
少し前になるのだが、「はだしのゲン」の中沢啓治氏が亡くなられて1年を回った。
ココでも
閲覧騒動の時に一度触れたんだが、また一年忌とは別にちらちらネットで話題として出てきてる。
そこで挙がった話題としては前回挙げたものと被るが、
・左翼主義にまみれた売国奴醸成作品
・コミックの表現的には世紀の力作
・あまり愉しんで見る作品ではない。
と言う論評が見て取られる。
的を射てるのは、真ん中だけだなぁ(^_^;)。
この件については意外と現代っ子って、観てるモノ見てる気はする。
タダ、周囲の論評に流された色眼鏡も多々見受けられるのも現代っ子だなぁ。
そこで、先入観なく連載世代の広島市民としてちょっとこの作品を紐解いてみよう。お題目は私の独断。
意外と全部を見てる人はそこまで居ないようなので。
(タダ私が読んだのは汐文社の刊行後で、ジャンプの連載自体は見てない(^^ゞ)
まず構成はこんな。多分意外に思われると。
・1巻
戦中編~父の反戦言動から町内会ぐるみのイジメに遭う中岡家、原爆投下時まで
・2巻
被爆編~被爆当日から、ゲン母子が「焼け跡を整理」し知人宅に身を寄せる
・3巻
焼跡編~居候ながらも自立めざし、しかし難題が続く。終盤にやっと終戦。
・4巻
挫折編~兄達が戻ったことで知人宅を追われ、別の家族の離別が。ジャンプ版では完結編。
・5巻
混迷編~失跡してた隆太と再会、子供なりの粗っぽい自立へ。母の病状も重くなる。
・6巻
苦闘編~トラブルが昂じて更なる混迷。隆太達に保護者も着くが・・・・。
・7巻
訣別編~少年誌ならざる展開が極致。混乱収束も終盤母原爆病死。ココが第二節完。
・8巻
自律編~ココから単行本よりの発行。1950年、中学生になってもガンボさ相変わらず(^^ゞ。兄弟が自立へ離散。
・9巻
成長編~家族から隆太達へとの共同生活も離別は突々に。成り行きから看板屋の仕事へ。
・10巻
旅立編~ゲン中卒。イキナリの恋愛展開も最後はゲン節が。ゲン上京を最後に幕引き。
被爆当日がほぼ1巻分掛けて描写されてる。
終戦になったのは3巻も中盤を過ぎてからだ。
一方で被爆の気持ち悪さをやり玉に挙げられはするが、その凄惨さは実は全体の2割に満たない。
それ以上に人間同士のかびすましさのほうがよほど多く描かれてる。
この中で際立つのが苦闘編で、別の意味、つまり連載でも悶絶してたものかと思われる。
話の展開がスッ飛び気味になり、突飛な商売や(現代社会でなら立派な)悪企み、殺人未遂や占領軍への連行と展開がある種エスカレートしていく。
4巻ですでに泥棒や殺人まで及んでしまったが、そこまで苛烈だったのだ、終戦は。
ソレはあの「喝ぁ~つ!」でおなじみの大沢親分まで「泥棒でもやらないと死んでた」と言わしめたほど。
ただ漫画だけに死者の頭蓋骨を売ったり賭場荒らしをやったり造船所に資材盗みとエスカレートのケは満々。
主人公の騒動からキャノン機関(加地亘事件)まで言及しだすし(^_^;)。
まともな(少なくとも少年誌の)漫画の展開ではないよな。
一方でどういう訳かゲンも(まっとうな手段でだが)大金を手にしてしまうエピソードまで。
聞けばジャンプが終わったあとマイナーな教育機関誌での連載となり、世間的には消えた作品と一時なってた。

単行本も一度他所で出しておいてあとで迎合させてるのだ。
マァ『ゲン批判評』は多分にこの混迷期に端を発してるような気もするが、いや、批判するような読者はココまで読み進めていないのかも知れない。
あとキモい漫画としての評価。
コレは正解ではない。
キモい漫画ならもっと容赦なく描いたろう。楳図某も真っ青なモノが描けたはずだ。
ソレをヤルと漫画ではない。それでは描いた意義の半分はない。
読んで貰って幾ばくかなのだから、原爆書籍は。
その一方で(古風ではあるが)ちゃんとしたエンタメ作品なんだ。
チョット赤塚不二夫氏や当時のエース川崎のぼる氏が綯い交ぜになっているが、笑わせるキャラもちゃんと描く。
だって、被爆直後の画家に描かせた肖像画が『しぇー!(厳密にはチョット違うが)』だぞ(^^ゞ。
テーマが重いなりに軽妙な脚色は充分盛り込んでると言っていい。
全体の展開を見ると確かに天皇と軍政部(つまり国粋)批判に鼻に衝く人は居るだろうが、
「やられっぱなしの者」
の意見としてはやはり諸悪の根源と正しておきたいところである。
確かにノリでの描写は見受けられるが、政治結社の代弁者ではない。ゲンはやはり中沢氏の分身ありきなのだ。
そして手放しでそこを責むのではなく、
「世間の無関心」
にも常に言及してる。教育誌の意向は汲んだものの偏重だけはけっこう避けてる。
そしていつも大事に描かれてるのが、キャラクターの死別だ。
ココだけは歪まず戦争と原爆の罪として告発してる。
兵士で死んだだけが、空襲で死んだだけが戦争の犠牲者じゃない。
そして生き残ったが故に苦悶し見え適わぬ希望を果てに見て息絶える。そこに原爆の罪を描く。
この幾多の死別は最近の創作の軽薄さと一線を画す。是非じっくり読んで欲しい。
私はこの作品は『常識と良識の戦い』を描いた漫画だと思ってる。
(無論、上にも書いたがほぼ犯罪な事まで描写されてる(^^ゞ)
人として活きることがなんなのかを描いた作品としては平成的にはともかく昭和の遺産だと思う。
広島市民としては大河ドラマは無理だけど1~2年はじっくり掛けたドラマにして欲しいよね。
(何しろ1945~53年までのスパンの濃密な物語だもの)
テーマは重くシッカリとは読んで欲しいけど、漫画だから読むのは気楽に読んで欲しい。
ソレがはだしのゲンなんだと大人になってからは思うんだ。