ボクの3回目のドライブは5月20日(日)の午前8:30。
スタートから16時間30分が経過し、残すところ7時間。
夜明け前から降り始めた雨がやんで
少しずつラインが乾きはじめたところでピットアウト。
3周走ったところで再びピットインして、スリックに交換した。
ピットイン直前のラップは10分40秒くらい。
ボクたちのミニにとってはもうドライのタイムだ。
今回のニュル、実はボクが経験したこれまでの5回とはまったく違うことがあった。
それは、ボクが乗ったミニがかなりオーバーステアに仕上がっていたこと。
というよりも、木曜、金曜日のプラクティス、予選のなかで
ダークとステファンふたりのドライバーが
どんどんオーバーな方向へセットしていった。
昨年までのボクだったら、間違いなく
アンダー方向にセット変更を頼んでいたと思う。
でもボクはそれをしなかった。
それは、ここ1、2年の経験で
オーバーなクルマに対する自信が生まれはじめていたから。
そしてなにより
「オーバーなクルマでニュルを走れる」ことが
自分の成長を証明している気がしてうれしかったからだ。
今回の決勝レース、ボクの初ラップ。
北コース序盤の危険ポイントである高速左コーナーでミニが横を向いた。
でも、きっちり立て直していた。
イケる。
そのあともあちらこちらの高速コーナーで
オーバーステアを修正しながら走れていた。
今思えば、もっとドキドキしなくてはいけなかった。
オーバーを出さない走りをしなくてはいけなかった。
どこかで、これがイケてるニュルのドライビングなんだって
勘違いしていたのかもしれない…
なにより自分の実力を過大評価していたということ。
スリックに交換してピットアウトしたあと
日差しはますます強くなって、ラインはほとんど乾いていた。
タイムを削りたい気持ちもあった。
そして…
アデナフォレストのダウンヒル、ボトムからの登り。
ニュルのなかでも1、2を争う
「繊細なライン取り」と「度胸」が必要なポイントだ。
ミニは6速全開で登り、5速にシフトダウンして左コーナーに入る。
アウディだかポルシェだか、めちゃっ速な後続車を右からパスさせた。
ボクはイン側のまだ濡れている路面にいる。
ラインから外れているから危ないぞ…
抑えめに曲がろう…
乾いたラインに戻らなくちゃ…
ヨーを極力小さくしようと、そっとステアリングを切りこんだ。
リアが出るかもしれないことも
フロントがグリップしないかもしれないことも
ちゃんと予測していた…
やっぱり、リアが出た。
カウンターとアクセルコントロールで立て直す…はずが
あっという間にスピン。
右を見るとガードレールがもの凄い勢いで後ろ向きに流れながらみるみる近づいてくる。
あゎっ、ダメだっ。
ステアリングから手を離して、顔を覆った(ような気がする)。
「ズドーンッ」
衝撃のあと、フロントウィンドウの中の映像が回転していた。
転がってる。
「ドーン」と着地。
「後ろのクルマ来ないでっ!」とまず祈った。
やっちゃったっ。
即座に無線から、ピットにいるユーンの声。
「GOTS! GOTS! What's happened? Are you OK?」
「アイクラッシュト。アイムソーリー。カーイズオーバー」
「Are you OK?」
コレたいへんなクラッシュだ。
手は?
ちゃんとある。
ちゃんと動く。
足は?
ちゃんとある。
ちゃんと動く。
ほっとした。
来週もてぎでレースだけど、出られるかなぁ。
右の脇腹が痛い。
どうにかなっちゃったかな?
ドアを開けようと思うんだけど身体が動かない。
今思えば、固まっていたのはドアのほうだった。
フロントウィンドウから真っ青な空が見える。
レスキュー来てくれるのかなぁ?
観客がわさわさと集まって来たのが見えた。
恥ずかしい。
すごく長い時間に感じたけど…
しばらくして、レスキューが到着。
「Are you OK?」
「イエス、アイムオーケー」
まわりに白い幕が張られた。
レースのTV中継でよく見るアレだ。
幕の外にいるひとたちに
「ボク、元気ですよ! 大丈夫ですよ!」
と言いたい。
でも…
もしかして、ちっとも大丈夫なんかじゃなくて
そうとうひどいのかなぁ? と不安にもなる。
鉄板をカッターで切っている音がする。
ドアを壊してるのかなぁ?
