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こんばんは。週末のひと時、いかがお過ごしでしょうか。
さて、二輪のキャブレータの話題です。
4輪ではあまりなじみのない言葉かもしれません。
今回の画像はWeb上から拝借した写真です。
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スポーツバイクでは可能な限り簡素な構造と
ダイレクトなレスポンス(反応)を求めて、
近年まで排ガス規制なども厳格でなかったこともあり、
キャブレータによる混合気供給が殆んどでした。
構造としては、可変ベンチュリー式キャブレータが多く使われました。
円柱、角柱、板状などの上下するピストンバルブを用いて
ベンチュリー(管内径を絞った部分)部分の断面積を変化させることで、
供給混合気の量を変化させ、エンジン出力を制御します。
作動方法に基づいて、次の二種類に分類できます。
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①負圧式…ミクニBS、ケーヒンCV等
70年代後半以降の国産車に多く見られたのがこのタイプ。
四輪で言うところのSUキャブレータと同じ原理です。
アクセルグリップをひねっても、直接ベンチュリー径を変化させるわけではなく、
メインボア(混合気の通り道)内のバタフライ弁を回転させ、
吸気経路内の負圧で円筒状のピストンを上下に作動させることで
ベンチュリー部分の断面積を変化させ、空気と燃料の量を調整します。
四気筒や二気筒など、連装してもアクセルの操作が軽いのですが、
(二輪は各気筒独立ボディのキャブレータが主流)
アクセルグリップ(=バタフライ)開度と、
実際のスロットル(ピストンバルブ)開度が必ずしも比例しないので、
急加速を狙う際など、比べればレスポンスが控え目なのが特徴です。
写真は以前自身も所有していた、ヤマハTX650純正の、
ミクニBS38キャブレータです。
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②いわゆる「アマル型」(アマル=メーカー名)
…ミクニVM/TM/TMR、ケーヒンPW/CR/FCR、デロルトPH系/VD系/SS系など
アクセルグリップ(で引くワイヤー)で、
直接ベンチュリー部の円柱状、角柱状、或いは板状のスロットルバルブを操作するタイプ。
構造が簡素で、操作への反応が良いのが美点です。
小排気量車や2ストローク、英国車、イタリア車に多く見られました。
加速時などダイレクト感が強く、スポーツ性の強い車種に多く用いられました。
写真はBMWボクサーツインに装着されたデロルトPHMです。
この場合、黒い樹脂製のトップカバーに取り付けられているアクセルワイヤーで、
内部のピストン(スロットルバルブ)を直接操作します。
このタイプの場合、特に四気筒車に連装する場合、アクセル操作が重くなるのが難点でした。
高回転域で急激にアクセルオフにした際など、
吸入負圧でスロットルバルブが吸い寄せられ(貼りつき)、
アクセルが戻りにくくなくなるのが嫌われ、
対策として強いリターンスプリング(戻しバネ)や重いスロットルバルブを使うことにより、
ますます操作が重くなる、という悪循環を解消するため、
一般的な開く操作のためのワイヤーと別に、
戻り側のアクセルワイヤーを装備されたものを「強制開閉式」と呼びます。
ハンドル側のアクセルグリップを、ワイヤーを引く「プーリー」に見立てると、
アクセルを閉じる(戻す)際は閉じ側ワイヤーが、
キャブレータ側プーリーを逆方向に引いて回すことになり、
強いリターンスプリングに頼らずともスロットルバルブが確実に下がる(閉じる)ことになります。
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負圧を介さず、直接ワイヤーでピストンバルブを操作する、という意味で
いわゆる「アマル式」を総称して、「強制開閉式」と呼んでいるケースが少なくないようですが、
本来の意味は「スプリングに頼らず閉じ側もワイヤーで操作する」タイプ、
すなわち、戻し側のアクセルワイヤーを持つものを強制開閉式と呼びます。
手前に引いたアクセルグリップを戻すことで戻り側のワイヤーは引っぱられ、
スロットルバルブ上部のプーリーを反対から引く作用をします。
