
我が家では、8匹の猫を飼っています。
ある子は公園で行く当てもなく、ポツンとブランコの前にたたずんでいた捨て猫。
別の子はボランティアが引取り手を探していた保護猫。
事情で飼えなくなった友人から引き取った子。
そしてある子は、ちょくちょく家に出入りしていたノラ猫が産んで置いていった子。
そのお母さん猫は、今から7~8年前我が家にフラッと現れました。
もう子猫ではなかったけれど、完全に成猫にはなっていない位の年頃の白黒柄の美人さんでした。生後6ヵ月~1年位だったでしょうか。
生まれつき片方の目の光彩に奇形があり、目は見えていて不自由はない様子でしたが、彼女を見分ける特徴でした。
それから、毎日のようにうちに来る様になり、飼い猫がいたので餌はいつもあるから分け与えていました。
何日か来ないこともあって、どうしたのかなと思うとまたやって来て、飼い猫ではないけれどただの顔見知りの猫以上の存在になり、「しーちゃん」と名前を付けて呼ぶように。
ある時、暫く姿を見せないと思ったらふらりと来て、急いでご飯だけ食べてさっさと帰るので、良く見たら母乳をあげている形跡が。
2カ月もすると数匹の子猫を連れて来ました。
母性本能が強くて、甲斐甲斐しく子供の面倒を見る優しい母猫になっていました。
息子、3歳。穏やかで怒ったところを見たことが無い優しい猫です。
何度かそういう事があり、ボランティアから猫の捕獲機を借りて避妊手術しようと試みる事数回。
賢い彼女は私たちに撫でられたりするのは嫌がらないのに、罠は警戒して絶対かからない。
撫でながら抱き上げて捕まえようとすると、するりと身をかわして逃げてしまう。
結局何度かそう言う事があり、放っておくわけにも行かず家と私の親の方で、その子供たちのうち2匹ずつ飼って面倒を見ています。
でも、生まれても無事に大人になる子は数頭に1頭程度で、子育てが上手でも全員を護りきることは出来ず、他のノラ猫に追われたり、カラスの餌食になったり事故に遭ったり・・・
知人宅に引き取られた娘、2歳。小柄で少し長い毛がチャーミングな子です。
母性本能の強さでしょうか、この茶トラの男の子は自分で産んだ子ではありません。どこかで生後間もなく捨てられていたと思われる子猫を拾って来たんです。
まだ目が開いたばかりの、生後10日~2週間位の子猫。拾って、連れて来たのがやっぱり我が家でした。ごはんを食べられないし、しーちゃんも自分で産んだのではないので母乳も出ず、交代しつつ徹夜でミルクをあげて育てました。
うちに変な信頼があったのでしょうか・・・
※この子も結局うちの親が飼うことになりました。人懐こくて利発な良い子です。
数年そんな事を繰り返し、最近また妊娠してしまった様子で大きなおなかを抱えてご飯をねだりに朝晩やって来る。
生まれた子猫は里親を探すとして、本人をいよいよ何とかしないと、と家族で話していた矢先。
先週日曜日に、庭の花壇でうずくまっているしーがいました。
見るとぐったりしていて、名前を呼ぶと弱弱しく返事をするものの、明らかに元気が無い。
後ろ足が汚れているので覗き込むと、破水している様子。
うちの飼い猫ではないけれど、ただのノラ猫以上の付き合いだったしーちゃん。
見捨てておく訳には行かず、日曜で休診だった行きつけの動物病院に電話して連れて行きました。
何とか意識はあるものの、呼びかけへの返事は口は動くが声にならない。
体温を測ると体温計が反応しない位、体が冷えている。
レントゲン写真を撮ったら、子猫が産道に引っかかってしまっていました。
「かなり厳しい状態だと思います。母体も子猫も助けるのはもとより、母猫ももつか分かりません」
出来る限り処置して頂いて、子猫がダメでも母体の救命を優先して下さいと伝えて預けて病院を出ました。
が・・・
病院を出て10分位、親の電話が鳴りました。
「手術の準備をしていたのですが、さっき心臓が止まりました。救命は難しいので、引取りに来て下さい」
すぐに病院に戻り、まだ少し温かいしーちゃんをキャリーケースに入れて引き取りました。
去年、無理にでも捕まえて避妊手術をしていれば・・・
いつから家に来てうずくまっていたのか、もう少し早く気付けば・・・
ちゃんとした飼い猫ではありませんでしたが、イタズラもせず賢く穏やかで、子煩悩だったしーちゃん。
私が帰宅すると、いつもクルマの運転席脇に駆け寄って来てニャーニャーとまとわりついて来て。
野良猫の平均寿命は、一説によれば約3年半。
生まれてすぐ死んでしまう子もいれば、しーみたいに7~8年、それ以上生きる子もいるでしょう。
でも多分、比較的長生きできた子は、賢くて上手く人付き合いが出来る(人を利用できる)猫だと思います。
しーちゃんも、うち以外にご飯を貰える所を何軒か確保していたはず。
名前も、しー以外にいくつか持っていただろうと思います。
でも、もうダメだと思った彼女が最後に帰る場所に我が家を選んだ。
ノラ猫だけど、人間の身内が亡くなったのと同じかそれ以上、泣けました。
彼女は何を思って最後にうちに来たのだろう。
ここのみんななら、助けてくれると思ったのか。
単に、最後に会いたい人間がうちのみんなだったのか。
家で飼っている娘・息子に会いに来たのか。
本心はしーちゃんにしか分からない。
うちに姿を見せてから数年、好きな時に好きなところに行って、お腹が空いたらご飯を貰える器量があって、時に毎日、そして時には数日留守にして、自由気ままに生きたけど、最後は人に看取られて天国に旅立った。
幸せだったかどうかは人が勝手に決める事はできないけれど。
うちと同じように彼女を可愛がっていた方々は、最近見かけないね、どうしたのかな?と思いながらいつか忘れて行くのでしょう。
私もそちら側になると思っていました。
悲しいけれど絶対見る事はないと思っていた最後を見届けることになって、少なくとも亡骸をカラスについばまれたり、人知れず朽ち果てることはなくなった。
しーちゃんのこと、ノラ猫だと勝手に思っていたけど、君は我が家が自分の家で、私を含むみんなが飼い主だと思っていたならゴメン。
天国の存在はあまり信じていないけれど、もしあるならきっと子供たちと賑やかに安らかに過ごしているといいな。
私が生涯を終えた後、同じところに行けたなら、私を待ち焦がれているのは人よりネコの方が多いんじゃないだろうか。
遺骨は庭の遅咲きの梅の木の根元に埋葬しました。
これからはずっとそばに居られて良かったね。
3月8日 午後3時45分永眠。享年8歳。
またいつか会いましょう。