クルマはもうダメだよなぁ。
みんなになんて謝ろう。
なにか言い訳できることないかなぁ。
うーん、ダメだ、完全に自分のミスだ。
「Are you OK? GOTS! Are you OK?」
無線からはユーンの声。
今度はシートをボディから切り離しているみたい。
クルマがばらばらになっちゃうよ。
レスキューが来てからどれくらい経ったのかよくわからない。
10分のような気もするし、30分のような気もする…
何人もの男たちに、シートごと、外へ担ぎ出された。
恥ずかしくなって、起き上がろうとするんだけど…
ダメダメと抑えられて、されるがままに。
ようやくクルマから外へ出してもらうと
こんどは、せえのっで担架に移されて、救急車へ。
そして救急車の中。
60歳くらいの優しそうなドクターに
レーシングスーツを切ってもいいかい?と聞かれる。
2着ニュルへ持ってきているうちの古いほうを着ているタイミングで良かった。
まずは点滴。
痛っ。
逆に安心した。
コレが痛いってことは、ほかはたいしたことないんだろうなぁって。
身体中をチェック。
足関節、腕、おなか、首…
「どう? 痛くない?」
意外になんともない。
痛いのは、右の脇腹と右手の甲側だけ。
肋骨くらいですんでたらいいけどなぁ。
クルマの振動が脇腹に響く。
あぅっ、つぅっ
喉が乾いたなぁ。
15分くらい走って病院に到着。
首にコルセットをつけられて、白い壁の部屋へ。
しばらくして、チーム監督のロタが来てくれた。
まずロタにお詫びした。
ロタは身体の心配だけしてくれる。
クルマはどうでもいいから、身体のことだけを考えなさいと。
そりゃそうだけど…
身体がたいしたことないからよけいに
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
最初のドクターのみたてでは
たぶんどこか折れているだろうから
いく日かは入院になると思うと言われていた。
明日帰れないだろうなぁ。
レントゲン、エコー…すべての検査が終わるまで2、3時間。
で、結果は…
どこにも
まったく
異常なし!
うれしいんだけど…
でも、ホントになんでもないんですかぁ?
だってこんなに痛いのに…肋骨くらい折れてるでしょ?
なんでもないとわかると…
さっきまであんなに優しくて、完全介護的な感じだった看護師さんが
いきなりビジネスライクに変身した。
「はいはい、ここで迎えがくるのを待っててくださいね」
一般の待合室に連れていかれて放置された。
スーツもアンダーシャツも切られちゃったからほぼ裸。
めちゃ寒い。
向かいのカップルは「ちゅっちゅ」してるし…
見たところ、彼氏が風邪をひいていて、彼女に甘えてる。
なんだかイラっとした。
でも、それからさみしい気持ちになった。
1時間くらいして、また、ロタが迎えに来てくれて、パドックに戻った。
フィニッシュまであと3時間を切ったころだったから午後1時ごろ。
ロタは気をつかってくれて
このままホテルへ戻ったほうがいいと言ってくれたけど
どうしてもチームのみんなに元気な姿を見せたかった。
それと、ひとこと謝りたかった。
謝ってもなにも変わらないことはわかっていたけど
どうしても謝りたかった。
このままホテルに戻って、そのまま日本に帰ってしまったら
もう二度とチームのみんなに顔を合わせる勇気が出ないと思ったから。
みんな心からぶじを喜んでくれた。
僕のレース歴で、はじめての大きなクラッシュだった。
クルマを全損にしたのも
クルマが回転したのも
自分で降りられずレスキューに助けてもらったのも
救急車に乗ったのも
ぜんぶはじめて。
しかもニュルで。
ドライバーとしてのボクは…
最後の一歩があとちょっと足りなくて
安全マージンを取りすぎて、なかなか結果が出せない…。
そのかわりクラッシュは少なくて、クルマには優しい。
アマチュアとしてはまあ悪くないけど…キレがある感じじゃない。
よくも悪くも、そんなドライバーだったはずなのに…
ニュルの神様が、調子にのるなとお灸を据えてくれたんだと思う。
ヘリからの映像をみたら
なにかがすこしずれていたら
どうなっていてもおかしくなかったと思う。
ボクの身代わりになってすべての傷を受け止めてくれたミニ。
そしてロタ、ユーンをはじめ、チームのみんな。
ステファンとダーク、ふたりのドライバー。
ごめんなさい。
ありがとうございました。
怖い気持ち、反省するところはいっぱいあるけれど…
今すぐにニュルに行って、同じ状況でもう一度走りたい気持ちが大きい。
ただ、いままでみたいに
「ニュルは最高。ニュルを走ろうよ!」
なんて、ひとに気軽にすすめちゃいけないとも思った。
今回の経験を必ずプラスにします。
こんな経験をさせてもらって本当に幸せだと思います。
以上が、2012年のニュル24時間が終わって3日目のボクが感じていること。
長いブログになってしまったけど
最後まで読んでもらってありがとうございました。
そして、応援してくれたみなさん、心配してくれたみなさん
本当にありがとうございました。