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前回、フォースインディア大変革の妄想?を書きましたが、
チーム内、トラック上でも大事件が続いています。
(最近のF1の話題をひとまとめの記事で書くつもりだったのですが、
内容の収拾がつかなくなり、昨日来の三つのトピックに分けてみました。)
◇ ◇ ◇
もともとマリヤ所有のキングフィッシャーグループ(ビール、航空(こちらは既に倒産))からの
"持ち出し"でいわば自腹運営されていたとみられるフォースインディア。
セルジオ ペレス加入を機に、メキシコからのスポンサーシップを得たにもかかわらず、
しばしばドライバーらスタッフへの給与の支払いにも窮していると報じられ、
2015シーズンは第一弾のシーズン前テストを欠場するほどの窮状で、
それにもかかわらず着実な成果をもたらしたヒュルケンベルクも、
2016シーズン後、成績でははるかに下ながら、念願のワークスチームのルノーへ"脱出"。
ヒュルケンベルクの後釜にはメルセデス育成の若手、エステバン オコンが加入。
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好調なフォースインディア、もう一人の立役者は、
若き日のトム クルーズばりの好男子、
セルジオ "チェコ" ペレスです。
メキシコ出身、強力なスポンサー付でザウバー(フェラーリエンジン)との契約を機にフェラーリ アカデミー(若手育成プログラム)加入となったペレス。
(その理由・意義は不明ながら、育成メンバーがフェラーリの後押しでF1昇格との実績を作り上げるためか?)
二年目の2012年シーズン、優れたマシンを手にしたザウバーで、
チームメイト小林可夢偉を凌駕する、優勝に迫る数度の表彰台登壇と急成長を見せ、
(一説ではGP2で劣化の激しいピレリタイヤの扱いに慣れ親しんでいたことが要因とか)
早々にフェラーリ入りの野望を公言しましたが、
フェラーリ会長モンテゼーモロに「時期尚早」とあえなく阻まれ、
あろうことかスパイゲート等で"仇敵"たるマクラーレンにハミルトンの後任として加入!
しかしマクラーレン加入の時期が悪く、2013年はロン デニス体制発足以来の不振を極め、
チームメイトのベテラン、J.バトンにはポイントでも大差をつけられた上、
「ザウバーにいたほうが良かった」などの発言もあってか、
一年でチームを放出の憂き目となりました。
翌シーズンのシートを失うかに見えましたが、
流れ着いたのが、ザウバーと争うレベルだったフォースインディアでした。
意外にもエース格と見られたヒュルケンベルクと対等以上のパフォーマンスを見せ、
チーム久々の表彰台フィニッシュも果たした上、
本人もマクラーレン時代の言動を反省するコメントを残すなど、
チームからも2人のエースとしての存在を認められるようになりました。
しかしあくまで彼の目標は上位チームに復帰してのタイトル争い、
狙いはライコネンに代わるフェラーリのシートで、
フォースインディアは”仮住まい”であることは隠しませんでした。
ただし、人間関係がウェットな組織、フェラーリにおいて、
当時の幹部モンテゼーモロやドメニカリらはすでに離脱したとはいえ、
"後足で砂を掛けて出て行った"野心家ペレスに対し、
エース格ベッテルを中心に据える体制で、オファーを出す可能性があるのやら。。。
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ペレスとは対照的にスポンサーを持たず、不思議と表彰台経験もないものの
"入賞請負人"的評価の高いヒュルケンベルク。
ウィリアムズからのF1デビュー年、
最終戦ブラジルGPでは変動する路面コンディションを活かし、
チーム久々のポールポジションを獲得した快挙は、
翌年のエースとしての注目を集め、当人も期待を抱いたはずでしたが・・・
BMWとの提携解消以降成績が上がらず、相次ぐスポンサー離脱で、
コロンビアの"国家予算"持参の(とはいえGP2王者)P.マルドナードにシートを奪われ、
こともあろうに"格下"フォースインディアのリザーブドライバーとなる憂き目に・・・
その能力を高く評価されるも、大柄な体格が災いし、
今どきの超タイトな造りのF1には不向きで、
フェラーリからもオファーを受けながらも、
小柄なアロンソに合わせたクルマには適応できなかったとの噂も。。。
フォースインディアとザウバーを行き来し、両チームでサラリー未払いを経験するなど、
不運を絵にかいたようなF1でのキャリアを重ねてきました。
2016年、ポルシェから参戦したルマン24時間優勝で、
F1よりもスポーツカーの方が向いているのではないか?などとも揶揄される始末で、
空中分解寸前のロータスを引き継いだ「ワークス」ルノーからの複数年オファーは、
ようやく念願の安住の地を見つけた思いだったことでしょう。
但しこの契約が、後述しますが結果として
宝くじ当選に等しいオファーを逃すこととなったあたり、
どこまでも巡りあわせの不運を感じさせます。。。
同じくルマン優勝経験者で、誰もが認める速さを持ちながらも
勝てるレースを何度も逃し、生涯未勝利のクリス エイモンを思い起こすほどで、
チームを渡り歩くも苦戦が続くアロンソがラッキーに思えるほどです。
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さて、ここからが本番です(笑)
報じられる状況の推移から推測した、
ペレスを巡る、当方の穿った見方です。
◇ ◇ ◇
上記のように、2016シーズン末、
レース展開は違えど互いにライバルとして認め合うチームメイト、
ヒュルケンベルクが好調なチームを(財政上の不安から)離れ、ルノー入りを決めたことは、
先に同じオファーを断っていたペレスには想定外の出来事(本人のコメントから)でした。
2017年はシーズン末でフェラーリとの契約が満了するライコネンのシートを襲うための、
ペレスにとっては重要なシーズンです。
かつて経験の少なさをモンテゼーモロに指摘され、
本人も意識してか円熟味を評価されるようになったペレスも
若年化の進行が急激に進むF1サーカス(古い?)
