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それは，社会人２年目の３月のことだった。

　３月末と言えば，決算の時期。

「最後の最後まであきらめるな。売上げを上げよ！！！」

との指令が飛び交うのはどこの会社でも同じか。

　そんな３月，スピードマスターは２件のお客様をかかえていた。（前職は住宅の営業マン）

　１件のお客様は，前年の１１月くらいから商談をさせていただいていたので，打ち合わせも充分に煮詰まり，３月中に無理なくご契約をいただけそうであった。（土地を紹介したご縁もあり，信頼を得ていた。）

　もう１件のお客様は，３月に入ってから商談を始めさせていただいたお客様で，まだ充分な打ち合わせが出来ているとは言い難い状況であった。

　自分としては，（契約は４月になるかもしれないな。）という思いがあった。

　しかしながら，上司は、「なんとか３月中に契約を取れ。」と自分を煽る。

　まあ，それには訳もある。

　住宅の営業マンには，通常の給料の他に，「報奨金」というものがある。

　自分が以前勤めていた会社の場合は，３ヶ月の間に１軒売った場合は，「９，０００円」２軒売った場合には「６万円」，３軒売ったら「２０万円」が与えられるという基準が設けられていた。

　当時の自分はすでに，１月に１軒を契約いただき，２月は契約がなかったものの，３月は，１軒は契約確実。という状況であったから，もう１軒契約が取れれば，「２０万円」が手に出来る。

　と、まあ，にんじんをブラ下げた訳だ。

が，自分は，家というのは一生にそう何度もない大きな買い物なだけに，充分に納得した上で契約していただきたい。と思っていたため，無理に年度末にネジ込んで契約してもらおうとは思っていなかった。（６万円よりも２０万円が欲しくないと言えば嘘になるが。）４月契約もやむなし。と。



　しかしながら，状況がそうは許さなくなった。



　その年の３月は，他の営業マンの成績が思わしくなく，このままでは会社として，年間の目標を達成することが出来ない。なんとかお前の１軒を契約しろ。という状態になってしまった。

　なぜなら，この１軒があるとないとでは会社にとって大きく意味が違うのだ。

　前に勤めていた会社は，大手プレハブ住宅メーカーのＤラーであった。

　メーカーとＤラーは，年間○○○軒の住宅を販売したら，◎◎◎◎諭吉の販売奨励金を与える。というような契約をしているのだ。

　その数字の達成に，自分の１軒が絡んでしまたのだ。（確かこの１軒があるとなしで，『３，０００諭吉』が動くはずだったと記憶している。）

　４ケタ万円の金が動くとなれば，会社の意気込みは当然違う。

「なんとかしろ。なんとかしろ。行ってこい。やってこい。」

の一点張り。

　最後には

「特別価格（赤字価格）を用意するから，なんとしてでも契約を取って来い。」

ということになった。（住宅は，物が物だけに自社登録をして，中古車部門に回すという訳にはいかないのだ。）

　そして，迎えた　３月３１日ＰＭ９時，お客さまになんとか無理をお願いし，頭を下げに下げて，なんとか契約を取り付けた。

　ドッと肩の荷が降りた瞬間であった。

　そして，３ヶ月間で３軒の住宅を販売したというのも，２年の営業経験の中で始めてのことであった。

　　　　　　　　　　　　《続》

※まったくロードスターとは関係のない始まり。ここからどう展開するのか？？？＾＾；