
※本記事は推敲を繰り返しましたが、今後も随時加筆・修正をするつもりです。
先日「調整で改善を見た」とレポートした、キャブレターパイロットスクリュー調整ですが、
燃費が悪化(約12~13㎞/ℓ)し、今一つアイドリングが安定せず、
暖機後に1000rpmあたりまで下げると度々ストールしてしまいます。
どこか正しくないと思われるので、あらためて調整を行いました。
*************************************
【パイロットスクリュー再調整の動機】
以前の記事で「低開度のブリッピングでツキのいいところを探る」と記しましたが、
開けた瞬間は空気量増大が先行するはずなので、スロットルのツキだけを基準にすると、走行中は空燃比リッチに傾くのではないか?と思い当たりました。
その後のフロントフェンダー交換後の試運転を行っていた際、
筆者のアタマの中の「ドゥカティらしい排気音・吹け上がり」よりもまだ重苦しい気がして、
「燃費悪化」「ややラフなアイドリング」、さらには「信号待ち時の排気臭」と合わせて考えてみても、かなり空燃比リッチか?と思われました。
そこで油温がほぼ80度くらいになったあたりで、人家から離れた交差点脇に停車し、
改めて先入観をできるだけ排除して再調整を試行しました。
あくまで当方が試行する過程の一段階なので、参考程度ということで。
記憶をたどりながら、調整手順を系統だててみます。
*************************************
【パイロットスクリュー調整の前に】
調整の前提として、各部が正しい状態(不調でない状態)であるとして話を進めます。
筆者の車両もそうでしたが、調子が出ない場合、不具合が複合要因になっていることは珍しくなく、
エンジン不調の場合、キャブレターだけでなく、点火系や充電系など全般的な点検をすべきです。
ひとまず整備状態不明でも、出来る範囲で一度試してみても良いとは思いますが、
「キャブレターなど触ったこともない」という向きはショップに依頼してください。
専門店の経験を生かした、車種固有のポイントを押さえた重要箇所点検・整備をセットメニューにしている場合があるので、問い合わせてみるのも良いと思います。
●当たり前ですが、スロットルケーブルの遊びはできるだけ少なくします。
ハンドルを右に切るとケーブルは引っ張られるので、その際にアイドル回転数が上がらない程度まで詰めます。
●アイドル回転数を容易に調整できるよう「ミクニTMR用」延長アイドリングアジャストスクリュー使用を強くお勧めします(キャブレターをマニホールドから取り外して純正スクリューと交換)。
冬場の始動直後のファストアイドルをさせる場合も、一定開度でスロットルグリップを握り続ける(これが意外と難しい)必要がなくなります。
非常に奥まった位置なので、アジャストスクリューを見つけることすら一苦労です。
●調子が出せなかった場合に備え、パイロットスクリューを軽く底突きするまで締めこんで、
※絶対に力いっぱい締めこんではいけません。
現状の戻し回転数と角度を確認してメモします(回転数を数えながら締めこむ)。
確認したら復元しますが、メーカー基準値は3と1/2回転戻しの筈で、
純正エアフィルター・サイレンサーを使っている無改造車の場合、ここを出発点にすると良いと思います。
●当然ですが、同調作業以外は、双方のキャブレターで同じ作業を行います。
●できるだけ新品の点火プラグを使います。
スパーク箇所以外の中心電極や碍子が真っ黒に煤けた状態では調整の見極めができません。
※スクリューを回すにあたり、1/8回転とか1/16回転という表現が出てきますが、
1/4回転(=90度)の半分(=45度)、さらに半分(=22.5度)、と解釈してください。
方角でいう「北東」とか「南南西」という表現を連想してもらうと理解しやすいかも。
要は「少し回す」ことを定量的に管理・表現するためなので、
1回転を12分割した時計の文字盤で考えても良いと思います。お好きな方法で。
キャブレターを真下から見上げた図で、各調整スクリューの位置を記しましたが、車体に組み付けた状態で目視するのはなかなか大変です。
特に奥まった同調スクリューにドライバーを当てるのは苦労します。
(排気管での火傷に注意!)