レース数の多い現代では、経験豊かなベテランに差し掛かる中堅どころです。
◇ ◇ ◇
当初ペレスの新チームメイトと噂された、パスカル ウェーレイン。
異業種"ハコ"DTMからのF1進級一年目ながら、
万年テールエンダ―のマノーを駆り、たびたびQ2進出、
中位グリッドに進出する速さを見せ、マノーのF1初ポイントも獲得、
DTM時代からF1テストドライバーとしてメルセデスユニットの扱いにも慣れています。
となると、新参者に対するペレスのアドバンテージはどこまでも小さいものになります。
それどころかウェーレインは、グリップと耐久性(と見た目の迫力)を上げるべく、
大きく仕様が変わる2017年新規格タイヤのメルセデスでのテストドライバーも務めていました。
一気に上位への飛躍が見込まれたウェーレインにとって、
順当なはずのフォースインディアへの"進級"を阻んだのは
ペレスの影響力(=持込みスポンサー)ではないか、との仮説を立てました。
◇ ◇ ◇
チームは「前年の」テストドライブを評価し、オコンをペレスのチームメイトとして契約。
「なぜウェーレインではないのか?」との反響が多く見られました。
2016年後半戦、ウェーレインのチームメイトとしてマノーからF1デビューしたオコン。
わが国では無名ながら欧州メディアからは「第二のプロスト」とも云われる存在でしたが、
ウェーレインに先んじることは少なく、連続して完走をこなす手堅いドライバーという印象で、
特筆すべき報道もありませんでした。
◇ ◇ ◇
2016年シーズン終了直後、チャンピオンのロズベルグが電撃引退を発表!
即、後任ドライバーは?とさや当てが始まり、
皮肉なことに既にルノーと契約を交わしたヒュルケンベルクにも、
メルセデスからオファーがあったそうです。。。
ウェーレインのワークスメルセデス昇格は"時期尚早"とされ、
メルセデスはわざわざウィリアムズからボッタスを引き抜いたのはご承知の通り。
結局ウェーレインは、フェラーリエンジンのザウバーから参戦となりましたが、
シーズンオフ中の余興「レース オブ チャンピオンズ」で大クラッシュを演じ、
開幕から二戦を欠席する不運となり、これがまたあらぬ疑念を呼ぶこととなりました。
◇ ◇ ◇
前半戦はF1で初めて走るコースが続く中、
新人らしいミスもなく、ペレスの影のように追従する。
開幕から連続して手堅くポイントを積み重ねつつも、突出した印象のないオコンは、ペレスにとって好都合なチームメイトの筈でしたが。。。
4戦目のスペインあたりからは、ペレスとほぼ同レベルの走りを見せはじめ、
スタートグリッドもほぼ拮抗、レース中も前後して走ることが常態化し、
カナダGPでは「前のペレスが邪魔」というアピールに対し、
「自力で前に出るべき」との趣旨のチームの回答が、この後の戦いの呼び水となりました。
後半戦からは、オコンにとって昨年すでに経験したコースが続くことを考えると、
ペレスには速さの上でのアドバンテージはすでにないも同然。
キャリアの分岐点になりかねない状況は、焦りを呼んだことでしょう。
◇ ◇ ◇
迎えたアゼルバイジャンGP、ここでもペレス6位、オコン7位のグリッドを獲得、
二台は好位置を走行中セーフティカー(一回目)が導入され、
レース再開時、ベッテル、マッサを含めた4台で二位を争う展開の中、
マッサの外側から仕掛ける様子を見せ、不用意にインサイドを空けたペレスに
すかさず仕掛けたオコンが前に出、懸命に外にスペースを残したものの、
エスケープゾーンのない区間でノーズを割り込ませ続けたペレスに出口で接触、
ペレスはフロントウイングを失うなどマシンにダメージを受け、結局リタイヤ。
一方オコンは走行を続け、一時3位を走行する健闘を見せましたが、
最終的に予選より一つ上の6位フィニッシュ。
◇ ◇ ◇
これ以降、ペレスとオコンはお互い牽制しあう展開が続き、
いよいよオコンが昨年既に経験済みのコースが続く後半戦突入。
元来チームが得意とするベルギーGPは、
荒れた展開から表彰台も見えたレースですが、
二度にわたり同士討ちを演じる悪夢の結果となりました。
●予選結果・グリッドはペレス8位、オコン9位。
グリッドを離れるや、ペレスはマシンをイン側に振り、背後のオコンを牽制。
●1周目の混戦、オールージュに向かう高速区間でペレス(左のマシン)は派手な動きをみせ、
