
このところ、ガソリンの価格高騰が気になりますね。
それで思い出したのは、高校時代にGSでバイトをしていたことです。
今考えると、時給が安くても女の子のいる飲食関係をやっていれば、華やかなセイシュンを送れただろうに、と心の底から後悔しているのですが、当時硬派ぶっていた私は、バイクやメカのことをいち早く覚えるには、GSでバイトするのが一番だと思ったのです。
思えば、これが未だに安住の地にたどり着けない「大後悔時代」の幕開けだったのですが、真っ正直では損をする世の中をまだ知らず、宝島を目指す少年のように、キラキラした目をしていたのでしょう。(今はリパックされたサンマのように澱んでます)
私がバイトしていたGSというのは、外壁なんかも古くてボロいため、バイトにギャルが入ってくることは絶望的でした。
親睦会といえば、同時期に入った、1つ歳上の工業高校に通うド硬派な先輩(私が水冷のバイクを買ったら「軟派な野郎め。漢は空冷GPzだゾ」とご指導いただいた)と、若いころに白黒のクルマを裏返したり、中南米の毒虫みたいな色のロゥレルに乗っていた社員が2~3名、そして経営陣の一族(酒ターボ系)が集い、小さい料理屋でスッポン鍋をつついては社長の武勇伝が炸裂、一同はアクビをかみ殺して聞くという、よく言えばアットホーム、悪く言えばイタリアン・マフィアみたいな感じだったのです。
勢いで買ってしまったバイクのローン返済のため、私の日常は、平日は放課後から夜までバイト、日曜は神奈川県の南西部あたりでガソリンをまき散らしていたので、女の子との接点はほとんどありません。
どこかネジ曲がったセイシュンを哀れんだキトクな友人に紹介されたり、また物好きな女が寄ってきて、一応のカノジョができても「オレの大事な単車に女は乗せねェ(普通、逆。「大事な女は単車に乗せない」が正解)」と硬派ぶってシングルシートを外そうとしないので、当然女の方から離れて行き、フラれたという事実を認めることなく「足手まといがいなくなった」と強がっておりました。
まぁ、そんな女っ気ナシ、ギトギト油っ気アリなバイト漬けのセイシュンではありましたが、結構おもしろいこともあるもんです。
ある日、SA22のセブンが入ってきて、灯油の給油機に横付けしたのです。降りてきたのは、二十歳くらいのチリチリパーマに細ヒゲ、細長いメガネは45度スラントカスタムのニイチャン。多分、こんな息子を「ちゃん」付けで呼ぶオフクロに頼まれ、渋々と灯油を買いに来たのだろうなと思ったら、クルマにいれろと。
ロータリーは灯油でも回ると何かの本で読んだらしく、「マジマジィ!?ガス代がスッゲ安く済むジャン。オレってスッゲーアッタマいいー!」と、鼻息も運転も荒くセブンをぶっ飛ばして来たわけです。
社長がヤメとけと説明しても、グワンとして聞かないどころか「オレは客だぞ言うこと聞けねえのかヨー」とスゴむので、仕方なく入れてやると、意気揚々とロータリーサウンドも高らかに去っていきました。
それから小一時間後、夕方のラッシュ時だというのに、突然クルマの流れが途絶え、何か変だなと思っていたら、さっきのセブンが時速10キロ以下で、大渋滞を引き連れてご帰還されました。先ほどまでの軽やかなサウンドはどこへやら、ズンドコベロンチョズボバビボベパッスンと絶不調。それでもホントに回って走った12Aは健気で大したもんです。
セブンから降りるなり「テメーオヤジ走らねーじゃねェーかコノヤロウヨー!」と逆ギレ。ところが「オメーが入れろっつったんじゃねェーかこのクソバカヤロウコンチキショー!!」と強烈なレシーブエースで社長がキメると、ニイチャンがセカチューモードに急変して哀願したのには、たまらずウラに回ってギャハハと大笑いしたのを覚えてます。
GSでやってはいけないミスに、ガソリン車に軽油の誤給油ってのがあります。
