【富士電機】めん類自動調理販売機
1
これを手に入れたのは夏より前だった。
その頃、
僕は毎日毎日鳩数えや貝殻吹き、ブランコ乗りに多忙を極めており、日と日の境目がないような毎日を送っていた。
気休めで立ち寄った模型店で
(ん?)
と目に止まったのはコレだ。
これが欲しくて立ち寄ったのではない。
面白可笑しく転売ビジネスの的になってしまった
「ガンプラ」の「メッサー01型」を探しており
(町中にある寂れた模型店ならもしや?)
と考えていた。
店内の隅にプラモデルコーナーはあったが、戦車や自動車ばかりでカンプラは皆無であった。
そこに、コレがポツンと上積みしてある状態。
パッケージの光沢から見て最近仕入れたものであることは容易に推測できたが、
高齢の店主はコレがまだ流行っていると勘違いして仕入れたか?
それとも昔を懐かしむ気持ちで仕入れたのか?
は謎であった。
いつもなら躊躇なく店主に話し掛けるが、その日はそんな会話すら疎ましく感じレジだかちゃぶ台かは分からぬカウンターに無言で代金の1?00リラだけ置いた。
店主はお金を数え小声で心のこもらない
「ありがとうございます」だけ発し、コレを素のままスっと差し出した。
(こんな店でもレジ袋なしかよ)
そう不快に感じながらオフィスに戻った。
ハセガワという私には信頼度の低いメーカーであったが、開封するとパネルが数枚とシールが付属している程度の簡易的な構成であるが、その再現度は忠実でお見事であった。
早速、
素組みをしてみたが、組み上がると同時に飽きてしまい、
そのまま数ヶ月放置することになった。
٩( ᐖ )۶
2
今から4年位前であろうか
このSNSを通じて、この自動販売機が現役で活躍する某所で月に一度会合があることを知った。
実際にお邪魔してみると、
例の自動販売機を囲み和やかな雰囲気で会合は開催されており多種多様な車ながら車自慢に偏ることなくコミュニケーションが取られており心地良い感じであった。
次第に慣れてくると各自隠していた様々な個性を発揮してくることになる。
ここは「鍵」が掛からないため、各自の詳細は割愛させていただくが、堅気の僕から見ると「異常な性癖」であった。しかし、彼らはその性癖と共に人生を歩んできたので自分の異常性にまるで気が付いていない。
「それって、とても変ですよ」
一般常識から鑑みてそう忠告すると、彼らは目を不必要に丸くしながら一様に驚いた様子で
「え?何で?」
と真顔で僕に尋ねていた。
その反応を受けて僕も素直に
「え?!何で?!」
と聞き返したものだった。
数人はシャバから消えたと言う。
そりゃそうだと思う。
法治国家は許容範囲が決まっているのだから💜
ꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)アハハ
3
9月に入ると
一気に秋の気配を感じる過ごしやすい日が続いたが、僕のデスクの隅には邪魔な立方体が放置されたままだった。
日々の忙しさは変わらないものの、帰宅後に見るコレは中途半端で目障りだった。
(仕方ねぇ仕上げるか...)
そう心に決めて眠い目を擦りながらコレと向き合うことにした。
そうは決めても1日の時間は24時間と決まっており、何かを削ってその時間を作らなくてはならない。超エリートビジネスパーソンの僕にとって削ることが出来るのは睡眠時間だけ。
オフィスに行ってから
「あれ?爪が汚れてますよ💜」
何て、容姿と頭脳が高度にバランス良く組み合わされた女の子に言われてはカッコ悪い。それでも作業はしなくては終わりはない...
そしてゴム手袋をしてヤスリ掛けや塗装を施すはめになり、何食わぬ顔でオフィスに向かう日を続けた。
( • ̀ω•́ )
4
これのパネル色は
「クリーム色」だった記憶がある。
当時のカタログを拝見すると、木目調パネルもあったようだが、主流派は「クリーム色(中央部が白)」だったようだ。
2000年生まれの僕は、
産まれる前のことは推測するしかない。
それにしても、このクリーム色を再現するために色の調合は考えるだけでも面倒くさい。
そこで、手っ取り早くスプレーで塗ってしまえと秋葉原の模型店に出向いた。
「すみません。この色に近しいカラースプレーはありますか?」
そう尋ねた。
30半ばであろう小太りの店員は
「これなら、この色が近いのでは?」
すぐに色を選んだ。
タミヤのレーシングホワイトという色のようだ。
店員は続けて
「これは艶ありなので、半光沢スプレーなど吹くとそれっぽく仕上がると思いますよ~」
などと語尾を伸ばしながら丁寧にアドバスをしてきた。
(出庫時は半光沢かも知れないが、それから数十年経過すれば艶は消えるだろうが。いつの時を再現しようとしているのかを尋ねるのが先だろ?勝手に出荷時と決めつけて堂々とアドバスしてんじゃねぇよ。)
そんな事は言うはずもなく、
無言で「艶消しスプレー」を手に取り、早く会計しろと言わんばかりに店員に突き出した。
そう僕は人格者だ。
٩(๑❛ㅂ❛๑)۶
5
このレーシングホワイト缶は何度も重ね塗りしたため、たったこれだけで1缶を使い切った。
銀のモール部分はパネルに一体化しているため、マスキングテープで養生して吹き付けるか、筆塗りをするしかない。
(まじメンドクセ...)