(つまり開き側ワイヤーと閉じ側ワイヤーはハンドルグリップ側/キャブレータ側プーリーとともにループを成します)
バルブスプリングに頼らずロッカーアームで吸排気バルブを閉じる強制バルブ開閉機構、
「デスモドローミック」バルブ駆動と同じ意味合いです。
写真で実例を紹介しますと、ヤマハSR単気筒に装着されたケーヒンCRキャブ(CRスペシャル)。

二本ある内の下側が、戻し側ワイヤーです。
操作する右手グリップ側はこのように、ワイヤー巻取り部の前後からワイヤーが出ます。
同じCRキャブでも、小排気量向け「CRミニ」の場合、戻し側のワイヤーは無く、この場合は強制開閉式とは呼びません(ドリーム50+CRミニ)。
CRの発展型、FCRも本来強制開閉式ですが、
操作力軽減、スロットル貼りつき防止のために
ボールベアリングで動きを軽く滑らかにしているため、
ドゥカティや単気筒など、連装でなく単装の場合、
一定以下の張力のリターンスプリングを使わない条件で
(ケーヒン純正でレート違いのリターンスプリングの設定がある)
引き側ワイヤーのみの使用で支障はないそうです(自身もそうしていました)。
(下の画像のみ自前(笑))
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ちなみにケーヒン「CR」「FCR」がなぜ「レース用」と呼ばれるのでしょうか?
両者はどちらもいわゆる「アマル型」構造で、
単に高出力を狙って口径を大きくするだけなら、
他機種、例えばデロルトPHMの場合、
CRの最大口径39mmを上回る40mmが存在し、
大口径ゆえの過渡特性を補う加速ポンプも装備されます。
マロッシによる改造版では42.5mmまで拡大したものもあります。
実はCR/FCRに限らず、レース用とされる
デロルトSS系やアマルGPモデル、ミクニVM”スムーズボア”なども含め、
メインボディやスロットルバルブ底面形状に工夫がなされ、
全開(完全にスロットルバルブを引き上げた状態)時”のみ”、
吸気ベンチュリーが欠けのない、完全な円筒状になり、
吸気抵抗が著しく少なくなる、という特徴を持つ、
つまり、全開にしてからも吸気慣性での「もうひと伸び」が期待できる、
レース対応キャブレータです。
全開で使う時間などほとんど瞬間的でしかない公道用には、
ハッキリ言って殆んど意味を持たない機能ではあります。
全開にすることが殆んど無いストリートでの使用の場合、
同じアマル型のキャブレータからCRやFCRに変更する意味合いは、
①磨耗・劣化した純正品の補修用
②口径の変更
③操作力の低減(FCR)
④霧化特性の改善(FCR)
⑤セッティングのしやすさ・パーツの豊富さ(FCR)
といったあたりがメリットとなります。
(⑥見た目の変化 という向きも多いと思いますが(笑))
CRの場合、元々スロー系統(アイドリング等)など
低速域での使用を考慮されていない為、
公道での使用では苦労しているオーナーをまわりでも見かけましたが、
近年はこちらの「まめしば」氏により
http://mameshiba198.blog129.fc2.com/
パイロット回路を新設、霧化特性も改善されたCR-Mと呼ばれる仕様が好評のようです。
ちなみにこちらのブログ、
機械として最適化していく「チューニング」の観点で
非常に興味深い内容がつづられていて、各部の機能を正しく知る意味で超おススメです。
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ちなみに2サイクルの場合、吸入負圧が小さいので引き側ワイヤのみの場合が殆んどですが、
ヤマハのRZ250RRやRZV500Rは珍しく強制開閉式キャブレータを装備しています。
特に4つのキャブレータが独立して装着され、分離給油オイルポンプ用ワイヤーもあるRZVなどはかなり複雑な分岐式アクセルワイヤーになっているようです。
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最後におさらいです。
可変ベンチュリーのスロットルバルブ(ピストンバルブ)を直接操作する、
いわゆる「アマル式」と称される種類の中で、
リターンスプリングに頼るだけでなく、
戻し側スロットルワイヤーを装備するタイプのキャブレータを
強制開閉式と呼びます。
意外と叩き上げのメカニックでも勘違いされているようです。
誤解のありませんように。
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