*************************************
【パイロットスクリュー調整手順】
※記述がない限り「締める」「戻す」はパイロットスクリューの操作を記しています。
※油温は80度くらいまで上がった、暖機が完了した状態で行います。
(筆者の車両はデジタル温度計(ストレーナ部分で測定)で管理しています)
※スロットルグリップ外周でミリ単位以下の作動が自由にできること。
遊びが多かったり作動が渋いと、全閉からの正確な微小な操作ができません。
※出来るだけ周囲に民家がなく、騒音が少なく、排気音が反響しにくい場所で行ないます。
苦情を避ける意味と、調整による反応を耳で聞き取りやすくするためです。
特に垂直側気筒は車体右側から行なうので、狭い路肩で行なうのは危険です。
①調整の反応をわかりやすくするため(=不適正ならストールする)、
アイドルアジャストスクリューで1000rpm弱あたりに下げて調整開始。
アイドリングが下がらない場合はキャブレターのバタフライ同調作業が必要と思います。
開き気味の側のバタフライを閉じさせることが目的で、
同調スクリューを回し、エンジン回転数が一番下がる位置を探します。
出来れば負圧計を使い、数値を低い方に揃えるように調整します。
下がりすぎてストールする場合はアイドル回転を上げます。
②(筆者の車両状態では)リーン側(締め込み側)に半回転程度振ってみても、
アイドリング回転数にはほとんど影響なし。
低開度ブリッピングのツキは若干遅れるような気がしますが、そのまま続けます。
(車両状態によって締め込み回転数による反応は異なります)
③さらに1/8回転単位で段階的に締めこむと、
アイドリングでストール多発するようになります。
これを「戻し回転数下限値」越えと考えます。
1/8回転単位で戻して、ストールせずアイドリングする下限を大まかに探ります。
必要ならアイドル回転を最小限上げても構いません。
④かろうじてアイドリングする状態から、僅かに(スロットルグリップ外周長で2~3ミリ程度)開けようとする瞬間にストール発生。
この現象が発生するポイントが重要で「リーン側実用限界値」と判断します。
ここから1/16回転単位で段階的に戻し、
開け始めでストールしないパイロットスクリュー開度を探ります。
※大きく速く開けると、開け始めの不安定領域を勢いで通過して吹けあがってしまった場合、見落とすので、「ごく小開度」を厳守してください。
⑤そこからさらに1/16回転程度戻し、1000rpmあたりで安定してアイドリングできるリーン側下限を探り、仮設定とします。
※リッチ側に振ると(限度はありますが)アイドリング回転は安定するので、リーン側から徐々にリッチに寄せていく方が適正範囲を見つけやすいと思います。
⑥ここからは実走で判断、調整加減します。
低開度のスロットルのツキ(負荷あり・なし両方)や点火プラグの焼け具合を基準に、
必要に応じて1/16回転程度ずつ回しては実走を繰り返し、適正範囲を探るのがわかりやすいと思います。
一般道・高速道含め、900ccもある大型バイクの場合、
前車追従など巡航運転(クルージング)時はほとんどスロットルは開いていないので、
順法走行ではパイロット系が好不調を大きく左右します。
パイロット系をきっちりと調整していくと、クルージング時の排気音が変わり、
そこから開け始めのツキも明らかに変化し、バイクが軽く感じられるようになります。
⑦パイロットスクリュー調整後のアイドリング回転数は、
当方の場合、暖機後1100rpmを目安に、延長アイドルアジャストスクリューで随時調整しています。
ハーレーなども同様ですが、調子がいいからと、
アイドリングを下げ過ぎると、圧送オイル量が減ることに留意すべきです
(特にシリンダーヘッド)。
※アイドリング回転数1200rpm以上は不可。回転が下がりにくくなります。
◆ ◆ ◆
調整を詰めていくと、以前より排気音や吹け上がりは軽くなり、
アタマの中にある「ドゥカティらしい排気音」に近くなりました。
スロットル開閉時の「ドンつき」は少なく、ギヤチェンジの際の回転合わせが遥かにラクになっています。
「ドンつき」が気になる場合、空燃比由来だとすればパイロットスクリューをさらに1/16回転程度戻してみると軽減するかもしれません。
*************************************
【走行感の変化】
さらに後日、点火プラグの焼けを参考に、くすぶり気味の側をさらにリーン方向に調整していくと、
排気音のピッチが細かくなって、ハイトーン気味の、いわゆるチューニング車両的になってきたのは驚きでした(あくまで調整前との比較ですので念のため)。
もちろん走りの印象も変わり、ますますバイクが軽く感じられます。
但し、同じ回転域であればギヤ比を変えない限り、絶対的な走行速度自体は変わりありませんが、
何よりギヤチェンジが”決まる”ようになり、開けやすさや開けた時の加速度(加速の度合いの速さ)は明らかに違うので、いつまでも乗っていたいくらい気分がよくなりました。
筆者の車両の場合は、エアフィルターやスライドバルブスプリング、各ジェット類を変更して、
静電気対策も試行しているので伸びしろも大きかったのかもしれませんが、
考えてみればこれが「現状での部品構成での本調子」に近づいたに過ぎないということです。
なお、この日は急な寒波到来で結構寒かった(恐らく摂氏10度前後)ですが、
今のところアイシング再発の気配はありません。
*************************************
僭越ながら、二輪・四輪プロショップの腕利きメカニック(チューナー)の皆さんが口をそろえて言う、
「どんな部品を組むかよりも、どう組むか=きちんと機能させることが肝心」
ということを、少しばかり具現化できた気がしました。
いわゆる「いじり系雑誌」の「キャブレター調整特集」などノウハウ記事を読んで試したところで、
ある程度改善はしても、いきなりすぐにベストに近い状態にするのはまず無理だろうと思います。
筆者はマニア歴45年(運転免許取得前から)を自負し、様々な文献・資料を読み漁ってきましたが、
やはり実地体験で悩んで、資料を参考に構造を(ある程度)理解しながら、
諦めずに実践と考察を繰り返す(打つ手を考える)ことがコツを掴む道だろうと思います。
現状の原因考察、調子の変化を感じ取れるか否か、それに対してどう対処するか、など、
仕組みに基づいていくつかの対案が思い浮かんではじめて、状況に応じた対処ができるようになるわけです。
排気音を基準(あるいは目安)に調整するのは難しいと思いますが、
コンディションを考える材料として、ドゥカティの場合、排気音はかなり参考になると思います。
(好調な車両の”ナマの”排気音に親しんで、記憶の中に定着していることが前提ですが)
個体差や仕様の違いがあるので一概には言えないと思いますが、
筆者が試行錯誤を重ねて一年がかりでたどり着いた、ミクニBDSTのパイロットスクリュー調整手順をまとめてみました。