心は本音を言うが、決めたことはやらなくてはならない。
気持ちを奮い立たせて制作するが、本当の気持ちが表に出てくる。
(眠い。寝たい。面倒くさい。)
手は正直であり、その本当の心を表すかのようにモール部分は銀色のレロレロになった。
(せめてマスキングテープすりゃ良かった)
そう後悔したが、
(どうせ汚すのだから問題ない。)
そうレロレロの銀色を見ながら必死でマインドコントロールをしていると、これで良いと言う気持ちが支配してきた。
(ˊᗜˋ*)
6
フレームを塗ってしまえば、好きな汚し加工が待つのみ。
一気に僕の気持ちは上がった。
(半野ざらしの設置場所だな...)
(近くの国道から排気ガスを被るな...)
(汁をこぼしても拭く人もいないだろうな...)
色々考えて手を動かすのは楽しい。
この作業を何日も続けたが、いつもあっという間に出発時間を迎える。
僕は近年、7時にはオフィスに到着するようにしている。それは僕がエリートだからでは無い。能率が悪いからでもない。
それは、
誰も居ないオフィスは集中力が増すからに他ならない。
皆が出てくるまでの3時間は鳩数えに集中する。鳩しか見ない。
雨の日も晴れの日も朝見る鳩は新しい日を迎えた喜びに満ち溢れ大空に羽ばたいている。
飛ぶ気がないと空は飛べない。
天気のせいにしては毎日飛べない。
進む気がないと前に進めない。
景気のせいにしても前進できない。
環境のせいにしても目的地には到着しない。
「なぁそうだろ?」
部下にはいつもそう言い聞かせているが、一様に皆下を向いたまま小声で
「はい...」
などと言う。
随分とシャイな人種が増えたものだと僕はいつも思っている。
ᕕ( ᐛ )ᕗ
7
めっきり出番が少なくなった紫貨物車を動かすついでに、この自動販売機を設置した。
場末感が増して良い景色だ。
過去は反省材料として必要なもので、懐かしむ使い方はしない。
令和に見る場末感は一定の安らぎを与えるものではなく、2000年生まれの僕にはかなり新鮮だ。
そう言えば、こんな会話があった。
「懐かしい楽曲だね。」
Alexaで音楽を聴く部下にそう言ってしまった際に、返ってきた答えは
「私には新鮮ですっ!」
(ぁ...しまった...)
そりゃそうだ。
この娘が産まれる前の楽曲や文化は新鮮に決まっている...
自分目線で言葉を発してしまったことを激しく後悔して、夜の芝公園を大声で喚きながら全力で走った。
その時、
青春はまだ終わっていないことを確信した。
( ՞ڼ՞ )
8
外から見てみても、
紫色、黒色、ステンドグラス風、錆びた波板などと相まって、この自動販売機が輝いて見える。
「あれ?」
僕には全く覚えがない外装の傷や鉄ホイールも何故か凹んでいるに気が付いた。
「ん?ぶつけた?」
そう聞いてみると、
「これは知らぬ間についていたの!この凹みはこう曲がろうとした時に見えなかったのよね~何かドンって音がしたのは覚えてますけど、後で見たら凹んでたの!」
そこにはあくまで他人事のような言い回しが目立ち当事者意識は皆無であったこと、反省の色がどこにも見つからなかったことから、
「そっかー」
と明るく応えることが出来た。
形あるものは崩れる。
崩れても朽ちても味になる。
(最適な使い方だなっ!)
そう言いたかったが、
傷や凹みを容認することを危惧して、僕はその言葉を飲み込んだ。
繰り返しになるが、
僕は人格者だから当然だ。
٩꒰๑・д・꒱۶♥︎
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