一旦左のヒュルケンベルクに寄せた後、今度は右のオコンに厳しく寄せます。
二台はホイールベース間にタイヤが入り込む非常に危険な状況で、
この後一瞬フロントタイヤ同士が接触して白煙が上がったものの、
間一髪大クラッシュは免れました。この間に左からヒュルケンベルクは先行。
●二度目はレース中盤の最終コーナーからメインストレートにかけて。
画像の手前のせめぎ合いでラインがクロスし、
ここではペレスが左、オコンが右から並びかけますが、
ペレスはまたしてもマシンを寄せます。
ペレスはこのまま寄せていき、前方壁際に差し掛かる区間で
ペレスのリヤタイヤとオコンのフロントウイングが接触。
ペレスはタイヤバーストでリタイヤ。
オコンはフロントウイング交換でタイムを失うも、かろうじて9位入賞。
◇ ◇ ◇
フォーミュラカーで一番憂慮される、冷や汗が出そうな画像です。
ど派手なピンクのマシンながら、ペレス曰く「オコンに気づかなかった」という一度目の接触、
FIA映像でマーチン ブランドルが指摘するように、
二台で入り組んだタイヤのトレッド面同士がまともに"噛み合った"場合、
オコンのマシンは背負い投げのように、
宙に舞いあげられる恐ろしい状況を招きます。
故意か、偶然の過失かを判定するのは困難ですが、
エスケープゾーンのない全開の高速区間であり、
事の重大性からすると、意図によらずペレスにはペナルティが与えられて然るべきで、
そうされなかったことが二度目の接触につながったと当方は考えます。
オコンが「ペレスは二度まで僕を殺そうとした」と激怒するのももっともと思います。
◇ ◇ ◇
ところでザウバー時代から、ペレスは実力が結果として報われるという意味で、
ほぼ同等の能力とみられたチームメイト(小林やヒュルケンベルク)をしのぐ結果を手にした、
勝負所での巡り合わせの良い、ラッキーなドライバーであるといえます。
マクラーレン移籍のタイミングは不運でしたが、
対バトンでも予選では先行するというように、それなりの結果を残しています。
特筆事項としては、ただ一人だけワンストップ作戦を成功させるなど、
タイヤ戦略で上位進出を狙う作戦の遂行能力が高く、
中堅チームながらチームメイトに先んじて表彰台に乗ることが度々あり、
タレが早く、純粋な速さだけでは結果につながらない
「ピレリ時代の申し子」とみることができます。
そんな彼にとって、トレッド幅が拡げられコーナリング速度が増すとともに、
コンパウンド選択の幅も広がり、グリップ・寿命とも大きく改善されている、
今2017シーズンのピレリタイヤは、多くのファンやドライバーの絶賛の声とは裏腹に、
タイヤマイスターとしての卓越した技量を打ち消してしまう、忌々しい存在かもしれません。
◇ ◇ ◇
来季への自身の新契約を前に、すでにベテランの域に達しつつあるペレスにとって、F1初コースばかりの新人に対等の力を見せつけられたことは、
上位チーム(フェラーリ)へ移籍の野望を打ち砕かれるどころか、
来期以降チームに残ることの意味、場合によっては可能性さえ失う脅威と映ることでしょう。
鋭い爪を、急速に顕わにし始めた新鋭オコンの成長ぶりはまさに「第二のプロスト」と呼ぶにふさわしく、
恐らくペレスの存在などは既に眼中になく、
脅しにも一歩も引かない度胸はこの先楽しみで、際どいせめぎ合いも勝負勘を磨くよい糧となるでしょう。
昨年経験済みのコースが続く後半戦、チームの期待以上の、
誰もが思いもよらなかったパフォーマンスを披露してくれるものと期待します。
(ドライバー画像はFIAのドライバー紹介ページから借用)
(レース画像はFIAのダイジェスト映像から借用)
(静止画スクリーンショットでの切り出しのため、暗くなっています)
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P.S.
雨のモンツァでの予選、Q3進出、5番手タイムのオコン、
レッドブル2台のエンジン交換ペナルティがあり、3番グリッドが確定しました。
ペレスはQ2敗退ですが、どう巻き返してくるか、
今年のタイヤでの彼の実力も、あらためて確認したいものです。
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Posted at
2017/09/03 17:37:43