GWだというのに菩提寺の前住職が亡くなり、通常の通夜、葬儀に加えて壇信徒の
弔問日が2日間、なんと4日から7日まで4日間にも亘る葬儀となってしまった。
護持会役員である我が家は、いろいろとお手伝いをしなくてはいけない立場。
しかも菩提寺は隣組でもあり、こともあろうに今年は我が家が隣組班長。
GWの楽しい予定があるであろう渋い表情の隣組班員に招集をかけて、葬儀の受付
業務もこなさねばならない。
どこか楽しい3000m級の春山をのんびりと楽しみたいなぁ・・・と、密かに妄想
していたのに、あ~なんということに!!
葬儀準備打ち合わせと、いまいち不安定な天気も考慮すると、お出掛け出来るのは
3日の一日だけ・・・。
南アルプス、それも不便な南部となると3000m級は通常でも2泊、最低でも1泊
は必要だ。
いくらマップを眺めていても、日帰りじゃどこも行けない・・・。
と、思ったが国内最南端3000m峰の聖岳ならどうだ?
通常ルートではないが、山頂とアプローチの東俣林道を直接結ぶ「東尾根」なら
自転車を使っての日帰り登頂の可能性が無くはない。
ということで、2日夜22時に自宅を出て、南ア玄関口の畑薙ダムに24時着。
そこから車両通行禁止の東俣林道を自転車で移動。
微妙に登り下りを繰り返し乍ら標高で200mほど上がる15kmの道のりは、乗った
り降りたりの繰り返し・・・。
02:40 聖沢登山口に到着、慣れない自転車は歩くより疲れたかも?
ダートの突き上げを喰ったお尻も痛い。
03:00 身支度を整えてヘッドランプで登山開始。
小一時間で一般道と「東尾根」支稜の分岐。
ここからは、踏み跡薄いバリエーションルートとなる。
1800m付近から雪が出始めるが、以前の台風で出来た倒木帯のルートファイン
ディングが面倒だ。
こんな状況の森は、登りは良いが下降時にはミスを誘われるものだ。
標高2200m付近、通称「ジャンクションピーク」で支稜は「東尾根」に合流。
2400m付近から勾配がきつくなりスリップしやすくなるので、アイゼン装着。
暗いシラビソの林が続くが、2400m付近で樹間から左手に上河内岳が、
そして右手には、赤石岳が見えてきた。
少し疲れを感じてきていたが、これで一挙にテンションが上がる。
やがて岳樺の林に植生が変わると樹林限界は近い。
09:50 2630m付近で樹林限界突破、一気に眺望が広がった。
正面に、聖岳へ続く「東尾根」
北側に巨大な赤石岳、右奥に荒川岳の3000m峰。
期待以上の素晴らしい天気になった♪
先行パーティがいたらしく行く先には、真新しいトレースが続いていた。
おかげでここまで随分楽をさせて貰い、ワカンも使わずじまい。
一登りして2700m、辿ってきたルートを振り返る。
中央丸い山頂が、「白蓬ノ頭」と呼ばれるピーク。
この森林限界付近で一泊し、翌日頂上アタックするのが通常の行程だ。
そして、東には「笊ケ岳」越しの富士山。
この先、「東尾根」は、文字通りの雪稜となる。
一番右手「東聖岳」に向けて一歩ずつ高度を上げていく。
左手2890mピークの向こうに僅かに頂上部の一角「奥聖岳」が顔をのぞかせた。
上部は風が強いようで、2890mピークから雪煙が上がっている。
「東聖岳」ピークが目前。
「東聖岳」山頂2800m。
雪稜の先にようやく「奥聖岳」2982mを捉えた。
あそこまで登ればもう聖岳山頂は、指呼の間だ。
美しい雪稜は徐々に幅を狭め、ルートは素晴らしい高度感に包まれていく。
11:50 2890mピーク着。
「奥聖岳」へは、このルートの核心部である岩尾根を辿らねばならない。
そして、左奥にはついに聖岳山頂3013mも姿を現した。
しかし、いつの間にか山頂上空は、中央アルプス方面から押し寄せる暗雲に覆われ
つつあった。
ズームすると核心部の岩場にとりかかる先行パーティ3人の姿が見える。
ここまで彼らがつけてくれたトレースに感謝、無事の登頂を祈る。
北側、中盛丸山、大沢岳、赤石へ続く広大な百間平。
赤石岳と荒川岳。
南に目を転じれば、上河内岳から4月に登った茶臼岳を経て光岳へ続く主稜。
雪は、4月よりはるかに増えている。
暗雲は少しずつ濃くなり、風も勢いを増してきた。
下山時、2500m以下の深い森の中には倒木帯が多く、日没後はルートを失う可能
性がある。
山頂まで標高であと100m強、時間で往復2時間か?ここまで来て惜しい気持ちは
もちろんあるが、安全な下山の為にはもうタイムリミット。
登頂の誘惑を断ち切って、踵を返す。
ナイフエッジのような雪稜を下降するには、上りの倍の集中力が必要だ。
「東聖岳」で「奥聖」に別れを告げる。
風はさらに強まり横殴りのブリザードがフードを叩く、体感気温も急に低下して
きた。
「白蓬ノ頭」の樹林帯を見下ろす、あそこまで早く逃げ込みたい。
下山開始から1時間20分、無事樹林帯に入る。
陽射しも戻り、風もおさまったかに思えたが・・・。
2200mの「ジャンクションピーク」から支稜の下降に移る頃、
森ごと揺するような強風が吹きまくり、30分ほど猛烈な吹雪となった。
高度を下げていくと見上げる稜線は真っ白なガスに覆われ、雪はあられに変わ
った。
そして、あられが冷たい霧雨に変わる頃、翠色の赤石ダムが見えた。
ここまでくれば、一般路まであと一息。
16:40 一般登山道と合流。
ここには、一般登山者が迷い込まないように「東尾根」方面には進入禁止のロープ
が張られている。
17:10 明るい内に、東俣林道へ帰還!!
ここでようやく気を緩め、心底安堵する。
疲労困憊の体に鞭打って再び自転車で畑薙ダムへ。
眠気と闘いながら無事に帰宅したのは、出発から丁度24時間後の22時。
翌4日は、ちゃんとお寺で3時間立ちっぱなしの受付係。
そして、ニュースで槍ヶ岳で3人死亡の遭難事故を知る。
やはり、猛烈な吹雪で視界を失い、滑落や行動不能に陥ったようだ。
登頂を強行していたら、あのナイフリッジの下りで自分も吹雪に捕まっていたかも
知れない・・・タイムスケジュールを遵守すべきだと囁いてくれたもう一人の自分
に救われたなと感謝した。