細心の注意を払っていたので、ほとんどの従業員がこのミスをしなかったのですが、ある台風の日、高速道路が封鎖によりタンクローリーの到着が遅れ、地下タンクはスッカラカン寸前、という事態がおきました。
当然、今日は店終いかなーと思ったら、社長が灯油をポリ缶に入れ、ガソリンと軽油の地下タンクにグビグビと注入しはじめたのです。
うわおぉ、ついにご乱心遊ばされたかと、心配な顔をしている私を見ると、「ガソリンなら10%、軽油なら30%灯油を入れても問題ないんだよ」とニンマリしながら言いました。その笑顔は、齢70にして小悪魔アイドルと同じ輝きだったのが印象的です。
悪質なGSでは日常茶飯事なことだとか聞きました。
もう一つのミスとして、キャップの閉め忘れがあります。
そのGSも2年後にはリニューアルして広くなり、後輩が何名か入ってきたのですが、ある日の閉店後、表に出ると先に上がったはずのコイツらが不安そうな顔をして待っていたのです。カツアゲでもされるのかと、シッコチビリそうになりましたが、「すみません、これ…」と手渡されたのがそうです、ここに存在してはならないガソリンキャップ。社長に言うと死ぬほど怒られると思ったのでしょうか、バイトで最年長の私に泣きついてきたのです。
うわぁぁぁ…
そのうち集計を終えた社長が出てくるので、とりあえず少し離れた海岸線のタムロ・スポットまで行きました。街灯の明かりでよく見ると、某メーカーのもので、かなり新しいこともわかりました。
このGSはディーラーと月極で契約していたので、納車前に10リッターだけとか給油することが多く、多分ソレなのでしょう。
まぁ、ある意味ラッキーです。ガソリンは最小限しか入ってないのでこぼれないし、買った客は、すぐ給油してキャップがないことに気がつくので、事故になる可能性は低いはず。
問題なのは、これを社長に話したところで、ディーラーから苦情があっても事実は隠すでしょうし、正直に言ったところで信頼関係がドウタラ、後輩はクドクド説教など、結構ややこしいことになる、ということが予想されます。
さて、どうしたもんか…。「ヤバいっすよね、どうしましょうか先輩…」ちっと待て、何かシラネーうちにオレまで当事者になってんのか?オレはカンケーねーじゃん!と呆れつつも、普段は「ガッコなんて行ってられないっスよ、センコームカつくっスよ、クラスのヤツにヤキ入れてやったスよ!ゆきぞうさん、ダサいっすよ!」と無敵なはずの後輩が、今は「金貸しのCMに出てくる、ちんまい犬」状態なわけでして、結局いい方法を見つけられなかった私は、これをむんずとつかむと、海に向かってブン投げていました。
夜空に弧を描いてゆくキャップを、流れ星を見た3歳児のような顔で見ている後輩共に「今日の起きたことは、誰のためにもならないので忘れろ」とFBI秘密捜査官みたいなことを言って家に返し、もしかして、オレってカッコイイ?頼れる先輩??なんてニョホホーと小躍りしながら帰宅したのですが、布団に入った途端、あの連中の口の軽さを思い出し、ガタガタ震えたりもしました。
結局、これは何事もなく終わってしまったのでよかったのですが。
あと補足ですが、私が最高にムカついた客というのは、年齢に関係なく、スタンドマンをメイドか何かと勘違いするエバりん坊でした。
こういう客はセコビッチでもあるので、給油が終わった後に、他の客がやっているのを見て、エアだの、灰皿だの、窓の内側だのと、スペシャルDXなサービスを強要するんですが、私はイジワルだったので、エアはテキトー、灰皿の芳香剤は最小、窓拭は最低ランクのゾーキンをチョイスしてました。
もちろんヨン様のような笑顔で。
なので、自分が客になってからというもの、スタンドマンにはペコペコしとります。
今回のカットのお題、「セルフスタンドと知らずに、ずっと待ち続けた」というテーマだったっけか。私もやりました。