いよ)には人一倍に腹が立つようです。
(アレ?仕事でもそういう鼻息の荒いヤツ、結構いたなぁ)
その年の暮れに、その代理店から年賀状が届きました。
私も当たり障りのない事を書いて返信しましたが、翌年は来ませんでした。
まぁ、世の中、そんなもんかもしれません。気にしません。
あれから8年。あのアイスクリーム娘も、女性として一番いい時期を迎えているはず。
水や肥料も与えすぎれば腐る。そんなことに負けないで、形はどうあれ自分の力で自分の幸せな人生感を掴んでいたら、それはそれで結果オーライだと思いますわ。
え?下心があったんじゃないかって?
ないない、ぼくはせいじつなだんなさまなのでおくさんいがいのじょせいはがんちゅうありません。
偉そうに言った私自身も何かをきっと間違えている。常日頃、自分に疑問を持たねばならず、何か自分に不満があるのならば、それは自分の行動の結果なのだと捕らえなければならない、そんな風に思った出来事でした。
(おわり)
ああ、私らしくない…
次からは普通のバカブログになりますんで。(陳謝)